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第1章
21. side 伯爵家の実情
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海の上でリヴァイアサンとの戦いが始まった頃、クレーティア伯爵領では執事達が頭を抱えていた。
理由はただ一つ。当主である伯爵がシエルを追い出したことだ。
「今まで領地経営にも手を貸して下さったシエルお嬢様を追い出すなど、愚か者のすることです」
「しばらく辛くなるが、それも僕が当主になるまでの辛抱ですよ。代替わりしたら手を貸してくれると、シエルが言っていたからね」
王家や伯爵本人がシエルの動向を掴めない中、次期当主であるアレンだけはシエルの動向を掴んでいた。
それを知らせているのが、シエル本人から送られて来る暗号文だ。
巧妙に作られたそれは、アレンとシエルだけが知っている出来事を分かっていて始めて糸が掴めるもので、裏を返せばシエルとアレン以外には分からないように作られている。
「領地経営だけならアレン様だけでも上手くいっていますが、シエル様の領民からの人気はすさまじいですからね。あの人望は真似できませんよ」
「そうなんだよね。僕にも領民に寄り添える力があれば良かったんだけど、流石に真似できなかったよ」
そして問題なのが、シエルを追い出したことが知られたら領内で暴動が起きる可能性があること。
領民のことなど一切気にかけていな現当主は全く知らないが、執事達が頭を抱えている理由はここにあった。
それに加え、王都ではきな臭い動きがあることをアレンが隠密を通して掴んでいる。
厄介事に続く厄介事の気配に、執事の頭髪からは色素が抜けてしまいそうだ。
もっともアレンの手によって今も白髪は一本だけの状態が維持されている。
この一本は現当主が適当な領地政治を行っていたころに生まれてしまったもの。
「しかし、シエルお嬢様は何故危険な冒険者を選ばれたのでしょうか?」
「貴族は横暴な態度を取る人が多くて働き手としては嫌われているのは知っているよね?
シエルなら大丈夫かもしれないけど、冒険者の方が合っていると判断したんだと思う」
「シエル様なら余程のことが無い限り大丈夫でしょうが、それでも心配になりますな」
「そうだね。もしシエルに何かあったら、俺は父上を許すつもりは無い」
皆、大丈夫だと心に言い聞かせているが、それでも悩みの種が尽きることはない。
ここ執務室の上に広げられている書類の中には、不作の予兆やら盗賊団の侵入といった即急に対処しないと取り返しのつかなくなる事も書かれている。
もっともこれらは既に対策を講じてからの会議である。
「アレン、いつまでもシエルシエルって、いい加減に妹離れもしなさいよ。
あの子を私から奪わないで」
そんな会議の最中、アレンに恨めしそうな視線を送っていたアイーシャ・ルビレンド侯爵令嬢が口を挟む。
彼女はアレンの婚約者で、最近は愛するアレンと一緒に居たいがためにこの立派とは言えない屋敷に入り浸っている。
当然のように執務を手伝ったりしているから、執事達からの評価も高いのだが……アレンを愛するあまりすぐに嫉妬するところが勿体無いと執事達は評価していた。
「文句なら父さんにどうぞ。
大体、義姉に迫られたらシエルが怖がる」
「そんな……私とシエルちゃんの仲なのよ?」
「仲が良いのは結構だけど、やり過ぎて嫌われるなよ? シエルに一度嫌われたら二度と好かれないからな」
「そうなの? 程々にしておこうかしら……」
ちなみに、アレンとアイーシャはお互いを好きになってから婚約していて、貴族の仲では珍しい恋愛婚と言われる関係だ。
そのせいか、執事は度々砂糖を吐いているいるのだが、二人が優秀なために文句を言えない現実がある。
指摘しても意味を成さず、甘い空気が流れる時には執務が終わっているからだ。
お陰で現当主の無能さが目立っているのだが、王都で豪遊する本人の目には届かない。
(王都には一握りの利益しか送らない判断は正解でしたね)
そして、現在のグレーティア伯爵家にはかなり余裕があることも、長男に領地政治を丸投げしているから気付けずにいた。
理由はただ一つ。当主である伯爵がシエルを追い出したことだ。
「今まで領地経営にも手を貸して下さったシエルお嬢様を追い出すなど、愚か者のすることです」
「しばらく辛くなるが、それも僕が当主になるまでの辛抱ですよ。代替わりしたら手を貸してくれると、シエルが言っていたからね」
王家や伯爵本人がシエルの動向を掴めない中、次期当主であるアレンだけはシエルの動向を掴んでいた。
それを知らせているのが、シエル本人から送られて来る暗号文だ。
巧妙に作られたそれは、アレンとシエルだけが知っている出来事を分かっていて始めて糸が掴めるもので、裏を返せばシエルとアレン以外には分からないように作られている。
「領地経営だけならアレン様だけでも上手くいっていますが、シエル様の領民からの人気はすさまじいですからね。あの人望は真似できませんよ」
「そうなんだよね。僕にも領民に寄り添える力があれば良かったんだけど、流石に真似できなかったよ」
そして問題なのが、シエルを追い出したことが知られたら領内で暴動が起きる可能性があること。
領民のことなど一切気にかけていな現当主は全く知らないが、執事達が頭を抱えている理由はここにあった。
それに加え、王都ではきな臭い動きがあることをアレンが隠密を通して掴んでいる。
厄介事に続く厄介事の気配に、執事の頭髪からは色素が抜けてしまいそうだ。
もっともアレンの手によって今も白髪は一本だけの状態が維持されている。
この一本は現当主が適当な領地政治を行っていたころに生まれてしまったもの。
「しかし、シエルお嬢様は何故危険な冒険者を選ばれたのでしょうか?」
「貴族は横暴な態度を取る人が多くて働き手としては嫌われているのは知っているよね?
シエルなら大丈夫かもしれないけど、冒険者の方が合っていると判断したんだと思う」
「シエル様なら余程のことが無い限り大丈夫でしょうが、それでも心配になりますな」
「そうだね。もしシエルに何かあったら、俺は父上を許すつもりは無い」
皆、大丈夫だと心に言い聞かせているが、それでも悩みの種が尽きることはない。
ここ執務室の上に広げられている書類の中には、不作の予兆やら盗賊団の侵入といった即急に対処しないと取り返しのつかなくなる事も書かれている。
もっともこれらは既に対策を講じてからの会議である。
「アレン、いつまでもシエルシエルって、いい加減に妹離れもしなさいよ。
あの子を私から奪わないで」
そんな会議の最中、アレンに恨めしそうな視線を送っていたアイーシャ・ルビレンド侯爵令嬢が口を挟む。
彼女はアレンの婚約者で、最近は愛するアレンと一緒に居たいがためにこの立派とは言えない屋敷に入り浸っている。
当然のように執務を手伝ったりしているから、執事達からの評価も高いのだが……アレンを愛するあまりすぐに嫉妬するところが勿体無いと執事達は評価していた。
「文句なら父さんにどうぞ。
大体、義姉に迫られたらシエルが怖がる」
「そんな……私とシエルちゃんの仲なのよ?」
「仲が良いのは結構だけど、やり過ぎて嫌われるなよ? シエルに一度嫌われたら二度と好かれないからな」
「そうなの? 程々にしておこうかしら……」
ちなみに、アレンとアイーシャはお互いを好きになってから婚約していて、貴族の仲では珍しい恋愛婚と言われる関係だ。
そのせいか、執事は度々砂糖を吐いているいるのだが、二人が優秀なために文句を言えない現実がある。
指摘しても意味を成さず、甘い空気が流れる時には執務が終わっているからだ。
お陰で現当主の無能さが目立っているのだが、王都で豪遊する本人の目には届かない。
(王都には一握りの利益しか送らない判断は正解でしたね)
そして、現在のグレーティア伯爵家にはかなり余裕があることも、長男に領地政治を丸投げしているから気付けずにいた。
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