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9. 勘違いに注意
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玄関の前目の前まで馬車が進み、ソフィアが先に馬車から降りる。
ここは砂嵐の影響を受けないように囲いがされているお陰で、水の壁が無くても問題なく歩けるようだ。
家の方はというと、帝国貴族の屋敷にあるような飾りは一切なく、壁の一部に模様が付けられている程度だから、国そのものが豊かではないのだろう。
「入って」
玄関にしては小さな扉をくぐると、外壁とは違って木を用いた内装が目に入る。
これなら帝国出身の僕でも過ごし易そうだ。
そして、廊下の至る所に壺が置かれている様子が目に入る。
中から水の気配がするから、乾燥対策なのだと分かった。
「ついてきてね?」
「うん、分かった」
ソフィアは階段を上っていき、そこから更に廊下を進んでいく。
扉は全て同じデザインだから、どの部屋が何なのか分からなくなりそうだ。
立ち止まった扉には、帝国語と同じ文字で「ソフィア」と書かれた札がかけられていた。
これなら間違えて違う部屋に入ることは無いだろう。
「入っても良いのかな?」
「ええ、もちろん。
お母様もお父様も今日は外交で居ないから、自由にして良いわ」
「分かったよ。ありがとう」
頷いてから部屋の中に入ろうとした時、水の塊――否、誰かがこちらに近付いてきていることを感じ取った。
大きさからして大人二人分。まさかソフィアの両親なんてことは無いだろうけど、正体が気になる。
「早く入って」
「ごめん」
パタンと音を立てて扉が閉められる。
部屋の中は、予想していた可愛らしい物は一つもなく、男の僕が居てもあまり違和感が無さそうな雰囲気だった。
シンプルで整理整頓もされているから、居心地はかなり良いと思う。
貴族というのは見栄を張って部屋の中でも落ち着かない様相になっていることも少なくないけど、心配するのは余計だったらしい。
しかし、そんな時だった。
「ソフィア、おかえりなさい!」
女性の声が聞こえたと思ったら、扉が勢いよく開け放たれる。
ああ、終わったな……。
「お母さん!? それにお父さんまで!?
外交は大丈夫なの?」
「ええ、滞りなく終わったわ」
「ソフィア、その男は何者だ?」
ソフィアの母は僕のことなど一切気に留めていない様子だが、父の方はこめかみに青筋を立てている。
どこの馬の骨とも知れない男が居たら、警戒するのが普通のことだから驚きはしないが、嫌な汗は止まらない。
「この人はレイン君。ずっと探していた水魔法使いなの」
「だからといって、男を部屋に入れるのは駄目だ!
間違いが起きたらどうする!?」
「大丈夫よ。
一緒に寝たけど、乱暴されなかったから」
その言い方は誤解を招く……。
慌てて言い換えようとしたけど、もう手遅れだったようだ。
「寝ただと!?
ソフィアを傷物にする野郎は水魔法使いだろうと許せぬ!」
そんな声と共に飛んできた拳は僕の頬――の上に生み出した氷の壁に直撃した。
僕が水の防御魔法を使えなかったら、頬が真っ赤に腫れあがっただろう。
「どうして殴るの!? 誘ったのは私の方だから、殴るなら私を殴って!」
「ソフィアから誘っただと……?
そんなにこの男が魅力的なのか? それとも、弱みを握られているのか?」
「両方違う。夜の砂漠で野宿することになったから、同じ荷台で眠っただけなの!
毛布が一枚しか無かったから。別々で寝ていたら、私かレインが凍死していたわ」
「……そうか。俺の早とちりだったようだ。
レイン殿、いきなり殴って申し訳なかった」
「怪我はしていないので大丈夫ですよ」
幸いにも誤解は解けて、ソフィアの父から頭を下げられる。
こういう時、自らの過ちを認められずに他人の責任にする人が多いけど、この人は違うらしい。
信用も信頼も出来る。そんな気がした。
「感謝する。
しかし娘の部屋で過ごさせるわけにはいかないから、別室を用意しよう。
本題はそれからになるが、良いだろうか?」
「はい、もちろんです」
冷や汗は乾燥のせいですぐに乾いたから、魔法で蒸発させずに済んだ。
それからソフィアの父に案内された部屋に入ると、応接室に相応しい光景が目に入った。
ここは控え目な調度品も置かれており、いかにも貴族の屋敷という雰囲気を出しているが、それでいて落ち着ける。
普通に考えても悪くない待遇だろう。
冒険者パーティーから追放され、大罪人の汚名を着せられ仕事を得られない状況から考えたら、これ以上と無い贅沢すぎる扱いだ。
「さて、早速だがレイン殿を招いた理由についてだ。
この国は食糧難に陥っている。交易で凌いでいるが、食料が無ければ人を増やせない。
問題を解決しない限りは国力が上がらない上に、国民に厳しい遊牧生活を強いることになる」
「だから、水魔法の力を借りて農業を始めようとされているんですね」
「話が早くて助かる。
単刀直入に聞くが、貴方の魔法で広大な畑を潤すことは出来るか?」
「魔法だけでは無理です。
しかし、農業なら成功させる自信があります」
魔力から水を作り出すには大量の魔力が必要になるから現実的ではない。
しかし豊富な地下水脈を利用出来れば、農業も問題なく出来るはずだ。
「一体どうするのだ?」
「井戸を掘り、水を貯められる場所を作るんです。もちろんオアシスを枯らす真似はしません。
そこから水を引いて水田にすれば、コメを作れるでしょう」
ここは砂嵐の影響を受けないように囲いがされているお陰で、水の壁が無くても問題なく歩けるようだ。
家の方はというと、帝国貴族の屋敷にあるような飾りは一切なく、壁の一部に模様が付けられている程度だから、国そのものが豊かではないのだろう。
「入って」
玄関にしては小さな扉をくぐると、外壁とは違って木を用いた内装が目に入る。
これなら帝国出身の僕でも過ごし易そうだ。
そして、廊下の至る所に壺が置かれている様子が目に入る。
中から水の気配がするから、乾燥対策なのだと分かった。
「ついてきてね?」
「うん、分かった」
ソフィアは階段を上っていき、そこから更に廊下を進んでいく。
扉は全て同じデザインだから、どの部屋が何なのか分からなくなりそうだ。
立ち止まった扉には、帝国語と同じ文字で「ソフィア」と書かれた札がかけられていた。
これなら間違えて違う部屋に入ることは無いだろう。
「入っても良いのかな?」
「ええ、もちろん。
お母様もお父様も今日は外交で居ないから、自由にして良いわ」
「分かったよ。ありがとう」
頷いてから部屋の中に入ろうとした時、水の塊――否、誰かがこちらに近付いてきていることを感じ取った。
大きさからして大人二人分。まさかソフィアの両親なんてことは無いだろうけど、正体が気になる。
「早く入って」
「ごめん」
パタンと音を立てて扉が閉められる。
部屋の中は、予想していた可愛らしい物は一つもなく、男の僕が居てもあまり違和感が無さそうな雰囲気だった。
シンプルで整理整頓もされているから、居心地はかなり良いと思う。
貴族というのは見栄を張って部屋の中でも落ち着かない様相になっていることも少なくないけど、心配するのは余計だったらしい。
しかし、そんな時だった。
「ソフィア、おかえりなさい!」
女性の声が聞こえたと思ったら、扉が勢いよく開け放たれる。
ああ、終わったな……。
「お母さん!? それにお父さんまで!?
外交は大丈夫なの?」
「ええ、滞りなく終わったわ」
「ソフィア、その男は何者だ?」
ソフィアの母は僕のことなど一切気に留めていない様子だが、父の方はこめかみに青筋を立てている。
どこの馬の骨とも知れない男が居たら、警戒するのが普通のことだから驚きはしないが、嫌な汗は止まらない。
「この人はレイン君。ずっと探していた水魔法使いなの」
「だからといって、男を部屋に入れるのは駄目だ!
間違いが起きたらどうする!?」
「大丈夫よ。
一緒に寝たけど、乱暴されなかったから」
その言い方は誤解を招く……。
慌てて言い換えようとしたけど、もう手遅れだったようだ。
「寝ただと!?
ソフィアを傷物にする野郎は水魔法使いだろうと許せぬ!」
そんな声と共に飛んできた拳は僕の頬――の上に生み出した氷の壁に直撃した。
僕が水の防御魔法を使えなかったら、頬が真っ赤に腫れあがっただろう。
「どうして殴るの!? 誘ったのは私の方だから、殴るなら私を殴って!」
「ソフィアから誘っただと……?
そんなにこの男が魅力的なのか? それとも、弱みを握られているのか?」
「両方違う。夜の砂漠で野宿することになったから、同じ荷台で眠っただけなの!
毛布が一枚しか無かったから。別々で寝ていたら、私かレインが凍死していたわ」
「……そうか。俺の早とちりだったようだ。
レイン殿、いきなり殴って申し訳なかった」
「怪我はしていないので大丈夫ですよ」
幸いにも誤解は解けて、ソフィアの父から頭を下げられる。
こういう時、自らの過ちを認められずに他人の責任にする人が多いけど、この人は違うらしい。
信用も信頼も出来る。そんな気がした。
「感謝する。
しかし娘の部屋で過ごさせるわけにはいかないから、別室を用意しよう。
本題はそれからになるが、良いだろうか?」
「はい、もちろんです」
冷や汗は乾燥のせいですぐに乾いたから、魔法で蒸発させずに済んだ。
それからソフィアの父に案内された部屋に入ると、応接室に相応しい光景が目に入った。
ここは控え目な調度品も置かれており、いかにも貴族の屋敷という雰囲気を出しているが、それでいて落ち着ける。
普通に考えても悪くない待遇だろう。
冒険者パーティーから追放され、大罪人の汚名を着せられ仕事を得られない状況から考えたら、これ以上と無い贅沢すぎる扱いだ。
「さて、早速だがレイン殿を招いた理由についてだ。
この国は食糧難に陥っている。交易で凌いでいるが、食料が無ければ人を増やせない。
問題を解決しない限りは国力が上がらない上に、国民に厳しい遊牧生活を強いることになる」
「だから、水魔法の力を借りて農業を始めようとされているんですね」
「話が早くて助かる。
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「魔法だけでは無理です。
しかし、農業なら成功させる自信があります」
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しかし豊富な地下水脈を利用出来れば、農業も問題なく出来るはずだ。
「一体どうするのだ?」
「井戸を掘り、水を貯められる場所を作るんです。もちろんオアシスを枯らす真似はしません。
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