上 下
25 / 25

25. 王国を守るために

しおりを挟む
 ウォーマス帝国が進軍してきたという知らせを聞いた僕は、すぐに防衛戦のための準備を始めた。
 国王は僕達を最前線に出すつもりは無いようだから、直接戦うことは無いだろう。

 しかし準備を疎かにすれば、痛い目に遭う。
 だから魔法が使えない時に備えて剣を磨いていく。

 冒険者だったときは毎日していたことだから、これくらいはすぐに終わる。
 問題はソフィアが武器を持っていないことだ。

「武器が無いなら、戦場には行かない方が良い」

「私ひとりで待っているのは嫌なの。
 だから……急いで作ってもらってみるわ」

「間に合わなかったら、僕の予備を貸すよ」

 武器というのは、その人の体格に合わせて作られることが多い。
 安い汎用品も売られているけど、Bランク以上の冒険者で汎用品を使っている人は居なかった。

 それくらい、自分に合わせて作ってもらう武器というのは大切だ。
 少し前に汎用品で魔物と戦ったことはあるけど、普段の武器の方が何倍も戦いやすかった。

 幸いにも僕の剣はパーティーを追い出された時に奪われずに済んだから、こうして持ってくることが出来ている。
 流石に罪の疑いで拘束された時は没収されたけど、そのあとにちゃんと返してもらった。

 流石の帝国も、そこまでの人でなしではないんだよね。

「予備もあるのね。
 でも、私に扱えるかしら?」

「これと全く同じだから、外で振ってみていいよ」

 そう口にして剣を手渡すと、ソフィアは危うく落としそうになっていた。
 鞘に入れたまま渡して正解だったようだ。

「剣ってこんなに重いのね……」

「僕の体格に合わせているから、仕方ないよ」

「そんなに力持ちに見えないのに、力持ちなのね」

「それって褒めてる? それとも馬鹿にしてる?」

「褒めているに決まっているじゃない。
 どんな鍛え方をすれば、体格を変えずに力を付けられるのかしら?」

 これは僕だけに限った話ではないんだけど、身体が出せる力は魔物を倒せば倒すだけ強くなると言われている。
 だから冒険者はひたすら強い魔物を倒すことを目指して鍛錬する。

 強い魔物ほど、倒した時に得られる力が大きくなるからだ。
 魔力もまた、魔物を倒すことで増やすことが出来る。

 けれど、その成長具合には個人差があって、当然のように限界だって存在している。

 複数人で倒した時は誰に力が入るのかよく分かっていない。

 倒した人だけに入る説。
 倒した人と家族に入る説。
 倒した人と倒した人の恋人に入る説。
 戦いに参加した全員に入る説。

 色々言われているけど、僕の予想は少し違う。
倒した人が戦っていた時に仲間と考えている人に均等に入っている気がするんだ。

理由は簡単で、ある日から突然僕だけ力が伸びなくなったからだ。
一人で魔物を倒した時は力が増えていたから、成長が頭打ちになったわけでは無い。

 ただ、冒険者パーティーのメンバーから仲間だと思われなくなった。それだけだ。
 その日から、僕は元仲間の二人に力を抜かれ、残りの一人には魔力量を抜かれた。

 ……思い出したら悲しくなりそうだ。

「……そういうわけだから、僕が魔物を倒せばソフィアの力にもなるはずだよ。
 一緒に行動しているという前提ではあるけど」

「私も仲間だと思っているから、一緒に成長できるということで良いのかしら?」

「うん、そうなるね。
農業の勉強をしに行くんだから、魔物を倒すことになるとは思えないけど」

「そうだったわ……。
 でも、お父さんから言われているの。
 魔物とは必ず、場合によっては人と戦うことになるって……」

 そう口にするソフィアは不安そうな表情を浮かべている。
 これから戦争になるかもしれない事では物怖じしていなかったのに、町の中で襲われることを考えたら心配になっているらしい。

 デザイア王国で暮らしていたら、街中で襲われる事なんて想像出来ないのだろう。

「帝国もそうだったけど、デザイア王国みたいに全員で協力するような事は無いから、油断していると襲われることだってある。
 その時は、相手を斬っても正当防衛で済まされるから、戦うしか選択肢が無いんだよ」

「他国って恐ろしいのね……」

「デザイア王国が特別なんだよ。
 ここは本当に過ごしやすくて気に入っているよ」

 僕は冒険者として、ウォーマス帝国以外で活動していた時もある。
 だから他国の事情も少しは知っているつもりだけど、どの国でも街中は安全ではなかった。

 唯一安全とされているホテルの部屋の中であっても、鍵を壊される事もあるらしく、寝るときは必ずドアと窓を凍り付かせていた。
 
 デザイア王国で他人を襲う人が居ないのは、そうするだけの余裕が無いからだと思うけど、皆仲がいいから、生活に余裕が出来ても変わらないと思う。
 でも、ウォーマス帝国に攻め込まれて占領地になったら、どうなるか分からない。

「うれしいわ。ありがとう。
 武器はここで作ってもらっているから、進捗を聞いてみるわね」

 そう口にしたソフィアが入っていった部屋は、いかにも鍛冶屋としか言えない様相を呈していた。
 質素な印象の王家だけど、こういったところは手を抜いていないらしく、専属の鍛冶職人の姿がある。

「今日はディルクさんなのね。
 私の剣、進捗はどうかしら?」

「陛下に言われて大急ぎで進めたので、あと一時間くらいで完成しますよ」

「分かったわ。ありがとう」

 短いやり取りを終え、扉を閉めるソフィア。
 それから二階に戻ると、廊下の窓の外が真っ白に染まっているところが目に入った。

 どうやら、少し早めの砂嵐が訪れたらしい。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

流 海月
2024.07.06 流 海月
ネタバレ含む
水空 葵
2024.07.08 水空 葵

コメントありがとうございます。
本業が落ち着き次第、連載再開しようと思っていますので、それまでお待ち頂けると幸いです。

解除
梅ちゃん
2024.05.28 梅ちゃん
ネタバレ含む
水空 葵
2024.05.28 水空 葵

感想ありがとうございます。

手間を考えたらその通りですが、麦などでも土中水分が抜ける状態になると水やりは必須なのです。

そして、現実世界ではネリカという品種の米がアフリカでの栽培に成功していますので、灌漑さえ整えれば米栽培も可能になるようです。

解除
キンドル・ファイバー
ネタバレ含む
水空 葵
2024.05.28 水空 葵

感想ありがとうございます。

感想に強い作物といえばその辺りが有名ですけれど、ネリカという品種がアフリカ向けに存在しているので、現実でも米栽培は可能なようです。

帝国視点も10話に1回は挟もうと思っていますので、楽しみにしていただけると幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

レベル9999の転生魔導士~世界最強の俺、辺境でひっそりとスローライフを送る~

未来人A
ファンタジー
主人公ライズ・プライスは転生者だ。 魔王打倒の目標をかかげ、実力を磨いて15年の時をライズは過ごした。 異世界生活にあこがれを持っていたライズに取って、充実した毎日だったが、ある日、神を名乗る存在に転生特典を上げ忘れていたと、言われレベルを9999に上げられてしまう。 チートには興味がなく、努力して実力を掴み取りたかったライズは、元に戻せと憤慨するが、神は無理だと良い去っていく。 レベル9999になったライズの力は凄まじく、全ての敵を一撃で倒していく。 魔王も例外ではなく、瞬殺する。 長年目標としてことがあっさり叶ってしまい、さらにこれ以上強くなりようがないと気づいたライズは、戦う気を失くした。 人がほとんど来ないような辺境の湖の近くに家を建て、のんびり釣りをしながら暮らすと決意をする。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします! 6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします! 間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。 グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。 グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。 書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。 一例 チーム『スペクター』       ↓    チーム『マサムネ』 ※イラスト頂きました。夕凪様より。 http://15452.mitemin.net/i192768/

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。