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第1章
70. 捨て台詞
しおりを挟む あの後、冒険者ギルドへの報告を済ませた私達は、お祭り騒ぎには参加せずに公爵邸に戻った。
大した被害が出なかったことで、裁判の予定は明日のまま。
だから、今日はしっかり休んで、明日に備えることに決めている。
グレン様の話では、裁判の後に皇帝陛下との謁見もあるみたいだから、万全にして臨みたい。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
もうベットに入っているから、部屋の扉が閉められると、そのまま目を閉じた。
◇
翌日、昨日と同じように正装を纏った私は、今度は傍聴席から裁判に参加している。
今回はスカーレット公爵を裁くためのもので、被害者の席には誰の姿も見えない。
昨日までの裁判で証拠が固まっているから、もう一度証言を取ったりはしないということらしい。
「これよりスカーレット公爵の裁判を執り行う」
裁判長は皇帝陛下で、スカーレット公爵様が入ってきてからずっと鋭い視線を送り続けている。
顔には出ていないけれど、かなりご立腹の様子だ。
「これから、お前が犯した罪を読み上げる。
全て証拠が揃っているから反論の余地は無いが、言いたいことがあれば後で纏めて聞く」
そんな言葉を皮切りに、次々と罪状が読み上げられていく。
私が証拠集めをした、エイブラム家の失脚を狙った偽装だけでなく、他にも平民の虐殺や危険な魔法の実験、さらには皇位簒奪を狙っての工作に、炎龍を呼び寄せるための儀式魔法の使用。
隠密の身分を偽装して学院に潜入させ、色々な工作をしていたという、私の耳まで痛くなるような罪も読み上げられていた。
私の身分偽装はある事をしているから罪に問われる事は無いのだけど、それでも他の人が咎められている様子を見ると不安が過ってしまう。
「特に皇位簒奪を狙っての数々の危険な行いに、炎龍を呼び寄せるという国家の存続を揺るがす行いは許せない。
よって、お前は爵位剥奪の上で極刑に処す。異議があれば申してみよ」
「エイブラム家の失脚を狙っていたのは、勘当したヴィオラの仕業です。炎龍を招こうとしたり、皇位簒奪を図ったこともありません!」
「ヴィオラ、異議はあるか?」
どうやらスカーレット公爵様は、ヴィオラ様に罪を押し付けようと考えているみたいで、話を振られてしまう。
ヴィオラ様には証拠偽装によってフィーリア様の名誉を損ねたという罪での裁判が待っているけれど、今は証人の席に座っているから発言も許されるのよね。
「ありますわ。わたくしは父に指示されて行動していました。ですから、わたくしの意思だという主張は誤っています」
「騎士団の取り調べの結果や証拠からも、そのように読み取れる。今はエイブラム家に好意的であることから、対立心も無いと考えられる。
ヴィオラの主張の方が正しいだろう」
どんなに頑張っても、スカーレット公爵様が言い逃れすることは出来ないと思う。
既に数々の人殺しの証拠に、不正の証拠が出ているのだから。
炎龍を呼び寄せる魔法のことは、存在すら知らなかったけれど、証拠が押さえられているに違いない。
「陛下は女の主張を信じるという愚行を犯すおつもりですか?」
「貴様は未だに男尊女卑などという愚かな考えを持っていたな。
やはり爵位は早々に剥奪しておくべきだったか……」
そう口にする皇帝陛下の口調からは、後悔を感じられる。
それなのにスカーレット公爵様は諦められない様子で、次々と罪の押し付けを始めてしまった。
使用人の独断と言っては証拠を出されて一蹴され、他の貴族の責にしようとしては反感を買い、これもまた一蹴され、しまいには皇帝陛下が悪いなどと言い出して……。
「もうよい。何度喚いてもお前の爵位剥奪は変わらぬ。
スカーレット公爵以外で、この処罰に異議のある者は居るか?」
……呆れ顔の陛下は、公爵様にこれ以上語らせないように遮った。
手が挙げられる事はなくて、スカーレット公爵様の極刑が決まった。
「こんな国、呪われてしまえ」
多くの人のことを殺めた人の言葉は、身体の底から冷え切ってしまうほど恐ろしい。
けれど、その顔は絶望に歪んでいるから、苦し紛れで放った言葉だと分かる。
直接被害を受けていない私は、その顔を見ても悦に浸ることなんて出来ないけれど、大切な人を奪われた人は大喜びしそうだわ。
雑に退場させられている背中を見て、そんな事を思ってしまった。
大した被害が出なかったことで、裁判の予定は明日のまま。
だから、今日はしっかり休んで、明日に備えることに決めている。
グレン様の話では、裁判の後に皇帝陛下との謁見もあるみたいだから、万全にして臨みたい。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
もうベットに入っているから、部屋の扉が閉められると、そのまま目を閉じた。
◇
翌日、昨日と同じように正装を纏った私は、今度は傍聴席から裁判に参加している。
今回はスカーレット公爵を裁くためのもので、被害者の席には誰の姿も見えない。
昨日までの裁判で証拠が固まっているから、もう一度証言を取ったりはしないということらしい。
「これよりスカーレット公爵の裁判を執り行う」
裁判長は皇帝陛下で、スカーレット公爵様が入ってきてからずっと鋭い視線を送り続けている。
顔には出ていないけれど、かなりご立腹の様子だ。
「これから、お前が犯した罪を読み上げる。
全て証拠が揃っているから反論の余地は無いが、言いたいことがあれば後で纏めて聞く」
そんな言葉を皮切りに、次々と罪状が読み上げられていく。
私が証拠集めをした、エイブラム家の失脚を狙った偽装だけでなく、他にも平民の虐殺や危険な魔法の実験、さらには皇位簒奪を狙っての工作に、炎龍を呼び寄せるための儀式魔法の使用。
隠密の身分を偽装して学院に潜入させ、色々な工作をしていたという、私の耳まで痛くなるような罪も読み上げられていた。
私の身分偽装はある事をしているから罪に問われる事は無いのだけど、それでも他の人が咎められている様子を見ると不安が過ってしまう。
「特に皇位簒奪を狙っての数々の危険な行いに、炎龍を呼び寄せるという国家の存続を揺るがす行いは許せない。
よって、お前は爵位剥奪の上で極刑に処す。異議があれば申してみよ」
「エイブラム家の失脚を狙っていたのは、勘当したヴィオラの仕業です。炎龍を招こうとしたり、皇位簒奪を図ったこともありません!」
「ヴィオラ、異議はあるか?」
どうやらスカーレット公爵様は、ヴィオラ様に罪を押し付けようと考えているみたいで、話を振られてしまう。
ヴィオラ様には証拠偽装によってフィーリア様の名誉を損ねたという罪での裁判が待っているけれど、今は証人の席に座っているから発言も許されるのよね。
「ありますわ。わたくしは父に指示されて行動していました。ですから、わたくしの意思だという主張は誤っています」
「騎士団の取り調べの結果や証拠からも、そのように読み取れる。今はエイブラム家に好意的であることから、対立心も無いと考えられる。
ヴィオラの主張の方が正しいだろう」
どんなに頑張っても、スカーレット公爵様が言い逃れすることは出来ないと思う。
既に数々の人殺しの証拠に、不正の証拠が出ているのだから。
炎龍を呼び寄せる魔法のことは、存在すら知らなかったけれど、証拠が押さえられているに違いない。
「陛下は女の主張を信じるという愚行を犯すおつもりですか?」
「貴様は未だに男尊女卑などという愚かな考えを持っていたな。
やはり爵位は早々に剥奪しておくべきだったか……」
そう口にする皇帝陛下の口調からは、後悔を感じられる。
それなのにスカーレット公爵様は諦められない様子で、次々と罪の押し付けを始めてしまった。
使用人の独断と言っては証拠を出されて一蹴され、他の貴族の責にしようとしては反感を買い、これもまた一蹴され、しまいには皇帝陛下が悪いなどと言い出して……。
「もうよい。何度喚いてもお前の爵位剥奪は変わらぬ。
スカーレット公爵以外で、この処罰に異議のある者は居るか?」
……呆れ顔の陛下は、公爵様にこれ以上語らせないように遮った。
手が挙げられる事はなくて、スカーレット公爵様の極刑が決まった。
「こんな国、呪われてしまえ」
多くの人のことを殺めた人の言葉は、身体の底から冷え切ってしまうほど恐ろしい。
けれど、その顔は絶望に歪んでいるから、苦し紛れで放った言葉だと分かる。
直接被害を受けていない私は、その顔を見ても悦に浸ることなんて出来ないけれど、大切な人を奪われた人は大喜びしそうだわ。
雑に退場させられている背中を見て、そんな事を思ってしまった。
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