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第2章

81. 許せないこと

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 リリアに闇魔法を教えると決めてからしばらくして、一通りのことを教え終えた私達は夕食のために集まっていた。
 ここダイニングは伯爵家という家名相応の作りになっているけれど、王太子殿下と正式に婚約して王都の屋敷に移動するまでずっと暮らしてきたお屋敷だから、一番居心地が良い。

 侯爵家になると二回りほど広くなるから、落ち着かないこともあったのよね。
 クラウスが持っている家だって二人で過ごすには広すぎたから、今が最近で一番落ち着けている気がする。

「一通り落ち着いたことだから、爵位についての情報共有をしておきたい」

 今日ここに来たのはお兄様の怪我を治すためだったけれど、お兄様が爵位を取る計画にも動きがあったみたいで、早速お兄様が口を開いた。

「分かりましたわ。計画は順調ですの?」

「ああ。父上が政務に一切かかわっていない証拠は集め終えているから、あとは陛下に提出するだけだ。
 その時にまた幻惑の魔法をかけられる心配はあるが、リリアが解けるようになった今なら問題も無いだろいう」

 お兄様はアイリス様のことを警戒していて、今まで動きを止めていたらしい。
 けれど準備が整っている今なら、爵位がお兄様に移るのも時間の問題だと思う。

 婚約者様との関係も良いはずだから、爵位を譲り受けると同時に結婚することになるのかしら?
 もしもそうなったら、リリアがここに居座っているのは色々と問題になってしまうから、考えることはまだまだありそうだ。

「爵位を授かった後のことは考えていますの?」

「ああ、もちろん。
 リリアのことはメアリーに話して、今の物置小屋があるところで暮らしても問題無いと言ってもらえている。食事も一緒で良いそうだ」

「そこまで話が進んでいますのね。
 でも、物置小屋だと隙間風が気になると思いますわ」

 いくら恨みがあるとはいえ、妹を物置小屋で過ごさせるなんて出来ない。
 今は使われていなくても綺麗に保たれているから、雨風をしのぐための場所と割り切ればなんとかなるかもしれない。

 でも、土が剥き出しの床の上での生活に、蝶よ花よと育てられてきたリリアが耐えられるとは到底思えなかった。
 だから心配になってしまって、流石にお兄様も何か考えているとは思うけれど、闇魔法をかけられていた後遺症があるかもしれないから、念のためにと問い返す。

「流石にそのまま住ませることはしない。
 建物自体は丈夫だったから、改造して人が住めるようにするつもりだ」

「しっかり考えてありますのね。
 でも、今からで間に合いますの? それに、費用のことも……」

「あとは内装で完成だから、問題無いと思う。
 費用も、父上達にお金が無駄に流れないようにしたら、お釣りが来た」

 改造の費用のことも、住む人の負担のことも考えられているみたいで、嬉しいことに私の入り込む余地は無かった。
 リリアも頷いているから、本人も納得している様子。

 幻惑の魔法をかけられていて疲れ切っていたのに、抜けが無いだなんて……敵には絶対に回したくないと思ってしまった。


 お兄様の結婚後のお話しは食事が運ばれてくるときには終わっていて、夕食中はお互いの近況のことをお話ししたり、雑談も楽しみながらの時間になった。
 クラウスに遠慮させてしまっているから少し申し訳ない気持になってしまったけれど……。

「シエルの家族の会話は聞いているだけでも楽しいから、気にしなくて良い」

「ありがとう。クラウスこそ遠慮しなくても大丈夫よ?」

「分かった」

 そんな言葉を交わしていると、リリアが私とクラウスへ交互に視線を送っていることに気付いた。
 何を気にしているのか分からないけれど、何かを話したい様子。

 だから私はリリアに視線を向けて、質問するように促してみる。
 
「答えにくいかもしれないですけれど、お姉様とクラウス様はどういう関係ですの?」

「冒険者仲間よ。婚約もしているけれど」

「大切な仲間と言いたいところだが……婚約も受け入れてもらったから、ただの冒険者というのは無理があるかもしれない」

 クラウスと婚約を結んだことは隠していないけれど、リリアが暖かい視線を送って来てからは気恥ずかしくなってしまった。
 この婚約も家同士の絡みは無くて、私とクラウスの気持ちだけで決めたものだから、大っぴらに言えるようなことでもないけれど……家族への報告は必要だからいい機会だと思う

「いつの間に婚約まで行っていましたのね。お姉様が幸せになれそうで安心しましたわ」

「リリアは婚約者様と交流できているの?」

「ええ。直接会う回数は減ってしまいましたけれど、毎日手紙でお話しているから寂しくはありませんわ」

 お兄様もリリアも婚約者様との関係は良好みたいだから、兄妹揃って幸せな未来を迎えられると思う。

 両親に邪魔をされないようにしなくちゃいけないけれど……お兄様が逃げ道を塞いでいるから、心配の必要も無さそうだ。

「それなら良かったわ。
 浮気の気配も無いわよね?」

「大丈夫ですわ。
 そもそも、大抵の人は浮気なんてしませんもの」

「そうだったわ。あの王子が特殊なだけよね」

 思い返してみれば、浮気されたのはアイリス様が闇魔法で仕向けたのかもしれない。
 けれど、アイリス様が現れる前から、もっと言えばお付き合いを始めた時から王子殿下との関係は冷え切っていたから、アイリス様が居なくても変わらなかったと思う。

「……ずっと幸せなリリアが羨ましいわ」

「そうでもありませんわ。
 わたくし、常識が足りないみたいで……よく怒られてしまいますの」

「お母様が甘やかした弊害ね。
 婚約者様、呆れていないかしら?」

「すぐに直しているので大丈夫だと思いますわ。
 怒られた数だけ、褒めて頂けていますもの」

 今は私も幸せだけれど、無駄に過ごしてきた二年間が恨めしい。
 物なら取り返せても、時間はどんな手を使っても戻らないのよね。

 だから、リリアにされたことを本心から許す日は訪れても、あの王子を赦す日は来なさそうだと感じてしまった。
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