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12. ダリアside 救えなかった人②
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ティーカップが飛んできたのは突然の事でした。
ですが、訓練の時に襲いかかってくる刃物よりも遅かったので、容易に受け止めることが出来ました。
「命令は聞こえておりますが、サーシャ様の指示の方が優先ですのでお断りします。
もう一度申し上げますが、貴女様には他の侍女が付いていたはずですが?」
「侍女のくせに偉そうにして……! 貴女もクビよ!
オズワルド様に言いつけてやるんだから!」
「どうぞ」
私の雇い主はサーシャ様ということになっているので、オズワルド様にお願いされたとしてもクビにはなりません。
オーフィリア家とブラフレア家の間で交わされた取り決めによって、私をサーシャ様から引き離すことも許されないのですから、心配する必要は無いでしょう。
「サーシャとかいう女がどうなっても知らないわよ?
1人では何も出来ないのでしょう?」
リリアはサーシャ様のことを呼び捨てにしていますが、相手の家格が低かったとしても「さん」くらいの敬称を付けるのが常識です。
ましてや、リリア様は子爵令嬢。筆頭子爵家の令嬢であるサーシャ様に対しては「様」を付けないと無礼に当たります。
子爵令嬢なら、これくらいのことは知っていて当然ですから、サーシャ様に敵対するおつもりなのでしょう。
ちなみに、サーシャ様は身の回りのことは全てこなせます。
「そうですね。用件は済みましたか?」
「もういいわよ!」
ぷくぅ、と頬を膨らませ、不機嫌を隠そうともしないリリア様は別邸に戻っていきました。
私も片付けが終わりましたから、サーシャ様の元に戻らないといけません。
旦那様と奥様と交わしたサーシャ様をお守りするという約束を違えたくはありませんから。
けれども、その約束も守り切れる自信はありませんでした。
この夢を見ている私は、私自身を御することが出来ないのです。
思い通りに動かず、ただ流れていく日々を見ているだけ。
それにしてはサーシャ様に触れた時の温もりは現実と変わらないですし、氷に触れれば冷たい感触が伝わってきます。
「ダリア、今動いたのだけど……分かったかしら?」
「ええ。はっきりと」
ティーカップを投げつけられた日から何ヶ月も過ぎ、すっかり大きくなったサーシャ様のお腹に触れる手には、赤ちゃんが蹴っている振動が伝わってきています。
私の見立てでは、もう臨月に入っているのですが……。
今のブラフレア家には新しい侍女を雇う余裕も、お医者様を呼ぶ余裕も無いことになっています。
それでも、オズワルド様はリリア様に高価なプレゼントを次々と渡しています。
使用人も私を含めて3人ほどしか残っていません。
「結局、お父様達に手紙は届かなかったわね……」
「ええ。あの手紙が伝われば、旦那様は私兵を引き連れて来てくださるはずですから」
十分な食事を得られていないサーシャ様は、すっかり痩せてしまっていて、素人目に見ても出産する体力なんて残っていません。
頼みの綱の治癒の力も、どういうわけか使えなくなってしまっています。
この辺りに魔物が残っていれば、私が狩ってきて料理することも出来るのですが、この辺りの魔物は狩り尽くしてしまいました。
今は使用人に与えられる僅かな食事を全てサーシャ様に渡して、私はその辺の草を食べて凌いでいます。
毒草の勉強をしていて良かったと思う日が来るとは思いませんでした。
「そうよね……。
サーシャが居なかったら、私はもう生きていないわ。いつもありがとう」
「これくらいのことしか出来ず、申し訳ありません」
「もし私が死んだら、この子だけでもいいから領地に連れて行って欲しいわ」
どうして、恨んでいるはずの男との間に授かった子を守ろうとするのでしょうか?
私には理解できませんでした。
「まだオズワルド様のことを愛しているのですか?」
「いいえ、もう見限っているわ。でも、この子に罪は無いの。
それに……私の子だから、無事に育ってほしいのよ」
「そうだったのですね。私、勘違いしていたようです」
「ダリアもお母さんになったら分かるわ」
この時のサーシャ様の笑顔はどこか悲しげで、目頭が熱くなってしまいました。
ですが、訓練の時に襲いかかってくる刃物よりも遅かったので、容易に受け止めることが出来ました。
「命令は聞こえておりますが、サーシャ様の指示の方が優先ですのでお断りします。
もう一度申し上げますが、貴女様には他の侍女が付いていたはずですが?」
「侍女のくせに偉そうにして……! 貴女もクビよ!
オズワルド様に言いつけてやるんだから!」
「どうぞ」
私の雇い主はサーシャ様ということになっているので、オズワルド様にお願いされたとしてもクビにはなりません。
オーフィリア家とブラフレア家の間で交わされた取り決めによって、私をサーシャ様から引き離すことも許されないのですから、心配する必要は無いでしょう。
「サーシャとかいう女がどうなっても知らないわよ?
1人では何も出来ないのでしょう?」
リリアはサーシャ様のことを呼び捨てにしていますが、相手の家格が低かったとしても「さん」くらいの敬称を付けるのが常識です。
ましてや、リリア様は子爵令嬢。筆頭子爵家の令嬢であるサーシャ様に対しては「様」を付けないと無礼に当たります。
子爵令嬢なら、これくらいのことは知っていて当然ですから、サーシャ様に敵対するおつもりなのでしょう。
ちなみに、サーシャ様は身の回りのことは全てこなせます。
「そうですね。用件は済みましたか?」
「もういいわよ!」
ぷくぅ、と頬を膨らませ、不機嫌を隠そうともしないリリア様は別邸に戻っていきました。
私も片付けが終わりましたから、サーシャ様の元に戻らないといけません。
旦那様と奥様と交わしたサーシャ様をお守りするという約束を違えたくはありませんから。
けれども、その約束も守り切れる自信はありませんでした。
この夢を見ている私は、私自身を御することが出来ないのです。
思い通りに動かず、ただ流れていく日々を見ているだけ。
それにしてはサーシャ様に触れた時の温もりは現実と変わらないですし、氷に触れれば冷たい感触が伝わってきます。
「ダリア、今動いたのだけど……分かったかしら?」
「ええ。はっきりと」
ティーカップを投げつけられた日から何ヶ月も過ぎ、すっかり大きくなったサーシャ様のお腹に触れる手には、赤ちゃんが蹴っている振動が伝わってきています。
私の見立てでは、もう臨月に入っているのですが……。
今のブラフレア家には新しい侍女を雇う余裕も、お医者様を呼ぶ余裕も無いことになっています。
それでも、オズワルド様はリリア様に高価なプレゼントを次々と渡しています。
使用人も私を含めて3人ほどしか残っていません。
「結局、お父様達に手紙は届かなかったわね……」
「ええ。あの手紙が伝われば、旦那様は私兵を引き連れて来てくださるはずですから」
十分な食事を得られていないサーシャ様は、すっかり痩せてしまっていて、素人目に見ても出産する体力なんて残っていません。
頼みの綱の治癒の力も、どういうわけか使えなくなってしまっています。
この辺りに魔物が残っていれば、私が狩ってきて料理することも出来るのですが、この辺りの魔物は狩り尽くしてしまいました。
今は使用人に与えられる僅かな食事を全てサーシャ様に渡して、私はその辺の草を食べて凌いでいます。
毒草の勉強をしていて良かったと思う日が来るとは思いませんでした。
「そうよね……。
サーシャが居なかったら、私はもう生きていないわ。いつもありがとう」
「これくらいのことしか出来ず、申し訳ありません」
「もし私が死んだら、この子だけでもいいから領地に連れて行って欲しいわ」
どうして、恨んでいるはずの男との間に授かった子を守ろうとするのでしょうか?
私には理解できませんでした。
「まだオズワルド様のことを愛しているのですか?」
「いいえ、もう見限っているわ。でも、この子に罪は無いの。
それに……私の子だから、無事に育ってほしいのよ」
「そうだったのですね。私、勘違いしていたようです」
「ダリアもお母さんになったら分かるわ」
この時のサーシャ様の笑顔はどこか悲しげで、目頭が熱くなってしまいました。
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