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「この騒ぎはそういうことか。
ジェイク君、娘が失礼なことをしてしまって申し訳ない。君が望むことなら、出来る限りのことをしよう」
国王が頭を下げた。その事実に周囲の人々が息をのむ。
けれども、クラリス王女は全く気にしていない様子だ。
「ありがとうございます。では、クラリス殿下との婚約を正式に破棄したく思います。
彼女の気持ちはもう私には向いていませんから、無意味な婚約を続けたくはありません」
「本当に良いのかな? 余に言える事ではないが、もう後戻りは出来なくなる」
「ええ、構いません」
「分かった。
では、国王として命ずる。クラリスとジェイク・ゴリアテレスとの婚約は正式に破棄する。これは王家の都合によるもので、ジェイク殿に非は無い」
「寛大なご処置、ありがとうございます」
あまりの急展開に様子を窺っていた人々が一歩も動けない中、ただ一人だけジェイクに飛び掛かる者がいた。
ずっと機会を伺っていたメリッサだ。
「ジェイク様、私と婚約していただけませんか?」
「メリッサ様!? なぜ俺……私のような者との婚約を望むのですか?
私は今婚約破棄されたばかりの冴えない男ですよ?
それと、今は冷や汗で臭いと思うので、近付かない方が宜しいかと……」
謙遜するジェイクだが、他の令息達と違って逃げようとはしていない。けれども、汗臭くなっていると思っているから距離は詰められたくないようだ。
そんな汗臭いという理由はメリッサにとってはどうでも良くて、気に入っている人の手を気持ちのままに取っていた。
(ようやく、ようやく理想の人とお話が出来るわ……!
身体の逞しさも、頭の良さも、穏やかでも芯が強い性格も、全部好き!)
心の中で叫びながら、分かりやすく目を輝かせるメリッサはぐいぐいとジェイクとの距離を詰めようとしている。
一言で表すなら一目惚れではあるが、政略結婚が主流の貴族会では恋した相手と結ばれることなんて出来ないから、メリッサは嬉しくて仕方が無かった。
「ジェイク様は臭くないです!」
「ですが、クラリス殿下が私のことを汗臭いと……」
「きっとクラリス様のお鼻の中か、クラリス様自身が汗臭いのですわ!」
つい本音が漏れてしまったのは、嬉しすぎて頭が回っていないからなのか、それともわざとか。
答えはメリッサにしか分からない。
「なっ!? 無礼よ、無礼! お前なんて死刑にしてやるわ!
大体、そんな男と婚約しようだなんて、頭がおかしいとしか思えないわ! だから馬鹿なゴリラ令嬢と言われるのよ!」
「ごめんなさい、地位とか婚約破棄とか、ゴリラ令嬢の私には難しいお話ですの。
ジェイク様はもう自由の身ですから、私が狙っても問題は無いと思うのですけど……」
不思議に思っているかのように、首をかしげながら口にするメリッサに向かって手を上げるクラリス。
そして、次の瞬間には頬を張る乾いた音が響いた。
ジェイク君、娘が失礼なことをしてしまって申し訳ない。君が望むことなら、出来る限りのことをしよう」
国王が頭を下げた。その事実に周囲の人々が息をのむ。
けれども、クラリス王女は全く気にしていない様子だ。
「ありがとうございます。では、クラリス殿下との婚約を正式に破棄したく思います。
彼女の気持ちはもう私には向いていませんから、無意味な婚約を続けたくはありません」
「本当に良いのかな? 余に言える事ではないが、もう後戻りは出来なくなる」
「ええ、構いません」
「分かった。
では、国王として命ずる。クラリスとジェイク・ゴリアテレスとの婚約は正式に破棄する。これは王家の都合によるもので、ジェイク殿に非は無い」
「寛大なご処置、ありがとうございます」
あまりの急展開に様子を窺っていた人々が一歩も動けない中、ただ一人だけジェイクに飛び掛かる者がいた。
ずっと機会を伺っていたメリッサだ。
「ジェイク様、私と婚約していただけませんか?」
「メリッサ様!? なぜ俺……私のような者との婚約を望むのですか?
私は今婚約破棄されたばかりの冴えない男ですよ?
それと、今は冷や汗で臭いと思うので、近付かない方が宜しいかと……」
謙遜するジェイクだが、他の令息達と違って逃げようとはしていない。けれども、汗臭くなっていると思っているから距離は詰められたくないようだ。
そんな汗臭いという理由はメリッサにとってはどうでも良くて、気に入っている人の手を気持ちのままに取っていた。
(ようやく、ようやく理想の人とお話が出来るわ……!
身体の逞しさも、頭の良さも、穏やかでも芯が強い性格も、全部好き!)
心の中で叫びながら、分かりやすく目を輝かせるメリッサはぐいぐいとジェイクとの距離を詰めようとしている。
一言で表すなら一目惚れではあるが、政略結婚が主流の貴族会では恋した相手と結ばれることなんて出来ないから、メリッサは嬉しくて仕方が無かった。
「ジェイク様は臭くないです!」
「ですが、クラリス殿下が私のことを汗臭いと……」
「きっとクラリス様のお鼻の中か、クラリス様自身が汗臭いのですわ!」
つい本音が漏れてしまったのは、嬉しすぎて頭が回っていないからなのか、それともわざとか。
答えはメリッサにしか分からない。
「なっ!? 無礼よ、無礼! お前なんて死刑にしてやるわ!
大体、そんな男と婚約しようだなんて、頭がおかしいとしか思えないわ! だから馬鹿なゴリラ令嬢と言われるのよ!」
「ごめんなさい、地位とか婚約破棄とか、ゴリラ令嬢の私には難しいお話ですの。
ジェイク様はもう自由の身ですから、私が狙っても問題は無いと思うのですけど……」
不思議に思っているかのように、首をかしげながら口にするメリッサに向かって手を上げるクラリス。
そして、次の瞬間には頬を張る乾いた音が響いた。
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