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第2章

125. 依頼を受けます

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「他には大丈夫でしょうか?」

「ええ、私からは以上ですわ」

「畏まりました。
 それでは、レイノルド様のご要望をお聞きします」

 そんな会話に続けて、一礼してからクラウスに向き直るトーマスさん。
 クラウスはすぐに視線を上げると、こう口にした。

「そうですね……まず地下に懲罰用の部屋を用意してください。それから、災害から逃れるための地下室もお願いします。
 屋上も必要になると思うので、階段で登れるようにしたいです」

「承知しました。他にご要望はございますか?」

「他はトーマスさんが手がけてきた貴族の邸宅を踏襲して頂けると助かります。
 お客様を招くための応接室と広間は、他家に引けを取らないようにお願いします。
 以上です」

「畏まりました。では、来週までに設計図を作成します。
 細かい部分はそれからお話いたしましょう」

「お願いしますわ。今日は本当にありがとうございました」

「とんでもないことでございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 挨拶を交わしてから、応接室を後にする私達。
 最初に考えていたよりも立派になりそうだからお金のことが心配だけれど、設計図の完成はすごく楽しみだから、身体も軽くなったような気がする。

「楽しそうだね?」

「ええ、完成が待ちきれないわ」

「ああ、俺も同じ気持ちだよ。
 あとは……贅沢に染まってシエルに失望されないように気を付けるだけだね」

「失望はしないわ。注意しても聞いてもらえなかったら考えるけれど。
 ……私も贅沢に染まるかもしれないから気を付けなくちゃ」

「大きい買い物をするときは陥りやすいから、お互いに気を付けよう」

「ええ、もちろん」

 お互いに笑顔を浮かべながら私室に向けて足を進め、クラウスと手を重ねたまま私の部屋に入る私。
 そんな時、待ち構えていた執事さんに引き留められてしまった。

「シエル様、グレーティア家の兵士から手紙を預かっております。
 早急に確認されますようお願いします」

「分かりましたわ。ありがとうございます」

 家の兵士が届けに来たということは、すぐに私に伝える必要がある大事が起きたということ。
 封筒書かれている字はいつものお兄様の筆跡だから、私達にとって悪い知らせではないと思う。けれど、初めてのことだから嫌な予感がしてならない。

「俺のことは気にしなくて良いから、早く読んだ方が良い」

「ありがとう」

 クラウスにも促されたから、周りを気にせず部屋に入ってすぐ、護身用の短剣で封を切った。
 立ちながら手紙を読むのはマナー違反だけれど、今はそんなことを言っていられる状況ではないから、そのまま目を通した。

「悪い知らせではなかったわ」

「そうか、それは良かったよ。何が書かれていたか聞いても良いかな?」

「ええ。グレールの王家が倒されたわ。
 それに……えっと、七割近い貴族も領民の反乱にあって倒れたみたい」

 私は王家だけが恨みを買っていると思っていたから、思わず同じ文章を三回も読んでしまったのよね。
 見間違いだと思ったけれど、三回読んでも内容は変わらない。

「貴族が七割も倒れたって?
 何かの冗談か?」

「本当よ。お兄様はこんな大事なことで嘘を書いたりしないもの」

 問題の分を指さしながらクラウスに見せると、彼は何度も同じところで視線を往復させた。
 見間違いだと思うのは、クラウスも同じだったみたい。

「貴族も、か。あり得ない話では無いが……俺の予想は外れたよ」

「お兄様の分析だと、重税に加えて偽聖女に家族を奪われたことで、不満が爆発したみたいなの。
 幸いにも私の家は税を軽くしていたから、他が苦しんでいると知った領民達に今まで以上に感謝されているみたいだわ」

「シエルの家族が無事で良かった。
 まだ混乱が続くはずだから、油断はできないだろうが……」

「ええ。でも、今の警備体制なら何も起こらないと思うわ」

「それなら良いが、油断は出来ないだろうな」

 お兄様もクラウスと同じことを考えているみたいで、無事な貴族と協力して平定に向けて動くと手紙に書いてある。

 詳しいことを書く余裕は無かったのか、それとも情報が入っていないのか分からないけれど、これ以上のことは書かれていない。
 

 それでも、最後には「無謀なことはしない」と書いてあるから、私は今まで通りに過ごしていても大丈夫そうだわ。

「油断は出来ないけれど……私に出来ることは無いから、私達は私達のことを優先しましょう」

「そうだな。
 明日は久々に大きい依頼でも探しに行こう。
 楽しい依頼があると良いが、無くても楽しもう」

 そんな言葉と共に右手を差し出されたから、私はしっかりと頷きながら右手を重ねた。



   ◇



 翌朝。久々に冒険者としての服を纏った私達は、冒険者ギルドに足を踏み入れた。
 もう男装はしていないけれど、必要無くなったからしていないだけ。

 必要になればいつでも男装出来るように、道具は残してあるのよね。

 冒険者ギルドの中は、帝都復興に関する依頼が多お陰でフレイムワイバーンの襲撃前よりも大勢が行き交っている。

 今の帝都は稼ぎ時。
 そんな言葉が方々で聞こえるくらいには、冒険者が集まっているらしい。

 魔物と戦わずに大金が手に入るのだから、当然と言えば当然なのだけど、その弊害で街の外の魔物の数はかなり増えてしまっていて、魔物討伐の依頼の報奨金は普段の二倍以上になっているけれど、こちらは中々受ける人が居ないという噂だ。

 皆が安全を優先する気持ちは分かるけれど、少しは冒険者の責務を果たして欲しいと思ってしまう。

「こんなに沢山残っている状況は初めてだよ。どれにしようか迷うな」

「あの依頼はどうかしら? 報奨金は高いけれど、楽しそうだわ」

「放棄された街の魔物殲滅か。確かに楽しそうだね。
 建物を壊しても問題無いらしいから、思う存分練習出来るよ」

「そうね。すぐに受けましょう」

 依頼主が皇帝陛下というのが少し気になるけれど、強い魔物は居ないはずだから街中で戦う練習には丁度良いと思う。
 フレイムワイバーンの時は建物を巻き込まないように気を付けるだけで精一杯だったから、次に備えておきたいのよね。

「それにしても、流石は帝国だな。同じくらいの報奨金の依頼が二十個近くあるよ」

「全部受け……」

「るのは無理だよ。時間が足りない。
これだけはSランクだから受けるけど、残りは他の人に任せた方が良い」

「分かったわ」

 そんなやり取りの後、依頼書を受け付けまで持っていくクラウス。
 冒険者ギルドの中で手を重ねたりすると妬まれるらしいから、私は少し距離を置いて彼の後を追った。

「この依頼でお願いします」

「これですか……? 報奨金は弾みますが、止める事をお勧めします。
 簡単に見えますが、今までにこの場所に向かった冒険者はAランクでも未帰還となっています。Sランクのお二人でも、危険な事は変わりありません」

「そうですか。少し相談します」

 そう断りを入れてから、私の方に向き直るクラウス。
 彼は少し重い口調でこんな問いかけをしてきた。

「俺達なら大丈夫だとは思うけど、シエルはどうしたい?」

「すごく強い魔物が居るかもしれないのよね?」

「そういうことだと思う。目撃情報が無いから、気付けないまま一方的に攻撃される可能性もある。
 だが、放っておいたら次の被害が出るはずだ」

「そんなの放っておけないわ。受けましょう」


 危険かもしれないけれど、防御魔法と治癒魔法があれば生きて帰ることは出来ると思う。
 だから、危険を承知でこの依頼を受けることに決めた。

 クラウスも反対するつもりは無いみたいで、私の言葉に頷くと受付の方に向き直った。
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