見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

文字の大きさ
上 下
24 / 46

24. ヴィオラside 止められない綻び③

しおりを挟む


 一度目の夢で私達が襲われた後、リリアは私達を殺めたとして処刑されたに違いない。
 きっとその時に私と同じように逆行して、サーシャを殺めようとしていることが発覚しないように立ち回っているはず。

 一度目の前でサーシャが死んでいるから、それで恨みが晴れていれば良かったのだけど……。
 各々の教室に向かおうと中庭を後にしようとしてた時、すれ違ったリリアはサーシャを睨みつけながらこんなことを呟いた。

「化け物……不死身なんて気色悪いわ」

 この言葉を聞いて、私は少し救われた気がした。
 友人を化け物と言われたことは嬉しくないけれど、あの時のサーシャは生きていたことになる。だから内心では少しうれしかった。

 きっと、サーシャの癒しの力は他人に使うよりも、サーシャ自身に使った方が効果があるのね。
 それなのに、サーシャも同じような夢を見たみたいだから……きっと癒しの力でもどうにもならない酷い目に遭ったと思ってしまう。

「私、不死身じゃないのに……」
「あれは癒しの力を万全だと思っている馬鹿が揃って言う言葉だ。気にしなくていい」

 少し悲しそうに声を漏らすサーシャに慰めの言葉をかける殿下。
 王家の血を引いている殿下も当然ながら癒しの力を持っているから、似たような言葉をかけられたことがあるらしい。

「ありがとう。でも、気にしていないから大丈夫よ」
「そうか、それなら良いが。あの殺意の籠った目は気になるな。刺されてからでは遅いし、今から拘束させよう」
「それは最後の手段にした方が良いと思うわ。これで何も証拠が出なかったら、王家の評判が下がってしまうもの」
「ならどうする? 学院の中だと護衛の人数を増やせても限りがある」

 歩きながらそんな話をするリーシャと殿下。
 すごく仲良く話しているからかしら? お兄様が嫉妬の視線を殿下に向けている。

 そして、突然こんなことを口にした。

「心臓を刺されないように、防具を征服の下に仕込むのはどうだ? サーシャさえ良ければ、俺が持っている新品を貸そう」
「新品をお借りしても良いのですか?」
「ああ。俺が使った物よりは良いだろう。教室に置いてあるから、取ってくる。少し待っていて欲しい」

 そう言って廊下を駆け出すお兄様。
 廊下は走らないほうが良いのだけど、お兄様の場合は出会い頭でぶつかりそうになる前に察知して避けることが出来るから、あまり関係無いのよね。

 今も人の気配を察してスピードを緩めていた。


 それから数十秒。
 服の下に身に着けられる防具を手にしたお兄様が戻ってきて、サーシャに手渡した。

 私なら息が上がってしまうのに、お兄様は息の乱れ一つも無かった。鍛えた結果の体力でも、少し羨ましく感じてしまう。
 私にもこれくらいの体力があれば、あの時に逃げることだって出来たというのに。

「少し大きいが、曲げれば調整出来る」
「これを曲げるのですか?」
「ピッタリ合わせるのは難しいが、こうして見比べながら……」
「アドルフ様が良ければ、私の身体に触れても大丈夫ですわ」
「いや、無理はしなくて良い」

 せっかくのサーシャの提案を断って、鉄の板のような防具をぐにゃぐにゃと曲げていくお兄様。
 こんな板で護れるのか心配になってしまうけれど、お父様が実際に刃物が刺さらないか試してあるものだから大丈夫なはず……。

 そう頭で分かっていても、こんなに容易く曲がってしまうのを見ると不安になってしまう。

「多分、これで着けられると思う」
「ありがとうございます。早速着けてみますわ」

 そう言って制服の上着を脱ぐサーシャ。
 上着の下には襟付きのシャツを着ていて、このシャツだけでも制服として認められているのよね。

 だからこの場で脱いでも問題ないのだけど、お兄様は目を逸らしていた。

「少し持っていてもらえる?」
「ええ」

 それから手早く防具を身に着けたサーシャに上着を返す私。
 上着を着てしまえば、サーシャが防具を着けていることなんて分からなかった。

「そごい、ピッタリです!」
「良かったよ。上着を着たら教えて欲しい」
「もう着ていますわ。それに、シャツだけでも制服なのですから、見ていても大丈夫ですよ?」
「そうだった……」

 サーシャに言われて、恥ずかしそうにするお兄様。
 そんな時、授業開始5分前を告げる鐘の音が聞こえたから、私達は教室に急いで戻ることになった。


「間に合ったわね」
「5分もあれば余裕よ」

 無事に教室に戻ってこれて、安堵する私。
 そんな時、リリアと目が合ってしまった。

 声は聞き取れないけれど、私を睨みながら何かを呟いている。

「何を呟いているのかしら……?」
「あんたのせいで私の復讐が失敗するのよ……だって。ヴィオラ、私の防具が必要だったら言ってね?
 私は刺されても何とか出来るから」
「大丈夫よ。流石に刺しては来ないと思うわ」

 この発言を後悔する時が来るなんて、今の私に知る由も無かった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

処理中です...