上 下
39 / 45

39. ガークレオンside 減刑のために

しおりを挟む
 同じ頃、クリムソン家の者が王宮にある貴人牢を訪れていた。

 逃げ出そうと思えないほど厳重に警備されているこの場所であっても、身体検査を受けた者に限って面会をすることが出来る。
 しかし牢の壁には小さな穴があけられており、ここでの会話は全て監視される。

 この事実は騎士団の中でも限られた人物しかしらないため、ガークレオンもこの事実は知らない。 
 だから面会中にこんなことを口にすることも出来ていた。

「裁判官の買収は済んだのか?」
「もちろんです。裁判官は無罪を約束してくれました」

 当然、この会話も王家側に筒抜けである。
 牢とは言っても、ここは客室に近い造りになっていて、出入口には柵ではなく重厚感のある扉になっている。

 そして、牢の外の音は全く聞こえないから、彼らは完全に油断することになった。

 ちなみに賄賂を渡して裁判官を買収する行為も、法で禁じられている。
 しかし下手に取り締まると貴族達の反感を買うこともあるため、迂闊に取り締まることが出来ていないのが現状だ。

「そうか。よくやってくれた。
 これで家から追い出されずに済む」
「シルフィーナ様のことはもう良いのですか?」
「彼女のことはもう諦めた。俺に靡くことはもう無いだろうからな」

 そんなことを口にするガークレオンは、次にシルフィーナを狙ってしまえば公爵家の長になる道が途絶えると自覚していた。
 未練は感じているものの、シルフィーナにはもう勝てない。そのことを身をもって感じていたから。

 誤算があるとするなら、裁判官が国王に変わっていることだけ。
 それ以外は彼の思惑通りだった。

「左様ですか。では、代わりになる女性を見繕っておきます」
「頼んだ」

 無罪になれば廃嫡されることも無くなる。
 だから、ガークレオンは自らの思い描く理想の女性を想像して、期待に胸を膨らませていた。

 ――そんな都合の良い貴族令嬢は居ないというのにも関わらず。



 それから数時間後、すっかり陽が落ちた頃にガークレオンの元に一通の手紙が届いた。

「要件はこれだけですので、失礼します」

 先ほどとは別のクリムソン家の者は、手紙を置くとすぐに牢を後にした。
 普通なら考えられない雑な対応に苛立ちを覚えつつ、ガークレオンは手紙の封を切った。

「父上からか……」

 手紙の内容を見ていく内に、少しずつ顔色を悪くしていく。
 そこには、彼にとって絶望的な内容が描かれていた。

『結論から先に記す。ガークレオン、お前はもうクリムソン家の者ではない。平民となるお前はただの他人だ』

 そんな文章から始まっているから、一目見ただけで絶望するのには十分だったけれど、ガークレオンは希望を捨てずに手紙を読み進めた。

『裁判官を買収しようとしたようだが、お前の裁判は陛下が裁判長を務められる。
 賄賂などという無駄な金は、きっちりと請求させてもらう。払えぬなら、例え鉱山であっても働きなさい』

 しかし、いくら読み進めても彼にとって不都合なことしか書かれていなかった。

「何故だ……。何故上手くいかない……」

 絶望から頭を抱える彼が、己の過ちが原因だと気付くのには時間がかかりそうだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏
恋愛
フランソワーズは母親から理不尽な扱いを受けていた。それは美しいのに醜いと言われ続けられたこと。学園にも通わせてもらえなかったこと。妹ベッツィーを常に優先され、差別されたことだ。 父親はそれを黙認し、兄は人懐っこいベッツィーを可愛がる。フランソワーズは完全に、自分には価値がないと思い込んだ。 妹に婚約者ができた。それは公爵家の嫡男マクシミリアンで、ダイヤモンド鉱山を所有する大金持ちだった。彼は美しい少年だったが、病の為に目はくぼみガリガリに痩せ見る影もない。 そんなマクシミリアンを疎んじたベッツィーはフランソワーズに提案した。 「ねぇ、お姉様! お姉様にはちょうど婚約者がいないわね? マクシミリアン様を譲ってあげるわよ。ね、妹からのプレゼントよ。受け取ってちょうだい」 これはすっかり自信をなくした、実はとても綺麗なヒロインが幸せを掴む物語。異世界。現代的表現ありの現代的商品や機器などでてくる場合あり。貴族世界。全く史実に沿った物語ではありません。 6/23 5:56時点でhot1位になりました。お読みくださった方々のお陰です。ありがとうございます。✨

開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?

ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。 そんな中、リリアはとある秘策を実行する。 全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【完結】偽物令嬢と呼ばれても私が本物ですからね!

kana
恋愛
母親を亡くし、大好きな父親は仕事で海外、優しい兄は留学。 そこへ父親の新しい妻だと名乗る女性が現れ、お父様の娘だと義妹を紹介された。 納得できないまま就寝したユティフローラが次に目を覚ました時には暗闇に閉じ込められていた。 助けて!誰か私を見つけて!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

【完結】妹を庇って怪我をしたら、婚約破棄されました

紫宛
恋愛
R15とR18は、保険です(*ᴗˬᴗ)⁾ 馬の後ろに立つのは危険……そう言われていたのに私の妹は、急に走り寄ってきて馬の後ろに立ったのです。 そして、びっくりした馬が妹を蹴ろうとしたので、私は咄嗟に妹を庇いました。 ……脊椎脊髄損傷、私は足が動かなくなり車椅子での生活が余儀なくされましたの。 父からは、穀潰しと言われてしまいましたわ。その上……婚約者からも、動けない私を娶るのは嫌だと言われ婚約破棄されました。 そんな時、こんな私を娶ってくれるという奇特な人が現れました。 辺境伯様で、血濡れの悪魔と噂されている方です。 蒼海の乙女と言われた令嬢は、怪我が原因で家族に見捨てられ、辺境伯家で、愛され大切にされるお話。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定、リハビリ作品※

処理中です...