見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵

文字の大きさ
上 下
21 / 46

21. 違和感を感じます

しおりを挟む
 婚約に向けた話し合いは順調に進んでいった。
 けれども、私は不安を感じずには居られなかった。

 前回の人生で失った治癒の力が、今回の人生で失われないだなんて都合の良いことは起こらないと思っているから。
 だから、話が纏まる前に問いかけることにした。

「お話の途中で申し訳ありませんわ。もしもの話ですけれど、私が治癒の力を失ったらどうされますか?」
「僕は気にしませんよ。貴女との婚約を望んだ理由は、治癒の力ではありませんから」
「そうでしたのね」

 治癒の力を失っても大丈夫と言われたから、そのまま婚約を受け入れようと思った。
 婚約解消してすぐに他の方と婚約を結ぶことはあまり良く無いけれど、パールサフ家が私に有利な噂を流すと約束してくれた。

 これからどうなるか分からないけれど、現状では最良の選択を出来た気がするわ。

 ちなみに、今回の婚約では私も学院を卒業出来るように配慮してもらえるから、前回の人生のような悲惨な目には遭わないと思っている。
 それなのに、不安が消える気配はしない。

「では、条件の確認に移りましょう」
「はい」


 この後は、お互いに条件に納得した上で婚約の書類にサインをした。
 また婚約解消になったらバツニになってしまうから、その時は潔く修道院にでも入ろうと思う。

「サーシャ嬢、これからはサーシャと呼んでも良いかな?」
「もちろんですわ。これから、宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく」

 どういうわけか、女性が苦手なはずのアドルフ様は私に笑顔を向けてくれている。
 きっと作り物の笑顔よね! そうに違いないわ……!



   ◇


 アドルフ様と婚約を結んだ日の翌朝。
 私はアドルフ様の馬車に乗って学院に向かっていた。

 婚約者と通うのは普通ではあるのだけど、女性が苦手なアドルフ様から誘われると思わなくて、今も困惑している。
 もしかしたら、女性が苦手なのは嘘なのでは?

 普通にお話している時に、そんな疑いを抱くほどだった。
 けれども、学院に着いてからの振る舞いで、その疑問は晴れることになった。

「……どうされましたか?」
「……なんでもない」

 あからさまに婚約者のいないご令嬢の側を避けて歩くアドルフ様。
 本人はそういうつもりで動いていないみたいだから、この行動は無自覚だと思う。

 ちなみに、今の私はエスコートどころか手も繋がれていない。
 それなのに、ギリギリ肩が当たらない距離で隣り合って歩いてる感じなのよね……。



 この距離感はお昼休みの時も、ヴィオラとお茶会をするためにパールサフ邸に向かう時も同じだった。
 ちなみに、今日のリリア様はアドルフ様を誘惑しようと頑張っていたらしい。

 このことはアドルフ様から直接聞いたのだけど、ダリアも目撃していたから間違い無さそうだ。
 何度追い払っても、すぐに纏わりついてくるみたいで、今は疲れ切った様子だった。


「急に誘ってごめんなさい。どうしても話したいことがあったのよ」

 今は人払いを済ませた部屋でヴィオラと向かい合っている。
 お茶会とは名ばかりで、形は完全に密談ね……。

「何かあったのかしら?」
「ええ。私には、今とは違う人生の記憶があるみたいなの。前世と言うべきかしら?
 昨日の夜、その夢を見てしまったわ。信じて貰えると良いのだけど……」

 お茶を飲んでから、不安そうに口にするヴィオラ。
 前世の記憶があるだなんて言っても、普通は信じて貰えないもの。

「信じるわ。私も似た夢を見たことがあるから」
「そうだったのね。理解が早くて助かるわ。
 私から話すね?」
「お願い」

 頷く私。
 それから、ヴィオラは夢のことを語り始めた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

処理中です...