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キスを集めるキミと スキを編むボクと
2 何で? ①
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「今日は背後霊くんおらんのやね」
そう声をかけてきたのは一ヶ月程前に転入してきたばかりの名取くんだ。
親の都合で小さい頃からあちこち引っ越していて言葉が混ざってしまっていて、自分じゃよく分からないからおかしな事言っても笑って許してって自己紹介で言っていたけど、授業中や誰かとの会話を耳にする限りでは関西弁(?)だなって思うくらいで別におかしいとは思わない。たとえはっきりと何かが混じっていたとしても気にする必要なんかないのにと思う。言葉だって個性のひとつだ。
それよりも一ヶ月も経つのに一度も話した事がなかったのに突然話しかけられて戸惑ってしまった。
「背後霊って……」
誰の事かは分かる。勿論日奈稀の事だ。日奈稀はいつだって僕を背後から抱き込むようにするか、手は繋がないもののピッタリとくっついている。まるで刷り込まれた雛鳥のように僕の後をついて回って、よく揶揄われたりはしていたけど『背後霊』なんて言われたのは初めてだった。
名取くんには日奈稀に対する悪意も好意は感じられなかったけど、もしかして名取くんも日奈稀にキスを――?
ズキズキと痛む胸を押さえ、何でもない事のように問うた。
「日奈稀なら先生に呼ばれて――、何か用事だった?」
名取くんはキョトンとして「ちゃうで」と。そして今度は僕に質問を投げかけた。
「自分ら何なん? カップルちゃうん?」
「違うよ」
自分でも驚くくらい感情が抜け落ちてしまったような声できっぱりと言い切った。
以前の僕だったらもっと動揺しただろうし、口では違うって言いながら真っ赤な顔であわあわしてしまっていたと思う。
だけど今は僕は日奈稀とはそうなれないって事を知っているから。
「そうなん? ほんなら僕と付き合わへん?」
付き合うってあの付き合う? 恋人になるって事? 僕と名取くんが?
名取くんも日奈稀とは違う系統のイケメンだ。そんな名取くんが僕と? 何で? 僕を好きって事?
「な、ど……僕と……?」
驚きすぎて目を白黒させながらもどうにかこうにかそれだけは訊いてみた。
「そうや、豊田平野と付き合うとらへんのやろ? 僕豊田くんの事好きやねん。ひと目惚れちゅうんかな、初めて会うた時こう胸がどっきんどっきん煩かってん。これって恋やんな」
にひっと人懐っこい笑顔を僕に向ける名取くん。
ほら、胸がどっきんどっきんって名取くんも言ってる。普通はそうなんだよって今この場にいない日奈稀にも聞かせてやりたいと思った。
が、折角告白してくれた人を前にして違う人の事を考えてしまっていた事に気づき慌てて返事をしようとするが、断る事はできなかった。口を開きかけたところで邪魔が入ったからだ。
名取くんから隠すようにぎゅっと抱きしめられて、鼻腔をくすぐる嗅ぎなれた匂いにドキンと心臓が跳ねた。
「ちょっ……」
「――直はお前とは付き合わないから」
そうはっきり言い切るいつもより硬い日奈稀の声がした。
そう声をかけてきたのは一ヶ月程前に転入してきたばかりの名取くんだ。
親の都合で小さい頃からあちこち引っ越していて言葉が混ざってしまっていて、自分じゃよく分からないからおかしな事言っても笑って許してって自己紹介で言っていたけど、授業中や誰かとの会話を耳にする限りでは関西弁(?)だなって思うくらいで別におかしいとは思わない。たとえはっきりと何かが混じっていたとしても気にする必要なんかないのにと思う。言葉だって個性のひとつだ。
それよりも一ヶ月も経つのに一度も話した事がなかったのに突然話しかけられて戸惑ってしまった。
「背後霊って……」
誰の事かは分かる。勿論日奈稀の事だ。日奈稀はいつだって僕を背後から抱き込むようにするか、手は繋がないもののピッタリとくっついている。まるで刷り込まれた雛鳥のように僕の後をついて回って、よく揶揄われたりはしていたけど『背後霊』なんて言われたのは初めてだった。
名取くんには日奈稀に対する悪意も好意は感じられなかったけど、もしかして名取くんも日奈稀にキスを――?
ズキズキと痛む胸を押さえ、何でもない事のように問うた。
「日奈稀なら先生に呼ばれて――、何か用事だった?」
名取くんはキョトンとして「ちゃうで」と。そして今度は僕に質問を投げかけた。
「自分ら何なん? カップルちゃうん?」
「違うよ」
自分でも驚くくらい感情が抜け落ちてしまったような声できっぱりと言い切った。
以前の僕だったらもっと動揺しただろうし、口では違うって言いながら真っ赤な顔であわあわしてしまっていたと思う。
だけど今は僕は日奈稀とはそうなれないって事を知っているから。
「そうなん? ほんなら僕と付き合わへん?」
付き合うってあの付き合う? 恋人になるって事? 僕と名取くんが?
名取くんも日奈稀とは違う系統のイケメンだ。そんな名取くんが僕と? 何で? 僕を好きって事?
「な、ど……僕と……?」
驚きすぎて目を白黒させながらもどうにかこうにかそれだけは訊いてみた。
「そうや、豊田平野と付き合うとらへんのやろ? 僕豊田くんの事好きやねん。ひと目惚れちゅうんかな、初めて会うた時こう胸がどっきんどっきん煩かってん。これって恋やんな」
にひっと人懐っこい笑顔を僕に向ける名取くん。
ほら、胸がどっきんどっきんって名取くんも言ってる。普通はそうなんだよって今この場にいない日奈稀にも聞かせてやりたいと思った。
が、折角告白してくれた人を前にして違う人の事を考えてしまっていた事に気づき慌てて返事をしようとするが、断る事はできなかった。口を開きかけたところで邪魔が入ったからだ。
名取くんから隠すようにぎゅっと抱きしめられて、鼻腔をくすぐる嗅ぎなれた匂いにドキンと心臓が跳ねた。
「ちょっ……」
「――直はお前とは付き合わないから」
そうはっきり言い切るいつもより硬い日奈稀の声がした。
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