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僕と先輩と恋の花
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「次からは三人で!」と言った呉先輩は一度も現れず、真田先輩は呉先輩の代わりに僕と毎日帰ってくれている。真田先輩が来てくれなかったら僕はいつまでも呉先輩を待ち続けていたかもしれない……。
あれから何日目だろう真田先輩とふたりで帰る帰り道、もういいですって言おうと思った。真田先輩は呉先輩の親友であって、僕とは無関係なのだ。呉先輩と僕以上に関係は希薄で、これ以上甘えてしまっていいわけがなかった。
僕が知る真田先輩はいつも呉先輩の事を怒っていて、呉先輩から真田先輩はいい人だって聞かされていたけど、遠目にでも怒っている姿を度々目にしていたから怖い人なのだと少しだけ思っていた。
だけど実際はいつも穏やかで優しくて、僕に対して一度も声を荒げた事なんてない。話してくれる内容も分かりやすく聞きやすかった。そして必ず最後には笑ってしまうんだ。かなり僕に気を遣ってくれているんだと思う。本当に……本当に優しくていい人。
だけど、だからこそ僕は今のままじゃダメだって思うんだ。僕は呉先輩の事が好きで、一緒に帰りたいのもお話ししたいのも呉先輩なのだ。いくら楽しくても笑っていても、こんなのはおかしいって思うんだ。こんな流されるように帰るだけの名前もない関係――、突然終わりを告げても何も言えないような。
それくらいなら僕の方から終わりにした方がいい……。
「あの……僕――」
でも、だけど
「うん?」
「あの……その……」
言わなきゃいけないのに何故か言葉が出てこなかった。「もう大丈夫です。ひとりで帰ります」たったそれだけなのに。
黙って俯く僕の頭をぽんぽんと優しく撫でられ顔を上げると、真田先輩は優しく微笑んでいた。
好きになったのが真田先輩だったらよかったのに――。
そう思った瞬間はらりと花びらがいち枚、風に舞った。それはたったいち枚残っていた呉先輩への恋心の欠片だった。
「……」
黙ってしまった僕の頭を先輩はもう一度優しく撫でてくれて、この優しさが嬉しいのに切なくて、離れて行く手を無意識に目で追ってしまっていた。
そして差し出される右手。その手の意味も分からず『お手』のように先輩の手に自分の手を猫の手のように丸めてそっと重ねた。
先輩は驚いたような顔をして、すぐに「違うちがう」って言って笑った。
間違えてしまった事が恥ずかしくて、僕は急いで出していた手を引っ込めてもう片方の手で隠した。それは僕の中に生まれた何かだったかもしれない。
続く先輩の言葉。
「今更だけど――俺と友だちにならないか?」
本当なら僕は先輩にお礼を言ってこのままフェイドアウトしようと、しなくちゃいけないと思っていた。僕のせいで呉先輩にも真田先輩にも迷惑をかけていると思ったからだ。呉先輩が僕から逃げたのも結局は僕の諦めが悪かったせいだろうから、僕が黙って身を引けばすべてが丸く収まるのだ。
だけど真田先輩の提案に僕は頷いてしまう。
「――はい。よろしくお願いします」
これ以上甘えちゃダメだって思うのに、花びらもない花とも呼べないような物をまだ大事にしてるくせに先輩の傍にいたくて、みっともなくも差し出された手をしっかりと掴み、握った。
あれから何日目だろう真田先輩とふたりで帰る帰り道、もういいですって言おうと思った。真田先輩は呉先輩の親友であって、僕とは無関係なのだ。呉先輩と僕以上に関係は希薄で、これ以上甘えてしまっていいわけがなかった。
僕が知る真田先輩はいつも呉先輩の事を怒っていて、呉先輩から真田先輩はいい人だって聞かされていたけど、遠目にでも怒っている姿を度々目にしていたから怖い人なのだと少しだけ思っていた。
だけど実際はいつも穏やかで優しくて、僕に対して一度も声を荒げた事なんてない。話してくれる内容も分かりやすく聞きやすかった。そして必ず最後には笑ってしまうんだ。かなり僕に気を遣ってくれているんだと思う。本当に……本当に優しくていい人。
だけど、だからこそ僕は今のままじゃダメだって思うんだ。僕は呉先輩の事が好きで、一緒に帰りたいのもお話ししたいのも呉先輩なのだ。いくら楽しくても笑っていても、こんなのはおかしいって思うんだ。こんな流されるように帰るだけの名前もない関係――、突然終わりを告げても何も言えないような。
それくらいなら僕の方から終わりにした方がいい……。
「あの……僕――」
でも、だけど
「うん?」
「あの……その……」
言わなきゃいけないのに何故か言葉が出てこなかった。「もう大丈夫です。ひとりで帰ります」たったそれだけなのに。
黙って俯く僕の頭をぽんぽんと優しく撫でられ顔を上げると、真田先輩は優しく微笑んでいた。
好きになったのが真田先輩だったらよかったのに――。
そう思った瞬間はらりと花びらがいち枚、風に舞った。それはたったいち枚残っていた呉先輩への恋心の欠片だった。
「……」
黙ってしまった僕の頭を先輩はもう一度優しく撫でてくれて、この優しさが嬉しいのに切なくて、離れて行く手を無意識に目で追ってしまっていた。
そして差し出される右手。その手の意味も分からず『お手』のように先輩の手に自分の手を猫の手のように丸めてそっと重ねた。
先輩は驚いたような顔をして、すぐに「違うちがう」って言って笑った。
間違えてしまった事が恥ずかしくて、僕は急いで出していた手を引っ込めてもう片方の手で隠した。それは僕の中に生まれた何かだったかもしれない。
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「今更だけど――俺と友だちにならないか?」
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だけど真田先輩の提案に僕は頷いてしまう。
「――はい。よろしくお願いします」
これ以上甘えちゃダメだって思うのに、花びらもない花とも呼べないような物をまだ大事にしてるくせに先輩の傍にいたくて、みっともなくも差し出された手をしっかりと掴み、握った。
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