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僕と先輩と恋の花
5 呉の内側 ① @呉
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俺はいつも誰かと一緒にいて、わいわい騒がしく過ごしていた。
傍から見れば俺は明るくて元気な能天気なやつに見えるかもしれないけど、本当の俺はそうじゃない。実の両親からも愛されないような取るに足らない存在で、いつの頃からか難しい事を考えるのを止めふわふわと風船みたいにどっちつかずに生きている。
誰にも嫌われたくなくて、みんなにいい顔をしているだけなのだ。
小学校中学校とそんな感じで誰とでも仲良くなれたけど、悩みを打ち明けられるような深い付き合いはできなかった。
勇と出会ったのは高校で、俺と違って勇は思慮深くて色々な事が分かっていて勉強もスポーツもできた。必死に張りぼてだと気づかれないように頑張っていた俺とは違い自然とみんなに愛され、頼りにされていた。
俺と勇、勇は俺の欲しい物を全部持っていた。
誰もが気にもしない事に気づいて、そして声を上げ、間違いは間違いだとはっきりと言うのだ。勿論それは誰かを責めるというものではなかったけど、誰に何を思われても構わないというような、そんな態度が心底苦手だと思っていた。
高校でも八方美人だった俺が文化祭の出し物の事でクラスで意見が分かれた時、どっちにもいい顔をして両方から責められそうになった事があった。その時俺の味方をしてくれたのが勇だけだった。
まぁ味方と言うか
「呉、バカすぎだろ。お前がクラスの事を思ってどっちがいいってはっきり言えなかったのは分かるけど、そっちの方が迷惑だ。まぁそりゃあ可愛い女子のメイド服を見たい男心も、お化け屋敷でお客を死ぬほど驚かしたいっていうやんちゃ心も分かるけどどっちかひとつにしとけよ。この欲張りさん」
って前半は厳しめに、後半はおちゃらけたみたいに言ってぴんって俺の額を指で弾いた。それで今まで張りつめていた空気も緩み、クラスのみんなも「あーねぇ」「分かる~」なんてくすくす笑ってた。
最初はカチンときたけど、結果俺はクラスの誰からも責められる事も浮く事もなくて、勇が助けてくれたのだと分かった。
それからかな、勇とつるむようになったのは。まぁ最初は俺が一方的に勇に纏わりついて、最後には仕方ないなって感じで受け入れられたんだけど。
それからも俺は変わる事はなくて、いつも誰かの顔色を窺っていた。俺のコレが兄ばかり大事にする両親に少しでも気にかけて貰えるようにだとか、これ以上嫌われないようにだとかそんなのは理由にはならないって事は分かっているが、小さな頃からやってきた事はなかなか直す事ができないでいた。
勇に頼ってしまうのだって両親から受けられなかった愛情を勇に求めていたのかもしれない。同じ年で、しかも他人の勇にそんな事を求めるのは間違っていると分かってはいたが、勇は誰よりも頼りになるし俺が何をしたって怒りながらも絶対に俺の事を見放す事はしないって思えたから――。
*****
あの日、俺は珍しくひとりだった。
ひとりだから誰に気を遣うでもなく、ぼんやりと廊下を歩いていた。
そして廊下の曲がり角で、出合い頭に誰かとぶつかってしまったんだ。
俺の方はぼんやりしていたし、相手は両手に持ちきれないくらいの教材を抱えていたせいで前が見えなかったのだろう。辺りに散らばってしまった大量の教材に眉を顰めたが、すぐに取り繕うようにへらりと笑うと、相手は何故か驚いた顔をしていて、突然「好きです!」って叫ぶように告白したんだ。
最初は何を言われたのか分からなかった。あまりにも何の脈絡もなく、突然の事すぎたのだ。
俺を好き? だって俺はこいつを知らないし、ぶつかっただけだ。それなのに好きって何? 何年も希っていた物をそんなに簡単にくれるの? 何も知らないお前が?
告白だって人生初めての事だったけど嬉しいとかもなく、びっくりしてどうしていいのか分からなくて「お、おぅ――ありがと……。こ、これどこ運ぶの? 手伝うよ」って笑顔でその場をやり過ごした。
それから何故か一緒に帰る事になって、後輩――椋本も告白の返事を急かす事をしなかったから普通にいつもみたいにいい顔をした。いい先輩、優しい先輩。その気もないのに、曖昧な態度をとり続けたのだ。
断ってしまえば椋本を傷つけるだとか、もっともらしい言い訳をして俺はただいい人でいたかっただけなのだ。物事を深く考えず誰にでもいい顔をして、誰にも嫌われないように。
何度もそれを勇に怒られて、問題が起こると助けてもらってきた。
だけど何の根拠もないのに、今回は大丈夫だって思っていた。多分それは椋本が俺に告白をしたからなんだと思う。好かれているのだから顔色を窺う必要がない。
だから勇に相談する事もなく、告白の返事もしないままずるずると椋本と一緒に帰り続けた。椋本の告白をまるで何かの賞で貰ったワッペンのように誇らしげに胸に貼り付けて――。
俺は自分だけが大事で、椋本の気持ちなんてちっとも考えていなかったんだ。
傍から見れば俺は明るくて元気な能天気なやつに見えるかもしれないけど、本当の俺はそうじゃない。実の両親からも愛されないような取るに足らない存在で、いつの頃からか難しい事を考えるのを止めふわふわと風船みたいにどっちつかずに生きている。
誰にも嫌われたくなくて、みんなにいい顔をしているだけなのだ。
小学校中学校とそんな感じで誰とでも仲良くなれたけど、悩みを打ち明けられるような深い付き合いはできなかった。
勇と出会ったのは高校で、俺と違って勇は思慮深くて色々な事が分かっていて勉強もスポーツもできた。必死に張りぼてだと気づかれないように頑張っていた俺とは違い自然とみんなに愛され、頼りにされていた。
俺と勇、勇は俺の欲しい物を全部持っていた。
誰もが気にもしない事に気づいて、そして声を上げ、間違いは間違いだとはっきりと言うのだ。勿論それは誰かを責めるというものではなかったけど、誰に何を思われても構わないというような、そんな態度が心底苦手だと思っていた。
高校でも八方美人だった俺が文化祭の出し物の事でクラスで意見が分かれた時、どっちにもいい顔をして両方から責められそうになった事があった。その時俺の味方をしてくれたのが勇だけだった。
まぁ味方と言うか
「呉、バカすぎだろ。お前がクラスの事を思ってどっちがいいってはっきり言えなかったのは分かるけど、そっちの方が迷惑だ。まぁそりゃあ可愛い女子のメイド服を見たい男心も、お化け屋敷でお客を死ぬほど驚かしたいっていうやんちゃ心も分かるけどどっちかひとつにしとけよ。この欲張りさん」
って前半は厳しめに、後半はおちゃらけたみたいに言ってぴんって俺の額を指で弾いた。それで今まで張りつめていた空気も緩み、クラスのみんなも「あーねぇ」「分かる~」なんてくすくす笑ってた。
最初はカチンときたけど、結果俺はクラスの誰からも責められる事も浮く事もなくて、勇が助けてくれたのだと分かった。
それからかな、勇とつるむようになったのは。まぁ最初は俺が一方的に勇に纏わりついて、最後には仕方ないなって感じで受け入れられたんだけど。
それからも俺は変わる事はなくて、いつも誰かの顔色を窺っていた。俺のコレが兄ばかり大事にする両親に少しでも気にかけて貰えるようにだとか、これ以上嫌われないようにだとかそんなのは理由にはならないって事は分かっているが、小さな頃からやってきた事はなかなか直す事ができないでいた。
勇に頼ってしまうのだって両親から受けられなかった愛情を勇に求めていたのかもしれない。同じ年で、しかも他人の勇にそんな事を求めるのは間違っていると分かってはいたが、勇は誰よりも頼りになるし俺が何をしたって怒りながらも絶対に俺の事を見放す事はしないって思えたから――。
*****
あの日、俺は珍しくひとりだった。
ひとりだから誰に気を遣うでもなく、ぼんやりと廊下を歩いていた。
そして廊下の曲がり角で、出合い頭に誰かとぶつかってしまったんだ。
俺の方はぼんやりしていたし、相手は両手に持ちきれないくらいの教材を抱えていたせいで前が見えなかったのだろう。辺りに散らばってしまった大量の教材に眉を顰めたが、すぐに取り繕うようにへらりと笑うと、相手は何故か驚いた顔をしていて、突然「好きです!」って叫ぶように告白したんだ。
最初は何を言われたのか分からなかった。あまりにも何の脈絡もなく、突然の事すぎたのだ。
俺を好き? だって俺はこいつを知らないし、ぶつかっただけだ。それなのに好きって何? 何年も希っていた物をそんなに簡単にくれるの? 何も知らないお前が?
告白だって人生初めての事だったけど嬉しいとかもなく、びっくりしてどうしていいのか分からなくて「お、おぅ――ありがと……。こ、これどこ運ぶの? 手伝うよ」って笑顔でその場をやり過ごした。
それから何故か一緒に帰る事になって、後輩――椋本も告白の返事を急かす事をしなかったから普通にいつもみたいにいい顔をした。いい先輩、優しい先輩。その気もないのに、曖昧な態度をとり続けたのだ。
断ってしまえば椋本を傷つけるだとか、もっともらしい言い訳をして俺はただいい人でいたかっただけなのだ。物事を深く考えず誰にでもいい顔をして、誰にも嫌われないように。
何度もそれを勇に怒られて、問題が起こると助けてもらってきた。
だけど何の根拠もないのに、今回は大丈夫だって思っていた。多分それは椋本が俺に告白をしたからなんだと思う。好かれているのだから顔色を窺う必要がない。
だから勇に相談する事もなく、告白の返事もしないままずるずると椋本と一緒に帰り続けた。椋本の告白をまるで何かの賞で貰ったワッペンのように誇らしげに胸に貼り付けて――。
俺は自分だけが大事で、椋本の気持ちなんてちっとも考えていなかったんだ。
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