上 下
117 / 124
第2章

117. side 恐怖で抑えた結果

しおりを挟む
 大聖祭まで四日となった日の昼下がりのこと。
 帝都にある貴族向けのホテルの一室で、とあるやり取りがされていた。

 この部屋に集まっているのは、カグレシアン公爵とその側近達で、会話が聞かれないようにと防音の魔法が張られている。

「計画は順調なのだな?」

「もちろんでございます。王家の掌握は完璧でございます」

 王家を洗脳し血を流すことなく王位簒奪をするという計画を進めているカグレシアン公爵は、側近からの言葉を聞いて満足そうに笑顔を浮かべた。
 しかし、その言葉がすべて偽りであることには一切気が付かなかった。

 虚偽の報告にも、計画の失敗にも、カグレシアン公爵自身の気に入らない結果をもたらした人物と家族を必ず処刑するという恐怖政治を行っていることが原因なのだが、公爵は恐怖政治があれば絶対に裏切られないと考えている。

(今回もなんとか隠し通せそうですね……。
 聖女様が行方不明になってから、王家は操られていたことに気付きましたが……閣下が帝国で罪人として裁かれれば問題ありません)

 その結果、こう考える側近がこの場にいる全員だとは気付けなかった。
 この場にいる側近は全員が帝国側に内通しており、大聖祭の時にはカグレシアン公爵の罪状を証言することになっている。

 身の安全を保障すると提案してきた帝国側に従わないという側近は居なかった。
 カグレシアン公爵が罪人として帝国に捕えられれば、理不尽に一家全員が処刑されるということも無くなる。

「そうか。では、大聖祭では予定通り王位に就いたと宣言を行う。
 成功のために最後まで頼んだぞ」

「承知いたしました」

「残りの三日は自由に過ごして良いぞ。
 王位に就けばまた忙しくなるだろうから、しっかりと休むようにしたまえ」

「お気遣いに感謝します」

「今日の会議はここまでにする。戻って良いぞ」

「承知いたしました。失礼致します」

 恭しく頭を下げ、いそいそと部屋を後にする側近達。
 彼らは割り振られた部屋に戻ると、すぐに荷物を纏めて帝国側が用意したホテルへと移動を始めていた。



   ◇



 同じ頃、アルベール王国では密かに王家の崩壊を企てる人々が動き始めていた。

 今の王国内はかなり不安定な状態で、多数の死者を出したことから聖女や王家への不満もかなり溜まっている。
 一方の王家はというと、聖女が失踪してしばらくしてから自らが操られていた可能性に気付いていて、必死に王国の立て直しを行おうとしていた。

 しかし、既に手遅れになりつつあり、王都のあちこちで暴動が頻発している状況で、貴族達は全員が王都外へと非難している状況だ。
 そんな中、王国内では一番安全と言われているグレーティア領の屋敷では、有力貴族達が集まって会談が行われている。

「王制を廃し、数年ごとに代表を決める方法……確か隣の大陸にある共和国で前例がありますな。
 あの国は民達が選挙で代表を選んでいるから、政治不安は少ないとか」

「しかし、それでは我々貴族の生活が危うくなります」

「貴殿のおっしゃる通り、かの国のやり方では我々の地位は無くなるでしょう。
 故に、貴族が交代で王を務めるというのは如何でしょうか?
 王が過ちを起こさないように皆で監視し、法を決める時は貴族の中で投票を行う。こうすれば権力を持ったとしても暴走することは無くなるでしょう」

「その案は良さそうですな。賛成の方は挙手をお願いします」

 自分たちの利権が守られ、それでいて今回の騒ぎの原因となった王家の暴走を防げる。
 けれど思い付きの案だから、粗も少なくない。

 だからこの場の貴族の大半は悩んでいる様子を見せた。
 しかし、少しすれば考えが固まったようで、ほぼ全員が手を挙げる結果になった。

 こうして話の中心は新しい体制の細かな部分を詰めることに向かっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家
恋愛
マトリカリア伯爵家は代々アドニス王国軍の衛生兵団長を務める治癒魔法の名門です。 神々に祝福されているマトリカリア家では長女として胸元に十字の聖痕を持った娘が必ず生まれます。 その娘が使う強力な治癒魔法の力で衛生兵をまとめ上げ王国に重用されてきました。 そのため、家督はその長女が代々受け継ぎ、魔力容量の多い男性を婿として迎えています。 しかし、今代のマトリカリア伯爵令嬢フリージアは聖痕を持って生まれたにも関わらず治癒魔法を使えません。 それでも両親に愛されて幸せに暮らしていました。 衛生兵団長を務めていた母カトレアが急に亡くなるまでは。 フリージアの父マトリカリア伯爵は、治癒魔法に関してマトリカリア伯爵家に次ぐ名門のハイドランジア侯爵家の未亡人アザレアを後妻として迎えました。 アザレアには女の連れ子がいました。連れ子のガーベラは聖痕こそありませんが治癒魔法の素質があり、治癒魔法を使えないフリージアは次第に肩身の狭い思いをすることになりました。 アザレアもガーベラも治癒魔法を使えないフリージアを見下して、まるで使用人のように扱います。 そしてガーベラが王国軍の衛生兵団入団試験に合格し王宮に勤め始めたのをきっかけに、父のマトリカリア伯爵すらフリージアを疎ましく思い始め、アザレアに言われるがままガーベラに家督を継がせたいと考えるようになります。 治癒魔法こそ使えませんが、正式には未だにマトリカリア家の家督はフリージアにあるため、身の危険を感じたフリージアは家を出ることを決意しました。 しかし、本人すら知らないだけでフリージアにはマトリカリアの当主に相応しい力が眠っているのです。 ※最初は胸糞悪いと思いますが、ざまぁは早めに終わらせるのでお付き合いいただけると幸いです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...