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キスを集めるキミと スキを編むボクと

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 教室が少しだけ騒めき近づく気配を感じながらまたか、と僕はそっと目を閉じ小さく息を吐いた。僕のすぐ後ろで交わされる短い言葉、防ぎようのない「ちゅっ」という耳に届く軽い音に胸がぎゅっとなる。
 それはキスの音で、僕が自ら手放した――――僕が欲しかったモノだ。


*****

 あの頃より随分と成長してしまった僕たちは高校生になっていた。
 僕がキミを冒険に誘う事を止めて、キミから冒険に誘うでもなく、かと言って僕から離れて行くのでもなくずっと傍に居てくれた。そしていつの頃からだったか何故か距離感がバグってしまっていて、0距離が僕たちの標準ふつうになっていた。

 話を戻すと、僕はいつものように休み時間に教室でスマホでゲームをしていた。冒険する事を止めてしまった僕はせめてゲームの中だけでも冒険がしたい、と面白そうなゲームを片っ端からやった。
 そしてキミはゲームをする僕を背後から覆い被さるように抱きしめていて、時々「そこ違う右。そうそうそっち」なんて、見ていないようでしっかり見ていてアドバイスをくれたりした。
 その時だけはちょっとだけ昔のようにふたりで冒険しているように感じられて嬉しかった。
 そう、これはキミと僕を繋ぐ『冒険』の代償行為なのだ。
 こういう形であってもキミと僕との冒険は続いているのだと僕は思いたかったのかもしれない。

 そんな僕にとっては大事な時間に声がかかったのだ。「ねぇ、いい?」って。
 キミがこくりと頷く気配がして、僕を背後から抱きしめたままそれに応じた。
 何ともシュールな光景ではないだろうか。スマホでゲームをしている男子とそれを背後から抱きしめている男子キミ。僕の事はオブジェかぬいぐるみかなにかだと思ってるのか、気にせずキミにキスをする女子誰か

 ここで勘違いしてはいけないのは、この中の誰も付き合っていないという事と、これがここ最近の日常であり何も特別な事ではないという事だ。
 僕の背後に居る人物は名前を平野 日奈稀ひらの ひなきといって、僕、豊田 直とよだ すなおの幼馴染であり冒険仲間で親友、そして――


 僕のお姫さまだった・・・男だ。



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