上 下
11 / 25

11. まずは水を運びます

しおりを挟む
 ソフィアに案内されて夕食の場所――ダイニングに着くと、既に色とりどりの料理が並んでいた。

「いつもはこんなに豪華じゃないけど、食材を買ってきたばかりだから食べられるの」

「そうなんだ。聞いていた話と違ったから、驚いたよ。
 こんなに豪華にしても大丈夫なのかな?」

「野菜は長持ちしないから、使わないといけないの。
 だから、買い出しに行った日は贅沢になるわ」

 もっと質素な料理を想像していたから、良い意味で裏切られた気分だ。
 でも、農業の計画が上手く出来れば、こんな食事が毎日出てくるようになりそうだ。

 だから頑張って成功させたい。

「よし、全員集まったようだ。
 いただきます」

「「いただきます」」

 ここでの食事はソフィア達王家一家と来客である僕も同席している。
 使用人達もテーブルを分けているとはいえ、同席している光景は他の貴族の屋敷では見ることが出来ないから、なんだか新鮮だ。

「レイン君、水の場所は把握出来たか?」

「はい。あとは水を流す場所を作れば水田に取り掛かれます。
 こんな感じで考えているんですけど、作っても大丈夫ですか?」

 地下水をくみ上げるのは、かなり労力がかかる事になる。
 だから、この辺りよりも高さのある場所の地下水をくみ上げる井戸を作って、そこから帝都にある水道と同じような管を通すことを考えている。

 もちろん分かりやすいように絵も描いているから、用意していた紙を見せる。

「この管は何で作るのかね?」

「ソフィアの魔法と僕の魔法を組み合わせて作ろうと思っています。
 材料は砂とゴムがあれば問題ありません」

 溶かして固めた砂を使った物は帝国にもあるけど、あれは温度差で割れやすい代物だった。
 だから、これから作る管はあまり長くないものを繋ぎ合わせて対策しようと思っている。

 ゴムは帝国で大量に作られているから、入手も難しく無いだろう。

「砂なら山のようにあるから、気にせず使ってもらって構わない。
 ゴムも在庫があるから、明日の朝にでも案内しよう」

「ありがとうございます」

 材料の心配は無さそうだ。
 問題は、砂を溶かして作った管がどれくらいの力に耐えられるかだ。

 帝国の水道が整備され始めた時は、管が破裂することが頻繁に起きていたという。
 水魔法を使っているから分かるけど、魔法の影響が無い水でもかなりの力があるんだよね。

「地面の中に埋めるのも、邪魔にならなくて良さそうだ。
 人手が必要なら、声をかけてくれ。いくらでも手を貸そう」

「助かります。
 では、明日は試作を頑張ってみます」

「感謝する。
 ソフィア、レイン君に迷惑はかけないように」

「分かっているわ」

 そんな会話を聞きながら、肉をかじる。
 味付けはシンプルでも、どの料理もかなり美味しかった。

 明日からは質素になるというけど、これなら心配の必要も無さそうだった。



   ◇



 翌朝、朝食を終えた僕はソフィアと共に上流にあるオアシスに来ていた。
 砂嵐は止んでいて、強い日差しが降り注いでいるから、日よけ代わりに白く濁らせた水魔法で日差しを遮る。

「多分、ここから……ここくらいの長さの管を埋めたら、水が勝手に出てくると思う」

「分かったわ。
 私は砂を溶かせばいいのよね?」

「うん。
 準備は大丈夫だから、火魔法をお願い」

 必要な分の砂とソフィアを水魔法で囲って、火魔法を使ってもらう。
 すると、赤い光を放つ溶岩のような砂が出来上がる。

「これを型に入れて……」

 管の形は僕が水魔法で作ってあるから、そこに水魔法を使って溶けている砂を流し込んでいく。
 水は蒸発させなければいくらでも熱くなるから、溶けている砂を冷やさずに運ぶことだって出来る。

 水は一度作ってしまえば、いくらでも動かせるから難しい作業ではない。

「冷やすから少し離れてね」

「分かったわ」

 魔力を少しだけ込めて水を氷に帰ると、パキパキという音を立てて砂が固まる。
 そして十分に冷えたところで氷を水に戻すと、管は割れて崩れてしまった。

「お皿と同じで、急に冷やすと割れてしまうみたいね。
 次はゆっくり冷やしてみましょう」

「ごめん、ありがとう」

 ソフィアのアドバイス通りに、もう一度同じ作業をする。
 待ち時間がもったいないから、水を追加して管を同時に作っていく。

「とりあえず、これくらいあれば足りそうだね」

「私には地下水の場所が分からないから、レインに任せるわ」

「分かったよ。ありがとう」

 言葉を交わしながら、水魔法で作り出した日陰の中で休む。
 この日陰が無かったら、僕は一時間くらいで倒れてしまっているほどの暑さだ。

「そろそろ冷えたと思う」

「一つだけ取り出してみましょう」

「うん。
 ……今度は成功だね」

 試しに内側から水魔法で押してみたけど、壊れる気配は無い。
 壁を厚く作っているお陰だ。

 他の管も問題無さそうだったから、持って来ているゴムの塊を溶かして、管と管の間に流し込む。
 そして冷えるのを待ってから、もう一度水を流してみたんだけど……。

「隙間があるのね……。
 もしかして、冷える時に縮んでいるのかしら?」

「そうかもしれない……」

 管の方は、上手くつなぎ合わせられるように、片方の口を大きく作っている。
 もしかしたら、管そのものを事前に熱してから嵌めこめば、自然と縮んでゴムを締め付けることになるかもしれな。

「こっちの口が大きい方の管を温めてから、ゴムを流し込んでみよう」

「分かったわ」

 そうして二回目の挑戦では上手く管が繋がって、いくら引っ張っても、水魔法の力を使って引き離そうとしても、繋がっている部分は微動だにしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベル9999の転生魔導士~世界最強の俺、辺境でひっそりとスローライフを送る~

未来人A
ファンタジー
主人公ライズ・プライスは転生者だ。 魔王打倒の目標をかかげ、実力を磨いて15年の時をライズは過ごした。 異世界生活にあこがれを持っていたライズに取って、充実した毎日だったが、ある日、神を名乗る存在に転生特典を上げ忘れていたと、言われレベルを9999に上げられてしまう。 チートには興味がなく、努力して実力を掴み取りたかったライズは、元に戻せと憤慨するが、神は無理だと良い去っていく。 レベル9999になったライズの力は凄まじく、全ての敵を一撃で倒していく。 魔王も例外ではなく、瞬殺する。 長年目標としてことがあっさり叶ってしまい、さらにこれ以上強くなりようがないと気づいたライズは、戦う気を失くした。 人がほとんど来ないような辺境の湖の近くに家を建て、のんびり釣りをしながら暮らすと決意をする。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦
青春
アルファポリスから書籍版が発売中です。皆様よろしくお願いいたします! 6月中旬予定で、『クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル』のタイトルで文庫化いたします。よろしくお願いいたします! 間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、グラフィティライターとして不良界に関わりを持つようになる。 グラフィティとは、街中にスプレーインクなどで描かれた落書きのことを指し、不良文化の一つとしての認識が強いグラフィティに最初は戸惑いながらも、主人公はその魅力にとりつかれていく。 グラフィティを通じてアンダーグラウンドな世界に身を投じることになる主人公は、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。 書籍化に伴い設定をいくつか変更しております。 一例 チーム『スペクター』       ↓    チーム『マサムネ』 ※イラスト頂きました。夕凪様より。 http://15452.mitemin.net/i192768/

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

処理中です...