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24. 帝国が攻めてきたらしい
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道を作り始めてから三日が経った。
肥料を作る場所は昨日のうちに完成させていて、これから排水などを流すための下水を作る案が出たところだ。
しかし、国王は僕達には手を出さないで欲しいと言ってきたから、デザイア王国の人達に任せることしか出来ない。
「なぜ僕達には関わるなとおっしゃるのですか?」
「レイン殿に任せたら、確かに一気に王都が便利になる。
しかし、命に関わる水道を自分たちで整備出来ないのは問題だ。
だから国民自らの手で作らせたい」
「なるほど、そういうことでしたら僕達は手出ししません。
しかし、水田のことも皆に任せた今、僕の役目はどこにあると言うのでしょうか?」
「農業はコメだけだとは思っていない。
家畜を育てて肉を手に入れることも、ムギや野菜を育てることも農業だろう。
ソフィアから聞いたが、レイン殿はコメ以外の作り方を知らないそうだ」
「はい、その通りですが……」
僕がここまでコメしか作ってこなかったのは、コメ以外の作り方を知らないからだ。
でも、この空気からは不穏なものを感じてしまう。
農業の基盤を作った今になって追い出されるということは考えたくないよね……。
「そこで、だ。野菜の生産が盛んなファームスア公国で他の作物についても学んできてもらいたい。
一人でとは言わぬ。ソフィアも一緒に、だ」
「えっ?」
国王の言葉を聞いて、素っ頓狂な声を漏らすソフィア。
彼女もこの場で初めて聞くことらしく、困惑している様子が見て取れる。
ちなみに、ファームスア公国とウォーマス帝国は政治的な理由から対立しており、国交は殆ど無い。
そんな国にウォーマス帝国出身の僕が行っても大丈夫なのか心配だ。
「レイン殿の素性は既に公国に伝えているが、問題無いとの返答を得ている。
だから安心して行ってきて欲しい」
「分かりました。色々な作物の知識を学んで参ります」
「レインが行くなら……私も行くわ」
もっとも、ソフィアの父の方が上手だったようで、僕の心配は杞憂に終わった。
この国の開拓にはコメだけでは足りないことは感じていたから、この機会に農業の知識をすべて吸収するつもりでファームスア公国に行くことに決めた。
「よし、話はまとまったな。
公国には返答の手紙を出しておこう」
「分かりました」
そうして無事に話し合いが終わったころ、何やら玄関の方が騒がしくなってきた。
気になって廊下に出てみると、ソフィアの父を呼ぶ声が響いている。
「何かあったみたいだね」
「……すごく、嫌な予感がするわ」
「戦争とかじゃないと良いけど、心配だね」
物々しい空気を感じ取り、国王が大急ぎで階段を下りて玄関に走っていく。
気が気でない僕達も後を追い、騒ぎになっている玄関へと駆け付けた。
「大変です! ウォーマス帝国から大軍が攻めてきています!」
「なんだと……」
「原因は分かるっていますの?」
「密偵からの報告では、水道の水枯れの原因が我が国の責任にされていると。
実際は水の使い過ぎが原因のようですが……」
「この水田を見られたら、全面戦争になるだろう。
遊牧民を戻せ! 王都が見えない場所で防衛する!」
帝国が水を使いすぎていたことは事実だ。そして、僕が水道開発に使った水脈は帝国の水道の源とは違うものを使っている。
素直に助けを求めてきていたら助けることも考えたけど、すぐに他人のせいにする国に慈悲は無い。
その気になれば帝国の水道の源を完全に絶つことだって出来るから、王都近くまで入り込まれたら、その時は手を出そうと思う。
「僕も防衛に参加しますよ」
「敵は一応、レイン殿の同胞だ。戦闘になれば相手を殺めることになるが、大丈夫なのか?」
「はい。同胞でも、恨みがありますから」
家族には恨みが無いから殺めるつもりは無い。
でも、家族と戦うことになる心配は不要だ。
帝国は権力者なら必ず守られる。男爵家という貴族の中での底辺であっても。
そして、最初に出兵させられるのは、何かしらの罪を犯した罪人だ。
その次は、帝都に暮らす人々が兵役に駆られる。
僕の実家の領地で暮らしている人のように農業に関わっている人は、兵糧に関わるから絶対に出兵させられることは無い。
だから元冒険者仲間と戦うことはあっても、それ以外の知り合いと戦うことはあり得ない。
冒険者になる前もなった後も親しくしてくれた人々に手を出さなくて済むなら、それ以上に親しくしてくれている王国の人を守るために剣を握るだけだ。
「私も参加するわ」
「ソフィアは参加しないでくれ。あの魔法を使われたら、国が滅びる」
「そうよね……。
悔しいけれど、私はみんなを応援する側で我慢するわ」
「僕の水魔法と組み合わせたら、反撃は出来ると思いますよ?
こんな感じで、少しだけ穴を空ければ……この向きにだけ火が向かいますから」
「では、勝てないと判断したら使うことにしよう。
我が国の民はほとんどが攻撃魔法を扱えるから、負け戦になることは無いだろうが」
そう口にする国王は、自信に満ちた表情を浮かべている。
もしかしたら、僕が出る幕は無いかもしれない。そんな気がした。
肥料を作る場所は昨日のうちに完成させていて、これから排水などを流すための下水を作る案が出たところだ。
しかし、国王は僕達には手を出さないで欲しいと言ってきたから、デザイア王国の人達に任せることしか出来ない。
「なぜ僕達には関わるなとおっしゃるのですか?」
「レイン殿に任せたら、確かに一気に王都が便利になる。
しかし、命に関わる水道を自分たちで整備出来ないのは問題だ。
だから国民自らの手で作らせたい」
「なるほど、そういうことでしたら僕達は手出ししません。
しかし、水田のことも皆に任せた今、僕の役目はどこにあると言うのでしょうか?」
「農業はコメだけだとは思っていない。
家畜を育てて肉を手に入れることも、ムギや野菜を育てることも農業だろう。
ソフィアから聞いたが、レイン殿はコメ以外の作り方を知らないそうだ」
「はい、その通りですが……」
僕がここまでコメしか作ってこなかったのは、コメ以外の作り方を知らないからだ。
でも、この空気からは不穏なものを感じてしまう。
農業の基盤を作った今になって追い出されるということは考えたくないよね……。
「そこで、だ。野菜の生産が盛んなファームスア公国で他の作物についても学んできてもらいたい。
一人でとは言わぬ。ソフィアも一緒に、だ」
「えっ?」
国王の言葉を聞いて、素っ頓狂な声を漏らすソフィア。
彼女もこの場で初めて聞くことらしく、困惑している様子が見て取れる。
ちなみに、ファームスア公国とウォーマス帝国は政治的な理由から対立しており、国交は殆ど無い。
そんな国にウォーマス帝国出身の僕が行っても大丈夫なのか心配だ。
「レイン殿の素性は既に公国に伝えているが、問題無いとの返答を得ている。
だから安心して行ってきて欲しい」
「分かりました。色々な作物の知識を学んで参ります」
「レインが行くなら……私も行くわ」
もっとも、ソフィアの父の方が上手だったようで、僕の心配は杞憂に終わった。
この国の開拓にはコメだけでは足りないことは感じていたから、この機会に農業の知識をすべて吸収するつもりでファームスア公国に行くことに決めた。
「よし、話はまとまったな。
公国には返答の手紙を出しておこう」
「分かりました」
そうして無事に話し合いが終わったころ、何やら玄関の方が騒がしくなってきた。
気になって廊下に出てみると、ソフィアの父を呼ぶ声が響いている。
「何かあったみたいだね」
「……すごく、嫌な予感がするわ」
「戦争とかじゃないと良いけど、心配だね」
物々しい空気を感じ取り、国王が大急ぎで階段を下りて玄関に走っていく。
気が気でない僕達も後を追い、騒ぎになっている玄関へと駆け付けた。
「大変です! ウォーマス帝国から大軍が攻めてきています!」
「なんだと……」
「原因は分かるっていますの?」
「密偵からの報告では、水道の水枯れの原因が我が国の責任にされていると。
実際は水の使い過ぎが原因のようですが……」
「この水田を見られたら、全面戦争になるだろう。
遊牧民を戻せ! 王都が見えない場所で防衛する!」
帝国が水を使いすぎていたことは事実だ。そして、僕が水道開発に使った水脈は帝国の水道の源とは違うものを使っている。
素直に助けを求めてきていたら助けることも考えたけど、すぐに他人のせいにする国に慈悲は無い。
その気になれば帝国の水道の源を完全に絶つことだって出来るから、王都近くまで入り込まれたら、その時は手を出そうと思う。
「僕も防衛に参加しますよ」
「敵は一応、レイン殿の同胞だ。戦闘になれば相手を殺めることになるが、大丈夫なのか?」
「はい。同胞でも、恨みがありますから」
家族には恨みが無いから殺めるつもりは無い。
でも、家族と戦うことになる心配は不要だ。
帝国は権力者なら必ず守られる。男爵家という貴族の中での底辺であっても。
そして、最初に出兵させられるのは、何かしらの罪を犯した罪人だ。
その次は、帝都に暮らす人々が兵役に駆られる。
僕の実家の領地で暮らしている人のように農業に関わっている人は、兵糧に関わるから絶対に出兵させられることは無い。
だから元冒険者仲間と戦うことはあっても、それ以外の知り合いと戦うことはあり得ない。
冒険者になる前もなった後も親しくしてくれた人々に手を出さなくて済むなら、それ以上に親しくしてくれている王国の人を守るために剣を握るだけだ。
「私も参加するわ」
「ソフィアは参加しないでくれ。あの魔法を使われたら、国が滅びる」
「そうよね……。
悔しいけれど、私はみんなを応援する側で我慢するわ」
「僕の水魔法と組み合わせたら、反撃は出来ると思いますよ?
こんな感じで、少しだけ穴を空ければ……この向きにだけ火が向かいますから」
「では、勝てないと判断したら使うことにしよう。
我が国の民はほとんどが攻撃魔法を扱えるから、負け戦になることは無いだろうが」
そう口にする国王は、自信に満ちた表情を浮かべている。
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