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第三章 樹海攻略 建国編

13 潜入捜査

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 冒険者ギルドから比較的近い距離に、エデッサの領主アラスターの屋敷はあった。領主館というらしいが、館というよりは屋敷ぐらいの大きさだ。前世で言う、2階建の一般的な家より大きいぐらいかな? それでも周りの建物よりは大きいので、特別な建物なのはすぐに分かる。

 中に入ると執事が待っていて、先に僕達を応接間へと案内してくれる。主はもう少ししてから来るらしい。

 応接間の絨毯や家具には、植物をモチーフにしたデザインがふんだんに盛り込まれていて美しい。また、それらのカラーは白やグレーがメインな為か、全体的に清潔で落ち着いた雰囲気の部屋となっている。

 僕達は部屋の中央に置かれたアンティークらしきソファに腰掛ける。するとすぐに、執事が紅茶と菓子を持って現れた。

 菓子は……クッキーだ! この世界にもあるんだ、クッキー。

 食べてみると、少し硬めだがほんのりバターの香りがする。甘くてサクサクでうまい。

 この世界に来て初めてのお菓子。控えめに言って最高だ。ここに来て良かったわー。後からどこで買ってるかとか教えてもらえるかな?

 ソフィアとエヴァの方を見ると、クッキーがそれぞれ5枚乗っていた皿はもう空になっている。至福そうな顔を浮かべる二人。馬人族ウェアホースのみんながお菓子とか食べてるのって、これまで見たことがない。なかなか食べる機会は無いのだろう。

 僕の視線に気づいたのか二人はハッとなるも、僕の皿に残ったクッキーに気づくと、皿からその目を離そうとしない。

「ジン様、要らないなら貰う」

 エヴァの言葉に、ソフィアもコクッと頷く。

 さっきは僕のことを「我らの王」とか言ってたのに、絶対思ってないよね、この子たち。

「はい、どうぞ。二人で分けてね」

 二人の目の前に皿を差し出すと、すぐに皿が空になった。


 良い香りの紅茶を飲みながら少しの間待っていると、やっと領主が現れた。

「遅くなって申し訳ない。今日は突然呼び立ててしまったにもかかわらず、こうして来てくれて感謝する」

 そう挨拶すると、正面のソファーに座る領主。

「先程話した通り、リッチ討伐について話を聞きたい。早速始めて良いだろうか?」
「ああ、構わない」
「ありがとう。ではリッチの所持品についてなのだが、討伐時にリッチは何か持っていたり、ドロップしたりしなかっただろうか?」
「何か、とは?」
「リッチは樹海で色々な研究をしていたらしいのだが、それに関連するものなどは持って無かっただろうか?」

 うぇ?! この人、リッチの研究のこと知ってるの?! それに屍粉ゾンビパウダーとか研究所の鍵とか、そこらへんも知ってるわけ?!

 いや、そんなことあるのか? どこまで知ってるんだろう。どっちにしても、屍粉ゾンビパウダーは誰にも渡せないし、研究所はもう僕達のものだから渡さない。ここは持っていなかったとしらを切るべきだろう。

「いや、何も持っていなかったな」
「ふむ、そうか」

 よし、ポーカーフェイスで乗り切った!

「ところで、魔物の討伐で得られたものは全て討伐した冒険者のものになるのは知っているかね? であるから、仮に君が何かを入手したとしても、誰であろうとそれを奪い取る権利はない」
「はあ」
「そこでだ。もし有用なものがあれば、それ相応の値段で買い取らせてもらいたいと思っていてね。もちろん相場よりも色を付けてだ。リッチの研究の成果物であれば、それがなんであろうと金貨100枚以上出そう」

 うぇぇ?! いちおくえん、キターーー?!

 いやいや、待て。金はある。換金アイテムだってまだ持ってるし、樹海の魔物を倒して売ればそれなりの金を稼ぐことだってできるだろう。つまり、金は重要じゃない。

「いやぁ、だから持ってな──」
「金だけじゃない。もし困っていることがあれば、色々な面で協力することもできる。例えば、何かの目的で道具が必要であればそれを用立てることもできるし、必要な武器や防具などがあれば私の力で探すこともできるだろう」

 うううぇぇぇええ?!

 めちゃくちゃピンポイント?! すごい助かるんですけど!!

 だって、困ってることしかないもん。一応暮らしていけるとは思うけど、はっきり言って村には何にもない。

 というか、何を用意すべきかも分からないし、何から始めれば良いかも分からない。村のみんなはそこら辺、誰も得意じゃなさそうだった。

 多分村の設計だったりとか、村を作る計画だったりとか、そこら辺から必要なんだろうけど、そんなこと元プログラマーの僕にできるわけがない。

 この領主なら、多分色々分かるんだろうな。もし彼が分からないとしても、その道の専門家を連れてくるぐらいはできるだろう。

 どうする?!

「本当に何も持っていなかったか、もう一度思い出してみてくれないかね?」

 ……なんて良い提案なんだろう。良すぎて興奮しているらしい。すこし頭に血が昇っている感覚がある。

 だからこそ、まずい。冷静になろう。冷静になって判断を間違えないようにしよう。


 リッチの研究にまつわる物なら、おそらく何でも欲しいんだろう。屍粉ゾンビパウダーとか研究所の鍵とかを渡したら何が起こる?

 前者はやばい。普通に使うと間違いなく人を不幸にするものだ。そして、良い方向に利用できるとすれば【眷属化】を持っている者ぐらいだ。

 後者はよく知らないが、多分研究所の中には屍粉ゾンビパウダーの製法が書かれた資料などがあってもおかしくない。それに、研究所はもう僕達のものだ。

 結論、両方ともアウト。やっぱり誰にも渡せないわ。それで良いよな?

 横目でソフィアとエヴァを見ると、小さくコクッと頷いた。

 二人ともそれっぽい顔つきをしてはいるが、本当に分かって頷いたのだろうか。


「すまない、アラスター卿。やはり何も持っていないよ」
「……ふむ、それは残念だ。では次の質問だが、ある理由で樹海の調査が滞っていてね。君達に手伝ってもらうことは出来ないだろうか? 君は他にもいる仲間達と協力してリッチを討伐したと聞いている。敵はかなり強いのだが、リッチを倒した君達なら問題ないだろう」

 その敵って、僕の配下の屍人騎士ゾンビナイトじゃん。

 あとこの領主、僕自身は強くないけど、仲間が多いからリッチに勝てたと思ってるのかな?

「領主殿。ジン様は単独でも屍人騎士ゾンビナイトごとき瞬殺です。なにとぞ誤解なきよう」
「そう。ジン様は怪物」
「なんとっ?! そうなのかね?!」

 随分驚いた様子で僕を凝視する領主。ドヤる娘達。

 今までこれほど口の軽い潜入捜査官がいただろうか。否、だ。後からデメテルに報告が必要だろう。

「ぜひ協力をお願いしたいのだが、どうかね?! 報酬も期待してもらって良い!」
「あっ、ああ、でも一体だけじゃないんだろう? 他の仲間達も忙しいし、流石に難しいかな。そうだよねぇ?」

 僕はそう言ってソフィアとエヴァを冷たい目で見る。

 二人は何かに気づいたらしい。冷や汗をたらして、

「は、はいっ! その通りです!」
「ジン様に完全同意」

 と慌てて答える。

「何と、それは本当に残念だよ……」

 アラスターは心底残念な様子で言う。なんか期待させてすんません。

 そしてアラスターは、

「私から聞きたかったことは以上だ。長時間拘束してすまなかった。随分気に入ってくれたようだから、良ければこれを持って帰ってくれたまえ」

 と言うと、そばにいた執事が僕に小さい紙袋を渡す。さっき食べたクッキーの袋のようだ。

「ありがとう。みんな喜ぶよ」
「それは良かった。もし君の仲間達の手が空いたら是非声をかけて欲しい」
「分かった」

 僕は一礼し、部屋を出ようとした。するとアラスターが、

「そうだ、最後に一つ、君は『赤眼の死霊魔術師ネクロマンサー』を知っているかね?」

 ぶっ?! それ僕!

「……いや、知らないな」
「そうか。今日は本当にありがとう。それでは、また」
「ああ、また」

 そう言い残し、僕達は領主館を出た。


 やっと出れたー! なんかびびったー!

 そろそろ帰ろう。デメテルに二人の失態を言いつけるという大事な仕事もある。

 それよりもここの領主、随分色々情報収集してるな。こっちも動くか。

(サスケ、聞こえる?)
(はっ、聞こえております)

 サスケに【念話】で連絡をとる。

(エデッサの領主アラスターの調査をお願いしたいんだけど、できるかな)
(はっ。容易いことかと。すぐに手配します)
(そっか、さすがだね。頼むよ)
(いえ。またご連絡、お待ちしていますっ!)
「えっ、ああ、それじゃあね)

 さてさて、一体何が出てくるのかな。
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