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第三章 樹海攻略 建国編
7 冒険者ランク/100年は長い
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「さぁ、いい加減決めなさぁい?」
「……分かりました。ではジンの冒険者ランクをひとまずBに引き上げたいと思います。というのも、俺の権限だけではいきなりAランクに上げることが出来ません。冒険者ギルド本部での審査と承認が必要なので、そちらの申請は別途しておきます。デメテル達のランクも、リッチ軍討伐の功績を鑑みてBランクに引き上げようと思います」
あぁ、冒険者ランクを決めようとしてたのか。
「本当ですの?! 嬉しいですわ!」
「やりましたね! デメテル様!」
「本当に……ぐすっ……頑張ってきた甲斐が、ありましたね……」
「うん。ばんざい」
すごい喜んでるよ、みんな。ソフィアなんか泣いてるし。なぜそんなに嬉しいのかは分からないけど、本当に良かったねぇ。
「ジン様もいきなりBランクなんて、すごいですわ!」
「えっ、そうなの?」
「Bランクに上がれる冒険者は、世界中で一握りの者だけなのです。Cランクでさえも手が届かずに、一生を終える冒険者がほとんどなのですから」
「なるほど。Cランクでも相当すごいんだ」
「それに、BランクとCランクでは出来ることが全く違うのです。例えば、他国と繋がる転移魔法陣の利用、各国の王立図書館および冒険者ギルド本部図書館の利用、ギルド管轄の高難易度ダンジョンの探索許可、各国に持ち家を立てる許可、などが得られます」
「マジ?! それ、本当にありがたい。他国に行ったりとか、図書館とかすごい興味あるよ!」
「ジン様ならそうおっしゃるかと思いましたわ。そして最も重要なのは、Bランクからやっと一流冒険者として認められるということなのです」
「それってそんなに重要なの?」
「はい、間違いございませんわ。Bランクになれば、国家でさえもその冒険者を軽く扱うことは出来ません。いずれ、それを実感される時が来るかと」
「そっかぁ、ありがとう」
冒険者ランクって結構大事なんだな。
さっきはリッチの討伐証明なんてどうでも良いとか思ってたけど、バカだったなぁ……。デメテルとヴィルマさんが止めてくれなかったら、せっかくの権利を無駄に捨てるところだった。
「では全員、冒険者証を渡してくれ」
ギルマスの言葉に従い、僕達は冒険者証をギルマスに渡す。
するとギルマスが言う。
「なぁジン、すまんが、お前が着けているサングラスを今だけ外してもらうことは出来ないか? 冒険者ギルドは人族の為の組織だから、魔物じゃないことを念の為確認しておきたいんだ」
えー?! それはまずい!
デメテル達の方からも緊張が伝わってくる。
こうなると、手は一つしかない。
ぶっつけ本番だけど、【変身】で目だけ変える。誰の目が良いだろう…………。こうなったら、一番知ってる目、自分の前世の目でいこう。
(【変身】!)
「ああ、構わないぞ」
そう言って僕はサングラスを外す。
「……普人だったのか。妙に肌が青白いから本当に人族なのか少し疑っていたんだ。すまなかった、謝罪する。じゃあ冒険者証の書き換えをしてくるから、ここで待っていてくれ」
そう言って去っていくギルマス。
うおー! あぶねー!! 一歩間違えたら討伐されるとこだったわ……。
「さすがジン様ですわ」
「あ、ありがとう」
デメテルが僕の対応力を褒めてくれる。
「そうだ。ヴィルマさん、さっきはありがとう。助かったよ」
「あらぁ、なんのことか分からないけど、勝手に【鑑定】したのと相殺してくれると嬉しいわねぇ」
「そっか。じゃあそうさせてもらうよ」
「うふふっ。それはそうと、……貴方はどこから来たのかしらぁ?」
うっ、随分抽象的な質問……。まさか転生者だと疑われてるわけじゃないよね?
「ヴィルマよ。ジンはピラミッドで生まれたのだ。お主に言ってなかったか?」
「………………………はぁ?」
「いや、であるから──」
「聞いてないわよぉ、ハムモン?」
突如部屋が闇に覆われ、室内の気温がぐんぐん下がっていく。真冬のような冷気が肌を刺し、僕の歯がガチガチと音を立てる。
「おっ、落ち着けいヴィルマ! 皆が凍えておるぞ!」
「落ち着けじゃないわよぉ! 貴方ねぇ、ピラミッドで何か起きたら、小さいことでも絶対報告してって、何度も何度も言ったじゃないのぉ!!」
「すっ、すまん! すまなかった!」
あーあ、それはハムモンが悪いわ。ヴィルマさんにとって大事なことだったんでしょ、きっと。
フーッ、フーッ、と肩で息をしつつも、少しずつ落ち着いてきた様子のヴィルマさん。部屋をやっと元に戻してくれた。
「貴方は許さないわぁ、ハムモン。でも過去よりも今よぉ。……ジン。貴方まさか、ヴラド様じゃないわよ、ねぇ?」
「えっ、僕が大魔王ってこと? 違うけど?」
何やら訝しげにヴィルマさんが僕を見る。
「なに? どういうことだヴィルマ?」
「まっ、まさか貴方、気づいてないのぉ? ピラミッドで生まれて吸血鬼に進化するなんて、ヴラド様と関係が無いわけ無いじゃない!」
「なっ、何だと?!」
愕然とするハムモンと、呆れて頭を抱えるヴィルマ。
「まっ、待て。確かジンはピラミッドで生まれた屍人騎士から還魂者に進化したと言っておったぞ!」
「そんな訳ないじゃないのぉ。還魂者は系譜外種、特殊な力が働かない限り進化できないわぁ」
「ぐぅ……ジンめ、謀ったな?!」
「へぇ、ジンが悪いって、貴方はそう言ってるのかしらぁ?」
「いっ、いやぁ、そういう訳ではないがな……?」
よし、僕のせいにはならなさそうだ。大体ハムモンが勘違いしただけだもんね。
「もう良いわぁ。貴方は少し黙っててちょうだい。じゃあジン、貴方はあの、支配者の墓室で生まれたのねぇ?」
「そうだけど、よく部屋の名前まで知ってるね?」
「もちろんよぉ。あそこは我が主、ヴラド様のお墓なんだものぉ」
……そっか。そういうことか。そう言えばハムモンが、ピラミッドは砂漠大陸を支配していた魔王が埋葬された墳墓だって言ってたもんな。
でも僕はヴラドじゃない。初めはゾンビだったし、ヴラドの記憶とかもないし、そもそも転生者だし。
「色々と状況は理解できたよ。でも、僕は間違いなく大魔王ヴラドじゃ無いんだ。申し訳ないけど」
「本当かしら? ヴラド様なら悪戯を仕掛けて来そうだけどぉ。でも、雰囲気がやっぱり別人みたい。疑ってごめんなさいねぇ……」
肩を落とし、顔に悲壮感が漂うヴィルマさん。
「ヴィルマさんは大魔王が復活すると思ってるみたいだね?」
「ええ、もちろんよぉ。だってヴラド様は【不死】持ちだものぉ」
なるほど、だからか。でも復活までそんなに時間がかかるなんて驚きだ。
ヴィルマさん、ちょっと可哀想だなぁ。もしかしたら、この100年間ヴラドが復活するのを待ってたのかも知れない。
「いやいや、待て。今年はヴラド様がお隠れになって100年という節目の年。そのタイミングでジンが生まれた。何かあるに違いないぞ! お主、本当にヴラド様ではないのか?!」
そう言うと、ぶつかりそうなほど近くまで顔を寄せ、ハムモンが僕の顔を覗き込んで来る。
顔ちかっ!
「ちょっとハムモン、私にも代わりなさい!」
そう言って、ヴィルマさんまで超至近距離に顔を寄せてくる。
まだ疑ってんのかい。
そして二人であちこちチェックしては、「似てる」とか「やっぱり違う」とか言ってる。
近い! 動物とか女性に近寄られるのは嫌じゃないけど、パーソナルスペースってものもあるんです。……ハムモンは動物じゃないか。
「お二方とも、もう宜しいのでは?」
デメテルがやや控えめにそう言うと、ハッと我に返り二人は席に戻った。
「すっ、すまぬ、ジン。不快な思いをさせてしまったな」
「私も謝罪するわぁ……」
「いやいや、大丈夫だよ! 二人とも100年待ってたんでしょ? それを思えばぜんっぜん大したことないよ!」
そう、せっかく100年待ってやっとヴラドの可能性がある者が生まれたのに、直ぐに違います、なんて認められないだろう。
ちょっと微妙な空気になったので話を変えよう。
「あ、そう言えば、ギルマスがなかなか冒険者証を持ってこないね」
「確かにそうですわ。ちょっと遅いですし、もう準備できているかも知れません。カウンターまで行ってみますか?」
「そだね。あとは帰るだけだし、皆で下に行こっか」
ハムモンとデメテル達が頷く。
ソファーから立ち上がり、ヴィルマさんに挨拶する。
「ヴィルマさん、今日は色々ありがとう」
「あらぁ、どういたしまして。それより、私を呼ぶときに『さん』はいらないわぁ。冒険者らしく呼び捨てになさい。それと、この国は色々と悪い噂を聞くわぁ。貴方は少し名を上げて今後目立つことになるから注意しなさい。あとは、そうね、吸血鬼っていう種族はクズが多くて嫌われ者なの。だから常に天敵の吸血鬼ハンターに狙われることになるわぁ。これから十分注意することねぇ。あとは──」
「おいおいヴィルマ、良い加減にせぬか。まるで子供に注意する口うるさい母親のようだぞ? わはははっ!」
「……………………あぁ? 私はまだそんな歳じゃないわよお!!!」
ヴィルマが顔を真っ赤にして怒鳴りながら、手にした杖を床にガンッと突き刺すと、ハムモンの足元に漆黒の闇が生じる。その闇から突如無数の青白い手が現れ、ハムモンの足をガシッと掴むと、恐ろしい力で奈落へと引きずり込もうとする。
魔法なのかな? リッチが使ってきた上級魔法の【深淵導穴】と違って効果範囲が狭く、何よりレイスの手みたいなのが出てきて禍々しい。
年齢に関係することは、少しでも口に出したらアウトなんだな。さっきは頭で考えただけで注意を受けたもん。
「やっ、やめよヴィルマ!!」
「ダメよぉ。貴方にはまだ話があるのぉ」
体が半分ほど引きずり込まれながら、手をばたつかせて叫ぶハムモン。ヤバそうな感じだけど、ハムモンなら大丈夫だろ。
「色々教えてくれてありがとう、ヴィルマ。また会おう」
「あらぁ、そうしましょう。またねぇ」
ひらひらと手を振るヴィルマ。その姿を見て、僕とデメテル達はさっさと部屋を出る。
後ろから悲鳴混じりの助けを求める声が聞こえる。
危険を顧みず他者を助けることも時には必要だが、君子危うきに近寄らずという言葉もある。今回は後者の言葉に従うことにしよう。
さようなら、ハムモン。君のことは忘れないよ!
冒険者ギルドのカウンターになぜか立っていたギルマスから冒険者証を受け取る。あと、ローザさんからリッチの討伐報酬ももらった。金貨10枚ずつ山分けだって。報酬のことなんて忘れてたからラッキー。
ギルマスから話を聞くと、比較的すぐ冒険者証はできていたそうだが、部屋が真っ暗になり外に冷気が漏れてきたので、危険と判断し部屋に入るのをやめたらしい。
懸命な判断だが、ギルマスとしてそれで良いのかは気になるところだ。
よし、やることはやったから、お酒と食料でも買って、村に戻ろうっと!
「……分かりました。ではジンの冒険者ランクをひとまずBに引き上げたいと思います。というのも、俺の権限だけではいきなりAランクに上げることが出来ません。冒険者ギルド本部での審査と承認が必要なので、そちらの申請は別途しておきます。デメテル達のランクも、リッチ軍討伐の功績を鑑みてBランクに引き上げようと思います」
あぁ、冒険者ランクを決めようとしてたのか。
「本当ですの?! 嬉しいですわ!」
「やりましたね! デメテル様!」
「本当に……ぐすっ……頑張ってきた甲斐が、ありましたね……」
「うん。ばんざい」
すごい喜んでるよ、みんな。ソフィアなんか泣いてるし。なぜそんなに嬉しいのかは分からないけど、本当に良かったねぇ。
「ジン様もいきなりBランクなんて、すごいですわ!」
「えっ、そうなの?」
「Bランクに上がれる冒険者は、世界中で一握りの者だけなのです。Cランクでさえも手が届かずに、一生を終える冒険者がほとんどなのですから」
「なるほど。Cランクでも相当すごいんだ」
「それに、BランクとCランクでは出来ることが全く違うのです。例えば、他国と繋がる転移魔法陣の利用、各国の王立図書館および冒険者ギルド本部図書館の利用、ギルド管轄の高難易度ダンジョンの探索許可、各国に持ち家を立てる許可、などが得られます」
「マジ?! それ、本当にありがたい。他国に行ったりとか、図書館とかすごい興味あるよ!」
「ジン様ならそうおっしゃるかと思いましたわ。そして最も重要なのは、Bランクからやっと一流冒険者として認められるということなのです」
「それってそんなに重要なの?」
「はい、間違いございませんわ。Bランクになれば、国家でさえもその冒険者を軽く扱うことは出来ません。いずれ、それを実感される時が来るかと」
「そっかぁ、ありがとう」
冒険者ランクって結構大事なんだな。
さっきはリッチの討伐証明なんてどうでも良いとか思ってたけど、バカだったなぁ……。デメテルとヴィルマさんが止めてくれなかったら、せっかくの権利を無駄に捨てるところだった。
「では全員、冒険者証を渡してくれ」
ギルマスの言葉に従い、僕達は冒険者証をギルマスに渡す。
するとギルマスが言う。
「なぁジン、すまんが、お前が着けているサングラスを今だけ外してもらうことは出来ないか? 冒険者ギルドは人族の為の組織だから、魔物じゃないことを念の為確認しておきたいんだ」
えー?! それはまずい!
デメテル達の方からも緊張が伝わってくる。
こうなると、手は一つしかない。
ぶっつけ本番だけど、【変身】で目だけ変える。誰の目が良いだろう…………。こうなったら、一番知ってる目、自分の前世の目でいこう。
(【変身】!)
「ああ、構わないぞ」
そう言って僕はサングラスを外す。
「……普人だったのか。妙に肌が青白いから本当に人族なのか少し疑っていたんだ。すまなかった、謝罪する。じゃあ冒険者証の書き換えをしてくるから、ここで待っていてくれ」
そう言って去っていくギルマス。
うおー! あぶねー!! 一歩間違えたら討伐されるとこだったわ……。
「さすがジン様ですわ」
「あ、ありがとう」
デメテルが僕の対応力を褒めてくれる。
「そうだ。ヴィルマさん、さっきはありがとう。助かったよ」
「あらぁ、なんのことか分からないけど、勝手に【鑑定】したのと相殺してくれると嬉しいわねぇ」
「そっか。じゃあそうさせてもらうよ」
「うふふっ。それはそうと、……貴方はどこから来たのかしらぁ?」
うっ、随分抽象的な質問……。まさか転生者だと疑われてるわけじゃないよね?
「ヴィルマよ。ジンはピラミッドで生まれたのだ。お主に言ってなかったか?」
「………………………はぁ?」
「いや、であるから──」
「聞いてないわよぉ、ハムモン?」
突如部屋が闇に覆われ、室内の気温がぐんぐん下がっていく。真冬のような冷気が肌を刺し、僕の歯がガチガチと音を立てる。
「おっ、落ち着けいヴィルマ! 皆が凍えておるぞ!」
「落ち着けじゃないわよぉ! 貴方ねぇ、ピラミッドで何か起きたら、小さいことでも絶対報告してって、何度も何度も言ったじゃないのぉ!!」
「すっ、すまん! すまなかった!」
あーあ、それはハムモンが悪いわ。ヴィルマさんにとって大事なことだったんでしょ、きっと。
フーッ、フーッ、と肩で息をしつつも、少しずつ落ち着いてきた様子のヴィルマさん。部屋をやっと元に戻してくれた。
「貴方は許さないわぁ、ハムモン。でも過去よりも今よぉ。……ジン。貴方まさか、ヴラド様じゃないわよ、ねぇ?」
「えっ、僕が大魔王ってこと? 違うけど?」
何やら訝しげにヴィルマさんが僕を見る。
「なに? どういうことだヴィルマ?」
「まっ、まさか貴方、気づいてないのぉ? ピラミッドで生まれて吸血鬼に進化するなんて、ヴラド様と関係が無いわけ無いじゃない!」
「なっ、何だと?!」
愕然とするハムモンと、呆れて頭を抱えるヴィルマ。
「まっ、待て。確かジンはピラミッドで生まれた屍人騎士から還魂者に進化したと言っておったぞ!」
「そんな訳ないじゃないのぉ。還魂者は系譜外種、特殊な力が働かない限り進化できないわぁ」
「ぐぅ……ジンめ、謀ったな?!」
「へぇ、ジンが悪いって、貴方はそう言ってるのかしらぁ?」
「いっ、いやぁ、そういう訳ではないがな……?」
よし、僕のせいにはならなさそうだ。大体ハムモンが勘違いしただけだもんね。
「もう良いわぁ。貴方は少し黙っててちょうだい。じゃあジン、貴方はあの、支配者の墓室で生まれたのねぇ?」
「そうだけど、よく部屋の名前まで知ってるね?」
「もちろんよぉ。あそこは我が主、ヴラド様のお墓なんだものぉ」
……そっか。そういうことか。そう言えばハムモンが、ピラミッドは砂漠大陸を支配していた魔王が埋葬された墳墓だって言ってたもんな。
でも僕はヴラドじゃない。初めはゾンビだったし、ヴラドの記憶とかもないし、そもそも転生者だし。
「色々と状況は理解できたよ。でも、僕は間違いなく大魔王ヴラドじゃ無いんだ。申し訳ないけど」
「本当かしら? ヴラド様なら悪戯を仕掛けて来そうだけどぉ。でも、雰囲気がやっぱり別人みたい。疑ってごめんなさいねぇ……」
肩を落とし、顔に悲壮感が漂うヴィルマさん。
「ヴィルマさんは大魔王が復活すると思ってるみたいだね?」
「ええ、もちろんよぉ。だってヴラド様は【不死】持ちだものぉ」
なるほど、だからか。でも復活までそんなに時間がかかるなんて驚きだ。
ヴィルマさん、ちょっと可哀想だなぁ。もしかしたら、この100年間ヴラドが復活するのを待ってたのかも知れない。
「いやいや、待て。今年はヴラド様がお隠れになって100年という節目の年。そのタイミングでジンが生まれた。何かあるに違いないぞ! お主、本当にヴラド様ではないのか?!」
そう言うと、ぶつかりそうなほど近くまで顔を寄せ、ハムモンが僕の顔を覗き込んで来る。
顔ちかっ!
「ちょっとハムモン、私にも代わりなさい!」
そう言って、ヴィルマさんまで超至近距離に顔を寄せてくる。
まだ疑ってんのかい。
そして二人であちこちチェックしては、「似てる」とか「やっぱり違う」とか言ってる。
近い! 動物とか女性に近寄られるのは嫌じゃないけど、パーソナルスペースってものもあるんです。……ハムモンは動物じゃないか。
「お二方とも、もう宜しいのでは?」
デメテルがやや控えめにそう言うと、ハッと我に返り二人は席に戻った。
「すっ、すまぬ、ジン。不快な思いをさせてしまったな」
「私も謝罪するわぁ……」
「いやいや、大丈夫だよ! 二人とも100年待ってたんでしょ? それを思えばぜんっぜん大したことないよ!」
そう、せっかく100年待ってやっとヴラドの可能性がある者が生まれたのに、直ぐに違います、なんて認められないだろう。
ちょっと微妙な空気になったので話を変えよう。
「あ、そう言えば、ギルマスがなかなか冒険者証を持ってこないね」
「確かにそうですわ。ちょっと遅いですし、もう準備できているかも知れません。カウンターまで行ってみますか?」
「そだね。あとは帰るだけだし、皆で下に行こっか」
ハムモンとデメテル達が頷く。
ソファーから立ち上がり、ヴィルマさんに挨拶する。
「ヴィルマさん、今日は色々ありがとう」
「あらぁ、どういたしまして。それより、私を呼ぶときに『さん』はいらないわぁ。冒険者らしく呼び捨てになさい。それと、この国は色々と悪い噂を聞くわぁ。貴方は少し名を上げて今後目立つことになるから注意しなさい。あとは、そうね、吸血鬼っていう種族はクズが多くて嫌われ者なの。だから常に天敵の吸血鬼ハンターに狙われることになるわぁ。これから十分注意することねぇ。あとは──」
「おいおいヴィルマ、良い加減にせぬか。まるで子供に注意する口うるさい母親のようだぞ? わはははっ!」
「……………………あぁ? 私はまだそんな歳じゃないわよお!!!」
ヴィルマが顔を真っ赤にして怒鳴りながら、手にした杖を床にガンッと突き刺すと、ハムモンの足元に漆黒の闇が生じる。その闇から突如無数の青白い手が現れ、ハムモンの足をガシッと掴むと、恐ろしい力で奈落へと引きずり込もうとする。
魔法なのかな? リッチが使ってきた上級魔法の【深淵導穴】と違って効果範囲が狭く、何よりレイスの手みたいなのが出てきて禍々しい。
年齢に関係することは、少しでも口に出したらアウトなんだな。さっきは頭で考えただけで注意を受けたもん。
「やっ、やめよヴィルマ!!」
「ダメよぉ。貴方にはまだ話があるのぉ」
体が半分ほど引きずり込まれながら、手をばたつかせて叫ぶハムモン。ヤバそうな感じだけど、ハムモンなら大丈夫だろ。
「色々教えてくれてありがとう、ヴィルマ。また会おう」
「あらぁ、そうしましょう。またねぇ」
ひらひらと手を振るヴィルマ。その姿を見て、僕とデメテル達はさっさと部屋を出る。
後ろから悲鳴混じりの助けを求める声が聞こえる。
危険を顧みず他者を助けることも時には必要だが、君子危うきに近寄らずという言葉もある。今回は後者の言葉に従うことにしよう。
さようなら、ハムモン。君のことは忘れないよ!
冒険者ギルドのカウンターになぜか立っていたギルマスから冒険者証を受け取る。あと、ローザさんからリッチの討伐報酬ももらった。金貨10枚ずつ山分けだって。報酬のことなんて忘れてたからラッキー。
ギルマスから話を聞くと、比較的すぐ冒険者証はできていたそうだが、部屋が真っ暗になり外に冷気が漏れてきたので、危険と判断し部屋に入るのをやめたらしい。
懸命な判断だが、ギルマスとしてそれで良いのかは気になるところだ。
よし、やることはやったから、お酒と食料でも買って、村に戻ろうっと!
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