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16. 砂漠の資源を使います

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 数十秒ほど走って水田のところにある蛇口の前に着いた僕は、水が出てくるのを無言で待っている。
 ソフィアも緊張しているようで、一言も発していない。

 水の気配はすぐ下の地面の中まで来ているから、空気が抜ければ勢いよく水が出てくるはずだ。

「まだ出てこないのね……」

「もうすぐ出てくると思うよ」

 そう口にした直後、音を立てながら水が流れ出してきた。
 土が乾き切っているから、水は少しずつ染み込んでいっている。

 しかし、しばらく待てば水が溜まり始めていた。

「これでコメを作れるわね!」

「うん。まずは何も覆わずに試してみるよ」

 苗を育てるのには時間がかかってしまうから、まずは帝国で余った苗を仕入れて育てることに決めている。
 あと数日もすれば届くから、皆で植える日が待ち遠しい。

「結果が楽しみだわ。
 失敗してもいいように、隣の水田にはガラスの覆いを作りましょう?」

「大きなガラスが作れればいいけど、上手く出来るかな」

「こんなに凄い水道をたったの十日で作り上げたレインなら大丈夫だと思うの。
 私も頑張るから、きっと成功するわ」

 ガラスの材料はすでに王都に運び込まれているらしく、いつでも使って良いと言われている。
 今から大きなガラスを作る時間は無いから、明日に回すことに決めている。

 ちなみに、小さなガラスは既に成功しているから、大きなガラスを作れなかったら小さなガラスを組み合わせて大きなガラスにするつもりだ。

「明日も頑張ろう!」

「ええ!」

 僕の言葉に少し遅れて、ソフィアが頷く。
 水田に水が溜まるまでは時間がかかるから、あとは水が出たままになっている蛇口を閉めていけば今日する事は終わりだ。

「おお、水だ……レイン殿に感謝をしなければ……」

「こんな風に回すと止められるから、使わないときは蛇口を閉めておいてくれると助かります」

「分かりました。
 ……って、レイン様!?」

「僕は神様でも何でもないから、そんなに頭を下げなくても良いですよ?」

 僕の姿を見た人は、地面に膝をついて深々と頭を下げている。
 一応貴族ではあったから、領民から頭を下げられる経験はあるけど……ここまでされると恐怖を感じてしまうのは気のせいだろうか?

「いや、俺にとっては神様同然です! オアシスに行かなくて済めば、色々と出来ることが増えますから。
 あ、ソフィア様もお疲れ様です」

「ええ、お疲れ様。
 鉄作りは順調かしら?」

「はい。もうすぐ剣を作れるくらいの量になります」

 僕にはあんなに深々と頭を下げていたのに、ソフィアに対しては軽く頭を下げただけだ。
 国の規模が小さいから、王家と国民の距離も近いことは知っているけど、こうして近くで見ていると今でも違和感がある。
 これがデザイア王国の常識だから、早く慣れた方が良いんだけど……。

 ちなみに、ソフィア達王家は国を敵国から守り抜いた英雄の子孫ということらしく、尊敬はされているらしい。
 しかし先祖代々受け継がれてきた腰の低さから、今では国民のほとんどから親しみも持たれている。

 本当に見ていて不思議な景色だ。

「鉄なんて作っていたんだね。もしかして、この煙も鉄を溶かすためのものなのかな?」

「ええ。この砂漠では砂鉄が取れるから、溶かしてから外国に売っているの」

「そうだったんだ」

「砂が赤っぽいところだと、鉄が取れるんです。
 いくら取っても無くならない、デザイアの貴重な資源です」

 僕が納得していると、そんな説明が入る。
 鉄を作っているから鍛冶屋さんということになるけど、帝国の鍛冶屋のように大きな体の人ではないから、少し違和感がある。

 そもそも大きな体の人がこのデザイア王国には殆ど居ないから、大きな人が居ても違和感だ。
 帝国では僕の背丈だと同い年の女の子といい勝負だったくらいだったけど、ここだと同い年相手ならだれにも負けていない。

 ソフィアの背丈は僕の肩くらいまでしかないから、帝国の人が見たら兄妹と勘違いされそうだ。

「でも、鉄以外の物もたくさん入っているから、手間をかけて純粋な鉄にしないと使えないの。
 この辺りに住んでいるのは、鉄を製錬して生計を立てている人たちよ」

「その鉄って、僕も使えるかな?」

「レイン様がご所望とあらば、喜んで差し出しますよ。
 外国に買い叩かれるより、自分の国のために使った方が良いですからね」

 細くて頑丈な柱が欲しかった僕にとって、鉄は喉から手が出そうなほど欲しかった。
 だから、水の対価として鉄を少しだけ融通してもらえるように交渉……するまでもなく、「欲しい分だけなら、いくらでも渡す」と言ってもらえた。

 これで砂漠の水田に必要な材料はすべて揃うから、あとは透明な屋根を完成させたらイネを植えられるだろう。
 青々と生い茂る様子を想像したら、先が楽しみだ。
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