26 / 128
第1章
26. 封印しました
しおりを挟む
お屋敷で荷解きを終えたあと、昼食を済ませた私達は冒険者ギルドに戻っていた。
大金を手にした後だけれど、私の成長のために依頼を受けることにしたから。
実戦経験が浅いままランクだけが上がる状態はかなり危険らしいから、魔物を倒さないといけない依頼を受けようと思っている。
「今日はCランクにしよう」
「Dランクじゃなくて大丈夫なの?」
「Dランクは瞬殺だったから、Cで良いと思う」
クラウスの助言通りにCランク以上指定の依頼を手にとっていく私。
貴族の中では危険と言われているオークなども入っているけれど、躊躇わずに受けることに決めている。
これは私が成長するためのものだから、好き嫌いはしたくない。
「それくらいで良いと思うよ。これ以上は終わらなくなる」
「分かった。受けてくるね」
近くに他の冒険者がいるから、声を変えて返事をする。
この声を作っていると疲れるけれど、厄介ごとを避けるためだから我慢しないと。
依頼を受けてからは、乗合馬車で帝都の外れまで移動する。
王都の何倍にも広がる帝都から歩いて出るのは時間の無駄だから、百ダル払った方が効率が良いらしい。
今回乗った馬車は王国で馴染みのあった町同士を結ぶものではなく、王都の中を移動するためだけにあるものらしい。
その割には席が埋まっていたから、それだけ人の往来が激しいのだと思う。
そんな帝都でも、城壁の外に出れば魔物が多くなっていて、城門の向こうで待ち構えているゴブリンの姿が見える。
襲ってこなければ見張りの騎士が倒さないのは王国と同じみたいだけど、油断していたら足元を掬われそうだ。
「冒険者の方ですね。どうぞ」
冒険者カードを見せてから城門をくぐると、早速ゴブリンが襲いかかってきた。
これくらいの相手なら対応するのも簡単だから、難なく倒せる。
けれど素材は集めない。ゴブリンの魔石は小さすぎて素材にも魔法に使う時の魔力にも出来ないから。
集める手間の間に強い魔物を倒した方が良いのよね。
ちなみに、魔力が詰まっている魔石はどんな魔法でも弾くから、亡骸ごと焼いて取り出すという方法もあるらしい。
「お、ワイバーンが居るな」
そう言って、一瞬で魔法を発動させたと思えば二体のワイバーンを倒してしまうクラウス。
私は攻撃魔法の練習中だから真似出来ないけれど、魔石を握りしめて次の標的を探す。
剣は……今日は使わなさそうね。
けれど防御力は身体強化の魔法を使っている私の方が高いから、前衛というのは変わらない。
出会ってからずっと私を気遣ってくれている彼でも、戦闘の時は現実的なのよね。
適材適所にしないと、全滅する危険だってあるのだから。
「こんな感じだから、残りも倒してみて」
「いきなり無理よ」
「大丈夫。外しても魔石はまだまだあるから」
あれだけ使ってしまったのに、魔石の在庫には余裕があるみたい。
その言葉を信じて、即興で威力と効率を高める改変をした光の攻撃魔法を放ってみる。
でも、狙いが逸れて翼の先をかすめるだけに終わってしまった。
標的に自ら向かうようにする改変も必要みたいね……。
「惜しいな。だが、今ので怯んだ。
落ち着いて次の魔法を撃つんだ」
「分かったわ」
深呼吸してから魔力を手に込める私。
今度も狙いは外れそうだったけれど、途中で曲がってワイバーンの首を貫いた。
「今の魔法どうなっている……。まあいいや、あと二体!」
「ええ!」
頷きながら、もう二回魔法を放つ。
狙わなくても楽々命中してしまうから、簡単に出来てしまうのよね。
でも、これだと成長には繋がらない気がするわ……。
「その魔法はしばらく封印した方が良いと思う」
「ええ、そうするわ」
それからは真面目に魔法を撃ったり剣を振ったり。
気が付けば倒した魔物の数は百を超えていて、空も茜色に染まっていた。
「まさかシエル一人で依頼を完遂するとは思わなかったよ。最後の方はブラックウルフも一撃で急所だったよね。
将来が楽しみだ」
ブラックウルフというのは、素早い動きで攻撃を当てにくいことで知られている。
けれど、その魔物の動きを予想してみたら、一発目で当ててしまったのよね。
「あれは偶然よ。予想してみたら当たっただけなの」
「多分、次も同じことを言うと思うよ」
そんな会話を交わしながら、乗合馬車に揺られる私達。
間もなく冒険者ギルドに着いて依頼の報告を終えたから、そのまま夕食にすることになった。
けれども、ここは人の多い帝都。
レストランはどこも長い列が出来ていて、すぐには入れなさそうだった。
「こうなったら俺達で作ろう」
「私、料理なんてしたこと無いわよ?」
普通の貴族の令嬢は料理なんてしない。
伯爵家の中では貧しかった私の家でも料理人さんは居たから、包丁に触れる機会さえ無かった。
元婚約者にプレゼントするクッキーを作ったことはあるけれど、これも料理人さん達の助言があってようやく完成したもの。
結果は一枚しか食べてもらえなかったけれど、王宮の使用人さん達には好評だったのよね。
あの時の殿下が言った「手作りなど食えるか!」という言葉は今でも根に持っているのは内緒にしている。
きっと王太子の舌がおかしいのよね。
リリアや私を裏切ってくれた両親、それに味方で居てくれている使用人さん達からは公表だったから。
ええ、どう考えても王太子の味覚が狂っているに違いないわ。
……嫌な思い出を追い払っていると、クラウスがこんな言葉を口にしていた。
「俺が教えるから大丈夫だ。失敗しても笑って見過ごすよ」
「それなら、頑張ってみるわ
……ちょっと待って、馬鹿にするつもりよね?」
「そうと決まれば食材調達だな。市場が近くにあるから、そこに行こう」
「無視しないでもらえるかしら?」
「とんでもない失敗をする未来しか見えないだけで、馬鹿にはしないよ。
失敗は誰でも通る道だからね」
そんなことを言われたから、失敗しないでクラウスを見返す決意を固める私だった。
大金を手にした後だけれど、私の成長のために依頼を受けることにしたから。
実戦経験が浅いままランクだけが上がる状態はかなり危険らしいから、魔物を倒さないといけない依頼を受けようと思っている。
「今日はCランクにしよう」
「Dランクじゃなくて大丈夫なの?」
「Dランクは瞬殺だったから、Cで良いと思う」
クラウスの助言通りにCランク以上指定の依頼を手にとっていく私。
貴族の中では危険と言われているオークなども入っているけれど、躊躇わずに受けることに決めている。
これは私が成長するためのものだから、好き嫌いはしたくない。
「それくらいで良いと思うよ。これ以上は終わらなくなる」
「分かった。受けてくるね」
近くに他の冒険者がいるから、声を変えて返事をする。
この声を作っていると疲れるけれど、厄介ごとを避けるためだから我慢しないと。
依頼を受けてからは、乗合馬車で帝都の外れまで移動する。
王都の何倍にも広がる帝都から歩いて出るのは時間の無駄だから、百ダル払った方が効率が良いらしい。
今回乗った馬車は王国で馴染みのあった町同士を結ぶものではなく、王都の中を移動するためだけにあるものらしい。
その割には席が埋まっていたから、それだけ人の往来が激しいのだと思う。
そんな帝都でも、城壁の外に出れば魔物が多くなっていて、城門の向こうで待ち構えているゴブリンの姿が見える。
襲ってこなければ見張りの騎士が倒さないのは王国と同じみたいだけど、油断していたら足元を掬われそうだ。
「冒険者の方ですね。どうぞ」
冒険者カードを見せてから城門をくぐると、早速ゴブリンが襲いかかってきた。
これくらいの相手なら対応するのも簡単だから、難なく倒せる。
けれど素材は集めない。ゴブリンの魔石は小さすぎて素材にも魔法に使う時の魔力にも出来ないから。
集める手間の間に強い魔物を倒した方が良いのよね。
ちなみに、魔力が詰まっている魔石はどんな魔法でも弾くから、亡骸ごと焼いて取り出すという方法もあるらしい。
「お、ワイバーンが居るな」
そう言って、一瞬で魔法を発動させたと思えば二体のワイバーンを倒してしまうクラウス。
私は攻撃魔法の練習中だから真似出来ないけれど、魔石を握りしめて次の標的を探す。
剣は……今日は使わなさそうね。
けれど防御力は身体強化の魔法を使っている私の方が高いから、前衛というのは変わらない。
出会ってからずっと私を気遣ってくれている彼でも、戦闘の時は現実的なのよね。
適材適所にしないと、全滅する危険だってあるのだから。
「こんな感じだから、残りも倒してみて」
「いきなり無理よ」
「大丈夫。外しても魔石はまだまだあるから」
あれだけ使ってしまったのに、魔石の在庫には余裕があるみたい。
その言葉を信じて、即興で威力と効率を高める改変をした光の攻撃魔法を放ってみる。
でも、狙いが逸れて翼の先をかすめるだけに終わってしまった。
標的に自ら向かうようにする改変も必要みたいね……。
「惜しいな。だが、今ので怯んだ。
落ち着いて次の魔法を撃つんだ」
「分かったわ」
深呼吸してから魔力を手に込める私。
今度も狙いは外れそうだったけれど、途中で曲がってワイバーンの首を貫いた。
「今の魔法どうなっている……。まあいいや、あと二体!」
「ええ!」
頷きながら、もう二回魔法を放つ。
狙わなくても楽々命中してしまうから、簡単に出来てしまうのよね。
でも、これだと成長には繋がらない気がするわ……。
「その魔法はしばらく封印した方が良いと思う」
「ええ、そうするわ」
それからは真面目に魔法を撃ったり剣を振ったり。
気が付けば倒した魔物の数は百を超えていて、空も茜色に染まっていた。
「まさかシエル一人で依頼を完遂するとは思わなかったよ。最後の方はブラックウルフも一撃で急所だったよね。
将来が楽しみだ」
ブラックウルフというのは、素早い動きで攻撃を当てにくいことで知られている。
けれど、その魔物の動きを予想してみたら、一発目で当ててしまったのよね。
「あれは偶然よ。予想してみたら当たっただけなの」
「多分、次も同じことを言うと思うよ」
そんな会話を交わしながら、乗合馬車に揺られる私達。
間もなく冒険者ギルドに着いて依頼の報告を終えたから、そのまま夕食にすることになった。
けれども、ここは人の多い帝都。
レストランはどこも長い列が出来ていて、すぐには入れなさそうだった。
「こうなったら俺達で作ろう」
「私、料理なんてしたこと無いわよ?」
普通の貴族の令嬢は料理なんてしない。
伯爵家の中では貧しかった私の家でも料理人さんは居たから、包丁に触れる機会さえ無かった。
元婚約者にプレゼントするクッキーを作ったことはあるけれど、これも料理人さん達の助言があってようやく完成したもの。
結果は一枚しか食べてもらえなかったけれど、王宮の使用人さん達には好評だったのよね。
あの時の殿下が言った「手作りなど食えるか!」という言葉は今でも根に持っているのは内緒にしている。
きっと王太子の舌がおかしいのよね。
リリアや私を裏切ってくれた両親、それに味方で居てくれている使用人さん達からは公表だったから。
ええ、どう考えても王太子の味覚が狂っているに違いないわ。
……嫌な思い出を追い払っていると、クラウスがこんな言葉を口にしていた。
「俺が教えるから大丈夫だ。失敗しても笑って見過ごすよ」
「それなら、頑張ってみるわ
……ちょっと待って、馬鹿にするつもりよね?」
「そうと決まれば食材調達だな。市場が近くにあるから、そこに行こう」
「無視しないでもらえるかしら?」
「とんでもない失敗をする未来しか見えないだけで、馬鹿にはしないよ。
失敗は誰でも通る道だからね」
そんなことを言われたから、失敗しないでクラウスを見返す決意を固める私だった。
297
お気に入りに追加
4,372
あなたにおすすめの小説
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

王妃はもうここにいられません
なか
恋愛
「受け入れろ、ラツィア。側妃となって僕をこれからも支えてくれればいいだろう?」
長年王妃として支え続け、貴方の立場を守ってきた。
だけど国王であり、私の伴侶であるクドスは、私ではない女性を王妃とする。
私––ラツィアは、貴方を心から愛していた。
だからずっと、支えてきたのだ。
貴方に被せられた汚名も、寝る間も惜しんで捧げてきた苦労も全て無視をして……
もう振り向いてくれない貴方のため、人生を捧げていたのに。
「君は王妃に相応しくはない」と一蹴して、貴方は私を捨てる。
胸を穿つ悲しみ、耐え切れぬ悔しさ。
周囲の貴族は私を嘲笑している中で……私は思い出す。
自らの前世と、感覚を。
「うそでしょ…………」
取り戻した感覚が、全力でクドスを拒否する。
ある強烈な苦痛が……前世の感覚によって感じるのだ。
「むしろ、廃妃にしてください!」
長年の愛さえ潰えて、耐え切れず、そう言ってしまう程に…………
◇◇◇
強く、前世の知識を活かして成り上がっていく女性の物語です。
ぜひ読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる