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26. 苦手なはずなのに
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あの後も少しだけお話をしてからお茶会はお開きになった。
帰りはアドルフ様が屋敷まで送ってくれて、馬車の中で色々なことをお話しした。
内容は今後のことについてが殆どだったけれど、アドルフ様が考えていることも少しだけ聞くことが出来た。
席は一番離れるような位置に座っているけれど、お互いを知ることで心の距離は少し縮まったような気がする。
「サーシャは男性が苦手なものだと思っていたが、そうでも無かったのだな」
「はい。どこかのご令息達に急に迫られると怖く感じてしまいますけれど、普通にお話するだけなら大丈夫ですわ」
アドルフ様と婚約する前は、私を意のままにしようという目をした殿方に何度も迫られていた。
その度に丁重にお断りしていたのだけど、何人かは毎日のように声をかけてきた。
下心がありますと顔に書いてある人達とお付き合いするだなんて、あり得ないことなのに……あの人達は諦めが悪いみたい。
ちなみに、下心が一切見えず、少し嫌そうな雰囲気を纏っている人達も私を誘いに来ていた。
その人達は、家督を継げない次男や三男といった方々で、私の王家の血という権威を求めているだけにしか見えなかった。
私を守ってくれそうな気配なんて無かった上に、この人達が仕事を得る気配なんて無かったから全員お断りした。
この人達も親に言われているのか中々諦めてくれなかったけれど、この人達はリリアが吸い取ってくれたから苦労はしなかったのよね……。
アドルフ様は女性が苦手だというのに、どうして私との婚約を受け入れてくれたのかしら……?
それに、こうして同じ馬車に乗っていても嫌がる素振りは全くない。
学院では他のご令嬢に迫られた時はあからさまに避けるし、私をエスコートしたり手を繋いだりしてくれないけれど、一緒に居る時は肩が触れ合わないくらいの距離で寄り添ってくれる。
女性が苦手というのは嘘ではないけれど……どうして私と一緒に居ても大丈夫なのかしら?
不思議に思っても、直接問いかける勇気は出なかった。
「アドルフ様、こんなに狭い場所で私と二人きりになっても大丈夫なのですか……? 私だけでも帰れますのに」
「今更な質問だな。大丈夫だから、こうして送っていくと言った。
それとも、俺では嫌だったか?」
「嫌と思ったことはありません。でも、女性が苦手と聞いていますので」
だから、今更ながらアドルフ様を気遣う形で問いかけてみたのだけど、私だと大丈夫な理由は見つからなかった。
もしかしたら、私が王家の血を引いているから我慢しているの……?
それとも、女性として見られていないのかしら?
「それで勘違いさせてしまったのか。サーシャは俺を狙ってこないから、大丈夫だ。
そのうち、俺が女性を苦手になった理由を話す」
「そうなのですね、ありがとうございます」
返ってきたのは嬉しくない理由だった。
私には苦手意識を持たれていなかったのね……。
納得は出来たけれど、少し複雑な気分になってしまった。
それからは気まずくなってしまって、一言も話せないまま屋敷に着いてしまった。
「ここまで送っていただきありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
「どういたしまして。心遣いありがとう。
では、また明日」
「はい、また明日」
私がそう返すと、アドルフ様は笑顔を浮かべて馬車の中へと戻っていった。
さっきまでの気まずい空気を吹き飛ばすような眩しい笑顔に目を覆いたくなるのを我慢して、私もお礼の笑顔をお返しした。
私が返せたのは、咄嗟に作った紛い物。アドルフ様のような眩しい笑顔を返せなかったから、少し悔しかった。
「さっきまで気まずそうな空気だったので心配しましたが、大丈夫だったようですね」
アドルフ様の乗る馬車に手を振っていると、さっきまで御者台に乗っていたダリアが口を開いた。
御者台にも私達の空気が伝わっていたのね……。
でも、どうして嬉しそうにしているのかしら?
「ええ。ところで、どうして頬を緩ませているのかしら?」
「サーシャ様とアドルフ様の仲が宜しいようでしたので」
「全然良くなってないわよ!?」
「私からはそう見えたというだけです」
揶揄うような笑みを浮かべるダリアから逃げるようにして玄関に駆けこむ私。
恥ずかしいことなんて何もないはずなのに、少しだけ頬が熱くなっているのを感じてしまった。
ダリアに揶揄われなかったら、こんな思いはしなかったのに。
帰りはアドルフ様が屋敷まで送ってくれて、馬車の中で色々なことをお話しした。
内容は今後のことについてが殆どだったけれど、アドルフ様が考えていることも少しだけ聞くことが出来た。
席は一番離れるような位置に座っているけれど、お互いを知ることで心の距離は少し縮まったような気がする。
「サーシャは男性が苦手なものだと思っていたが、そうでも無かったのだな」
「はい。どこかのご令息達に急に迫られると怖く感じてしまいますけれど、普通にお話するだけなら大丈夫ですわ」
アドルフ様と婚約する前は、私を意のままにしようという目をした殿方に何度も迫られていた。
その度に丁重にお断りしていたのだけど、何人かは毎日のように声をかけてきた。
下心がありますと顔に書いてある人達とお付き合いするだなんて、あり得ないことなのに……あの人達は諦めが悪いみたい。
ちなみに、下心が一切見えず、少し嫌そうな雰囲気を纏っている人達も私を誘いに来ていた。
その人達は、家督を継げない次男や三男といった方々で、私の王家の血という権威を求めているだけにしか見えなかった。
私を守ってくれそうな気配なんて無かった上に、この人達が仕事を得る気配なんて無かったから全員お断りした。
この人達も親に言われているのか中々諦めてくれなかったけれど、この人達はリリアが吸い取ってくれたから苦労はしなかったのよね……。
アドルフ様は女性が苦手だというのに、どうして私との婚約を受け入れてくれたのかしら……?
それに、こうして同じ馬車に乗っていても嫌がる素振りは全くない。
学院では他のご令嬢に迫られた時はあからさまに避けるし、私をエスコートしたり手を繋いだりしてくれないけれど、一緒に居る時は肩が触れ合わないくらいの距離で寄り添ってくれる。
女性が苦手というのは嘘ではないけれど……どうして私と一緒に居ても大丈夫なのかしら?
不思議に思っても、直接問いかける勇気は出なかった。
「アドルフ様、こんなに狭い場所で私と二人きりになっても大丈夫なのですか……? 私だけでも帰れますのに」
「今更な質問だな。大丈夫だから、こうして送っていくと言った。
それとも、俺では嫌だったか?」
「嫌と思ったことはありません。でも、女性が苦手と聞いていますので」
だから、今更ながらアドルフ様を気遣う形で問いかけてみたのだけど、私だと大丈夫な理由は見つからなかった。
もしかしたら、私が王家の血を引いているから我慢しているの……?
それとも、女性として見られていないのかしら?
「それで勘違いさせてしまったのか。サーシャは俺を狙ってこないから、大丈夫だ。
そのうち、俺が女性を苦手になった理由を話す」
「そうなのですね、ありがとうございます」
返ってきたのは嬉しくない理由だった。
私には苦手意識を持たれていなかったのね……。
納得は出来たけれど、少し複雑な気分になってしまった。
それからは気まずくなってしまって、一言も話せないまま屋敷に着いてしまった。
「ここまで送っていただきありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
「どういたしまして。心遣いありがとう。
では、また明日」
「はい、また明日」
私がそう返すと、アドルフ様は笑顔を浮かべて馬車の中へと戻っていった。
さっきまでの気まずい空気を吹き飛ばすような眩しい笑顔に目を覆いたくなるのを我慢して、私もお礼の笑顔をお返しした。
私が返せたのは、咄嗟に作った紛い物。アドルフ様のような眩しい笑顔を返せなかったから、少し悔しかった。
「さっきまで気まずそうな空気だったので心配しましたが、大丈夫だったようですね」
アドルフ様の乗る馬車に手を振っていると、さっきまで御者台に乗っていたダリアが口を開いた。
御者台にも私達の空気が伝わっていたのね……。
でも、どうして嬉しそうにしているのかしら?
「ええ。ところで、どうして頬を緩ませているのかしら?」
「サーシャ様とアドルフ様の仲が宜しいようでしたので」
「全然良くなってないわよ!?」
「私からはそう見えたというだけです」
揶揄うような笑みを浮かべるダリアから逃げるようにして玄関に駆けこむ私。
恥ずかしいことなんて何もないはずなのに、少しだけ頬が熱くなっているのを感じてしまった。
ダリアに揶揄われなかったら、こんな思いはしなかったのに。
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