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キスを集めるキミと スキを編むボクと

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 それから僕たちの関係が大きく変わるという事はなかったけれど、日奈稀は何人もの子たちとキスをするようになった。
 他校の生徒もいたし中には男もいたりして、どの人も(男も)お姫さまみたいに可愛かったけれど日奈稀の『スキ』ではなかったようで、それ以上発展する事はなかった。
 ホッとしたと同時にやっぱり僕みたいに普通の『男』では最初からダメだったのだと改めて思った。

 隠れてするならまだしも(本当は嫌だけど)、そのほとんどは目の前でされて(目を瞑っちゃうから見てないけど)、たとえそれが小鳥のような唇と唇が触れあうだけのものだったとしても僕は嫌だった。
 そしてそれ以上に嫌だったのは、沢山のキスの中にいつか本当に『スキ』を見つけてしまう事だった。こんなに毎日何人もとキスをするのだからきっといずれは見つけてしまう。そうなってしまえば僕と日奈稀の関係も今までのようにはいかないだろう。一番傍にいるのは僕じゃなくて――その子。

 今度こそ本当に僕たちの冒険は終わってしまう。


 僕の名前はすなおなのに、ちっとも素直なんかじゃない。
 もしもあの時僕が素直にキスを受け入れていたらどうなっていたのかな。受け入れて、そして好きだと伝えたなら日奈稀はどうしてた?

 今更考えても仕方がない事なのに後悔ばかりが募るんだ。
 僕以外とキスしなかった? それとも僕の事は『スキ』じゃないってはっきりと突きつけられた? それから今と同じように沢山たくさんのキスを目の前で見させられて僕の『スキ』は壊れていったのかな――。

「はぁ……」

 小さく溜め息を吐いた。
 あの時キスをしてもしなくても結果は変わらないじゃないか。
 だったら僕の中の『スキ』を隠してでもキスをして、それを思い出に生きていけばよかったのではないかとさえ考えてしまう。



 取り返しのつかない事をぐちぐちと考えてしまうくらい日奈稀が他の人とキスするところなんてもう見たくはなかった。
 こんなのはキスを受け入れなかった僕へのただの嫌がらせだ――。そう思う事で痛みに悲鳴を上げ続ける心も渦巻く黒い想いも全部を日奈稀のせいにしようとした。

 お姫さまじゃなくなってしまった日奈稀が全部悪いんだ、と。

 自身の勇気のなさを棚上げにして。







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