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キスを集めるキミと スキを編むボクと

③ @平野 日奈稀

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 一年前のあの日、俺は直とキスをしようとした。


 最初は本当に自分の気持ちが分からなくて、キスはそれを確かめる為の手段でしかなかったはずだった。
 でも実際それを口にしようとして、好きだから直とキスがしたかったのだと気づいた。

 俺はあの時突然自覚した自分の気持ちに戸惑って、キスをする言い訳に『スキ』を見つける為だと言ったけど、主語が抜けてしまったのは無意識なのか意図しての事なのか自分でも分からないが、『スキ』を見つけるのは俺じゃない。直見つけて欲しかったんだ。直見つけないと意味がないのだ。

 いざ自分の気持ちに気づいてしまえば、色々な分からなかった事がストンと腑に落ちた。答えはひとつだったのだ。
 俺が直を好きだから。

 冒険をしなくなってどうしてあんなに不安だったのか、それは俺と直を繋げているものが『冒険』だったからだ。それがなくなってしまったら俺たちは男同士で、普通ならいずれは一番近くに居る事はできなくなる。それは愛する相手ができてしまえばその人が一番になるからだ。
 じゃあ愛する相手がお互いであったなら、ずっと一緒に居てもいいのではないか。
 だとしたら直が俺の事を好きじゃないといけないのだ。ふたりの『スキ』が同じで初めて成立する事なのだから。

 だけど自分の気持ちにすらついさっき気づいたばかりで、直の気持ちが分かるはずがなかった。
 分からないまま告白してしまえば、今の関係すらも壊れてしまうかもしれなくて、卑怯にも自分の『スキ』は隠したまま直の『スキ』を知ろうと『魔法の言葉』に頼ってしまった。

 本当はお試しだなんて思っていなかった。そう言えば好奇心旺盛な直の事だからのってくると思ったのだ。のってきてくれさえすれば何度だって理由をつけてキスをして、直が俺の中に『スキ』を見つけてくれると思っていた。いや、絶対に見つけさせてみせる、そう思っていた。


 なのに、直は俺とのキスを拒んだ。

 魔法の言葉を使ってもあっけなく拒否られてしまった俺はもうどうすればいいのか分からなくなっていた。焦って悩んで、また焦って。
 そして俺は最も選んではいけない手段をとってしまった。

 今俺が誰かれ構わず乞われればキスを受け・・ているのも俺にできる精一杯の悪あがきのようなもので、直に「なぁんだキスなんて本当に大した意味なんてないんだな。じゃあやっぱり僕もするよ」って言って欲しいからだ。
 そうする事で最初は大した意味のないキスだったとしても、一度でもしてしまえばいずれはキスの意味を『好きだから』に変えるつもりだった。

 そんなの成功するはずなんてないのに。
 俺は引込み思案ではないけれど口下手だ。『魔法の言葉』を使っても失敗してしまったなら、もうこんな卑怯な手を使ってでも直が手を差し出して『冒険』に誘ってくれるのを待つしかない。
 直の違和感に気づきながらも、それでもいつか直が「僕の『スキ』は日奈稀だよ」って言ってくれると信じていた。
 信じて俺は直に伝えるべき言葉を隠しながら抱きしめ続けた。
 もう少し、もう少し我慢すれば直が『冒険キスしよう』って言ってくれる。それまで俺は直を逃がさないように抱きしめて、この腕の中に閉じ込めて置けばいい。

 そう思っていたのに……直は名取を選んでしまった。
 直は『スキ』を名取の中に見つけてしまった……?



 どうすれば直をまたこの腕の中に抱けるのだろうか、閉じ込めてしまえるのだろうか――。



「腕の中に直が居ないなんて――どんな悪夢だよ」





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