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第三章 樹海攻略 建国編

1 眷属化

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 リッチとの戦いに勝利し、それを祝う戦勝会を仲間達で楽しんで一夜が明けた。朝、会う人会う人の顔には一様に喜びが溢れていた。

 でも喜んでばかりもいられない。ゾンビ化進行中の人達がいるから、早くなんとかしてあげないと。

 確かサスケ達が助けた樹海の住人達の村に何名かいるのと、昨日のリッチとの戦いで捕らえた者達が何名かいたな。

 戦勝会の席で僕の眷属になった馬人達と少し話をしたんだけど、ゾンビ化進行中でもうっすら意識があって、周りの声も多少聞こえていたらしい。ただ、体が言うことを聞かず、仲間達を攻撃してしまうのが心苦しかったとのこと。

 うん、確かにそれはきつい……。

 ただ、うっすらでも意識が残っているのは悪くない面もあるかも。

 僕がゾンビ化進行中の人のところに突然現れて、「ねえ君、僕の眷属にならない?」なんて言っても不審に思われるはずだ。

 でも事前に目的をしっかり説明しつつ、その人の仲間と僕が一緒にいるのを見てもらえれば、僕の不審者感が下がるかもしれない。そこで眷属になるのを選ぶかどうかはその人次第だよね。


 と言うことで、皆に協力してもらい眷属化を進めることにした。

 初めに、豚人オーク小鬼ゴブリン大鬼オーガの村へそれぞれの種族の代表と共に向かう。ハムモンも一緒に行きたいと言うので連れて行く。

 村の牢で捕らえられ苦しそうにしているゾンビ化進行中の人達に、こちらの話が通じることを祈りながら事情を説明し、【眷属化】を使用して回った。

 その後、樹人トレントに【樹術】スキルで捕らえてもらっていた人達も、鼠人ウェアラットの野営地にある僕のテントの前に連れてきて、同じように事情を説明して【眷属化】を使用していった。こちらには、豚人オーク小鬼ゴブリン大鬼オーガに加えて、樹人トレント森狼フォレストウルフも含まれていた。

 結果から言うと全員が眷属化に応じてくれたんだけど、一つ誤算というか想定外のことが起きた。眷属になった人達の何人かが種族進化しちゃった。

 【眷属化】も【使役】とかと同じで契約なんだけど、その際にいくらか魔素を渡してる。【使役】よりも多いけど【名付け】よりも全然少ない感じ。それで強力なアンデッドに種族変化させるスキルなんだけど、進化までしちゃう場合もあるみたいだ。

 自分の部下だった小鬼ゴブリン剛小鬼ホブゴブリンに進化したのを見た小鬼ゴブリン族の代表が言う。

「な、なんと、我らの仲間からあの剛小鬼ホブゴブリンが生まれるなんて、信じられません……」
「そうなんだ。もしかして珍しいの?」
「はい。樹海の小鬼ゴブリンは進化する前に寿命を迎えるか、樹海の魔物の餌になるか、そのどちらかと相場が決まっておりますので……」

 そう言うと、小鬼ゴブリン族の代表は僕の方をチラチラ見ながら、

「もしかして、私も剛小鬼ホブゴブリンに進化できるのでしょうか……?」

 と聞いてくる。

 え、それは分からないし、君も眷属になりたいの……?

 すると森狼フォレストウルフの代表が、

「きっ、貴様ぁ! また抜け駆けしおって、許さんぞぉ!」

 と小鬼ゴブリンの代表に怒鳴る。それを皮切りに、他の種族からも「ふざけるな!」、「ずるいぞ貴様!」、「俺だって進化したいぞ!」といった声が聞こえてくる。最後、欲望がダダ漏れしてたな。

 【眷属化】って多少強くなるかもだけど進化出来るかも分からんし、アンデッドになっちゃうからデメリットの方が大きい気がするけどなぁ。まぁ強さを重視する人達にとってはそこら辺気にならないのかね?

 言い合いをしている様子を眺めながらそんなことを考えていると、羽音と共に何かの気配が近づいてくる。

「なっ、なぁ、あんた。あんたの力を見込んで、一つ頼みがあるんだが──」

 気配の主がおずおずと僕に向かって声を掛ける。が、それを聞きつけた別の気配が猛スピードで飛んできて、声の主を拳骨で殴りつけた。

「痛ってぇ! 何すんだ、親父?!」
「この大馬鹿者っ! なんだその口の聞き方は! こちらにおわす御方をどなたと心得る? お前だけじゃない、この樹海の住民全てを救って下さった大親分、ジン様にあらせられるぞ!」

 お、大親分? 反社会的な組織のトップにしか聞こえないけど、誰のことですか……? あと印籠とか出てきそうな紹介の仕方も気になるよ?

「ジン様、大変失礼いたしました。この大馬鹿者は昨日ゾンビ化から救っていただいた愚息のイルモでございます。ここまで元気になりましたのも全てジン様のおかげです。本当にありがとうございます」

 妖精族の代表アーロがお礼の言葉を述べ、深々と頭を下げた。それを見たイルモも慌てて頭を下げる。

「ああ、無事で良かったね。なんか眷属になっちゃってるかも知れないけど、僕の眷属だとか思わないで良いから安心してね!」
「えっ、そうなのか? あっ、いや、そう……なんですか?」

 アーロの鬼の形相を見たイルモが慌てて言い直す。

「うん。皆にもそう伝えてるよ。これまでと同じように生活してくれると僕としても嬉しいな。それはそうと、さっき頼みがあるって言ってたけど何のこと?」
「そ、そうだ! あんた、い、いや、ジン様が俺の仲間達の遺体を保管してくれてるんだろ? だから、ジン様の力で生き返らせてもらえないかと思ってさ。あいつらは妖精の里を出て、堕落してまで俺のわがままに付き合ってくれた大事な仲間なんだ。だからどうか、お願いできないだろうか。その代わりと言っては何だが、俺はジン様に心から忠誠を誓う。いつでも【眷属召喚】で呼び出してコキ使ってもらって構わない」

 そう言って、真剣な面持ちで頼み込むイルモ。
 イルモの言葉を我慢して最後まで聞いていたが、今や怒りに震えて拳骨を振り下ろそうとしているアーロ。

「お前は何度言ったらその言葉遣いが直るんだ、この大馬鹿者!」
「待って! あっ、間に合わなかった……。言葉遣いはそのままで良いからさ! それよりも、生き返らせるってどう言うことかな? 僕はそんなことできないよ?」

 いくつか分からないことがあったが、まずは生き返らせるっていう件について、テニスボール大のたんこぶができた頭を押さえるイルモに僕が聞いてみる。

 アーロの方は「すみません……」と消え入るような声を発して頭を下げている。親父さん、苦労してますなぁ……。

「痛ってぇ……。生き返らせるってのは、屍粉ゾンビパウダーでゾンビ化進行中にして、その後に【眷属化】すれば俺みたいになるってこと。ジン様なら出来るだろ?」

 あ、確かに。出来そうだな。面白そう。

「確かに出来そうだね。やってみよう!」
「そんなに快く?! なんて漢だ。よろしく頼む!」

 イルモの言葉に僕はニヤリと頷くと、早速【収納】から二人の妖精の遺体を取り出す。遺体を包んでいた魔術師のローブを地面に敷き、その上にそっと遺体を置く。

 それを見るや肩を落とし視線を下げるイルモ。責任でも感じてるのかな。

 僕は更に【収納】を開き、リッチから奪った屍粉ゾンビパウダーの瓶を取り出す。蓋を開け、粉をつまんで遺体にふりかけた。

 遺体はすぐに反応を示した。

 一度ビクッ!っと動くと、続けて細かい痙攣がはじまった。

 うわぁ、苦しそう。

「どうやらうまくいきそうだ。イルモ、二人を拘束してくれないか?」
「おう、任せろ! ……【鎖蔓チェインヴァイン】!」

 イルモがスキルを発動すると、地面から蔓系の植物が芽を出し、一気に成長して二人を縛った。二人は拘束から抜け出そうともがくが、両腕と羽を一緒に縛られていて難しいようだ。

 へぇ、便利そうなスキルだ。アーロ達がイルモを拘束していたのもこれかな?

 さて、二人を鑑定してみると、

【種族:屍堕妖精(屍化進行中)。屍粉ゾンビパウダーの効果でゾンビ化が進行している。完全なゾンビ化には同族の血肉が必要】

 だって。準備OKって感じだな。

 ここからはさっきと同じ要領で、事情を説明し【眷属化】を使用する。

 その間、イルモが二人に「お前ら、ジン様を信じろ! 分かったな!」とか「絶対助かるぞ!」とか声を掛けてる。

 何か基本的に良いやつだね、この子。あっ、見た目とか言動は子供だけど、妖精だから長生きで僕より年上の可能性あるか。

 そんなことを思っていたら、二人とも眷属化に応じるんだって。

 二人の痙攣が徐々に治まり、傷ついた体が修復されていく。しかし、まだ目を覚まさないようだ。

 イルモは目に涙を浮かべ、僕に向かって「ありがとう!」と言うと、すぐに二人の元に駆け寄った。拘束を解き、他の妖精達と協力して二人を彼らの居住地に運んでいく。

 いやあ、良かった良かった。

 でも屍粉ゾンビパウダーってやっぱりヤバい代物だよね。リッチが使ってたように、死者をゾンビ化して自分の手下にするのが本来の使い方なんだろうけど、今回みたいに使い方次第では死者蘇生まがいのことまでできちゃうぞ……。

 まあ本当の蘇生とアンデッドとしての復活じゃあ、意味合いが全然違うと思うけど。アンデッドって魔物だし、特に人から魔物になったら大変だよね、きっと。


 そういえば、イルモが【眷属召喚】って話をしてたな。

 確かに自分のスキルを確認してみると、あるんだよね【眷属召喚】。本当にできるのかな?

 イルモがして良いって言ってたからしてみようかな? なぁんて、流石に今呼び出すほど空気が読めない僕じゃないです。

 面白そうだし、今度突然呼び出してみよーっと!
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