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6. 水を貯める方法
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馬車で進むこと数時間。
日が地平線の向こうに消えても、ソフィアは月明かりを頼りに馬車を進めていた。
ラクダの体力は、定期的に休憩が必要な馬とは比べものにならない程多いようで、ここまで僕達が昼食のために休憩した以外に足を止めていない。
おまけに荷台には食料がギッシリと積み込まれているから、相当な重さだろう。
「そろそろ休ませなくても大丈夫?」
「寒くなるまでは進むつもりよ」
「砂漠って寒くなるんだね」
さっきまの焼けるような暑さからは想像出来ないが、ソフィアが上着を用意している様子を見れば嘘ではないと分かる。
今は夏だから、上着なんて持ち歩いていない僕にとってはちょっとした危機だ。
持ち物は冒険者パーティーから追放された時の宿に置いたままだから、着替えなんて持っていない。
肌寒いくらいなら我慢出来るけど、冬みたいな寒さになったら風邪をひきそうだ。
「毛布なら荷台にあるから、安心して」
「ありがとう。助かるよ」
幸いにも毛布があるらしいから、安心して前に視線を戻す。
ここは街道を整備しても砂に覆われてしまうらしく、目印となる棒が立っているだけだ。
辺り一面砂景色。面白い物は何も見えないし、ずっと同じ光景が続くから飽きてしまいそうだ。
「今日はこの辺りで寝ましょう」
「分かった。テントは荷台にあるのかな?」
「テントなんて無いわ。寝る場所はこれから作るの」
一体何をするのかと身構えていると、目のまえの砂が集まりはじめて柱が出来上がった。
さらに、そこに壁も作られていく。
どうやら、ソフィアは土魔法の使い手だったようだ。
土魔法があれば、砂漠でも畑を作ることが出来ると思う。
「土魔法でそこまで出来るなんて、すごいね」
「全くすごくないわ。これくらいのこと、砂と水を混ぜれば誰でも出来るもの。
レインの水魔法の方が何倍も凄いと思うよ?」
「そんなことは無いと思う。
ソフィアの魔法だって、使い方次第では誰にも出来ない事を出来ると思う。
例えば、畑に使えるような土を作ることとかね」
僕がそう口にすると、ソフィアは考えてもいなかったのか、口を開けたまま固まってしまった。
かなり間抜けな表情のせいで、可愛らしい顔が台無しだ。
「……魔法って、術者が想像出来る物しか作れないことは知っているのよね?」
「もちろん。魔法の使い手なら、知っていて当たり前だから」
「私は畑の土を知らないから、魔法が使えても作れないのよ。
砂を作ったり、砂を動かして家を作ることは難しくないけれど、魔力があまり無いから沢山作れなくて、誰の役にも立てないの」
僕が水の国で不要だと言われていたように、砂に溢れる砂漠の国でソフィアは不要だと言われているらしい。
貴族の装いでも一人で来ていたのは、恐らく大切に思われていないからだろう。
ラクダのお陰で護衛が要らなくても、従者の一人は伴っていないとおかしい。
「今は僕のために役立っているよね?
誰の役にも立たないなんてことは無いと思う」
「そう、ね……」
「ソフィアが扱えるのは土魔法だけなの?」
「いいえ、火と風も扱えるわ。
でも、危ないからってお父様に禁止されているの」
自分の魔法で怪我をすることは基本的に有り得ない。
水魔法は少し例外で、自分の制御下から離れた水に飛び込めば溺れることもあるけど、攻撃魔法で自爆することはどんなに頑張っても出来ないから。
火魔法なら何かに燃え移ると危険だが、基本的には怪我をすることは無い。
風魔法に至っては、自分が入っている家を崩したりしない限りは命に関わらないだろう。
おそらく、ソフィアの魔法は周囲の人が危険になる類だと思う。
「蝋燭を灯そうとして魔力を練るだけでも、侍女達に全力で止められてしまうのよ。
不便すぎて大変だわ」
「あー、うん。それは使わない方が良いと思う」
「どうしてレインもお父様の味方をするの?」
「すごく嫌な予感がするからね」
「でも、火を起こさないと今夜は凍え死ぬと思うの……」
「分かった。この中で試してみて」
本当に嫌な予感がしたから、水魔法でソフィアを包み込んでから、そう口にした。
水魔法は火魔法に対して強力だから、少し暴走させたくらいでは破られないはずだ。
冒険者としてドラゴンの討伐に行った時も、僕程度の水魔法でブレスの直撃から仲間を守れるくらいの力がある。
「うん。そんなに厳重にしなくても大丈夫だと思うけど……」
ソフィアは怪訝そうにしているけど、こうしないと僕の身が危ないと思う。
そして、その予想は現実になってしまった。
光魔法と見紛うほどの閃光が迸ったと思うと、轟音に続けて激しい振動が襲ってきた。
水魔法の壁は辛うじて耐えているけど、地面は耐えきれなかったようで、砂が液体のようになっている。
「ソフィア、大丈夫?」
「二度と火魔法は使わないわ」
「いや、何度も使って制御出来るようにした方が良いと思うよ。
僕の水魔法なら、砂が溶けるだけで済むみたいだから」
溶けた砂は、水をかけて冷やすと硬い岩のようになっていた。
そして、その岩は水を通さないらしい。
「それと、この石を使えば……池を作ることも出来ると思う」
「水を貯められたら、みんなで水を使えるということね。
レインは天才なのかしら?」
「そう言うことだから、ソフィアは魔法を暴走させないように練習しよう」
「ええ、頑張ってみるわ」
ここはまだ近くに町が見えないような場所。
でも、僕に与えられた役目は無事に果たせるような気がした。
日が地平線の向こうに消えても、ソフィアは月明かりを頼りに馬車を進めていた。
ラクダの体力は、定期的に休憩が必要な馬とは比べものにならない程多いようで、ここまで僕達が昼食のために休憩した以外に足を止めていない。
おまけに荷台には食料がギッシリと積み込まれているから、相当な重さだろう。
「そろそろ休ませなくても大丈夫?」
「寒くなるまでは進むつもりよ」
「砂漠って寒くなるんだね」
さっきまの焼けるような暑さからは想像出来ないが、ソフィアが上着を用意している様子を見れば嘘ではないと分かる。
今は夏だから、上着なんて持ち歩いていない僕にとってはちょっとした危機だ。
持ち物は冒険者パーティーから追放された時の宿に置いたままだから、着替えなんて持っていない。
肌寒いくらいなら我慢出来るけど、冬みたいな寒さになったら風邪をひきそうだ。
「毛布なら荷台にあるから、安心して」
「ありがとう。助かるよ」
幸いにも毛布があるらしいから、安心して前に視線を戻す。
ここは街道を整備しても砂に覆われてしまうらしく、目印となる棒が立っているだけだ。
辺り一面砂景色。面白い物は何も見えないし、ずっと同じ光景が続くから飽きてしまいそうだ。
「今日はこの辺りで寝ましょう」
「分かった。テントは荷台にあるのかな?」
「テントなんて無いわ。寝る場所はこれから作るの」
一体何をするのかと身構えていると、目のまえの砂が集まりはじめて柱が出来上がった。
さらに、そこに壁も作られていく。
どうやら、ソフィアは土魔法の使い手だったようだ。
土魔法があれば、砂漠でも畑を作ることが出来ると思う。
「土魔法でそこまで出来るなんて、すごいね」
「全くすごくないわ。これくらいのこと、砂と水を混ぜれば誰でも出来るもの。
レインの水魔法の方が何倍も凄いと思うよ?」
「そんなことは無いと思う。
ソフィアの魔法だって、使い方次第では誰にも出来ない事を出来ると思う。
例えば、畑に使えるような土を作ることとかね」
僕がそう口にすると、ソフィアは考えてもいなかったのか、口を開けたまま固まってしまった。
かなり間抜けな表情のせいで、可愛らしい顔が台無しだ。
「……魔法って、術者が想像出来る物しか作れないことは知っているのよね?」
「もちろん。魔法の使い手なら、知っていて当たり前だから」
「私は畑の土を知らないから、魔法が使えても作れないのよ。
砂を作ったり、砂を動かして家を作ることは難しくないけれど、魔力があまり無いから沢山作れなくて、誰の役にも立てないの」
僕が水の国で不要だと言われていたように、砂に溢れる砂漠の国でソフィアは不要だと言われているらしい。
貴族の装いでも一人で来ていたのは、恐らく大切に思われていないからだろう。
ラクダのお陰で護衛が要らなくても、従者の一人は伴っていないとおかしい。
「今は僕のために役立っているよね?
誰の役にも立たないなんてことは無いと思う」
「そう、ね……」
「ソフィアが扱えるのは土魔法だけなの?」
「いいえ、火と風も扱えるわ。
でも、危ないからってお父様に禁止されているの」
自分の魔法で怪我をすることは基本的に有り得ない。
水魔法は少し例外で、自分の制御下から離れた水に飛び込めば溺れることもあるけど、攻撃魔法で自爆することはどんなに頑張っても出来ないから。
火魔法なら何かに燃え移ると危険だが、基本的には怪我をすることは無い。
風魔法に至っては、自分が入っている家を崩したりしない限りは命に関わらないだろう。
おそらく、ソフィアの魔法は周囲の人が危険になる類だと思う。
「蝋燭を灯そうとして魔力を練るだけでも、侍女達に全力で止められてしまうのよ。
不便すぎて大変だわ」
「あー、うん。それは使わない方が良いと思う」
「どうしてレインもお父様の味方をするの?」
「すごく嫌な予感がするからね」
「でも、火を起こさないと今夜は凍え死ぬと思うの……」
「分かった。この中で試してみて」
本当に嫌な予感がしたから、水魔法でソフィアを包み込んでから、そう口にした。
水魔法は火魔法に対して強力だから、少し暴走させたくらいでは破られないはずだ。
冒険者としてドラゴンの討伐に行った時も、僕程度の水魔法でブレスの直撃から仲間を守れるくらいの力がある。
「うん。そんなに厳重にしなくても大丈夫だと思うけど……」
ソフィアは怪訝そうにしているけど、こうしないと僕の身が危ないと思う。
そして、その予想は現実になってしまった。
光魔法と見紛うほどの閃光が迸ったと思うと、轟音に続けて激しい振動が襲ってきた。
水魔法の壁は辛うじて耐えているけど、地面は耐えきれなかったようで、砂が液体のようになっている。
「ソフィア、大丈夫?」
「二度と火魔法は使わないわ」
「いや、何度も使って制御出来るようにした方が良いと思うよ。
僕の水魔法なら、砂が溶けるだけで済むみたいだから」
溶けた砂は、水をかけて冷やすと硬い岩のようになっていた。
そして、その岩は水を通さないらしい。
「それと、この石を使えば……池を作ることも出来ると思う」
「水を貯められたら、みんなで水を使えるということね。
レインは天才なのかしら?」
「そう言うことだから、ソフィアは魔法を暴走させないように練習しよう」
「ええ、頑張ってみるわ」
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