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裏切りヒーローは悪の組織の孕み袋
しおりを挟む現実世界と鏡のように隣り合わせに存在する夢の世界が悪の手に堕ちてから、およそ一年が経とうとしていた。
夢の世界から逃げてきた王子。その王子を追いかけて世界の隔たりを突き破り、小さな穴をこじ開けて魔の手が現実世界にやって来た。
刻一刻と現実世界すらが悪の手に染まりつつあり、世界の大半が暗き夢の中へと堕ちていった。
多くの人間は虐殺され、悪の組織にとって使えると判断された人間は捕まり、支配されていく。
もはや廃土と化したこの地に一体どのような価値があるのか分からない。
それでも怪人達は土地を、人を、世界そのものを蹂躙していく。
自分が招いた災禍の芽を摘むべく、王子は非力な自分に変わって世界を救う力を四人の人間に授けた。
しかし、結果としては三人のプリンスヒーローは悪の手に堕ち、残ったのはたった一人の少年。
《ブラックムーン……私は沢山の迷惑を、貴方にかけましたね》
幼い王子であるアインは狼のような黒々とした立ち耳と大きな尻尾を有した少年に謝罪する。
およそ一か月前、三人のヒーローが立て続けに悪の手に堕ちて以来、人類にとって最後の砦だとされている小さな町を彼は一人で守り続けていた。
《本来なら私も共に戦うべきですが此方の世界に逃げる際に肉体を捨ててしまった為、今はこのようなちっぽけな魔法生命体でしかありません……》
ブラックムーンと呼ばれる少年の前でふわふわと上下に揺れ動く淡く儚い青の光を放つ物体。
手を伸ばし掴もうとしてもそれはすり抜けるだけで掴む事は叶わない。アインの言う通り、文字通り実体無き生命体と成り果てたのだと実感させられる。
それを見上げながらブラックムーンは首を横に振ると背後に広がる焼け野原となった大地を見渡す。
「……俺は大丈夫だ。それよりも……仲間たちは大丈夫だろうか」
《分かりませんが彼らに授けた力はいまだ変容した様子はありません。消失もしていないようなので安全だとは思いますが……》
三人の仲間を失った以上、この先、人間を守れるのはブラックムーンのみ。
だが彼は悪の組織を束ね、その頂点に立つ国王と呼ばれし者の実子だった。それを知っていてなおアインは協力的なブラックムーンに知恵と権能を授け、ブラックムーンにプリンスヒーローの力を授けた。
全ては悪に抗うために。
それがブラックムーンの誓いの言葉だった。
まだ悪の組織はブラックムーンが国王の実子だとは気付いていない。だがいずれ気付かれては連れ戻される可能性がある。
その事をアインは危惧しているとブラックムーンはいつまで経っても一進一退を繰り返すこの攻防に終止符を打つべく、ある提案を口にする。
「……俺が、愚王を説得しよう。俺なら彼らは不用意に手を出さないはずだ」
自ら敵陣に乗り込んで説得する────かつて敵の本拠地に叩き潰した方が早いと口にして乗り込んだまま、帰って来れなくなったヒーローがいる。
そんな無謀な事をするべきではない、とアインは止めようとするが彼は話を聞こうとしなかった。
もはや、これしか選択肢はないと言わんばかりに出立するための準備を始めていた。
その姿を見て、まだ年若い少年にそんな重荷を背負わせてしまう事をアインは申し訳なく思えば、
《……ブラックムーン、お願いがあります。僕を連れていってくれませんか?》
アインが口にした、最後の願い。
悪の組織の狙いは夢の王子であるアインにある。連れていくべきではないと考えるが「もしかしたら仲間を救えるかもしれません」と言われては渋々ブラックムーンは了承した。
最後の砦である小さな町にしばらくの間、怪人からの侵攻を防げるようにバリアを施した。
荒廃した世界を背に、今や空に大きく広げられた空間の亀裂を通ってブラックムーンとアインは現実世界と同じく荒廃した夢の世界に向かい、とある城へと向かう。
かつては夢の国を統べていた善良なる国王が住んでいた城も城下町も今や悪の手によって見る影もないほどに無残な姿へと変わり果てたそこは外観を見るだけでは廃墟のように感じられた。
まるで腫瘍のように外壁に根を張って咲く赤黒い花を見てはアインは動揺する。
《なんて悪趣味な……》
「……あれは夢の世界のエネルギーを吸収する花だ。あれから怪人を生み出すエネルギーを生成している」
《……貴方もあれから……?》
「…そうかもしれない」
悪の怪人は皆、元はごく普通の人だった。この夢の世界には善悪なんてものはなく、穏やかな日常しかない。
だが、どこからか蒔かれた種は発芽し、深く根差すように人々の心に悪の心が宿り、そして花から抽出されたエネルギーで人は怪人へと堕ちる。
怪人に堕ちた人には胸元に紫色を帯びた不思議な結晶核が宿っている。それは血管のように全身を蝕んでいて、身体の四肢を宝石のように硬化させる。
ブラックムーンも同じく、ヒーロースーツの下には生まれた時に注がれた悪のエネルギーが深く根差しているのが見受けられる。それは彼が人ならざる存在だという事を証明しているようでもあった。
それを断ち切る為に、そして世界を救う為に再びやってきたブラックムーンは傍らでふわふわと飛んでいる魔法生命体であるアインの話を聞きながら歩いていく。
《そういえば他の仲間たちが捕まったのは人間世界にある本拠地です。ここではないと思うのですが……》
「あそこは仮止めの拠点だ。いずれ、世界の浸食が完了すれば撤退し、次なる餌食になる世界を探すだろう。そう考えればあの拠点ではなく、本当の拠点である此処で捜した方が早い」
そうこう話している間に城の正面へとやってくれば警備しているであろう怪人が二人立っている。正面から行くべきではない、とアインは不安げに声をかけるが気にする事なく、城門の前に立つ怪人二人の傍にやってくるとブラックムーンは顔を見上げる。
「な、何者だっ!」
「こ、コイツ…プリンスヒーローか!?」
当然のように剣や槍を構える怪人にブラックムーンは口輪と片目を隠していた眼帯を外して頭部にある狼の耳を揺らし、大きな灰色の尻尾を振るう。
そして胸元を撫でて胸元の結晶核を見せるべく、胸元を撫でてヒーロースーツを溶かすように消せば結晶核を見せつける。
「……俺の事が分からないのか?」
「ッ!! しゅ、シュトラ様……ッ!」
鋭い眼光で睨めば恐れ慄いた怪人達は頭を深く下げ、無礼を詫びた。
シュトラ────それがブラックムーンの本当の名前のようで傍らで見ていたアインは息を飲む。
どうやら未だ王の子は健在だと知った怪人達はひそひそと何やら話し合いをしていた。これで道を開けてくれるのだろうかと──そう思っていたがどうしてか、再び拒まれてしまう。
「なんなんだ、俺が帰ってきたのだぞ。道を開けろ」
普段のブラックムーンは寡黙で何を考えているのか分からないところが強い。
無愛想でぶっきらぼう。掴みどころがない彼を扱えていたのは同じくプリンスヒーローのシャイニンググリーンと呼ばれていた少年、名取優だけだった。
そんな彼から想像もつかないほど、威勢よく声を荒らげて前に出るブラックムーンことシュトラにアインも怪人も息を飲む。
「そ、それは……っ」
道を開けろ、と語気を強めて言われては動揺する怪人達。
苛立った様子をシュトラが見せれば怯えながらも怪人達は懐からシュトラの胸元にある結晶核と同じ見た目をした核を取り出した。
「しゅ、シュトラ様と分かっていますがその、念の為に検査を…ッ」
「はぁ? そのような事をしなくても誰が見ても俺はシュトラ・ファル・ファダルスだと分か──────ッ!!」
嫌悪感を示すシュトラが一気に怒りを露わにした。
前方で結晶核を持つ怪人に気が集中している間にその一瞬の隙を突くべく、もう一人の怪人が背後から忍び寄っていた。それに気付いたアインが「危ない」と声をあげる間もなく、シュトラは羽交い絞めにされてしまった。
「なっ!? は、離せ! こんな事をして許されるとでも……ッ!!」
「お、お許しを! シュトラ様!」
羽交い締めにされて身動きが取れない隙をついて胸元の結晶核へ、おそらく原石と思しき核を近付けられてはキィィィンッと眩いほどの光を放った。
その光は強い紫色を帯びて光り輝き、さらに強く発光した瞬間、シュトラはビクンッと強く身体を跳ねらせたかと思えばガクンッと頭を項垂れさせた。
《……ブラックムーン!?》
アインの呼びかけに答える事はなく、怪人達の腕の中でぐったりとした様子で項垂れ続けるシュトラ。
その少年の胸元の結晶核が核と共鳴し、核の中に封じ込められていた邪悪なエネルギーを注ぎこまれた事により、意識を失ってしまったようだ。
動かなくなった事を確認すれば前方に立つ怪人はシュトラの肌に手をかける。
あまりにも強い衝撃により、一時的に意識が失われた事によりヒーロースーツが溶けていっており、幼い肌が露わになっていた。
口こそ悪いがその身体は実に歳若く、それでいて引き締まった身体は揉みがいのある弾力を持っていた。
胸部には菱形の形をした大ぶりな結晶核。元々は聡明さを感じさせる淡いブルーカラーだったのが邪悪の力を流し込まれた事により、黒く淀みきっていた。
怪人は意識のないシュトラの柔らかい胸に手を伸ばし、露わになるぷっくりとした乳輪に触れる。
「ん、ん……ぁッ」
意識のない状態でも快楽を感じるのかシュトラは艶めかしい声を漏らす。
怪人はその声を耳にしながらゆっくりと撫で回すと陥没乳頭である乳輪を円を描くように撫で回し、刺激していくと少しずつムクムクと乳頭が顔を出し始めた。
そして程なくして胸元の結晶格が淡く黒色の光を放って傍にいる怪人達の力を増強し始めた。
「やはり国王様の見立て通り、シュトラ様で間違いなかったな……」
「あぁ、これでまた組織に力が増えるぞ……組織にとって最も必要な母胎だ…」
母胎────それが一体、何を指しているのか分からないが喜ばしそうにする怪人達は早速、城内に連れ込もうと羽交い締めにしていた怪人がシュトラを抱えて城の中に入っていった。
それら一部終始を見ていた魔法生命体であるアインはどうしよう、と困惑していると残っていた怪人が瓶を取り出してヒョイッとアインを捕らえた。
《うわぁッ!? そ、そんなっ、僕の姿が見えるはずが……》
実体無き魔法生命体は人の目に捉える事はできない。
ゆえにプリンスヒーロー達を通して人々に声を届ける事しかできなかったというのにまさか最初から視認されていて、瓶に捕えられるとは思ってもいなくてアインは困惑していた。
それに怪人はニヤニヤと笑いながら瓶を城内へと運ぶ。
「お前がアイン様なんだろう? 我々は科学者様の大いなる研究成果によって魔法生命体を視認できるようになったんだ。大丈夫、すぐに科学者様が肉体を与えてくれるだろう」
《ぁ、ぁ……っ! い、いやっ、やめてくださいっ、僕はまだ────》
科学者という言葉を聞いた瞬間、アインは瓶の中で暴れる。しかし、逃げる事も出来ず、暗闇の中へと連れていかれてはそれっきり、消息を絶ってしまった。
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