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第1章
2. 欲しがる妹
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「お嬢様、屋敷に着きましたよ?」
侍女に肩を揺すられて目を覚ますと、私達グレーティア伯爵家一家が暮らしている屋敷が目に入った。
「ありがとう。すぐ降りるわね」
馬車の中で居眠りをしてしまうのはいつものこと。けれど馬車から降りるのが遅くなれば、その分使用人さんが眠る時間が遅くなってしまうから、慌てて飛び降りる。
塀に囲まれた庭園の中だから、いつもこうしている。
淑女らしくゆっくり降りる方が大変だから。
二年前から王家の支援を得られるようになって以来、綺麗に整えられている庭園を横目に玄関に入っていく。
妃教育は大変で辛いけれど、王家と繋がりが出来たことで生活が豊かになったのは嬉しいくて、今更手放せるものでもない。
使用人達にも満足のいくお給金を渡せるようになって、屋敷全体の雰囲気も明るくなったのだから。
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
「ただいま。もう遅いから、荷物は自分で運ぶわ」
「いえ、私が運びます。どう見ても疲れ切ってるお嬢様に運ばせるなんて出来ません」
「……お願いするわ」
二年前なら、ここまで手を貸してくれることも無かったのに、本当に色々変わったのよね。
けれど変わっていないこともある。
「お姉様、お帰りなさい。
少し相談したいことがありますの。後でお部屋に行っても良いでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
儀礼的に渡されている殿下からの贈り物……サファイアの髪飾りを物欲しげに見つめる妹リリアだけは変わっていない。
根は悪い子ではないのだけど、私の持ち物を羨ましがって、いつも欲しがるのは困りものだ。
もっとも、今は急いで着替えなくちゃいけないのだけど。
私のために家族みんなが夕食を待ってくれているから、のんびり休む時間なんて無い。
先に食べていて欲しいとお願いしても「妃教育を頑張っているシエルに冷や飯を食べさせるわけにはいかない」と言われて、聞き入れて貰えないのよね。
王宮であんなことがあったばかりだから、今日も待たせていると思うとすごく申し訳ない気持ちになってしまった。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
大急ぎで外行きのドレスから着替え終えて、ダイニングに入る私。
いつも私が帰る時間が同じだからか、ちょうど夕食が配膳され終えたところだった。
どれも暖かそうな湯気を上げていて、長時間何も入れていなかったお腹が鳴ってしまいそうになった。
お抱えの料理人さんはかなり腕が良くて、いつも美味しい料理を作ってくれる。
「気にしなくて良い。早く座りなさい」
「分かりましたわ」
お父様に促されて、いつもの席につく私。
それから、いただきますを言って夕食が始まった。
私達の家族仲は貴族の中では良い方だから夕食自体は和やかな雰囲気で進む。
けれど、今日は少し違った。
「お姉様。その髪飾り、とっても綺麗ですわ。
わたしも着けてみたいのですけど、ダメでしょうか?」
「これは今日頂いたばかりなの。だから我慢して頂戴」
私が断ると、リリアは不満そうに頬を膨らませた。
昨日は指輪をあげたばかりなのに、どうしてそんなに不満そうにするのかしら?
味を占めているとしか思えない行動なのだけど、私よりもお母様の影響が大きいと思う。
「シエル、リリアは想いのお方に振り返ってもらいたくて必死なのよ。分かってあげなさい」
こんな風に、お母様はいつもリリアの味方をする。
だから味を占めたリリアは私から色々なものを取ろうとするようになった。
この癖は早く治した方が良いと思うけれど、お母様に言っても改善の兆しは無い。
それどころか「お姉さんなんだから、それくらい我慢しなさい」と言われる始末。
愛の籠ってない贈り物でも、こう言われると嫌な気持ちになってしまう。
怒りたい気持ちをグッとこらえているから喧嘩にはならないけれど、いつまで我慢すればいいのか分からない。
「それに、だ。シエルの助言のお陰で領地の財政が良くなったと言っても、アクセサリーを買ってやれるだけの余裕は無い。
姉なら妹のことを気遣うのは当然だろう?」
そういうことなら、親が娘のことを気遣うのは当然だと言い返したい。
けれど、この言葉が原因で家族仲が悪くなるのは嫌だから、お茶と一緒に飲み込んだ。
「そうですわね……。
リリア、これは明後日の王宮パーティーに着けていかないといけないの。だから、明後日だけは返して貰えるかしら?」
「もちろんですわ」
リリアに約束を違えられたことは無いから、夕食を終えてから貸すことに決める私。
それにしても、王宮で仕入れた領地経営の知識があっても経営が厳しいだなんて、一体どこにお金が消えているのかしら?
これは帳簿を確認した方が良さそうね……。
疲労に重ねて嫌な予感まで。
文字通り、頭が痛くなってしまった。
侍女に肩を揺すられて目を覚ますと、私達グレーティア伯爵家一家が暮らしている屋敷が目に入った。
「ありがとう。すぐ降りるわね」
馬車の中で居眠りをしてしまうのはいつものこと。けれど馬車から降りるのが遅くなれば、その分使用人さんが眠る時間が遅くなってしまうから、慌てて飛び降りる。
塀に囲まれた庭園の中だから、いつもこうしている。
淑女らしくゆっくり降りる方が大変だから。
二年前から王家の支援を得られるようになって以来、綺麗に整えられている庭園を横目に玄関に入っていく。
妃教育は大変で辛いけれど、王家と繋がりが出来たことで生活が豊かになったのは嬉しいくて、今更手放せるものでもない。
使用人達にも満足のいくお給金を渡せるようになって、屋敷全体の雰囲気も明るくなったのだから。
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
「ただいま。もう遅いから、荷物は自分で運ぶわ」
「いえ、私が運びます。どう見ても疲れ切ってるお嬢様に運ばせるなんて出来ません」
「……お願いするわ」
二年前なら、ここまで手を貸してくれることも無かったのに、本当に色々変わったのよね。
けれど変わっていないこともある。
「お姉様、お帰りなさい。
少し相談したいことがありますの。後でお部屋に行っても良いでしょうか?」
「ええ、構わないわ」
儀礼的に渡されている殿下からの贈り物……サファイアの髪飾りを物欲しげに見つめる妹リリアだけは変わっていない。
根は悪い子ではないのだけど、私の持ち物を羨ましがって、いつも欲しがるのは困りものだ。
もっとも、今は急いで着替えなくちゃいけないのだけど。
私のために家族みんなが夕食を待ってくれているから、のんびり休む時間なんて無い。
先に食べていて欲しいとお願いしても「妃教育を頑張っているシエルに冷や飯を食べさせるわけにはいかない」と言われて、聞き入れて貰えないのよね。
王宮であんなことがあったばかりだから、今日も待たせていると思うとすごく申し訳ない気持ちになってしまった。
「お待たせしてしまって申し訳ありません」
大急ぎで外行きのドレスから着替え終えて、ダイニングに入る私。
いつも私が帰る時間が同じだからか、ちょうど夕食が配膳され終えたところだった。
どれも暖かそうな湯気を上げていて、長時間何も入れていなかったお腹が鳴ってしまいそうになった。
お抱えの料理人さんはかなり腕が良くて、いつも美味しい料理を作ってくれる。
「気にしなくて良い。早く座りなさい」
「分かりましたわ」
お父様に促されて、いつもの席につく私。
それから、いただきますを言って夕食が始まった。
私達の家族仲は貴族の中では良い方だから夕食自体は和やかな雰囲気で進む。
けれど、今日は少し違った。
「お姉様。その髪飾り、とっても綺麗ですわ。
わたしも着けてみたいのですけど、ダメでしょうか?」
「これは今日頂いたばかりなの。だから我慢して頂戴」
私が断ると、リリアは不満そうに頬を膨らませた。
昨日は指輪をあげたばかりなのに、どうしてそんなに不満そうにするのかしら?
味を占めているとしか思えない行動なのだけど、私よりもお母様の影響が大きいと思う。
「シエル、リリアは想いのお方に振り返ってもらいたくて必死なのよ。分かってあげなさい」
こんな風に、お母様はいつもリリアの味方をする。
だから味を占めたリリアは私から色々なものを取ろうとするようになった。
この癖は早く治した方が良いと思うけれど、お母様に言っても改善の兆しは無い。
それどころか「お姉さんなんだから、それくらい我慢しなさい」と言われる始末。
愛の籠ってない贈り物でも、こう言われると嫌な気持ちになってしまう。
怒りたい気持ちをグッとこらえているから喧嘩にはならないけれど、いつまで我慢すればいいのか分からない。
「それに、だ。シエルの助言のお陰で領地の財政が良くなったと言っても、アクセサリーを買ってやれるだけの余裕は無い。
姉なら妹のことを気遣うのは当然だろう?」
そういうことなら、親が娘のことを気遣うのは当然だと言い返したい。
けれど、この言葉が原因で家族仲が悪くなるのは嫌だから、お茶と一緒に飲み込んだ。
「そうですわね……。
リリア、これは明後日の王宮パーティーに着けていかないといけないの。だから、明後日だけは返して貰えるかしら?」
「もちろんですわ」
リリアに約束を違えられたことは無いから、夕食を終えてから貸すことに決める私。
それにしても、王宮で仕入れた領地経営の知識があっても経営が厳しいだなんて、一体どこにお金が消えているのかしら?
これは帳簿を確認した方が良さそうね……。
疲労に重ねて嫌な予感まで。
文字通り、頭が痛くなってしまった。
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