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13. side 湧き水が減ると起こること
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レインがデザイア王国で順調に水田作りを進めている頃、ウォーマス帝国の辺境にある水田では、三人の労働者が汗を流しながら苗を植えていた。
ここ帝国では人口の急増により農業を拡大したのは良いものの、どうしても手がかかる苗を植える作業の人手が足りない状況になっていた。
そこで考え出されたのが、鉱山で働いている罪人たちを農業で用いることだった。
この三人の労働者には当然のように監視が付いており、逃げ出すことは容易では無いだろう。
「つかれた! ねぇ、どうして休ませてくれないの!?」
そう叫ぶのは、先週から鉱労働での刑に処されている元冒険者、アンナだ。
彼女は娼館送りで済むはずだったが、本人が断固拒否。代替案として示された鉱山労働を選択してここに居る。
しかし、元冒険者でも荷物運びをしていたレインに背負われて移動していたことの方が多かったため、アンナの体力は並みの冒険者よりも劣る。
魔法の腕は確かだが、ここでは魔封じの首輪をされていて全く役に立たない。
「もう一週間もお風呂にも入れてないのに……」
「アンナ、煩い。気が散るから静かにしてくれ」
「アルガードも抗議してよ!」
「これくらいで音を上げたら男が廃る。お断りだ」
わんわんと喚くアンナには、まず仲間からの叱責が入った。
しかし、罰はそれだけでは終わらない。
「そこの女、手が止まっているぞ!」
仕事をサボれば鞭で打たれる。これは強制労働では当たり前のことで、女だろうと男だろうと扱いに差は無かった。
だから見張りは容赦なくアンナに鞭を振り下ろす。
「ギャッ……。
うわああぁぁぁぁん!」
当然のように手加減は無く、また冒険者として戦っている時に攻撃を受けたことが無かったアンナには、鞭の痛みは耐え難いものだったらしい。
短い悲鳴の後に続く泣き声が、それを物語っていた。
「手を動かせ!」
しかし、鞭は二度、三度と振り下ろされる。
流石に痛みには耐えられなかったアンナは、涙をポロポロと零しながら苗を植えていった。
一方で帝都には異変が起きていた。
「おかしいな、水道の勢いが足りない……」
「本当よね。先週くらいから様子がおかしいの」
雨が頻繁に振っていたから水には困らないと思われている中で、水道の勢いが衰え始めている。
もちろん帝国は調査を始めており、水源である湧き水の量が減ったことが原因だと判断されていた。
しかし、この事を表に出せば混乱を招くと考えられたせいで、今も事実は一部の高位貴族が知るのみとなっている。
帝国で水の入手には困らないが、連日の雨で川は茶色く濁り、とても飲めるものでは無い。
一方の湧き水は勢いもあり、そのまま飲んでも体調を崩さない優れものなのだ。
このままでは、帝国……特に帝都で暮らす人々は、日常で使える水に困ることになる。そんな予想が出るほどの状況だった。
「これは雨水を貯めておいた方が良さそうだ」
「雨の水って飲んでも大丈夫なのかしら?」
「分からないが、川の水よりはマシだろう」
平民は桶を屋根の上に置いて雨水を貯める対策に出ていた。
しかし、あくまでも上質な水にこだわる貴族の対応は違った。
「水魔法使いを雇って、飲み水を確保するように」
ここはとある貴族の屋敷で、当主の男が使用人に指示を出していた。
しかし、いくら給料を高く示したとしても、水魔法使いは現れないだろう。
水魔法使いが不遇な扱いを受ける帝国は、数年前から水魔法使いが殆ど居ないのだ。
唯一残っていたレインが去ってしまった今、水魔法使いは国中を探しても見つからない。
ここ帝国では人口の急増により農業を拡大したのは良いものの、どうしても手がかかる苗を植える作業の人手が足りない状況になっていた。
そこで考え出されたのが、鉱山で働いている罪人たちを農業で用いることだった。
この三人の労働者には当然のように監視が付いており、逃げ出すことは容易では無いだろう。
「つかれた! ねぇ、どうして休ませてくれないの!?」
そう叫ぶのは、先週から鉱労働での刑に処されている元冒険者、アンナだ。
彼女は娼館送りで済むはずだったが、本人が断固拒否。代替案として示された鉱山労働を選択してここに居る。
しかし、元冒険者でも荷物運びをしていたレインに背負われて移動していたことの方が多かったため、アンナの体力は並みの冒険者よりも劣る。
魔法の腕は確かだが、ここでは魔封じの首輪をされていて全く役に立たない。
「もう一週間もお風呂にも入れてないのに……」
「アンナ、煩い。気が散るから静かにしてくれ」
「アルガードも抗議してよ!」
「これくらいで音を上げたら男が廃る。お断りだ」
わんわんと喚くアンナには、まず仲間からの叱責が入った。
しかし、罰はそれだけでは終わらない。
「そこの女、手が止まっているぞ!」
仕事をサボれば鞭で打たれる。これは強制労働では当たり前のことで、女だろうと男だろうと扱いに差は無かった。
だから見張りは容赦なくアンナに鞭を振り下ろす。
「ギャッ……。
うわああぁぁぁぁん!」
当然のように手加減は無く、また冒険者として戦っている時に攻撃を受けたことが無かったアンナには、鞭の痛みは耐え難いものだったらしい。
短い悲鳴の後に続く泣き声が、それを物語っていた。
「手を動かせ!」
しかし、鞭は二度、三度と振り下ろされる。
流石に痛みには耐えられなかったアンナは、涙をポロポロと零しながら苗を植えていった。
一方で帝都には異変が起きていた。
「おかしいな、水道の勢いが足りない……」
「本当よね。先週くらいから様子がおかしいの」
雨が頻繁に振っていたから水には困らないと思われている中で、水道の勢いが衰え始めている。
もちろん帝国は調査を始めており、水源である湧き水の量が減ったことが原因だと判断されていた。
しかし、この事を表に出せば混乱を招くと考えられたせいで、今も事実は一部の高位貴族が知るのみとなっている。
帝国で水の入手には困らないが、連日の雨で川は茶色く濁り、とても飲めるものでは無い。
一方の湧き水は勢いもあり、そのまま飲んでも体調を崩さない優れものなのだ。
このままでは、帝国……特に帝都で暮らす人々は、日常で使える水に困ることになる。そんな予想が出るほどの状況だった。
「これは雨水を貯めておいた方が良さそうだ」
「雨の水って飲んでも大丈夫なのかしら?」
「分からないが、川の水よりはマシだろう」
平民は桶を屋根の上に置いて雨水を貯める対策に出ていた。
しかし、あくまでも上質な水にこだわる貴族の対応は違った。
「水魔法使いを雇って、飲み水を確保するように」
ここはとある貴族の屋敷で、当主の男が使用人に指示を出していた。
しかし、いくら給料を高く示したとしても、水魔法使いは現れないだろう。
水魔法使いが不遇な扱いを受ける帝国は、数年前から水魔法使いが殆ど居ないのだ。
唯一残っていたレインが去ってしまった今、水魔法使いは国中を探しても見つからない。
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