上 下
15 / 31
第一章 異世界人に転生された双剣士と転生させられた廃ゲーマー

15 ダンジョン上層の攻略④ 死闘

しおりを挟む
〔ちっ! 十秒だ! 十秒耐えろ! 来るぞ!〕

 シズルの声が空っぽの頭に聞こえてくる。

 ドゴッ!

 ブレイブの背中に重い衝撃が走った。

「ぐはぁっ!」

 ブレイブはケイナを抱えたまま、その場から吹っ飛んだ。

 コボルトに背中を蹴り飛ばされたらしい。しかし、彼はケイナを離さない。

 ケイナが顔を上げ、ブレイブに何か言っている。

 しかし、彼の耳にはキーンという音以外聞こえてこない。

 耳に痛みはないので鼓膜が破れている訳ではなさそうだが、聴覚が元に戻るまで時間が必要らしい。

 バキッ! ベキッ! ドガッ! ドゴッ!

 ケイナを庇うブレイブの背中を、コボルトキングは何度も何度も踏みつける。

「キヒヒヒヒィッ!」

 コボルトキングの下卑た笑い声が聞こえる。どうやらブレイブをいたぶって楽しんでいるらしい。

 声が聞こえたことから、ブレイブは自分の聴覚が回復したことに気づく。また、同時に体の硬直が回復するのも分かった。

〔よし! 煙幕玉を使え!〕
「え、煙幕玉? ってなんだっけ?」
「よろず屋で買ったアイテムだ。バッグから取り出して地面に叩きつけろ!」

 背負いバッグはいつの間にか地面に転がっている。ブレイブはその中から煙幕玉を取り出すと、地面に投げつけた。

 ボンッ!

 爆発音が鳴ると煙が溢れ出し、ケイナの顔すら見えなくなるほど辺りが真っ白になった。

「ガウゥゥウ!?」

 コボルトキングは先程と同じようにブレイブを蹴飛ばそうとするが、標的が見えず空振りする。

〔ブレイブ! お前は気合いでケイナを部屋の隅に運べ!〕
「ケイナを? ……分かった!」

 ブレイブはケイナを抱えるとふらふらと立ち上がり、適当な方向へ走り出した。

 どこに向かっているかなど分からないが、真っ直ぐ走ればいずれは壁に突き当たる。

 予想通り壁にぶつかったブレイブは、震えて動けないケイナをそっと地面に座らせた。

 シズルがいつもより暗い声音でブレイブに話す。

〔……僕の計画が甘かった。まだ子供だということを忘れ、ケイナに過剰な期待をして、無理をさせ過ぎてしまった。ブレイブ、彼女にこう伝えてくれないか。ボスは僕達に任せて、お前はゆっくり休んでいろ。この程度の雑魚キャラはすぐに倒してやるってな〕
「そうだな、伝えてやる!」

 ブレイブがシズルの言葉をケイナに伝える。

「す、すみま、せん……」

 ケイナが悔しそうに顔を歪ませる。

 彼女の青色の瞳が潤み、目から涙がこぼれ落ちた。

 ブレイブはケイナの頭を優しく撫でる。

 ブレイブは立ち上がり、キュアポーションでダメージを回復すると、双剣を抜き放った。

「さて、どうやって倒すんだ?」

 先程すぐに倒すと言い切ったシズルに、ブレイブは答えを期待して聞く。

〔はっきり言って、正攻法では倒せないだろう。敵の守りは固く、お前の攻撃はまともに当たらない。だから、相手を疲れさせるしかない。敵の攻撃を受け続け、お前はダメージを受けたらポーションで回復する。それを繰り返す。つまり、消耗戦しかない〕
「まじかよ……」

 ブレイブは頭を抱える。

〔そうでなければ、お前が気を失うことだな。僕が代わりに戦えるかも知れない〕
「お前なら倒せるのかよ?」
〔当然だ。僕を舐めるな〕

 煙幕玉の煙がついに晴れ、コボルトキングの姿が再び現れた。

「うおぉぉお!」

 ケイナが標的にならないよう、ブレイブはコボルトキングに向かって駆け出した。

 ブレイブが双剣で攻撃を仕掛ける。

 ガギィン!

 コボルトキングは手にした盾で、攻撃を受け止める。

 そして、別の手に持った刀、〈狼牙〉でブレイブを切りつける。

 今度はブレイブがその斬撃を双剣で受け止める。

 しかし、その後に飛んできた足蹴りを脇腹に受け、ブレイブは吹っ飛んだ。

「くっ、たしかにこりゃあきつい。なあシズル、気を失うってどうやるんだ?」
〔さあな。ボコボコに殴られれば気を失うんじゃないか?〕
「気を失う前に命を失いそうだぞそれ」

 ブレイブはげんなりする。

「まあ、やるだけやってやらぁあ!」

 再びブレイブはコボルトキングに駆け出した。

 攻撃を仕掛けては防がれ、反対に蹴飛ばされたり、斬撃を受けたりしてダメージを受ける。

 ダメージを受けたらキュアポーションで回復する。これを何度も繰り返した。

 しばらくして、十本準備してきたキュアポーションが底をついた。

 全身がボロボロで、立っているのも辛い。

「キヒヒィッ!」

 コボルトキングはブレイブを追い詰めたことに気づいているらしい。

 いやらしい顔で笑っている。

「俺が倒れたら頼むぞ、シズル」
〔ああ、任せろ。その前に死ぬなよ〕

 ブレイブが頷き、最後の特攻を試みる。

 彼が敵に向かって駆け出した、その時──

 コボルトキングの肩に、小石がコツンと当たった。

「ガァ……?」

 コボルトキングは苛立たしげに、小石が飛んできた方向に顔を向ける。

 そこには盾を構えたケイナが立っていた。

「ケ、ケイナ!? 何をしているんだ!?」

 ブレイブが思わず叫ぶ。

「わ、私も、戦えます。……戦えるところを、見てもらいたいんです!」

 ケイナの体の震えは止まっていない。しかし、その声には力強い意思が感じられた。

「キヒィッ! キヒヒヒヒィッ!」

 コボルトキングはその意思を嘲笑う。

 そして、ケイナに標的を定めて襲いかかった。

 コボルトキングは〈狼牙〉でケイナに切りつける。

 ガギィン!

 ケイナはその攻撃を盾で完全に防いだ。

 追撃の蹴りがくるが、ケイナはそれをバックステップで避ける。

 彼女はこれまで学んできた防御役としての技術を十全に発揮し、コボルトキングの攻撃を防ぎ続ける。

「おお! すげぇぞケイナ!」
〔……さすがだな〕

 コボルトキングは何度も攻撃を仕掛けるが当たらず、見るからにイライラし始めた。

 そして一旦攻撃をやめると、盾を投げ捨て、刀を両手で構えた。


 シズルはその構えの意味に気づく。

〔コボルトキングの切り札が来るぞ。〈狼牙〉専用のアーツで、《キラーファング》という一種の突き技だ〕
「ケイナ! アーツが来るぞ! 気をつけろ!」

 ブレイブがケイナに叫ぶ。

「わ、分かりました!」
 
 ケイナは防御に集中する。

 コボルトキングは〈狼牙〉を構えると、《キラーファング》を放った。

 〈狼牙〉の刀身が赤く光り、刀がまるで獰猛な肉食獣の牙のように、上から襲い掛かる。

 彼女はそれを盾で受けようとしていたが、直感的に何かを察知したらしい。

 盾で受けるように見せて、当たる瞬間にそれをスッと手放し、真下にしゃがみ込んだ。

 ズドンッ!

 〈狼牙〉の切先が盾に当たると、盾は一瞬で遠くまで吹き飛んだ。

 もし彼女が攻撃を受けていたら、あの盾と同じ運命になっていただろう。

 しかしケイナは無事だった。すぐに相手から距離をとる。

 アーツを放った直後は大きな隙ができる。その隙をブレイブは見逃さない。

 彼はすでにコボルトキングの背後に近づいていた。

 狙うは唯一装備で守られていない急所、首だ。

 レベルが6に上がった際、彼はアーツを一つ覚えていた。そのアーツを双剣で放つ。

「《疾風斬》!」

 二振りの剣が白く発光すると、敵の首めがけて凄まじい速さで弧を描く。

 ザシュ! ザシュ!

 ──ゴトッ。

 コボルトキングの首は中に舞うと、地面に落ちた。

「おっっっしゃあぁぁぁあああ!!!」

 ブレイブは双剣を突き上げて、歓喜の雄叫びを上げる。

 ケイナは安心したのか、ヘタっとその場にしゃがみ込んだ。

 ついに二人は、第六階層のボスに勝利した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

処理中です...