水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました

水空 葵

文字の大きさ
上 下
6 / 25

6. 水を貯める方法

しおりを挟む
 馬車で進むこと数時間。
 日が地平線の向こうに消えても、ソフィアは月明かりを頼りに馬車を進めていた。

 ラクダの体力は、定期的に休憩が必要な馬とは比べものにならない程多いようで、ここまで僕達が昼食のために休憩した以外に足を止めていない。
 おまけに荷台には食料がギッシリと積み込まれているから、相当な重さだろう。

「そろそろ休ませなくても大丈夫?」

「寒くなるまでは進むつもりよ」

「砂漠って寒くなるんだね」

 さっきまの焼けるような暑さからは想像出来ないが、ソフィアが上着を用意している様子を見れば嘘ではないと分かる。
 今は夏だから、上着なんて持ち歩いていない僕にとってはちょっとした危機だ。

 持ち物は冒険者パーティーから追放された時の宿に置いたままだから、着替えなんて持っていない。
 肌寒いくらいなら我慢出来るけど、冬みたいな寒さになったら風邪をひきそうだ。

「毛布なら荷台にあるから、安心して」

「ありがとう。助かるよ」

 幸いにも毛布があるらしいから、安心して前に視線を戻す。
 ここは街道を整備しても砂に覆われてしまうらしく、目印となる棒が立っているだけだ。

 辺り一面砂景色。面白い物は何も見えないし、ずっと同じ光景が続くから飽きてしまいそうだ。

「今日はこの辺りで寝ましょう」

「分かった。テントは荷台にあるのかな?」

「テントなんて無いわ。寝る場所はこれから作るの」

 一体何をするのかと身構えていると、目のまえの砂が集まりはじめて柱が出来上がった。
 さらに、そこに壁も作られていく。

 どうやら、ソフィアは土魔法の使い手だったようだ。
 土魔法があれば、砂漠でも畑を作ることが出来ると思う。

「土魔法でそこまで出来るなんて、すごいね」

「全くすごくないわ。これくらいのこと、砂と水を混ぜれば誰でも出来るもの。
 レインの水魔法の方が何倍も凄いと思うよ?」

「そんなことは無いと思う。
 ソフィアの魔法だって、使い方次第では誰にも出来ない事を出来ると思う。
 例えば、畑に使えるような土を作ることとかね」

 僕がそう口にすると、ソフィアは考えてもいなかったのか、口を開けたまま固まってしまった。
 かなり間抜けな表情のせいで、可愛らしい顔が台無しだ。

「……魔法って、術者が想像出来る物しか作れないことは知っているのよね?」

「もちろん。魔法の使い手なら、知っていて当たり前だから」

「私は畑の土を知らないから、魔法が使えても作れないのよ。
 砂を作ったり、砂を動かして家を作ることは難しくないけれど、魔力があまり無いから沢山作れなくて、誰の役にも立てないの」

 僕が水の国で不要だと言われていたように、砂に溢れる砂漠の国でソフィアは不要だと言われているらしい。
 貴族の装いでも一人で来ていたのは、恐らく大切に思われていないからだろう。

 ラクダのお陰で護衛が要らなくても、従者の一人は伴っていないとおかしい。

「今は僕のために役立っているよね?
 誰の役にも立たないなんてことは無いと思う」

「そう、ね……」

「ソフィアが扱えるのは土魔法だけなの?」

「いいえ、火と風も扱えるわ。
 でも、危ないからってお父様に禁止されているの」

 自分の魔法で怪我をすることは基本的に有り得ない。
 水魔法は少し例外で、自分の制御下から離れた水に飛び込めば溺れることもあるけど、攻撃魔法で自爆することはどんなに頑張っても出来ないから。

 火魔法なら何かに燃え移ると危険だが、基本的には怪我をすることは無い。
 風魔法に至っては、自分が入っている家を崩したりしない限りは命に関わらないだろう。

 おそらく、ソフィアの魔法は周囲の人が危険になる類だと思う。

「蝋燭を灯そうとして魔力を練るだけでも、侍女達に全力で止められてしまうのよ。
 不便すぎて大変だわ」

「あー、うん。それは使わない方が良いと思う」

「どうしてレインもお父様の味方をするの?」

「すごく嫌な予感がするからね」

「でも、火を起こさないと今夜は凍え死ぬと思うの……」

「分かった。この中で試してみて」

 本当に嫌な予感がしたから、水魔法でソフィアを包み込んでから、そう口にした。
 水魔法は火魔法に対して強力だから、少し暴走させたくらいでは破られないはずだ。

 冒険者としてドラゴンの討伐に行った時も、僕程度の水魔法でブレスの直撃から仲間を守れるくらいの力がある。

「うん。そんなに厳重にしなくても大丈夫だと思うけど……」

 ソフィアは怪訝そうにしているけど、こうしないと僕の身が危ないと思う。
 そして、その予想は現実になってしまった。

 光魔法と見紛うほどの閃光が迸ったと思うと、轟音に続けて激しい振動が襲ってきた。
 水魔法の壁は辛うじて耐えているけど、地面は耐えきれなかったようで、砂が液体のようになっている。

「ソフィア、大丈夫?」

「二度と火魔法は使わないわ」

「いや、何度も使って制御出来るようにした方が良いと思うよ。
 僕の水魔法なら、砂が溶けるだけで済むみたいだから」

 溶けた砂は、水をかけて冷やすと硬い岩のようになっていた。
 そして、その岩は水を通さないらしい。

「それと、この石を使えば……池を作ることも出来ると思う」

「水を貯められたら、みんなで水を使えるということね。
 レインは天才なのかしら?」

「そう言うことだから、ソフィアは魔法を暴走させないように練習しよう」

「ええ、頑張ってみるわ」

 ここはまだ近くに町が見えないような場所。
 でも、僕に与えられた役目は無事に果たせるような気がした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!

蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。 ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。 しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。 強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。 そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。 一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...