44 / 54
第三章 樹海攻略 建国編
12 侵入者の情報収集
しおりを挟む
みんなのおかげで、ひとまず村と呼べるぐらいの拠点はできた。ただ色々と不足してるなぁと感じる部分もある。
家を例に取ると、いわゆる大工道具が足りずかなり質素な住居のままだ。まあ、仮に道具があっても職人がいないから、立派な家が建てられるわけじゃないんだろうけど。
家以外にも、狩りをする為の弓矢・ナイフ・罠、農業をする為のシャベルや鍬などなど、仕事をする上での道具なんかも全然足りない。
それとは別の問題だけど、リッチのアジトを探しに来たらしい冒険者の存在が気になる。買い物と情報収集もしたいし、久しぶりにエデッサに行くか。
またデメテル達に付き合ってもらおうと馬人が住む区画までやってきた。だが、デメテルとマリナは鼠人の数名と組んで、屍人将軍と実戦を摸した訓練を行っていた。
最近のデメテルはやる気がすごい。しれっと屍人将軍を相手にしているのもビックリだ。
守ってもらうだけじゃなく、いずれ僕を守れるぐらい強くなるのが目標なんだって。
屍人将軍の方がまだまだ格上のようだけど、剣で打ち合っている様子は頼もしい限りだ。
それを離れたところから見守るソフィアとエヴァ。……暇そうだな。
「これはジン様、どうなさいましたか?」
「ジン様、暇なの?」
それはこっちのセリフだ。
「みんなを誘ってエデッサの街に行こうと思ったんだけど、デメテルとマリナは忙しそうだね」
「ちょうど始めたばかりですから、終わるまで時間がかかるかと。私とエヴァで良ければお供しますがいかがでしょうか?」
「うん。行く」
「いやぁ、でもみんなはデメテルの従者でしょ? 僕は一人でも大丈夫だから、これから行ってくるよ」
「いえいえ、お待ちください。我らの王、ジン様を一人で街に行かせることなどあり得ません。お守りできるほどの力はまだございませんが、ぜひお供にっ!」
「私達も連れてって」
あれ、なんか二人とも馬耳をひょこひょこ動かして、テンション上がってるっぽい。街が好きなのかぁ。
あと、我らの王って……。
「そう? 来てもらえるのは本当に助かるから、お願いしようかなぁ」
このまますぐに行けると言うので、【転移】で移動。街に入った。もう眼鏡は必要ないと判断して着けるのは止め、目は【変身】で偽装することにした。
まずは道具屋に寄って農工具類や罠などを購入する。数がそれほど無かったので、もっと在庫があるか聞いてみたけど無いらしい。逆に、何するつもりだ? なんて聞かれちゃったから、適当にスローライフだと言っといた。
次に武器屋に行き、弓矢・ナイフを買えるだけ買う。そういえば武器を壊しちゃったことを思い出したので、店主に聞く。
「実はミスリルの剣が壊れてしまってね。これを修理してもらうことはできないかな? もしくは、これより強い武器があれば購入したいんだけど」
そう言って、【収納】からミスリルの剣の破片を取り出し、店のカウンターに置く。こんだけバラバラじゃ、もはや修理っていわないかもね。
「なんと、ミスリルの剣が? 修理することは可能だと思います。実はエデッサに腕利きの鍛冶職人がいましてね。うちの商品の一部はその職人から仕入れてるんですが、その人に修理を依頼してみましょう」
「ありがとう!」
「いえいえ、いつもご贔屓にしていただいておりますから。ちなみにミスリルよりも強い武器ですが、こちらでは取り扱っておりません。この地域ではミスリル以上に良質な素材は手に入らないのです。まあ樹海の中央部には、ドラゴンを初めとする強力な魔物の素材やミスリル以上の金属が手に入るという噂も聞きますが、樹海を探索できる冒険者などそうそうおりませんからね。先程の鍛冶職人も、会うたび会うたび、素材が手に入らないことに不満を言っていますよ」
そう言って苦笑する店主。へぇ、なかなか面白いことを聞けた。
「修理は一週間程度あれば終わると思います。そのぐらいに取りに来てください」
「分かった。よろしく頼むよ」
そう言って店を出た。最後は冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドに到着し、中に入る。掲示板を見るが、樹海に関連する依頼はない。他の冒険者に受注されていれば無いのも当たり前か。
カウンターにはいつものようにローザさんがいる。挨拶を交わし、情報を得ようと思うが、なんて聞けば良いかわからない。まさか「この前リッチのアジトに冒険者が来てたけど何か知ってる?」なんて聞けない。
「ジンさん? 今日はどういったご用件ですか?」
挨拶したきりどう聞こうかと悩んでいた僕に、ローザさんは受付嬢らしい質問をする。
するとソフィアとエヴァが口を開いた。
「樹海を探索する依頼があるようなのですが、私達もその依頼を受注できないかと思いまして。リッチを討伐できるぐらいには樹海について詳しいので、何かのお役に立てると思うのですが」
「私達は樹海のプロ」
ほぉ、ナイス二人。しかしローザさんは少し首を傾げるとこちらに問う。
「いえ、そのような依頼はありませんが。どちらで聞いた情報です?」
「樹海に冒険者の集団が入っていくのを見たのです」
「多分B級冒険者の4人組パーティー」
「ああ、では『森影』の皆さんですね。彼らはエデッサの領主アラスター卿から指名依頼を受けていますので、それに関連する仕事かも知れません。ただギルドでは指名依頼の中身までは把握してませんので、これ以上は分かりません」
「指名依頼ですか。では我々に指名が来るまで待つしかありませんね。色々と情報ありがとうございます」
そう言ってお礼を言うソフィアに合わせ、僕とエヴァもお礼を言った。
これ以上の情報収集は難しそうだ。そう思い帰ろうとすると、一人の男が後ろから現れ、僕の隣に立った。
人族らしい。40代前半といったところか。茶色の髪は短く切りそろえられ、眼鏡の奥には鋭い切長の目が見える。長身だが痩せぎすの体型で、少し不健康そうに見えるのは気のせいだろうか。
その男はギルドのカウンター奥にある事務所に向かって声を上げた。
「すまない。ギルドマスターのセルジオスはいないだろうか?」
しかし、その答えはすぐにカウンターから返ってきた。
「ギルマスなら席を外しています。どういったご用件ですか、アラスター卿?」
ローザさんが素早く答える。
へぇ、この人がさっきのアラスター卿。エデッサの領主様か。エデッサは街の名前であり、地域の名前でもあるみたいだ。
「そうか。割り込む形になってすまない。ある冒険者がギルドを訪れたら、領主館の方へ訪ねるよう伝言してもらえないかと思ってね」
「なるほど、承知しました。それで、その冒険者とは?」
「ジンという名の冒険者なのだが。先日リッチを討伐したという男だ」
えぇ?! 僕じゃん! なんで?!
「ジンさんはこちらの方ですが」
ローザさんが僕をアラスター卿に紹介する。すると彼は少し驚き、僕を観察するように見る。しかしそれも一瞬で、
「なんと、君がジンか! これは都合が良い。リッチ討伐の件で少し話がしたいのだが、これから時間をもらえないだろうか?」
と僕に問いかける。領主って言うぐらいだし偉い立場なんだろうけど、低姿勢でなかなか礼儀正しい人だ。
「えっと……」
横目でソフィアとエヴァを見ると、コクッ、と意味深に頷く。なんか芝居がかってるな。フードで顔はよく見えないが、口元が緩んでいるようにも見える。
「もちろん、そちらの二人も来てもらって構わない。どうだろう?」
「……分かった。それじゃあ伺おう」
あんまり気が向かないけど、悪い人じゃなさそうだしいいか。
アラスター卿に案内され、領主館なる場所に向かう僕達。
領主も徒歩で向かうんだなぁなんて思ったが、そういうのが好きなタイプなのかもしれない。
途中でソフィアとデメテルが、
「敵地への潜入捜査、といったところでしょうか。腕がなります」
「やつの化けの皮を剥がす」
だって。さっきの意味深なやつは潜入捜査官的な感じを出していたわけか。
そもそも敵じゃないだろうし、なんか勘違いしてるような気がする……。
家を例に取ると、いわゆる大工道具が足りずかなり質素な住居のままだ。まあ、仮に道具があっても職人がいないから、立派な家が建てられるわけじゃないんだろうけど。
家以外にも、狩りをする為の弓矢・ナイフ・罠、農業をする為のシャベルや鍬などなど、仕事をする上での道具なんかも全然足りない。
それとは別の問題だけど、リッチのアジトを探しに来たらしい冒険者の存在が気になる。買い物と情報収集もしたいし、久しぶりにエデッサに行くか。
またデメテル達に付き合ってもらおうと馬人が住む区画までやってきた。だが、デメテルとマリナは鼠人の数名と組んで、屍人将軍と実戦を摸した訓練を行っていた。
最近のデメテルはやる気がすごい。しれっと屍人将軍を相手にしているのもビックリだ。
守ってもらうだけじゃなく、いずれ僕を守れるぐらい強くなるのが目標なんだって。
屍人将軍の方がまだまだ格上のようだけど、剣で打ち合っている様子は頼もしい限りだ。
それを離れたところから見守るソフィアとエヴァ。……暇そうだな。
「これはジン様、どうなさいましたか?」
「ジン様、暇なの?」
それはこっちのセリフだ。
「みんなを誘ってエデッサの街に行こうと思ったんだけど、デメテルとマリナは忙しそうだね」
「ちょうど始めたばかりですから、終わるまで時間がかかるかと。私とエヴァで良ければお供しますがいかがでしょうか?」
「うん。行く」
「いやぁ、でもみんなはデメテルの従者でしょ? 僕は一人でも大丈夫だから、これから行ってくるよ」
「いえいえ、お待ちください。我らの王、ジン様を一人で街に行かせることなどあり得ません。お守りできるほどの力はまだございませんが、ぜひお供にっ!」
「私達も連れてって」
あれ、なんか二人とも馬耳をひょこひょこ動かして、テンション上がってるっぽい。街が好きなのかぁ。
あと、我らの王って……。
「そう? 来てもらえるのは本当に助かるから、お願いしようかなぁ」
このまますぐに行けると言うので、【転移】で移動。街に入った。もう眼鏡は必要ないと判断して着けるのは止め、目は【変身】で偽装することにした。
まずは道具屋に寄って農工具類や罠などを購入する。数がそれほど無かったので、もっと在庫があるか聞いてみたけど無いらしい。逆に、何するつもりだ? なんて聞かれちゃったから、適当にスローライフだと言っといた。
次に武器屋に行き、弓矢・ナイフを買えるだけ買う。そういえば武器を壊しちゃったことを思い出したので、店主に聞く。
「実はミスリルの剣が壊れてしまってね。これを修理してもらうことはできないかな? もしくは、これより強い武器があれば購入したいんだけど」
そう言って、【収納】からミスリルの剣の破片を取り出し、店のカウンターに置く。こんだけバラバラじゃ、もはや修理っていわないかもね。
「なんと、ミスリルの剣が? 修理することは可能だと思います。実はエデッサに腕利きの鍛冶職人がいましてね。うちの商品の一部はその職人から仕入れてるんですが、その人に修理を依頼してみましょう」
「ありがとう!」
「いえいえ、いつもご贔屓にしていただいておりますから。ちなみにミスリルよりも強い武器ですが、こちらでは取り扱っておりません。この地域ではミスリル以上に良質な素材は手に入らないのです。まあ樹海の中央部には、ドラゴンを初めとする強力な魔物の素材やミスリル以上の金属が手に入るという噂も聞きますが、樹海を探索できる冒険者などそうそうおりませんからね。先程の鍛冶職人も、会うたび会うたび、素材が手に入らないことに不満を言っていますよ」
そう言って苦笑する店主。へぇ、なかなか面白いことを聞けた。
「修理は一週間程度あれば終わると思います。そのぐらいに取りに来てください」
「分かった。よろしく頼むよ」
そう言って店を出た。最後は冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドに到着し、中に入る。掲示板を見るが、樹海に関連する依頼はない。他の冒険者に受注されていれば無いのも当たり前か。
カウンターにはいつものようにローザさんがいる。挨拶を交わし、情報を得ようと思うが、なんて聞けば良いかわからない。まさか「この前リッチのアジトに冒険者が来てたけど何か知ってる?」なんて聞けない。
「ジンさん? 今日はどういったご用件ですか?」
挨拶したきりどう聞こうかと悩んでいた僕に、ローザさんは受付嬢らしい質問をする。
するとソフィアとエヴァが口を開いた。
「樹海を探索する依頼があるようなのですが、私達もその依頼を受注できないかと思いまして。リッチを討伐できるぐらいには樹海について詳しいので、何かのお役に立てると思うのですが」
「私達は樹海のプロ」
ほぉ、ナイス二人。しかしローザさんは少し首を傾げるとこちらに問う。
「いえ、そのような依頼はありませんが。どちらで聞いた情報です?」
「樹海に冒険者の集団が入っていくのを見たのです」
「多分B級冒険者の4人組パーティー」
「ああ、では『森影』の皆さんですね。彼らはエデッサの領主アラスター卿から指名依頼を受けていますので、それに関連する仕事かも知れません。ただギルドでは指名依頼の中身までは把握してませんので、これ以上は分かりません」
「指名依頼ですか。では我々に指名が来るまで待つしかありませんね。色々と情報ありがとうございます」
そう言ってお礼を言うソフィアに合わせ、僕とエヴァもお礼を言った。
これ以上の情報収集は難しそうだ。そう思い帰ろうとすると、一人の男が後ろから現れ、僕の隣に立った。
人族らしい。40代前半といったところか。茶色の髪は短く切りそろえられ、眼鏡の奥には鋭い切長の目が見える。長身だが痩せぎすの体型で、少し不健康そうに見えるのは気のせいだろうか。
その男はギルドのカウンター奥にある事務所に向かって声を上げた。
「すまない。ギルドマスターのセルジオスはいないだろうか?」
しかし、その答えはすぐにカウンターから返ってきた。
「ギルマスなら席を外しています。どういったご用件ですか、アラスター卿?」
ローザさんが素早く答える。
へぇ、この人がさっきのアラスター卿。エデッサの領主様か。エデッサは街の名前であり、地域の名前でもあるみたいだ。
「そうか。割り込む形になってすまない。ある冒険者がギルドを訪れたら、領主館の方へ訪ねるよう伝言してもらえないかと思ってね」
「なるほど、承知しました。それで、その冒険者とは?」
「ジンという名の冒険者なのだが。先日リッチを討伐したという男だ」
えぇ?! 僕じゃん! なんで?!
「ジンさんはこちらの方ですが」
ローザさんが僕をアラスター卿に紹介する。すると彼は少し驚き、僕を観察するように見る。しかしそれも一瞬で、
「なんと、君がジンか! これは都合が良い。リッチ討伐の件で少し話がしたいのだが、これから時間をもらえないだろうか?」
と僕に問いかける。領主って言うぐらいだし偉い立場なんだろうけど、低姿勢でなかなか礼儀正しい人だ。
「えっと……」
横目でソフィアとエヴァを見ると、コクッ、と意味深に頷く。なんか芝居がかってるな。フードで顔はよく見えないが、口元が緩んでいるようにも見える。
「もちろん、そちらの二人も来てもらって構わない。どうだろう?」
「……分かった。それじゃあ伺おう」
あんまり気が向かないけど、悪い人じゃなさそうだしいいか。
アラスター卿に案内され、領主館なる場所に向かう僕達。
領主も徒歩で向かうんだなぁなんて思ったが、そういうのが好きなタイプなのかもしれない。
途中でソフィアとデメテルが、
「敵地への潜入捜査、といったところでしょうか。腕がなります」
「やつの化けの皮を剥がす」
だって。さっきの意味深なやつは潜入捜査官的な感じを出していたわけか。
そもそも敵じゃないだろうし、なんか勘違いしてるような気がする……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,932
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。