experiment- 呪われた島の旅路 -

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【episode1. 波にさらわれて】


 煌びやかな船内。耳障りなほどに賑やかなパーティー会場。
 小さな窓から見える夕陽が沈みゆく地平線の彼方なんてものはそっちのけで、童心に返ったようにはしゃぐ客人達を見ていた週刊誌の記者である安原 純也はボールペンとメモ帳を手に客人達を見物していた。
 幽牙半島という島を遊覧するこの豪華客船には多くの人が乗っており、その中にはテレビやニュース、はたまたブラウザ上のエンタメ欄を賑わす顔ぶれが乗っている。
 彼らの知られざる顔を写真に収め、メモ帳に字として書き起こたものをスキャンダルとして報じるのは記者としての本分だろう。
 しかし、右を見ても左を見ても見られているのに気付いていないのか、下心を露骨に露わにして軽率な行動を取る人ばかり。そういった人たちは普段からスキャンダルを取り上げられている事が多い、そんな人を報じたところで美味しいネタになるどころか面倒な事に首を突っ込む事は目に見えている。
 特に一番それを思うのは視線の先で高笑いしている大物女優だ。
 金髪に片方の耳には三つのピアス穴を開けている事や、華やかなパーティー会場に似つかわしくない落ち着いたロイヤルブルーのスーツがやけに上品で、そんなスーツのアクセントに金色のコサージュや前開きになって中から黒字に金の刺繍が施されたシャツが見えていたりとどことなくチャラついて見えるせいだろうか。

「ねぇ、そこの貴方。向こうの方で踊らない?」

とシャンパングラスを傾けてくるのを

「ああ、すみませんがちょっと船酔いしてまして……」

 船酔いしているからと平然と嘘をついて追い払おうとしても狙った獲物は逃がさないと言わんばかりに肩や手にベタベタと触れられ、引き留められる。
 その場はなんとか適当に理由をつけて離れる事に成功すればそのままパーティー会場の外に足を向けて甲板へと向かう。
 記者にとって著名人のスキャンダルを報じる事は懐が温かくなるのだが純也にとって今回、この豪華客船に乗り込んだ理由は著名人のスキャンダルを報じるためではなく、別のある事が理由だった。

 甲板に出ると冷たい夜の潮風が全身を吹き抜ける。
 この船からは遥か遠くに見えるが視線の先に見えるぼんやりと霞んで見える黒いシルエット。まるで獣が口を大きく開けてその鋭利な牙を覗かせているように見える台形の島。
 それが、幽牙半島と呼ばれる小さな島だ。
 そこには古くからある噂話がある。言い伝えなどではなく、どこからか自然と広まった奇妙な噂。

『年間数万人が行方不明になるがその数百人、数千人は幽牙半島でその姿を確認されている。それは老若男女問わず、確認こそされても生きて戻ってきた人は誰一人としていない』

 しかし、奇妙な事にそれを誰かが現場に向かって確認したわけではないという事だ。幽牙半島は無人島に等しい場所でそこに出向く船はまず無い。そして幽牙半島を遊覧するこの船に乗船したくともかなりの値が張る上に遊覧するという名目でありながら、幽牙半島を遠くから眺めて船内のパーティーを開いてどんちゃん騒ぎをする、ただの豪華客船だ。
 今回、純也がこの豪華客船に乗り込んだのもあわよくば幽牙半島に辿り着きたかったからだ。
 遠目でもいい、その噂の真偽を確かめたかった。
 だからこそ、純也にとって著名人のスキャンダルはさほど美味しいネタでもなかった。少しでも船が島に近づく事を願いながら少しお腹が空いたのを感じて渋々パーティー会場に戻れば小皿に食事をよそって入れるとそれを食べてから純也は一人、そそくさと客室に戻ろうと会場を出ようとする。
 その時、不思議な事に誰かに見られている気がした。振り返ると大勢の人がグラスを手に話しあっていたり、ダンスや歌ったりと好き放題している中で不意に会場の片隅で見慣れない男を見つけた。
 その容姿は薄汚れたスウェットを着ており、黒い髪も無造作に伸ばされているようでボサボサでいかにも不潔。腰にはこの場の雰囲気には似つかわしくない日本刀が携えられており、全くもってこの雰囲気と噛み合ってない事に純也は違和感を覚える。

(なんだ、あれ……っていうか、あんな人いたか……?)

 あまりにも特徴的な姿をしているというのにこの船に乗る時もパーティー会場で人間観察している時も全くその存在にすら気付いていなかった。
 一体誰なんだ、と気になって仕方がないが何故だか、自分とは全くもって相容れない存在だという事は分かりり、これ以上見てはいけないと思わず視線を逸らしてしまう。
 だが、気になって仕方がない。もう少しだけ見ようと恐る恐る視線を向けると────次の瞬間、バチンッとかの男と視線が重なり合い、混じりあった気がした。
 咄嗟に顔を背けたからよかったがこちらを見ていた気がすると背筋に震えが走り、純也は逃げるように煌びやかなパーティー会場から飛び出し、急ぎ足で客一人一人に与えられた客室へと逃げ帰る。

 部屋の中に飛び込み、鍵を掛ければドッと全身に疲労感が募る。
 このまま眠ってしまいたくなるがなんとか風呂だけは入ろうと客室内に添え付られた簡易のシャワー室で髪と身体を洗って出るとササッとバスタオルで拭いてドライヤーで髪を乾かせば寝間着に着替える。
 ホテル暮らしが多い純也はこれらをパパッと済ませれば早く就寝しようとベッドに向かい、横になる。
 豪華客船というわりには狭いこの部屋に支払った金額に何も見合っていないと不満を抱きながら純也はバラバラに解ける金の髪を指先でまとめ、顔にかからないようにすれば目を瞑る。

(……明日こそは……)

 少し硬いベッドの上。目を瞑っていると少しずつ、うつらうつらと眠りに落ちていく。
 明日こそは。それを胸に抱きながらようやく眠りにつくと瞬く間に意識は深い深い微睡みに落ちた。



                         □




────ギィ……ギィ、ギィ……ッ。

 不気味な音を立てて揺れる小さな照明。
 ピチャ、グチュ……と何か不快な水音が何度も何度も響き、その度に下半身に奇妙な冷たさを感じる。深い眠りについていた純也はその不快感によって目を覚ますと目の前に人らしき者がいた。

「…………ん、ん……っ? な、にしてるんですか……っ」

 微睡む意識でその人を見る。男性だと認識できるが奇妙なほどに肌は青紫色で皮膚が焼け爛れているように見えた。
 顔をよく見る限り、パーティー会場で有名な女優を口説こうと何度も声をかけていた投資家の男だと分かる。どうして彼が自分の部屋にいるのか、ましてや鍵をかけたはずなのに。
 回らない頭でゆっくりと扉の方を見ればまるで扉は引き裂かれでもしたかのように、ドアノブを中心に潰してこじ開けられており、扉の意味を成していないのが分かる。

(特に凶器は見当たらない……生身の人間が扉を…こじ開けた……? いや、それよりもこの人は……)

 いったい何が起きているのか理解できない。
 純也は目を瞬きさせてもう一度男の方を見ると何やら身体を前後に揺らしてギチッ…グチュ…と何かを貪り、水を立てる音が聞こえる。
 下半身から下腹部に広がる痺れるような感覚。何かを押し上げられると腹の奥から嘔吐きがあがってくるほど、何かが込み上げてくる。

「う、ぁ…!? …ゲホッ……はな、れろ…ッ」

 何が起きているのか全く理解できない。ただ身体は強張ったように身動きが取れず、自由に動かす事もできなかった。

「ォ、ォォォ……!」

 得体の知れないその男は声にもならない呻き声を漏らしながら突然、純也の脚を持ち上げたかと思えば何かが下半身を覆い、ズチュッズチュッと大きな音を立てて何かが挿入されているのだと気付かされる。
 いったい、いつから挿入されているのだろうか。おそらく、不気味な水音が聞こえた時にはソレは挿入されていたのだろう。そしてソレを自覚した瞬間、下腹部が熱く疼き始めて意識が散漫とし始める。

「あ、はぁ……っ、ひッうぐ……ッ」

 痛みはない。むしろ気持ちいいほどで気分が昂るのを感じる。
 しかし、いくら気分が昂ろうとも純也がほんのわずか抱いた快感よりも、何か得体の知れないモノに蹂躙されているという不快感の方が圧倒的に勝っており、依然として純也は抵抗しようと声を振り絞る。

「や、めろ…ん、ぐ……ッ!」

 純也は必死に抵抗しようとするも身体が思うように動かない。
 そうこうしている内に男の下半身から何かが這い出てそれがズルリと尻孔にあてがわれるとズププッと音を立てて挿入される。
 その瞬間、まるで決壊でもしたかのように一気に涙が込み上げ、悲痛な叫び声と共に純也はベッドの上で大きく跳ね、そして背を弓のようにしならせる。

「ひ、いッ?! ……あ、ぁあぁぁぁあッ!!」

 純也の尻孔に男の下半身から生えた異物がズプズプと侵入し、中を犯し始める。
 そこでようやく気付いた。先程まで身体の中に挿入っていたのは一体、なんだったんだ?どこに挿入し、何をされていたのだろうか。それを探ろうにも下半身がまるでとろけるような熱い何かに包み込まれている感覚菓子、まるで捻った棒のような硬いものが、ふやけさせられた孔を穿てば自然と脳の回転が鈍り、何も考えられなくなってく。
 想像を絶する内側からの圧迫感に純也は吐き気を覚えながらも身体は快楽を貪り始め、ビクビクと痙攣する。

(な、んで……こんな気持ち悪いやつなんかにぃ……ッ!)

 しかし純也の意思とは反して身体は反応を示し、中に挿れられた異物をきゅうぅっとキツく締め付ける。
 まるでこの得体のしれない男の下半身から生えたモノに純也の身体が好意を寄せているかのように思えるほどだった。
 その反射的に受け入れてしまっている身体の反応に純也も気持ち悪さと拒絶感を抱きながらどうして身体が受け入れてしまっているのか、理解が追いつかず目を白黒とさせていた。
 そんな様子を知ってか知らずか、ゾンビのような純也の身体の上で蠢く男はゆっくりと腰を揺らし始める。それはセックスと言えるようなものではなく、ただただ純也の中を突いて拡げて犯し尽くすだけの稚拙な動き。
 それでもじわじわと身体を蝕む快楽は純也を確実に追い込んでいく。

「あ、ひ……ッ……ん、ぐ…ぅ…っ」

 気持ち悪いのに気持ちいい。
 こんな得体の知れない男に犯されているのに身体は悦んでいる。それが純也には耐え難い屈辱だった。

「い、やだ……ぁ!やめぇ……ッ!」

 そんな抵抗も虚しく、男はただ腰を揺らすだけで特に何かをしてくるわけではない。声を発する事も、退いてくれる事もない。ただ純也の中を蹂躙し、穢し、そしてその異物から滴る得体の知れない液体で純也を内側から堕としていく。
 その事が余計に恐怖心を煽り立て、純也はほつれ途切れ途切れになる頭を回転させて必死に拒絶しようと最後まで動く。

「はな、せぇ……ッ!や、めろぉ……っ」

 腕を動かそうとしても、脚を動かそうとしてもビクともしない。動かせる箇所は首だけ。指先も冷たく鈍くなっており、動かすどころか感覚すらない。無情にも抵抗する術のない純也に現実を突きつけるように男は蹂躙し続ける。
 そして中に埋め込まれた、律動を繰り返す異物がビクビクと脈打つように震え始める。

(あ、これやばいやつだ……ッ)

 本能的にそう悟ると純也はなんとかそれを阻止しようとする。これまで出来ていなかったのだから当然、阻止できるはずがなく、ただ快楽に身を委ねるしかなかった。

「い、やだ……ぁ……中は、やめてくれぇ……」

 涙を流し、せめて中はやめてくれと縋るように懇願する。その言葉が当然の如く、男の腐れ剥がれ落ちかけている耳に届いているはずなんてなく、ただ部屋にはヌチュッ、グチュッと卑猥で気持ち悪い音が響き続けるだけ。
 嫌だ、嫌だと何度も拒絶を口にするも身体は骨の髄まで受け入れており、それどころか身体の奥底から快楽が湧き上がり始めた。

(なんで、こんなやつなんかに……!)

 悔しさと恥ずかしさ、そして自分の尊厳というものが音を立てて叩き潰されていく感覚がする。涙を流して顔を赤く染め上げ、純也は己を律するように唇を強くギュッと噛み締める。
 そんな純也に構う事なく男はブルリと身体を震わせると、ビュクビュクと中に何かを注ぎ込む。
 その感覚で純也は達してしまいそうになるがなんとか唇を強く噛みしめて痛みで堪えきる事が出来た。だが、身体は言う事を聞かずに中に出される感覚に反応するように、ビクンッと大きく痙攣するとそのままぐったりとしてしまう。

「う……あ……っ」

 その反動に耐え切れず、唇を噛みしめていた口に力が入らなくなり、そのままベッドに身を預けるように沈めた純也は意識が深い微睡みへと落ちていきそうになる。
 そんな状況でもなお、人であるはずなのに腐りきっている化け物は止める様子はなく、再び動き出そうとしている。
 まるで映画のワンシーンのような光景だ。ジンジンと首が痛い事から噛まれているのだろうか、こうなってくれば目の前の化け物と同じ化け物────或いは、ゾンビにでもなってしまうのだろうか。
 そうなったら自分はどうなってしまうのだろうか。幽牙半島を調査したかったというのにこんな場所で死んでしまうのだろうか。
 そんな事を考えながら消え失せていく意識の中、静かに止まりゆく心臓、浅くなる呼吸、霞む視界。
────コンコン……。
 心臓を高鳴り、ノックする音が聞こえてくる。正確には、心臓ではなく開かれっぱなしになっている扉をノックして入ってきた人物がいた。

「……お楽しみ中に申し訳ないが、ちょっといいかのう?」

 しゃがれたようにも聞こえる低いその声は聞き覚えのない声だった。頭を動かす事すら叶わない純也は必死に視線を傾けると部屋の入り口に男性が立っているのが見える。
 袖や裾などから糸がほつれ出ていて、首回りもくたびれていてボロボロに見えるスウェット姿の男を掠れる視界で捉えると純也は助けを求めようとする。
 しかし、声すら出なくなっている事に気付けば絶望に追い立てられ、意識を手放しかけた。
────その瞬間、上に乗っていたはずの化け物の首が刎ねられ、前方に黒々とした血飛沫が噴き上がった。その黒い血を滴らせる刀はそのまま身を貫いて無理矢理、純也から引き離した。
 ずるりと孔から引き抜かれ、部屋の外に投げ捨てられたソレを純也は横目で見ていた。そして刀を近くに落ちていたテーブルクロスで拭き、鞘に収めた男性は純也に近寄ると被せられていた上布団を剥いで身体を見る。

「ふむ、結構侵食が進んでおるな。話せるか?」
「…………ぁ……っ、な、んと……か」
「ほう、随分と持ち堪えるな。ならば今から止めれるか試してみるから脚を広げてくれんか?」
「……う、ごけ……な、い…っ」

 ぼんやりとする意識で答える。脚を、と言われても身体を動かす事が叶わず、どうしたらいいんだと困惑とした顔を見せれば男性は刀を収めた鞘をベッドの脇に置いて身を乗り出すと純也の脚を持って開かせ、その間に座るなり拡がった孔に手を当て、一気に拳ごとねじ込んだ。

「う、くぁ……ッ!?」

 ズボッ!!と遠慮なく豪快に入ってきた拳に驚きを隠せなかった。しかし、不思議と痛みはなく、腕の間接まですんなりと入れられると結腸口をこじ開けられ、中に出された粘液を掻き出される。
 その感覚は凄まじく、肉壁を引っ掻き乱しながら内臓そのものを激しく蹂躙されているようで先程の快感も相まって、純也は排泄にも似たその感覚に身体を震わせ、気持ちよさそうに強張った表情をとろけさせてはビクビクと痙攣する。

「はぁ……ッ、や……らめぇ……っ」

 今まで感じた事のない強烈な快楽に脳が蕩けそうになるもなんとか堪え、身体をくねらせるだけで済んだ。ただ男性はただ淡々と作業のように中を掻き出すだけでその間の会話はなく、純也の甘い嬌声だけが響いていた。
 おそらく、相手が得体のしれないものではなく人であると認識できたからか、純也もすっかり身体を預けており、甘く喘ぎながら腰を反らして仰け反り続けていた。
 ゴリッ、グリッと鈍い音が身体の内側から聞こえてくるほどでゾクゾクと震えあがっているとその行為は早くも終わり、純也の腹の中に出されたモノを全て掻き出すとようやく腕を引き抜いた。

「……よし、これで充分だろう。して、小僧、具合はどうか……」
「はぁー……はぁー……っ?」

 蕩けきった純也の顔からは先程のような苦痛や悲嘆は感じ取れない。気を良くしてくれたのはよかったものの、もう一回とねだらんばかりの甘い顔に男性は思わず催しそうになるがグッと堪えると純也の手を掴んで引っ張り起こすとシャワー室に連れていく。

「お前さんはシャワーを浴びるといい。その間、わしが見張っといてやるから」
「……は、い」

 シャワー室内にある風呂椅子に座らされた純也はシャワー室を出ていった男性を見送るとシャワーヘッドを見上げる。
 中から粘液を掻き出してもらったおかげで痺れるような感覚は無くなり、指先も動くようになっていた。だがまだ完全に動くわけではなく、シャワーヘッドを取ろうとすればガタンッと音を立てて床に落ちてしまった。それを拾って蛇口を捻り、温度を調整してぬるま湯を出したところでシャワーを浴びる。
 ちょうど、その頃からシャワー室の外からドンドンッと何かを打ち付ける音が聞こえてきた。
 それはしばらくして止んだ。なんだろうかと気になるが何もなかったのに磨りガラスの向こう側に黒い人影が映ればホッと安心する。本当に見張ってくれているんだと思えば先程、起きた事をまだぼんやりとする頭で考えながらシャワーをゆっくりと浴びては髪や身体を綺麗にする。
 その際、首に痛みが走り、触ると出血こそ止まっているが噛み痕らしきものを指先で確かめれば大丈夫なのだろうかと不安に駆り立てられると早く出るためにも身体についた泡を流すべく、シャワーのお湯をかけた。

「ん……ッ!」

 先程まで感じなかったが身体をお湯が伝う度にやけに身体が敏感に反応し、まるで全身を見えない手で撫で回されているような感覚がして、ビクビクと震える。
 またイッてしまいそうだったのをなんとか耐えて身体を綺麗にすればゆっくりとシャワー室を出る。すると出ると同時に男性がタオルを持って待っていてくれたようでそれを手渡してきた。

「あ……、ありがとう……ございます……」
「なに、構わんよ。扉は応急処置で閉めておいたから暫くは大丈夫だろう。ベッドも直しておいた。気軽に休んだらいい」

 確かに扉があった場所には扉を削って作ったであろう木の板を打ちつけられており、それが先程の大きな音の出所なんだと理解すれば純也は感謝するように頭を下げる。
 ベッドの乱れも直っていて、腰掛けるには充分だ。髪や身体を拭き終えて服を着ようと着替えの服を鞄から出そうとすれば男に腕を掴まれ、引き戻されるとジロジロと身体を検査でもするかのように見られる。
 流石に同性だからと身体をジロジロと見られる事なんてないものだからなんだ、と言わんばかりに身構えてしまった。

「な、なんですか……っ」

 恐る恐る、様子を窺うように問いかけると彼は「ふむ」と何やら一考するそぶりを見せて腕から手を離し、その手を純也の首筋に這わせると噛み痕であろう場所を撫でると肩を掴まれる。

「まだ怠い感じはするか?指の感覚は?」
「え…っと……。怠いですし、指も…まだ痺れてて……」
「そうか、少し辛抱しとれよ」

そう言ってズイッと男性の方に身体を引き寄せられては裸のまま、抱きしめられ首筋に顔を近付けられてはちょうど噛み痕と思わしき場所に口付けられ、舌を這わせ舐められてから歯を立て、グッと噛みつかれる。

「んッ!? ぁ…、あ……ッ」

 歯が肉に食い込み、傷をつけると少しからジュルルッと音を立てて血を吸い上げられる。その感覚は不思議なものでこれが吸血行為なのかと思えば純也はそれだけで致してしまいそうなほど、気持ちよくなってしまい、ぶるるっと身体が震えあがる。
 しばらくの間、血を吸われ続け、歯を引き抜かれると止血するように舌で何度か舐め上げられると顔を離され、引き離される。
 すでに蕩けきって催してしまった純也は「はぁーっ…はぁー…っ」と相も変わらず荒い呼吸を吐いてぐったりとしており、それを見ては男性は「すまんのう」と謝りながらベッドへと連れていく。
 腰をかけさせ、純也の鞄から洋服を取り出して上から着せていくと下着を吐かせる時に下腹部────ちょうど、奇妙な紋様が現れたところに手を置いて、撫でた。

「ん…ッ!!」

 ビリリッと電流でも流れ込んだかのように強い刺激が下腹部を襲い、その直後じんわりと快感が脳から溶け出してきた。
 この奇妙な刺激が何か分からず、いったい何をしたんだと男性を見上げると彼は下腹部から手を離し純也に服をきせていくとさなかであるひとつの問いを純也に投げかけた。

「お前さん、あのパーティー会場にいた記者じゃな。あの時からわしの事を認識しているようじゃったが……お前さんはあのワインを飲んだか?」

 ワイン。それを聞いた瞬間はなんの事か分からなかったが少しして確かに会場にはワインボトルが置かれていた事を思い出した。多くの人がそのワインを注がれたグラスを手にし、飲んでいたのをよく覚えている。
 純也にもそのワインは配られたがその場の空気に白けていた事、なによりもお酒が飲めない体質という事もあって一口も飲まずに置いて客室に戻ってしまった事を思い出す。
 このタイミングでこの話が出てくるとなればあのワインになにか入っていたのだろうか。それを問うべく、男性を見上げると彼はそれに答えるように頷いた。

「飲んでないですけど、まさか…そのワインに……?」
「うむ、そのまさかだ。そのワインに幽牙半島で使われていた薬が入っていたようで乗客の殆どが成れの果てと化してしまった」
「成れの、果て……?」

 多くの人があのワインを飲んでいた事からまさか生存しているのが自分達だけなのか?そんなわけがない、と言わんばかりに食いつくが「操縦室に行ったら船員は食い殺された後で生きているのは君だけだ」と現実を突きつけられてしまった。
 まさか幽牙半島を遊覧する船に乗って噂が本当か確かめたかっただけだというのにこんな事になるとは微塵たりとも思ってもおらず、純也は事の重大さに打ちひしがれていた。
 しかし、それで悲劇が終わるはずがなかった。純也の下腹部に現れた奇妙な紋様。まるで痣のように広がるそれは根を張るように黒々とした血管が浮き上がっているのが分かる。
 まるでなにかの病のように見えるそれを見て男性は呟いた。

「……それは、山神の祝福だ」
「山神……?」

 聞き慣れない言葉に純也はすぐ反応した。

「幽牙半島はかつて小さな収容所だった」
「収容所……?小説などによくある、島そのものが犯罪者を収容する施設って事ですか?」
「……いんや、収容所というのはな、なにも悪い事をしたから集められるってわけじゃないんだぞ。そうだな……あの島はある製薬会社がありとあらゆる伝染病の被検体を集め、独自に実験を行う為に所有しておったんじゃ。そしてその中でも奇妙な症例が幽牙半島のみで発症する山神の祝福という病だ」

 自分が知っている限り、島の成り立ちやある製薬会社が噛んでいるというその話も初耳で病の方も名前を聞くだけではどんな病なのかは全くもって想像できないものだった。
 だが、その男がゆったりとした口調だがそれは重たい響きを帯びていて、口を開いて続きを語る時、客室の窓から見えた夜景がどこか嵐の前のように暗く淀めいていた事に純也は気付いていなかった。
 それはこの旅路がいかに暗く淀んでいて、決して関わってはいけない事を告げているようにも見えた。

「山神の祝福ってのはのう、いわゆる苗床というものでな。化学の研究成果である人間の成れの果てだけが山神の祝福を授かった者を孕ませ、病を伝染させて同族を殖やす事ができる。それがあの島に伝わる、今もなお蔓延り続けている病だ」


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