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10. また悪夢のようです

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 あれから少しして、私とオズワルド様の婚約解消は正式なものになった。
 正式なものになったということは、この事実が他の貴族達に知られることにもなる。

 当然、学院では私に関する良くない噂も立つと思う。
 けれども、それは些細なこと。

 私にとっては、あの地獄のような日々を回避出来ただけでも嬉しいのだから、うれえるよりも喜ぶ気持ちが勝っている。

「無事に解消出来て良かったですね」
「ええ。ひとまず安心出来るわ」

 そんなわけで、私はダリアとのんびりお茶をしている。
 普段は主従の関係になっているけれど、ダリアは大切な友人でもあるから、こういう時は対等にお話しているつもりだ。

 普段の言葉遣いの方が話し易いから、ダリアの敬語は全く抜けていないけれど……。

「ですが、あのリリア様が気になります。オズワルド様よりもサーシャ様のことを気にしている感じがしましたので」
「リリア様が?」
「はい。ずっとサーシャ様のことを見ていましたよ。気付かれませんでしたか?」
「オズワルド様のことばかり気にしていたから……」
「あれは何か恨んでいるような目でしたね」

 私には恨まれるようなことをした記憶が無かったから、ダリアの言葉は意外だった。

 リリア様がオズワルド様を好きなのだったら、嫉妬されることには納得出来る。
 婚約が解消になって、オズワルド様はリリア様が自由に出来るようになったのだから、もう恨まれないはずだから不安には思わない。

「もう恨まれる理由も無いから、気にしなくても良いと思うわ」
「それもそうですね」

 嫉妬心は恐ろしいもの。これは社交界に少しでも参加したことがあれば、社交界を目指していれば誰もが知るようなこと。
 だから、嫉妬される覚悟は出来ている。

 私が嫉妬されるようなことと言えば、お母様が王家から降嫁してきた王女様で、私がお母様と同じように治癒の力を使えるということくらい。
 改めて考えると、私は羨まれるような立場かもしれないわ。

 でも、一度の婚約解消した令嬢というレッテルが貼られることになるから、羨まれることも無くなると思う。


 ちなみに、婚約や結婚を証明する書類は王宮に保管されている。
 婚約解消や離婚があった時は、大聖堂の神官様の手によって書類に大きく×バツ印を付けてから別の場所に保管されることになっている。

 その事から、婚約解消歴がある人は回数に応じてバツイチやバツニなどと呼ばれるのよね……。
 つまり私はバツイチというわけ。

「……ですが、油断は禁物ですよ。バツイチでも狙ってくる殿方が居ないとは限りませんから」
「まさか、そんな物好きがいるとは思えないわ」
「そういえば、ヴィオラ様のお兄様は婚約者を探しているそうですね」
「あのお方とは15回くらいしか会っていないのよ? 婚約なんてあり得ないわ」
「それ、かなりお会いしていると思いますが……」

 会った回数が多くても、好かれている可能性は低いと思うの!
 それに、妊娠出産はもう経験したく無いから、婚約を申し込まれてもお断りしたい。

 でも、ヴィオラ様との関係を考えると簡単には断れないのよね……。
 うぅ、頭が痛いわ。

「今は何も考えないことにするわ」
「それでは何も解決になりませんが……。もう遅いですから、そろそろ戻りましょう」

 結婚から逃げられないかもしれない。
 そのことが分かってしまったから、夕食中の私は気分が落ち込んでいた。

 家族のみんなを心配させたく無いから、笑顔の仮面は貼り付けていたけれど。

「サーシャ、これも食べるか?」
「これあげるから、元気出して」

 私の演技はお見通しで、デザートが私の目の前に集まっていた。



   ◇  ◇  ◇


 翌朝。
 いつもよりも早く目を覚ました私は、お茶を淹れようとキッチンに向かっていた。
 けれども、その途中。

「サーシャ様! サーシャ様!」

 ダリアの部屋の中から叫び声が聞こえたから、慌てて中に入る私。

「ダリア、どうしたの!?」
「はっ……」

 声をかけると、目を覚ましたダリアは勢いよく起き上がった。
 私が悪夢を見ていた時のように、髪が汗で濡れて頬に張り付いている。

「何かあった? 大丈夫?」

 珍しく息を上げているダリアに問いかける私。
 目が合うと、ダリアは落ち着きを取り戻したみたいで、次の瞬間には頭を下げていた。

「申し訳ありません。悪夢を見ていて……。
 その、サーシャ様が亡くなられる夢でしたので」
「詳しく教えてもらえる?」
「ええ、もちろんです」

 そう頷いてから、ダリアは夢の内容を語り始めた。
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