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第1章
53. 信頼があるらしい
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「シエル様にフィーリア様、クラウス様まで……。何かありましたの?」
うっかり目が合ってしまったヴィオラ様から声をかけられてしまう。
魔法の向かった先はヴィオラ様だったから警戒したいけれど、今はまだ勘付かれてはいけない。
視線もずっと前から向けられていた……私が倒れるのを待っている様子だったから、平静を装いつつ笑顔を貼り付ける私。
「ええ。料理に異物が入っていたので、指摘しに来ましたの」
目立つ異物なんて入っていなかったけれども、毒も異物なのだから嘘は言っていない。
「災難でしたわね。それでも、三人で威圧するのはどうかと思いますわよ?」
「心配して下さってありがとうございます。話をするのは私だけなので、大丈夫ですわ」
私が毒の存在に気付いたことを悟られているのかは分からない。
けれど、ずっとヴィオラ様の視線を感じるから、料理長を呼び出すことにした。
「何か不手際がございましたでしょうか?」
料理長を呼ぶように言ってから十数秒。落ち着いた様子の初老の男性が姿を見せた。
彼が料理長のようだから、早速本題を口にする。
「私の料理の中に故意に異物を入れた料理人が居ますの。しっかり見張って下さるかしら?」
「大変申し訳ありませんでした。すぐに新しいものをお作り致します」
流石は料理長と言うべきかしら?
私が指摘してすぐに新しい料理を盛り付けて持って来てくれた。
あの毒が私だけを狙っているのなら、この短時間で毒を盛ることは出来ないはずだ。
それに私が倒れていないから、誰かの荷物に毒が紛れ込むことも無いと思う。
でも、小声で一言だけ付け加えておく。
「少しでも口にしていたら、私は死んでいましたわ。
盛り付け担当が始末される前に対処しなさい」
曖昧な言い方で察してもらえるかは分からなかったけれど、料理長さんは深刻そうな表情を浮かべて、小さく頷いていた。
私が誰に毒を盛られたのか、これで伝わったはずだわ。
きっと間もなく捜査が入ることになる。
その前に料理人さんが消されないと良いのだけど……。
「シエル、一旦席に戻ろう」
「分かったわ」
今回は誰に冤罪を着せる目的なのか分からないけれど、私が倒れなかったから今日の被害者はこれ以上出ないと思う。
けれど油断は出来ないから、緊張したまま昼食を進める私だった。
昼食を終えてから少しして、教室に戻った私はフィーリア様に荷物を確認するように提案した。
ヴィオラ様の狙いが私を消しつつフィーリア様に濡れ衣を着せることだったら、食堂に来る前に細工をしている可能性が高いと考えたから。
「ありましたわ。あの時と全く同じ袋です」
「まだ触っていませんわね?」
「ええ」
その予想は当たっていたみたいで、フィーリア様の鞄の奥に青白い粉が入った袋が覗いている。
この袋から指紋を見つけられたら証拠に一歩近付くのだけど、すぐに邪魔が入ってしまった。
「全員、そこから動くな」
視線だけを声がした方に向けてみると、騎士団の制服を纏った六人の殿方がこちらを真っ直ぐに見据えていた。
「フィーリア嬢がシエル嬢の食事に毒を盛ったという情報が入ったので、荷物を確認させてもらう」
騎士団の方はそう口にしているけれど、なんとかして止めないと不味いわよね……。
けれど皇帝直属で動いている騎士団を止める権限なんて私には無いから、どうすることも出来ない。
もしも騎士に証拠を触られてしまったら、黒幕の指紋を見つけるのも難しくなってしまう。
だから、ある提案してみることにした。
「騎士様。それは本当ですの?」
「ああ、信頼のできる人物からの情報だ」
「お姉様が私に毒を盛るだなんて信じたくありませんの。お姉様の荷物に毒を紛れ込ませるだなんて、許しませんわ」
「貴女、名前は?」
「シエル・エイブラムと申しますわ」
被害者の協力を得られないことは避けたいはずだから、少しは騎士団の動きを止められると思う。
けれど、私が名乗ると、騎士団の全員が息を呑んだように見えた。
「なぜ平気な顔して生きている。
情報では倒れたと聞いていたが……」
どうやら私が倒れる前提で黒幕が動いていたみたいで、騎士団は信頼していた人物の情報が間違っていたことに動揺しているらしい。
「前に毒が見つかった時、情報はどこから来ていましたの?」
「今回と全く同じところからだ。その時も嘘だったと言いたいのだろうが、前回は証拠が見つかっているから本当だろう。
おそらく、今回は他に倒れた人が居て、勘違いされたのだろう」
私の主張は通らなかった。
けれど、ここに毒があることを知らせたら、騎士団の考え方も変わるに違いない。
だから、フィーリア様に目配せと手の動きで、考えていることを伝えられないか試してみる。
すると、すぐに頷いてもらえたから、早速行動に移すことにした。
うっかり目が合ってしまったヴィオラ様から声をかけられてしまう。
魔法の向かった先はヴィオラ様だったから警戒したいけれど、今はまだ勘付かれてはいけない。
視線もずっと前から向けられていた……私が倒れるのを待っている様子だったから、平静を装いつつ笑顔を貼り付ける私。
「ええ。料理に異物が入っていたので、指摘しに来ましたの」
目立つ異物なんて入っていなかったけれども、毒も異物なのだから嘘は言っていない。
「災難でしたわね。それでも、三人で威圧するのはどうかと思いますわよ?」
「心配して下さってありがとうございます。話をするのは私だけなので、大丈夫ですわ」
私が毒の存在に気付いたことを悟られているのかは分からない。
けれど、ずっとヴィオラ様の視線を感じるから、料理長を呼び出すことにした。
「何か不手際がございましたでしょうか?」
料理長を呼ぶように言ってから十数秒。落ち着いた様子の初老の男性が姿を見せた。
彼が料理長のようだから、早速本題を口にする。
「私の料理の中に故意に異物を入れた料理人が居ますの。しっかり見張って下さるかしら?」
「大変申し訳ありませんでした。すぐに新しいものをお作り致します」
流石は料理長と言うべきかしら?
私が指摘してすぐに新しい料理を盛り付けて持って来てくれた。
あの毒が私だけを狙っているのなら、この短時間で毒を盛ることは出来ないはずだ。
それに私が倒れていないから、誰かの荷物に毒が紛れ込むことも無いと思う。
でも、小声で一言だけ付け加えておく。
「少しでも口にしていたら、私は死んでいましたわ。
盛り付け担当が始末される前に対処しなさい」
曖昧な言い方で察してもらえるかは分からなかったけれど、料理長さんは深刻そうな表情を浮かべて、小さく頷いていた。
私が誰に毒を盛られたのか、これで伝わったはずだわ。
きっと間もなく捜査が入ることになる。
その前に料理人さんが消されないと良いのだけど……。
「シエル、一旦席に戻ろう」
「分かったわ」
今回は誰に冤罪を着せる目的なのか分からないけれど、私が倒れなかったから今日の被害者はこれ以上出ないと思う。
けれど油断は出来ないから、緊張したまま昼食を進める私だった。
昼食を終えてから少しして、教室に戻った私はフィーリア様に荷物を確認するように提案した。
ヴィオラ様の狙いが私を消しつつフィーリア様に濡れ衣を着せることだったら、食堂に来る前に細工をしている可能性が高いと考えたから。
「ありましたわ。あの時と全く同じ袋です」
「まだ触っていませんわね?」
「ええ」
その予想は当たっていたみたいで、フィーリア様の鞄の奥に青白い粉が入った袋が覗いている。
この袋から指紋を見つけられたら証拠に一歩近付くのだけど、すぐに邪魔が入ってしまった。
「全員、そこから動くな」
視線だけを声がした方に向けてみると、騎士団の制服を纏った六人の殿方がこちらを真っ直ぐに見据えていた。
「フィーリア嬢がシエル嬢の食事に毒を盛ったという情報が入ったので、荷物を確認させてもらう」
騎士団の方はそう口にしているけれど、なんとかして止めないと不味いわよね……。
けれど皇帝直属で動いている騎士団を止める権限なんて私には無いから、どうすることも出来ない。
もしも騎士に証拠を触られてしまったら、黒幕の指紋を見つけるのも難しくなってしまう。
だから、ある提案してみることにした。
「騎士様。それは本当ですの?」
「ああ、信頼のできる人物からの情報だ」
「お姉様が私に毒を盛るだなんて信じたくありませんの。お姉様の荷物に毒を紛れ込ませるだなんて、許しませんわ」
「貴女、名前は?」
「シエル・エイブラムと申しますわ」
被害者の協力を得られないことは避けたいはずだから、少しは騎士団の動きを止められると思う。
けれど、私が名乗ると、騎士団の全員が息を呑んだように見えた。
「なぜ平気な顔して生きている。
情報では倒れたと聞いていたが……」
どうやら私が倒れる前提で黒幕が動いていたみたいで、騎士団は信頼していた人物の情報が間違っていたことに動揺しているらしい。
「前に毒が見つかった時、情報はどこから来ていましたの?」
「今回と全く同じところからだ。その時も嘘だったと言いたいのだろうが、前回は証拠が見つかっているから本当だろう。
おそらく、今回は他に倒れた人が居て、勘違いされたのだろう」
私の主張は通らなかった。
けれど、ここに毒があることを知らせたら、騎士団の考え方も変わるに違いない。
だから、フィーリア様に目配せと手の動きで、考えていることを伝えられないか試してみる。
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