上 下
10 / 25

10. 資源を使えるので

しおりを挟む
「コメというのは、水が豊富に無いと作れないという、帝国の作物のことで合っているかな?」

「はい、そのコメです」

 コメは水で満たした水田と土、そして昼間の日差しがあれば作ることが出来る。
 しかし、大量の水が必要という情報だけが一人歩きしているようで、ソフィアの両親は首をかしげていた。

 日差しが十分にあって水田も満たせるこの場所だが、問題が無いわけではない。
 乾燥はコメの保管には適しているが、育てているコメ……イネが枯れる原因になる。

 屋根が全てガラスの建物を作れば乾燥の対策は出来はずだけど、大きなガラスは作るのが難しく高級品だから、何か対策を考えないといけない。

「本当に作れるのかね?」

「はい。ただし、農業に適した土の用意と、ガラスだけの屋根がある大きな建物を作る必要があると思います」

「なるほど。
 それだけで農業が出来るようになるのなら、こちらも全力を尽くそう。
 レイン殿、我が国の未来は貴殿に託した」

「はい、必ず成し遂げて見せます」

 そう口にしてから、差し出されている手を握り返す。
 ただの口約束に過ぎないけど、これは信頼してくれている証だ。

 だから、期待を裏切らないように頑張らないといけない。
 今日は砂嵐が止む気配が無いから、計画を練るだけで終わりそうだけど……。

 なんて思いながら、促されるままに会議室を後にする。
 夕食までは時間があるから、貸して貰えている部屋に籠って水脈の流れを確認することに決める。

 ソフィアには悪い気もするけど、集中しないと全ては分からないから、しばらく一人で部屋に籠るつもりだ、
 そもそも、応接室であってもソフィア密室で二人きりになるのは良くないだろうから、入らないつもりだけどね。

「ソフィア、また後で」

「ええ。何か困ったら、いつでも頼って欲しいわ」

「ありがとう」

 手短に言葉を交わしていると、別のところから使用人とソフィアの父との会話が聞こえてくる。

「陛下、お疲れさまです。
 遊牧民から報告があり、ガラスに用いられる石英の鉱脈が見つかりました」

 この言葉で初めて分かったけど、どうやらソフィアの父は国王らしい。
 つまり、ソフィアは王女様ということになる。

 ……さっきの勘違いがそのままだったら、外交問題に発展していたと思うと冷や汗が出てくる。
 乾燥のお陰ですぐに乾くが。



 そうして嫌な感覚を覚えながらも部屋に入った僕は、早速水の動きを探り始める。

 ここ王都には二つの大きな水脈が流れていて、どちらも帝国のある方が下流になっている。
 上流の方は、この部屋の窓からでも見えるけど、大きな山がそびえ立っている。

 あの山は帝国とは国境を接していない国……ここデザイア王国の西に接する国の海からの湿気を吸い込んでいるようで、頂上近くは真っ白な雪に覆われている。
 水脈の出所は、おそらくあの山だろう。

 かなり離れているけど、地下を流れているお陰で蒸発せずに済んでいる様子だ。
 そして、この王都よりも北……帝国から離れる方向にもオアシスがある。
 少し土地が高くなっていて移動は大変そうだけど、水を簡単に引き込むことが出来そうだ。

 それにしても、空気の中の水が殆ど無いお陰で、水の気配が帝国に居た時よりも掴みやすい。
 だから、気配を探りながら簡単な地図を描くことも出来た。

「よし、完成」

 しかし、思っていたよりも時間が過ぎていたらしく、外を見るとすっかり暗くなっている。
 部屋が明るいのは、誰かが火を灯してくれたから……ではなく、天井に埋め込まれている石が光を放っているお陰だった。
 こんな石は帝国で見たことが無いから、デザイア王国にしか存在しないと思う。

 わざわざ火を灯さなくても済むのは助かるけど、ずっと光っているのは眠る時に邪魔になりそうだ。
 この部屋は天蓋付きのベッドだから問題無いけど。



 そんなことを考えながら、ソフィアの部屋に向かう。
 国が貧しいせいで、王家なのに使用人の数はかなり少ないから、誰かを連絡手段にすることなんて出来ないのだ。

「ソフィア、夕食について聞きたいんだけど、良いかな?」

「ええ、もちろんよ。
 いつも通りなら、あと五分くらいで出来るはずよ」

「分かった、ありがとう」

「それまで私の部屋で待っていても良いよ?
 お話したいことも沢山あるから」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 扉を完全に閉めてしまうと、また勘違いされかねない。
 だから手のひらの幅くらいだけ開けておく。

 それから、ソフィアが腰掛けたソファーの隣に腰を下ろした。

「まだ話していなかったのだけど、私の家族について話しておきたいの」

「王家なんだよね?」

「うん。流石に雰囲気で分かるよね……。
 私も政治には関わっているから、ある程度のことなら手伝えるわ。例えば、今日見つかった水晶を自由に使う事も出来るわ」

「そうなんだ。
 ガラスを沢山作れるなら、活用したい。でも、交易の貴重な材料だよね?」

「資源はいつか無くなってしまうものだから、将来のために使いたいわ」

「確かに、作物は永遠に無くならないから、ちょうどいいかもしれない……。
 でも、本当に僕が自由に使って良いのかな?」

「ええ、もちろん。
 私が保証するわ!」

 こうしてガラスを作れることになった。
 しかし、大きなガラスを作るのは難しいから、上手く出来る方法を探らないといけない。

「ありがとう。心強いよ」

「お礼を言いたいのは私の方だわ。
 ここまで一緒に来てくれて、本当にありがとう」

 ちょうど夕食の時間になったのか、立ち上がってから手を差し出してくるソフィア。
 僕も立ち上がってから、その手を握りしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ
ファンタジー
大学生の黒木真理矢は、ある日突然、聖女として異世界に召喚されてしまう。だが、異世界人たちは真理矢を見て、開口一番「なんだあの黒い髪は」と言い、嫌悪の眼差しを向けてきた。 この国では、黒い髪の人間は忌まわしき存在として嫌われており、真理矢は、婚約者となるはずであった王太子からも徹底的に罵倒され、国を追い出されてしまう。 (勝手に召喚して、髪が黒いから出てけって、ふざけるんじゃないわよ――) 怒りを胸に秘め、真理矢は隣国に向かった。どうやら隣国では、黒髪の人間でも比較的まともな扱いを受けられるそうだからだ。 (元の世界には戻れないみたいだし、こうなったら聖女の力を使って、隣の国で成り上がってやるわ) 真理矢はそう決心し、見慣れぬ世界で生きていく覚悟を固めたのだった。

ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。

荒井竜馬
ファンタジー
========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜

コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」  仲間だと思っていたパーティーメンバー。  彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。  ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。  だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。  追放されたランス。  奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。  そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。  その一方でランスを追放した元パーティー。  彼らはどんどん没落していった。  気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。  そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。 「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」  ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――  その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。 ※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!  魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134  (ページ下部にもリンクがあります)

自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。 女神の話によれば、異世界に転生できるという。 ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。 父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。 その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。 食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。 そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……

追放薬師は人見知り!?

川上とむ
ファンタジー
幼き頃より将来を期待された天才薬師エリン・ハーランドは両親を病気で亡くし、叔父一家に引き取られる。彼女は叔父の工房で奴隷同然のひどい扱いを数年間にわたって受けた挙げ句、追放されてしまう。 叔父から受けた心の傷が原因ですっかりコミュ障となってしまったエリンだったが、薬師としての腕前は健在であった。エリンが新たに拾われた薬師工房でその腕前を遺憾なく発揮していく中、愚かにも彼女を追放した叔父の工房は簡単な薬さえ作れなくなり、次第に経営が傾いていく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...