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第1章

57. 忠告します

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「上級魔法を扱えるのは貴女だけではありませんわよ?」

 耳元で囁くと、フィオナ様はビクリと小さく震えて、私と距離を取ろうとした。
 距離を取られても逃がすつもりは無いけれど、言いたい事が言えなくなってしまう。

 だから、腕をしっかり掴んでいたのだけど、お陰で距離を取られる事もない。

「上級魔法を初級魔法に見せる闇魔法があれば、確かに事故を装って気に入らない人を殺めることも出来るでしょう。
 でも、それは私が上級魔法を使っても同じこと」

 実際に殺したら、フィオナ様の背景が分からなくなってしまうから、今日は脅すだけに留めるつもりだけれど、脅しても私の命を奪おうとしてきたら……その時は消えてもらうつもりだ。
 日夜、暗殺される恐怖に震えて過ごすような事は避けたいから。

「……この意味、分かりますわよね?
 そうそう、私はこんな事も出来ますの」

 震えるフィオナ様を掴んでいる左手はそのままに、右手でフィオナ様の視線の先に向けて光魔法を放つ私。
 今の魔法は、他の魔法の見た目を真似るだけで、それ以外の効果は無い物だけれど、フィオナ様の眼前には巨大な火の玉が弾ける様子が生み出されている。

「え……ぁ……」

「私を殺そうとしたという事は、逆に自分が殺される覚悟を持っていての事ですわよね?」

「ちがう……」

 今の光魔法が余程効いたのかしら?
 フィオナ様は顔を青くして、私の受け答えにも掠れた声で答えるだけだ。

 恨みを持って人を殺める人というのは、こういう時にもどんな手を使ってでも命を奪おうとしてくる。
 けれど、今はその様子が無いから、裏で糸を引いている人物が居るかもしれない。

「誰の指示ですの? 
骨すら残さずに消えたく無ければ、答えなさい」

「指示なんて……」

「貴女の嘘って、分かりやすいですわね?」

 視線を分かりやすく彷徨わせているから、嘘だってすぐに分かる。
 だから、次は本当の事を言えるように、私は上級魔法の詠唱を始める。

 フィオナ様がさっき使ったばかりの魔法だから、私の狙いも分かったはずだ。
 また嘘をつかれたら、この詠唱は完成させるつもりだ。

「シエル様……このままでは貴女が罪人になってしまいます」

「正当防衛の何が悪いのか、説明してもらえるかしら?」

 フィオナ様の隣で様子を伺っていたご令嬢から声がかけられたけれど、一蹴する。
 心配は嬉しいけれど、間違っても私が罪人になるつもりは無いから、大丈夫なのよね。

「言います、言いますから許して」

 懇願するような声が聞こえたけれど、私は答えを早くするようにと身振りで示しながら、中断してしまった詠唱を続ける。

 そんな私の様子が余程怖かったのかしら?
 

 そして、ようやく求めていた答えを聞くことが出来た。

「スカーレット公爵家の隠密の指示です」

「そう。
でも、貴女自身の意志も含まれていますのよね?」

「……はい。
 申し訳ありませんでした」

 フィオナ様が私を消したい理由までは分からなかったけれど、スカーレット公爵様が私の命を狙っていることは確からしい。
 今までのやり方を見た限りでは、私の暗殺も目的達成のための手段なのだと思うけれど、命を狙われて良い気分にはならない。

「私を消したい理由も答えて貰えるかしら?」

「シエル様が居ると私の居場所が無くなるからです……。
 私のような男爵家では、容姿くらいでしか気を引ことが出来ないのに、貴女のような方が居ると、私が霞んでしまうのです」

「だから消そうと考えるだなんて、単純ですわね。その考えのままだと、誰も靡かないですわ。
自分の力で上を目指さないと、孤独になるのも時間の問題ですわ」

 気に入らなければ消してしまおう。そう考える人の近くになんて、危険すぎて誰も居たがらないはずだ。
 でも、必死に努力している人なら、同じように考えている人が集まってくる。

「まずは、周りを見回して人気のあるお方の身の振り方を勉強するところから始めた方が良いですわ」

 今回の出来事は然るべき機関に報告するつもりだから、このアドバイスは無駄になるかもしれない。

 けれど、投獄ではなく身分剥奪で留まれば、生きてくると思う。
 それに、何も言わずに何かしらの刑罰が下れば、フィオナ様は私をより強く恨むことになると思う。

 だから、このアドバイスは私のためでもあるのよね。

「分かりましたわ。
 許して、下さるのですか……?」

「殺されかけて、許すわけがありませんわ。
 貴女には、相応の罰を受けて頂きます」

 そう言い切ってから、私はフィオナ様達に向けて初級の攻撃魔法を放った。
 フィーリア様達も近くで様子を伺っていたから、視界の外から攻撃魔法を飛ばして決着をつける。

 これで準備は整った。
 あとは……フィオナ様が私に上級魔法を放ったことを報告するだけね。
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