水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

水空 葵

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23. side 国の危機を凌ぐための決断

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 デザイア王国の王都の隣に作られた水田に青々とした苗が植えられた頃、ウォーマス帝国では水道水の源となる地下水の不足が深刻化していた。
 皇帝はすぐに原因の調査にあたらせ、今日は調査結果が報告される手筈となっている。

 そして今、玉座の間にその報告をするための人物が足を踏み入れた。

「陛下、調査の結果が出ましたのでご報告致します」

「申してみよ」

「はい。
 地下水が減少した原因ですが、使い過ぎによるものだと考えられます」

 この言葉の直後、場の空気が凍り付く。
 原因が他国の仕業なら、こうはならなかっただろう。

 帝国の国力があれば、他国を侵略することなど容易なのだ。
 しかし、原因が自分たちにあるなら、難しいと一言で言い表せないほどの事態である。

「貴様、本気で言っているのか?」

「私には嘘をつく理由がありません」

「分かっておる……。
 しかし、そのまま公表する訳にはいかぬ。我が帝国は豊富な水と共に発展してきた。
 それが無くなると分かれば、民達の暴動では済まないだろう。最悪、隣国から侵略される」

 そう口にする皇帝の口調は重々しく、この場に居る権力者達――宰相でさえも一言も発せない状況だ。
 しかし打開策を思い付く者は居たようで、恐る恐る手を挙げられる。

「陛下、私に考えがあります」

「申してみよ」

「方向から考えれば、地下水はデザイア王国から流れてきています。
 かの国の仕業とすれば、国民にも示しが付くでしょう」

「かの地は乾燥が酷い……。
 しかし、大量の水を持ち込めば侵略も可能であろう」

 提案に納得した様子で頷く皇帝に、賛同の拍手が集まる。
 こうなれば、侵略が取りやめになることは無い。

「すぐに出兵の準備を!」

「「御意」」

 そうして、ウォーマス帝国はデザイア王国侵略に向けて動き出すのだった。



 その翌日。
 水枯れにより不安を感じていた帝国民たちの前に姿を現した皇帝は、拡声の魔法を使って演説を始めた。

 皇帝と国民の間にはこれから出陣する兵士たちが整列している。

「此度の戦は我が帝国に手を出した愚か者が破滅することを世界に示すこととなるだろう。
 そして、愚かな国が滅びれば、水は元に戻る! それまでは水の節約に励んで欲しい。
これも勝利のためである!」

 この演説の目的は、戦争の理由の誇示だけでなく、兵糧を理由に国民達に節水を促すことだ。
 すでに水源から繋がる水道管の栓は半分以上閉められており、使い過ぎを抑えている。

 そして戦争という理由があれば、国民は水の使い過ぎをしないだろうという確信があってのことだった。

 もっとも、贅沢に慣れた人間が質素な暮らしに戻ることは難しく、水の浪費を止められる人は一握りしか居ない。



   ◇



 同じころ、帝国内にあるクロウディー男爵家の領地には、今年の罪人が運び込まれていた。
 基本的に罪人の強制労働は資金力に乏しい貴族の領地で活用されることが多いが、この地も例外では無い。

「今度は畑らしいぞ」

「楽そうで良かったわ」

「畑仕事なら慣れているし、余裕だね」

 今回運び込まれてきたのは、元冒険者の男女三人。
 鉱山と違って過酷な労働が無さそうなことに、揃って安堵している様子だ。

 そんな三人を乗せた馬車は、高い塀で囲われた場所に入っていく。
 塀には見張り塔が設けられており、内側には寝泊りが出来る簡素な小屋も佇んでいる。

 これだけで刑務所と呼べるほど整った設備だが、罪人が乗せられている窓が無い馬車からは全容を把握することは出来ない。
 そんな馬車が通り過ぎた後は、この塀の内側へと続く鉄扉が閉ざされ、脱走が容易では無い事を物語っていた。

「着いたぞ。降りろ」

「あー、疲れた~」

「ねえ、なんか臭くない? オナラしたなら正直に謝ってよ!」

「俺じゃないぞ?」

「俺でもない。でも本当に臭いな」

「黙れ!
 これから仕事の説明をするからよく聞け!」

 気の抜けた会話に罵声が混じり、途端に静まり返る。
 すると刑務官が仕事の内容について説明を始めた。

「お前たちの仕事は、あそこに積まれている糞尿を肥料にする作業だ。
 ここから見て左が新しい糞尿が、右は肥料になりそうな物が積まれている。
 しっかり洗ったスコップを使って、右から順にしっかりとかき混ぜるように。間違えたりサボったり、そこに排泄したりしたら罰を下すから覚悟しておけ」

「糞尿に糞尿を追加してもいいだろうが」

「量が変わると使い物にならなくなるから駄目だ。催したら、あそこにある便所を使え。
 喜べ、あれは水洗だ」

「こんな場所なら変わらねぇよ……」

 誰でも出来る簡単な仕事。
 しかしこの三人の罪人は、悪臭に耐えられないようで表情を歪めていた。
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