見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

文字の大きさ
上 下
33 / 46

33. 取り調べです②

しおりを挟む
「それだけではありません。
 一部の男性騎士が証拠品に細工を働いていたのです。その全員がリリアと接触したことがあると判明しました」

 少し間を置いて、そんな言葉が放たれた。
 騎士さん達は王家に忠誠を誓ってから配属されているのに、リリア様の力を使えばこんな行動に走ってしまう。

 リリア様の力がそれほど強力なのか、王家への忠誠があまり強くなかったのかは分からないけれど、恐ろしいことに変わりはない。

「リリア様は何かしらの力を持っていると予想されているのですね?」
「ええ。女性には一切影響がなかったので、今は女性だけで取り調べや捜査を行っています。」
「そんなことになっていましたのね……。
 証拠は残っていますの?」

 捜査が遅れるのは構わないけれど、証拠が失われていたら大問題だ。
 だから念のためにと尋ねてみる。

「もちろんです。証拠は複数人で管理しておりますので、失われることは有り得ません。
 ですが、リリアの力が分からない状態のまま放置するわけにはいきませんので、詳しく調べる予定です」
「お願いしますね。
 私の力が必要になれば、協力しますわ」

 騎士さんの言葉にそう返す私。
 ちなみに、この国でたった1つしかない特別な宝石――触れた人の記憶を読み取って、眠っている時の夢と同じように覗き見ることが出来る記憶石を使えば、リリア様の記憶を覗くことも出来るはずなのよね。

 ただ、この記憶石には欠点もあって、その記憶の中で怪我をするようなことがあれば、痛みが襲い掛かってくるらしい。
 その痛みに耐えられなくて気絶すれば、二度と同じ記憶は見ることが出来ないとお母様から教えられた。

 殿方が使うと失敗することが多いみたいで、今は王宮のどこかに押し込められているらしい。
 私だけでは難しいかもしれないけれど、お祖父様にお願いしたら使わせてもらえるかもしれない。

「ありがとうございます」

 そう口にして、頭を下げる騎士さん。

 この後は、リリア様の影響を受けていない私やダリアが知っている状況証拠を紙に書いたり、私が調べて欲しいと思っていることを伝えたりした。


   ◇


 今日の取り調べという名の情報共有は予定していたよりも早く終わって、私達は王宮に移動していた。
 私が入った時はリリア様の処遇について話し合われていて、少し揉めている様子だ。

 私に毒が盛られた事件の犯人はまだ明らかにされていないけれど、私がリリア様に刺されたことに変わりはない。
 だから、今は毒殺未遂ではなく刺殺未遂ということになっている。

「……やはり、王家の血を狙う者は、王家の威信のためにも処刑するべきです!」
「今回はそういう訳にはいかない。今回の罪人は、死ねば時を逆行することが出来る。
 寿命以外で死なせてはならぬ」
「しかし、それでは王家の威信が!」

 私が部屋に入ってから、ずっとこんな感じで話が進んでいない。
 王家の威信と言われているけれど、私は王家の血を引いているだけで王家の人間ではないのに……。

「仮に王家の者が害されたら、どんな時でも処刑する。これは法でも定められています。
 しかし、サーシャは王家の血は引いていても王家ではない。故に、この程度で処刑すれば王家は身内に贔屓していると批判される事も有り得るでしょう」

 お父様がそれっぽい理由を持ち上げたら、反論の勢いは弱くなった。
 でも、その代わりに私に視線が向けられる。

「サーシャ嬢はどのように考えていますか? 貴女を刺した罪人を恨んでいますよね?」

 頷けと言わんばかりの視線が集まっている。
 でも、ここで頷いたらリリア様が処刑される方向で話が進んでいるのよね……。

 切りつけられた時の痛みも大したことなかったから、子供の嫌がらせくらいにしか思えなかった。
 けれども、嫌がらせのことや食事を抜くことに加担された恨みは今も感じている。
 

 だから……。

「ええ、恨んでいますわ。死んで苦しみから逃げることなんて許せないほどに。
 寿命を全うするまで、自由の無い暮らしで苦しんで欲しいと思っていますわ」

 ……身勝手と思われるかもしれないけれど、私が求めていることを口にしてしまった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

処理中です...