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第三章 樹海攻略 建国編
3 研究所を探します
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リッチからの戦利品は二つあって、一つはもちろん屍粉、もう一つはヤツが研究所の鍵と呼ぶものだった。
リッチがしていた研究を考えれば、研究所の中では口に出すのも憚られるような、悍ましい実験が行われていたのは間違いないだろう。
悪意に塗れた研究所なんて、僕達には用がない。だからわざわざ行く必要なんてない。でも心配な事もあって、そのまま放置してリッチの研究が他の誰かに奪われ、利用されてしまったら困るということだ。
悪用されてまた樹海の住民に危害を加えられたら堪ったもんじゃない。
そうだ、ぶっ壊そう。
先程まで話をしていたハムモンは、いつの間にか樹海の住民達に囲まれまたしても質問攻めに合っていた。ハムモンが大魔王のことを話し出したら、それに興味津々の人達がどんどん集まって来たのだ。
研究所の破壊を手伝ってもらおうかと思ったけど、ちょっと無理そうだな。ハムモンも自慢げに話を始めちゃったし。
まっ、破壊するだけなら上級魔法の【烈業火炎】や【落下彗星】を打ちまくればいける気がする。
それよりも、研究所の行き方が分かんない。
「サスケ、いる?」
「はっ、こちらに」
僕の前にスッと姿を表すサスケ。
いたわ。マジでどこに居たのか分からない。上鼠人に進化して、より一層忍者っぽさに磨きがかかったな。
そのうち忍者が着る黒装束みたいな服とか、小太刀なんかも装備して欲しいなあ。手裏剣を投げたり、巻物で忍術使ったりとかも、風情を演出する為には必要になってくるだろう。
それは今後の夢として、まずはやることをやろう。
「リッチの研究所に行きたいんだけど、アジトまでの道って覚えてるかな?」
「はい、勿論でございます」
「流石だね。悪いんだけど、そこに案内してもらえる? ヤツの研究所を破壊しておこうと思ってね」
「なるほど、ご英断かと。早速向かいますか? 二人っきりで!」
イケメンがキラキラした笑顔で僕に確認してくる。二人きりかどうかは重要じゃない。
「うん、そうしよう。初めに【転移】で転移魔法陣があったアジトまで行って、そこから本命のアジトへ向かう方が早いかな?」
「【転移】ですか……。そう……ですね」
先程までぴこぴこしていた耳も尻尾も、今はやや垂れ下がっている。【転移】が嫌いなのってサスケぐらいだよ。
「よし、じゃあ行こう!」
僕は指をパチンと鳴らして【転移】を発動し、サスケと共に転移魔法陣があったアジトまで移動した。
そこからサスケの案内でリッチのアジトまで移動した。
崖のふもとにある洞窟に入る。トンネル状になっている道を直進すると、右手の壁に部屋の入り口らしきものが見えてきた。その中からだろう、薬品と思われる匂いが漂ってくる。
部屋に入ると、縦長の木製机が短辺を接して二つ並べられており、上にはビーカーやフラスコのようなガラス製の容器が乱雑に置かれていた。中に得体の知れない液体が入っている。薬品の匂いの元はこれらしい。
ここが研究所、な訳ないよな。だとしたらこの鍵要らないし。
「別の所も探してみよっか」
僕はサスケにそう言うと、元の道に戻り洞窟をあちこち調べてみた。
しかし、洞窟の奥には巨大なフロアや小部屋などはいくつかあったが、研究所は見つからなかった。【罠検知】や【気配察知】に引っかかるものも無い。
「もしかして、研究所ってここには無いのかなぁ」
「そうかも知れません。私が聞いたリッチと妖精の会話の中にも、目ぼしい情報はありませんでした」
「そうだったよね。……妖精、妖精か。もしかしたらイルモが何か知ってたりするかな?」
「はっ! しまった……」
「ん?」
「そうですね、ただイルモはややお頭が弱いように見受けられますので、知らない可能性も──」
「復活した仲間の方は知ってるかも。ちょっと聞いてみよっか」
「たっ、確かに。承知しました……」
【念話】で聞いてみようかと思ったけど、イルモにどう接続すれば良いのか分からない。【念話】はネットワークみたいな仕組みなんだけど、使う前に経路を作る必要がある。
僕の眷属であるとはいえ、初めから経路がある訳では無いみたいだ。繋がりらしきものは感じられるんだけど。
止むを得ん、【眷属召喚】するか。
僕は新スキルを初めて発動する。
「【眷属召喚】!」
地面に白い光を放つ魔法陣に似た模様が生じ、その上に僕の眷属が姿を現す。
上手くできた!
そこにはしゃがんだ状態で尻を突き出し、力んだ表情を浮かべるイルモがいた。ズボンは下げているようだ。肌が露わになっている。
ふむ、トイレの最中だったか。アンデッドだろうが妖精だろうが、するものはする。それが事実なのだ。
「……うおわぁあ?!」
僕と目が合うと、少し間を空けて叫び声を上げ、勢いよくズボンを履いて立ち上がるイルモ。
「ど、どうなってんだこりゃあ?!」
「【眷属召喚】だよ、イルモ君」
「なにぃ?! じゃあここは?」
「リッチのアジトさ。君に聞きたいことがあってね」
「そんなら【念話】で……チッ、経路がねぇのか」
「そう、残念ながらね。それにほら、君はさっき『いつでも呼び出していい』なんて言ってただろう?」
「確かに。男に二言はねぇ。それに、仲間を復活してくれたアンタだ、構わないさ。あの後、二人は目を覚ましたぜ。生きているのが信じられないって、泣きながら笑ってたよ。二人に代わってこの場でお礼を言わせてくれ。ありがとう」
そう言って深く頭を下げるイルモ。
……くっ、いきなり真面目なことを言い出すとは。突然呼び出したら面白いかなぁなんて思ったこっちが恥ずかしくなるぞ。
まぁ、でも二人とも喜んでくれて良かったなぁ。
「そっか、良かったね。これから皆にはキリキリ働いてもらうから、覚悟してよ? なんて、そんなつもりは無いんだけど。じゃあ早速イルモ、これリッチから手に入れたものなんだけど、何か知ってるかな? 研究所の鍵らしいんだけど」
「なっ、なに?!」
「えっ?」
目玉が飛び出そうなほど目を見開き、鍵を凝視するイルモ。
「こりゃあ俺達が入るのを許されなかった、あの部屋の鍵かも知れねぇな。よし、ついて来てくれ!」
そう言うとイルモは、僕達を先程の薬品の匂いがする部屋へと連れて行った。
「この辺りを押すと──」
そう言いながらイルモが部屋の奥にある、色が周りと微妙に異なる壁の一部を手で押す。すると、ゴゴゴゴゴッという音がして石製の扉が開いた。前にピラミッドで見たやつと似てるな。
扉の先には奥へと続く道がある。その道を進むと、金属製の頑丈そうな扉が姿を現した。薄い紫色の光を帯びている。
「この扉には封印魔法が掛けられててな、鍵を持ってないと入れねぇんだ。さあ、その鍵で開けてみてくれ」
イルモの言葉に頷く僕。
鍵穴に鍵を差し込むと、回さずとも扉が開いた。
リッチがしていた研究を考えれば、研究所の中では口に出すのも憚られるような、悍ましい実験が行われていたのは間違いないだろう。
悪意に塗れた研究所なんて、僕達には用がない。だからわざわざ行く必要なんてない。でも心配な事もあって、そのまま放置してリッチの研究が他の誰かに奪われ、利用されてしまったら困るということだ。
悪用されてまた樹海の住民に危害を加えられたら堪ったもんじゃない。
そうだ、ぶっ壊そう。
先程まで話をしていたハムモンは、いつの間にか樹海の住民達に囲まれまたしても質問攻めに合っていた。ハムモンが大魔王のことを話し出したら、それに興味津々の人達がどんどん集まって来たのだ。
研究所の破壊を手伝ってもらおうかと思ったけど、ちょっと無理そうだな。ハムモンも自慢げに話を始めちゃったし。
まっ、破壊するだけなら上級魔法の【烈業火炎】や【落下彗星】を打ちまくればいける気がする。
それよりも、研究所の行き方が分かんない。
「サスケ、いる?」
「はっ、こちらに」
僕の前にスッと姿を表すサスケ。
いたわ。マジでどこに居たのか分からない。上鼠人に進化して、より一層忍者っぽさに磨きがかかったな。
そのうち忍者が着る黒装束みたいな服とか、小太刀なんかも装備して欲しいなあ。手裏剣を投げたり、巻物で忍術使ったりとかも、風情を演出する為には必要になってくるだろう。
それは今後の夢として、まずはやることをやろう。
「リッチの研究所に行きたいんだけど、アジトまでの道って覚えてるかな?」
「はい、勿論でございます」
「流石だね。悪いんだけど、そこに案内してもらえる? ヤツの研究所を破壊しておこうと思ってね」
「なるほど、ご英断かと。早速向かいますか? 二人っきりで!」
イケメンがキラキラした笑顔で僕に確認してくる。二人きりかどうかは重要じゃない。
「うん、そうしよう。初めに【転移】で転移魔法陣があったアジトまで行って、そこから本命のアジトへ向かう方が早いかな?」
「【転移】ですか……。そう……ですね」
先程までぴこぴこしていた耳も尻尾も、今はやや垂れ下がっている。【転移】が嫌いなのってサスケぐらいだよ。
「よし、じゃあ行こう!」
僕は指をパチンと鳴らして【転移】を発動し、サスケと共に転移魔法陣があったアジトまで移動した。
そこからサスケの案内でリッチのアジトまで移動した。
崖のふもとにある洞窟に入る。トンネル状になっている道を直進すると、右手の壁に部屋の入り口らしきものが見えてきた。その中からだろう、薬品と思われる匂いが漂ってくる。
部屋に入ると、縦長の木製机が短辺を接して二つ並べられており、上にはビーカーやフラスコのようなガラス製の容器が乱雑に置かれていた。中に得体の知れない液体が入っている。薬品の匂いの元はこれらしい。
ここが研究所、な訳ないよな。だとしたらこの鍵要らないし。
「別の所も探してみよっか」
僕はサスケにそう言うと、元の道に戻り洞窟をあちこち調べてみた。
しかし、洞窟の奥には巨大なフロアや小部屋などはいくつかあったが、研究所は見つからなかった。【罠検知】や【気配察知】に引っかかるものも無い。
「もしかして、研究所ってここには無いのかなぁ」
「そうかも知れません。私が聞いたリッチと妖精の会話の中にも、目ぼしい情報はありませんでした」
「そうだったよね。……妖精、妖精か。もしかしたらイルモが何か知ってたりするかな?」
「はっ! しまった……」
「ん?」
「そうですね、ただイルモはややお頭が弱いように見受けられますので、知らない可能性も──」
「復活した仲間の方は知ってるかも。ちょっと聞いてみよっか」
「たっ、確かに。承知しました……」
【念話】で聞いてみようかと思ったけど、イルモにどう接続すれば良いのか分からない。【念話】はネットワークみたいな仕組みなんだけど、使う前に経路を作る必要がある。
僕の眷属であるとはいえ、初めから経路がある訳では無いみたいだ。繋がりらしきものは感じられるんだけど。
止むを得ん、【眷属召喚】するか。
僕は新スキルを初めて発動する。
「【眷属召喚】!」
地面に白い光を放つ魔法陣に似た模様が生じ、その上に僕の眷属が姿を現す。
上手くできた!
そこにはしゃがんだ状態で尻を突き出し、力んだ表情を浮かべるイルモがいた。ズボンは下げているようだ。肌が露わになっている。
ふむ、トイレの最中だったか。アンデッドだろうが妖精だろうが、するものはする。それが事実なのだ。
「……うおわぁあ?!」
僕と目が合うと、少し間を空けて叫び声を上げ、勢いよくズボンを履いて立ち上がるイルモ。
「ど、どうなってんだこりゃあ?!」
「【眷属召喚】だよ、イルモ君」
「なにぃ?! じゃあここは?」
「リッチのアジトさ。君に聞きたいことがあってね」
「そんなら【念話】で……チッ、経路がねぇのか」
「そう、残念ながらね。それにほら、君はさっき『いつでも呼び出していい』なんて言ってただろう?」
「確かに。男に二言はねぇ。それに、仲間を復活してくれたアンタだ、構わないさ。あの後、二人は目を覚ましたぜ。生きているのが信じられないって、泣きながら笑ってたよ。二人に代わってこの場でお礼を言わせてくれ。ありがとう」
そう言って深く頭を下げるイルモ。
……くっ、いきなり真面目なことを言い出すとは。突然呼び出したら面白いかなぁなんて思ったこっちが恥ずかしくなるぞ。
まぁ、でも二人とも喜んでくれて良かったなぁ。
「そっか、良かったね。これから皆にはキリキリ働いてもらうから、覚悟してよ? なんて、そんなつもりは無いんだけど。じゃあ早速イルモ、これリッチから手に入れたものなんだけど、何か知ってるかな? 研究所の鍵らしいんだけど」
「なっ、なに?!」
「えっ?」
目玉が飛び出そうなほど目を見開き、鍵を凝視するイルモ。
「こりゃあ俺達が入るのを許されなかった、あの部屋の鍵かも知れねぇな。よし、ついて来てくれ!」
そう言うとイルモは、僕達を先程の薬品の匂いがする部屋へと連れて行った。
「この辺りを押すと──」
そう言いながらイルモが部屋の奥にある、色が周りと微妙に異なる壁の一部を手で押す。すると、ゴゴゴゴゴッという音がして石製の扉が開いた。前にピラミッドで見たやつと似てるな。
扉の先には奥へと続く道がある。その道を進むと、金属製の頑丈そうな扉が姿を現した。薄い紫色の光を帯びている。
「この扉には封印魔法が掛けられててな、鍵を持ってないと入れねぇんだ。さあ、その鍵で開けてみてくれ」
イルモの言葉に頷く僕。
鍵穴に鍵を差し込むと、回さずとも扉が開いた。
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