2 / 10
忘れ物は片方だけの手袋(1)
しおりを挟む
なんとか家に帰りついて、あるものがない事に気が付いた。
さ――っと全身の血の気が引くのが分かった。
俺には妹がいた。よく笑う明るい子だった。
時々けんかもしたけど、妹の事は大好きだった。
だけど、8年前のあの日、事故で亡くなってしまった。
当時俺は16歳で、妹の桃は14歳だった。
あの日はもうすぐクリスマスという頃で、朝から雪が降っていた。
ちょっとしたおつかいでコンビニに行った帰りだった。
スリップしたバイクにはねられてしまったのだ。
「大丈夫。ちょっとそこまでだから行ってくるね」
そう言って笑った桃の顔が今でも鮮明に思い出せる。
俺が行けばよかった。
俺が……。
何度もなんども自分を責めた。
何もやる気がおきなくて悲しみに溺れそうになっているのに一粒の涙も出やしない。
そんな時、両親から渡された綺麗に包装されたプレゼント。
包みを開けてみると、桃が俺の為に編んでくれた手編みの手袋だった。
俺への今年のクリスマスプレゼントだったらしい。
編み目もばらばらで不格好だったけれど、俺は妹が亡くなって初めて声を上げて泣いた。
両親と三人で泣いてないて。
そして段々日常を取り戻していった。
桃からの最後のプレゼントは、俺にはとても温かくて世界で一番の宝物になった。
大切なたいせつな宝物。
ずっと使っていたからくたびれてきていたし、今では大きく成長してしまった手は入らない。
だけど側に持っていたくて、いつもポケットに忍ばせていた。
ずっと大事に持っていたのに…なんで……。
片方の手袋を握った手が震える。
確かにコートのポケットに入れておいたはずなのに片方しかないのだ。
俺は急いでタクシー会社に問い合わせたが、調べて折り返しきた返事は「車内にはなかった」というものだった。
昨夜飲んだ居酒屋にも連絡を入れてみたがそこにもなかった。
居酒屋に入るまでは確かにあった。そしてコートのポケットに入れてあったところまでははっきりと覚えている。
だとすれば…一番可能性が高いのは……昨夜泊まったラブホテル…。
今逃げてきたのに戻る事はできない。
まだ小嶋が部屋にいるかもしれないし、ばったり鉢合わせとかごめんだ。
だけどあれは桃が俺の為に編んでくれた大切な物で……。
はぁ………。どうしよう…。
さ――っと全身の血の気が引くのが分かった。
俺には妹がいた。よく笑う明るい子だった。
時々けんかもしたけど、妹の事は大好きだった。
だけど、8年前のあの日、事故で亡くなってしまった。
当時俺は16歳で、妹の桃は14歳だった。
あの日はもうすぐクリスマスという頃で、朝から雪が降っていた。
ちょっとしたおつかいでコンビニに行った帰りだった。
スリップしたバイクにはねられてしまったのだ。
「大丈夫。ちょっとそこまでだから行ってくるね」
そう言って笑った桃の顔が今でも鮮明に思い出せる。
俺が行けばよかった。
俺が……。
何度もなんども自分を責めた。
何もやる気がおきなくて悲しみに溺れそうになっているのに一粒の涙も出やしない。
そんな時、両親から渡された綺麗に包装されたプレゼント。
包みを開けてみると、桃が俺の為に編んでくれた手編みの手袋だった。
俺への今年のクリスマスプレゼントだったらしい。
編み目もばらばらで不格好だったけれど、俺は妹が亡くなって初めて声を上げて泣いた。
両親と三人で泣いてないて。
そして段々日常を取り戻していった。
桃からの最後のプレゼントは、俺にはとても温かくて世界で一番の宝物になった。
大切なたいせつな宝物。
ずっと使っていたからくたびれてきていたし、今では大きく成長してしまった手は入らない。
だけど側に持っていたくて、いつもポケットに忍ばせていた。
ずっと大事に持っていたのに…なんで……。
片方の手袋を握った手が震える。
確かにコートのポケットに入れておいたはずなのに片方しかないのだ。
俺は急いでタクシー会社に問い合わせたが、調べて折り返しきた返事は「車内にはなかった」というものだった。
昨夜飲んだ居酒屋にも連絡を入れてみたがそこにもなかった。
居酒屋に入るまでは確かにあった。そしてコートのポケットに入れてあったところまでははっきりと覚えている。
だとすれば…一番可能性が高いのは……昨夜泊まったラブホテル…。
今逃げてきたのに戻る事はできない。
まだ小嶋が部屋にいるかもしれないし、ばったり鉢合わせとかごめんだ。
だけどあれは桃が俺の為に編んでくれた大切な物で……。
はぁ………。どうしよう…。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説


冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
【イケメン庶民✕引っ込み思案の美貌御曹司】
貞操観念最低のノンケが、気弱でオタクのスパダリに落とされる社会人BLです。
じれじれ風味でコミカル。
9万字前後で完結予定。
↓この作品は下記作品の改稿版です↓
【その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/33887994
主な改稿点は、コミカル度をあげたことと生田の視点に固定したこと、そしてキャラの受攻です。
その他に新キャラを二人出したこと、エピソードや展開をいじりました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる