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第2章
117. side 恐怖で抑えた結果
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大聖祭まで四日となった日の昼下がりのこと。
帝都にある貴族向けのホテルの一室で、とあるやり取りがされていた。
この部屋に集まっているのは、カグレシアン公爵とその側近達で、会話が聞かれないようにと防音の魔法が張られている。
「計画は順調なのだな?」
「もちろんでございます。王家の掌握は完璧でございます」
王家を洗脳し血を流すことなく王位簒奪をするという計画を進めているカグレシアン公爵は、側近からの言葉を聞いて満足そうに笑顔を浮かべた。
しかし、その言葉がすべて偽りであることには一切気が付かなかった。
虚偽の報告にも、計画の失敗にも、カグレシアン公爵自身の気に入らない結果をもたらした人物と家族を必ず処刑するという恐怖政治を行っていることが原因なのだが、公爵は恐怖政治があれば絶対に裏切られないと考えている。
(今回もなんとか隠し通せそうですね……。
聖女様が行方不明になってから、王家は操られていたことに気付きましたが……閣下が帝国で罪人として裁かれれば問題ありません)
その結果、こう考える側近がこの場にいる全員だとは気付けなかった。
この場にいる側近は全員が帝国側に内通しており、大聖祭の時にはカグレシアン公爵の罪状を証言することになっている。
身の安全を保障すると提案してきた帝国側に従わないという側近は居なかった。
カグレシアン公爵が罪人として帝国に捕えられれば、理不尽に一家全員が処刑されるということも無くなる。
「そうか。では、大聖祭では予定通り王位に就いたと宣言を行う。
成功のために最後まで頼んだぞ」
「承知いたしました」
「残りの三日は自由に過ごして良いぞ。
王位に就けばまた忙しくなるだろうから、しっかりと休むようにしたまえ」
「お気遣いに感謝します」
「今日の会議はここまでにする。戻って良いぞ」
「承知いたしました。失礼致します」
恭しく頭を下げ、いそいそと部屋を後にする側近達。
彼らは割り振られた部屋に戻ると、すぐに荷物を纏めて帝国側が用意したホテルへと移動を始めていた。
◇
同じ頃、アルベール王国では密かに王家の崩壊を企てる人々が動き始めていた。
今の王国内はかなり不安定な状態で、多数の死者を出したことから聖女や王家への不満もかなり溜まっている。
一方の王家はというと、聖女が失踪してしばらくしてから自らが操られていた可能性に気付いていて、必死に王国の立て直しを行おうとしていた。
しかし、既に手遅れになりつつあり、王都のあちこちで暴動が頻発している状況で、貴族達は全員が王都外へと非難している状況だ。
そんな中、王国内では一番安全と言われているグレーティア領の屋敷では、有力貴族達が集まって会談が行われている。
「王制を廃し、数年ごとに代表を決める方法……確か隣の大陸にある共和国で前例がありますな。
あの国は民達が選挙で代表を選んでいるから、政治不安は少ないとか」
「しかし、それでは我々貴族の生活が危うくなります」
「貴殿のおっしゃる通り、かの国のやり方では我々の地位は無くなるでしょう。
故に、貴族が交代で王を務めるというのは如何でしょうか?
王が過ちを起こさないように皆で監視し、法を決める時は貴族の中で投票を行う。こうすれば権力を持ったとしても暴走することは無くなるでしょう」
「その案は良さそうですな。賛成の方は挙手をお願いします」
自分たちの利権が守られ、それでいて今回の騒ぎの原因となった王家の暴走を防げる。
けれど思い付きの案だから、粗も少なくない。
だからこの場の貴族の大半は悩んでいる様子を見せた。
しかし、少しすれば考えが固まったようで、ほぼ全員が手を挙げる結果になった。
こうして話の中心は新しい体制の細かな部分を詰めることに向かっていった。
帝都にある貴族向けのホテルの一室で、とあるやり取りがされていた。
この部屋に集まっているのは、カグレシアン公爵とその側近達で、会話が聞かれないようにと防音の魔法が張られている。
「計画は順調なのだな?」
「もちろんでございます。王家の掌握は完璧でございます」
王家を洗脳し血を流すことなく王位簒奪をするという計画を進めているカグレシアン公爵は、側近からの言葉を聞いて満足そうに笑顔を浮かべた。
しかし、その言葉がすべて偽りであることには一切気が付かなかった。
虚偽の報告にも、計画の失敗にも、カグレシアン公爵自身の気に入らない結果をもたらした人物と家族を必ず処刑するという恐怖政治を行っていることが原因なのだが、公爵は恐怖政治があれば絶対に裏切られないと考えている。
(今回もなんとか隠し通せそうですね……。
聖女様が行方不明になってから、王家は操られていたことに気付きましたが……閣下が帝国で罪人として裁かれれば問題ありません)
その結果、こう考える側近がこの場にいる全員だとは気付けなかった。
この場にいる側近は全員が帝国側に内通しており、大聖祭の時にはカグレシアン公爵の罪状を証言することになっている。
身の安全を保障すると提案してきた帝国側に従わないという側近は居なかった。
カグレシアン公爵が罪人として帝国に捕えられれば、理不尽に一家全員が処刑されるということも無くなる。
「そうか。では、大聖祭では予定通り王位に就いたと宣言を行う。
成功のために最後まで頼んだぞ」
「承知いたしました」
「残りの三日は自由に過ごして良いぞ。
王位に就けばまた忙しくなるだろうから、しっかりと休むようにしたまえ」
「お気遣いに感謝します」
「今日の会議はここまでにする。戻って良いぞ」
「承知いたしました。失礼致します」
恭しく頭を下げ、いそいそと部屋を後にする側近達。
彼らは割り振られた部屋に戻ると、すぐに荷物を纏めて帝国側が用意したホテルへと移動を始めていた。
◇
同じ頃、アルベール王国では密かに王家の崩壊を企てる人々が動き始めていた。
今の王国内はかなり不安定な状態で、多数の死者を出したことから聖女や王家への不満もかなり溜まっている。
一方の王家はというと、聖女が失踪してしばらくしてから自らが操られていた可能性に気付いていて、必死に王国の立て直しを行おうとしていた。
しかし、既に手遅れになりつつあり、王都のあちこちで暴動が頻発している状況で、貴族達は全員が王都外へと非難している状況だ。
そんな中、王国内では一番安全と言われているグレーティア領の屋敷では、有力貴族達が集まって会談が行われている。
「王制を廃し、数年ごとに代表を決める方法……確か隣の大陸にある共和国で前例がありますな。
あの国は民達が選挙で代表を選んでいるから、政治不安は少ないとか」
「しかし、それでは我々貴族の生活が危うくなります」
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「その案は良さそうですな。賛成の方は挙手をお願いします」
自分たちの利権が守られ、それでいて今回の騒ぎの原因となった王家の暴走を防げる。
けれど思い付きの案だから、粗も少なくない。
だからこの場の貴族の大半は悩んでいる様子を見せた。
しかし、少しすれば考えが固まったようで、ほぼ全員が手を挙げる結果になった。
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