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第三章 樹海攻略 建国編

2 大魔王

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「お主、先程の【眷属化】もそうだが、ピラミッドを出てから大して時間が立ってはおらぬのに、随分と滅茶苦茶なことをしてきたようだなぁ」

 これまでほとんど喋らずに僕のやることを見守っていたハムモンが、しみじみと話しかけてくる。

「えっ、そう?」
「先程の【眷属化】からしておかしいぞ? 生前の魂をそのまま宿した状態でアンデッド化するなど死者蘇生のようではないか。それに屍粉ゾンビパウダーなどと言う悪意に満ちた物を堂々と復活の素材に使うとは。まぁ、お主ならその程度のことは分かってやっていたのだろうがな」

 バレてた。

 屍粉ゾンビパウダーはリッチの悪意が生んだような物だし、一刻も早くこの世から無くなった方が良い気がする。

 ただ【眷属化】と一緒に使ったらどうなるんだろうっていう好奇心が、ほんの少しだけ芽生えちゃった。でも、ほとんどはイルモの仲間が復活したら嬉しいという想いだ。ホントだよ?

 これ以外にも、確かに色々やらかしてきたかも知れないけど、全てが全て確信犯ではないのだ。

「自重した方が良いのかなぁ?」
「いや、そのままで良かろう。誰に遠慮をする必要があるのだ?」

 あっ、良いんだ。怒られたかと思った。

「確かにその必要は無いかな。んじゃ、これまで通り伸び伸びやるよ!」
「うむ、お主はそれで良い。それよりも、先程からお主が誰かに似ておるなと考えていたのだが、それが誰か分かったのだ」
「へぇ、誰?」
「我が主であり、ピラミッドのある砂漠大陸の支配者であった大魔王ヴラド様よ。この樹海も、以前はヴラド様が庇護下に置いていたのだ」
「ふーん、そうなんだ。でも、大魔王と僕じゃあ似てるところなんて無さそうだけど」
「ふむ、確かに立場は違うだろうが、面白がって魔物にやたらと【名付け】したり、【眷属化】していた所などはやはり似ている。ヴラド様はご自身の魔素が減って死にかけようが、お構いなしといった感じだったな」

 ……ああ、そういう人もやっぱりいるんだねぇ。【名付け】に関してはリッチですら引いてたぐらいだから、あんまりやる人いないのかなとは思ってたけど。

 まぁ僕は面白がってはないけど。なんかいつの間にかそういうことになってただけ!

「そう言えばお主、また種族進化して吸血鬼ヴァンパイアになったのだろう? ヴラド様も吸血鬼ヴァンパイアだから、その点も似ておるな」
「え、そうなの?」
「うむ。吸血鬼ヴァンパイアには階級があってな? ヴラド様は真祖であり、当時いた吸血鬼ヴァンパイア、いや魔族全体の中で最も強力な存在だったのだ。真祖の吸血鬼トゥルーヴァンパイア、竜公ヴラディスラウス・ドラクルこそ我が王よ!」
「おおっ!」

 ドーンって効果音でもなるようなノリで、ハムモンが胸を反って言うもんだから、なんかつられて「おおっ!」て言っちゃった。僕だけじゃなくて、いつの間にかハムモンの周りに集まって話を聞いていた者達も感嘆の声をもらしている。

 そういえば、魔族って何だろう? ハムモンに聞いたらそんなことも知らないのかと思われるかな。よし、困ったときはトトに聞こう。

(トト、魔族って何か教えてくれる? 魔物と何か違うの?)
《はい。魔素をエネルギーとする生物は、大きく魔族と魔物に分類されています。文化や文明をもつ民族は魔族と呼ばれ、それ以外の生き物は魔物と呼ばれます》
(なるほど、ありがと!)

 しかし、真祖の吸血鬼トゥルーヴァンパイアとか、かっこええ。真祖って言うぐらいだから、始まりの吸血鬼ヴァンパイア的な存在でしょ? 強いに決まってるよなぁ。

 僕も吸血鬼ヴァンパイアではあるけど、始まりの吸血鬼ヴァンパイアにはなれる訳ないもんな。だって明らかに始まりの存在じゃないし。

「お主もいずれは真祖にまで進化しそうよな」
「ん、ええっ?! 真祖って、なれるもんなの?!」
「ふむ。吸血鬼ヴァンパイアの進化の系譜の先に存在するはずだぞ。ヴラド様はドラゴンを屠りまくっていたら進化して真祖になったそうだ。その時はドラゴンの態度が気に障ったらしくてな、危うく滅ぼしかけたと言っていたぞ」

 うわぁ……怖えぇ。それで竜公なのかなぁ。

「何にせよ、吸血鬼ヴァンパイアは強いぞ。吸血鬼ヴァンパイアこそがアンデッドの王たる存在。ゆえに、配下を生み出すスキルが充実しておるのだ。【眷属化】もそうだが、お主【隷属化】も持っているだろう?」

 確かに確認してみたら、【隷属化】ってスキル持ってるね。

「うん、持ってるな」
「それは死者を隷属させるスキルでな? 敵を倒したそばからアンデッドに変えて自分の配下にできるのだ。それなりの魔素を消費するだろうが、強力なスキルなのは言うまでもあるまい」
「確かに、何かえぐいスキルだな……」

 【隷属化】って考えてみると、不死者の杖の効果と似てるなぁ。杖の場合は【収納】に入れると、アンデッド達に与えた魔素が全部戻ってきちゃうからアンデッド達が動けなくなる。スキルであればオフとかにしない限りそんなことにはならなそうだな。

「我が昔所属していた軍は不死の軍勢イモータルズなどと呼ばれていたが、【隷属化】で生み出した兵がその大半を締めていてな。倒れてもスキルで復活できるというカラクリがあったのだ。まあ、呼び名の由来はそれだけではないがな」

 ハムモンは不死の軍勢イモータルズの大将だったんだよな確か。軍のトップってマジでお偉いさんじゃん。まだ戦うところとか見たことないけど、ハムモン自身も相当強いんだろうなぁ。


 それはそうと、ハムモンの話を聞きに集まってきてる人の数がすごい。樹海の住民達がいつの間にか僕らを取り囲んでいる。

 なんか前世で言う芸能人っていうか、アイドルみたいな? ハムモンを見るみんなの目がキラキラしちゃってるんだよね。

 実は昨日の戦勝会でもそうだった。

 初めは恐れ多いといった態度で、挨拶はするものの皆あまり近寄らなかったけど、鼠人ウェアラット達がハムモンと親しげに話しているを見て羨ましそうにしてた。しばらくして自分達もいけると思ったらしく、勇気を出して話しかけ始めたのだ。

 実は、鼠人ウェアラット達はハムモンに対して恐怖心があったようで、よく見ると手足が震えてた。でもハムモンの方はいつも通り気さくに話をするから、遠くで見ていた彼らはそれに気付いて無かった。

 そもそも樹海の住民達は、なぜか大魔王やハムモンとその仲間についてかなり詳しい。どこどこの戦いでは誰が活躍したとかいう硬派な話から、大魔王と婚姻関係にあったのは誰だったなどというゴシップネタにまで詳しく、ハムモンに事実を確認しようと質問攻めにしていた。

 その様子を僕の近くで見ていたサスケは、

「恐れ知らずとは正にこのことですね」

 などと、冷や汗をかいていた。

 デメテル達はと言えば、硬派なネタもゴシップネタも大好物なようで、いつの間にかハムモンの近くに陣取り満足げに話を聞いていた。


 そう言えば、その戦勝会でデメテルとか樹海の住民の代表達から配下にして欲しいなんて言われちゃったんだよね。それに加えて、樹海の住民達からは【名付け】して欲しいとかも。

 みんな、大量に用意したお酒を浴びるように飲んでたから、酔ってることを理由にやんわり断ったんだけど、本気だったらどうしたもんかなぁ。

 リッチとの戦に勝ったのは本当に喜ばしいけど、戦の為にでき上がったこの協力体制、戦時体制とでも言うべきものを、今後どうして行けば良いんだろう。

 ハムモンは皆で暮らせる街を作れば良いっていうアドバイスをくれたけど、そうなると色々考えなきゃいけないことが沢山出てくるよなぁ。

 まあそれはおいおい考えていくかぁ。
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