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35. 語られた事実
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「今日はありがとうございました」
そう口にして軽く頭を下げる私。
平民に頭を下げたら貴族の尊厳が損なわれると文句を言う人もいるのだけど、相手の身分が下でも礼儀は必要だと思っている。
それに、平民は私達貴族の生活を支えてくれている大切な存在。
無下になんて絶対に出来ないわ。
「こちらこそ、お二人とお話できたこと光栄に思います」
「また何かあったら声をかけさせてもらう。今日は本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ。また何かありましたらお声がけください」
アルバート様が軽く頭を下げると、画家さんも深々と頭を下げていた。
☆
あの後、私達は取り調べを受けている最中だったエレノアを問い詰めた。
でも、彼女は頑なに口を開こうとしなかった。
それどころか、私を見下して嘲笑すらしてきたのよね……。
椅子に縛り付けられているから身動きは出来ていなかったのだけど、何度も何度も汚い言葉を言われた。
「泥棒女の娘のお前も色仕掛けで殿下を奪ったに違いないわ! 殿下、その娼婦に惑わされてはいけません!」
その言葉を言われた時は、アルバート様が怒って机を叩いていたわ……。
私は負け犬の遠吠えと思っていたから何もしなかったけれど、いい気分はしなかった。
ううん、娼婦と言われた時は突き飛ばしたくなっていしまったのよね……。
「大罪人は痛めつけられないと身の程を弁えないご様子。
殿下、シルフィーナ様。お目汚しをしてしまいますが、どうかお許しください」
それからのエレノアは一度鞭で打たれただけで涙を流したけれど、私の問いかけには全く応じてくれなかった。
「話す気になったか?」
「話しますわ。話しますから、どうかこれ以上は鞭で打たないでください」
「レベッカの生い立ちについて話しなさい」
「泥棒女には話さないわよ!」
「よし、鞭」
直後、鞭が叩きつけられる音とエレノアの悲鳴が響いた。
でも、やっぱりエレノアが口を開くことは無くて。
「いい加減に話しなさい」
「話すわ。だからもう鞭で打たないで……」
エレノアが血をにじませる頃になってようやく口を開いてくれた。
それから細かく話を聞いていくと、恐ろしいことが次々と口にされた。
レベッカは本当に私の妹だったこと。
彼女が生まれた時に、侍女をしていたエレノアが他所から攫ってきた赤子を殺して、すり替えることで流産を装ったこと。
二度と働かなくても生きていけるようにセレスト邸で盗みを働いてから侍女を辞めたこと。
レベッカを言いなりにすることでユフィアナ――私のお母様への鬱憤を晴らそうとしていたこと。
子育てには思っていたよりもお金が必要だったから、レベッカの癒しの力を利用して商売を始めたこと。
反抗するレベッカが血を吐くまで暴力を振るったこと。
そのことを知ったお父様にレベッカが保護されてしまい生活が立ち行かなくなったこと。
王都を歩いている私を見かけた時に恨みを思い出して、私を毒殺しようと呪いを使ってセレスト夫人の立場に収まったこと。
いくら毒を盛っても私は体調すら崩さなかったこと。
寝込みを襲って刺し殺そうとしても、ナイフの方が折れてしまったこと。
翌日にエレノアは刺されたような激痛に襲われたこと。
私の首を絞めても、苦しむ様子すら見れなかったとこ。
翌日に死ぬかと思うほどの息苦しさに襲われたこと。
私を殺せないと悟って、精神を病ませようとしてレベッカも利用しての嫌がらせを始めたこと。
その嫌がらせは跳ね返ってこなかったけれど、私に変化が起こらなかったこと。
婚約者のガークレオン様をレベッカに奪わせても、どういうわけかアルバート様に好かれていて、気に入らなかったことなどなど……。
聞いていて、鳥肌が立ってしまった。
もしも精霊の加護が無かったら、私は生きていなかったのだから……。
残念なことに、この場に置かれている嘘を知らせる魔道具は何も反応を示していない。
「一つだけ聞く。シルフィーナ本人には、それ程まで恨むようなことをされたのか?」
「生きているだけでも恨めしかったわ! あの女を思い出すのよ!」
「随分と身勝手な理由だな。聞いたのが間違いだった。
シルフィーナ、用は済んだかな?」
「ええ。もう何も話すことはありません」
それから私達は取調官から今までの話を書き記した紙を受け取って、この場を後にした。
「本当にレベッカは血の繋がった妹でしたのね……」
「受け入れ難いのか?」
「ええ、すぐには受け入れられませんわ。エレノアにさせられていたとはいっても、私にはレベッカから嫌がらせをされた思い出がありますから……。
すごく、複雑な気持ちですわ」
ずっと私に嫌がらせをしてきたレベッカが血の繋がった妹だったなんて、すぐには受け入れられない。
でも、このことは時間が解決してくれるはずだから。
「今は受け入れなくてもいいと思う。まだ時間はあるからね」
「そう……ですわね」
……今は気にしないことに決めた。
そう口にして軽く頭を下げる私。
平民に頭を下げたら貴族の尊厳が損なわれると文句を言う人もいるのだけど、相手の身分が下でも礼儀は必要だと思っている。
それに、平民は私達貴族の生活を支えてくれている大切な存在。
無下になんて絶対に出来ないわ。
「こちらこそ、お二人とお話できたこと光栄に思います」
「また何かあったら声をかけさせてもらう。今日は本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ。また何かありましたらお声がけください」
アルバート様が軽く頭を下げると、画家さんも深々と頭を下げていた。
☆
あの後、私達は取り調べを受けている最中だったエレノアを問い詰めた。
でも、彼女は頑なに口を開こうとしなかった。
それどころか、私を見下して嘲笑すらしてきたのよね……。
椅子に縛り付けられているから身動きは出来ていなかったのだけど、何度も何度も汚い言葉を言われた。
「泥棒女の娘のお前も色仕掛けで殿下を奪ったに違いないわ! 殿下、その娼婦に惑わされてはいけません!」
その言葉を言われた時は、アルバート様が怒って机を叩いていたわ……。
私は負け犬の遠吠えと思っていたから何もしなかったけれど、いい気分はしなかった。
ううん、娼婦と言われた時は突き飛ばしたくなっていしまったのよね……。
「大罪人は痛めつけられないと身の程を弁えないご様子。
殿下、シルフィーナ様。お目汚しをしてしまいますが、どうかお許しください」
それからのエレノアは一度鞭で打たれただけで涙を流したけれど、私の問いかけには全く応じてくれなかった。
「話す気になったか?」
「話しますわ。話しますから、どうかこれ以上は鞭で打たないでください」
「レベッカの生い立ちについて話しなさい」
「泥棒女には話さないわよ!」
「よし、鞭」
直後、鞭が叩きつけられる音とエレノアの悲鳴が響いた。
でも、やっぱりエレノアが口を開くことは無くて。
「いい加減に話しなさい」
「話すわ。だからもう鞭で打たないで……」
エレノアが血をにじませる頃になってようやく口を開いてくれた。
それから細かく話を聞いていくと、恐ろしいことが次々と口にされた。
レベッカは本当に私の妹だったこと。
彼女が生まれた時に、侍女をしていたエレノアが他所から攫ってきた赤子を殺して、すり替えることで流産を装ったこと。
二度と働かなくても生きていけるようにセレスト邸で盗みを働いてから侍女を辞めたこと。
レベッカを言いなりにすることでユフィアナ――私のお母様への鬱憤を晴らそうとしていたこと。
子育てには思っていたよりもお金が必要だったから、レベッカの癒しの力を利用して商売を始めたこと。
反抗するレベッカが血を吐くまで暴力を振るったこと。
そのことを知ったお父様にレベッカが保護されてしまい生活が立ち行かなくなったこと。
王都を歩いている私を見かけた時に恨みを思い出して、私を毒殺しようと呪いを使ってセレスト夫人の立場に収まったこと。
いくら毒を盛っても私は体調すら崩さなかったこと。
寝込みを襲って刺し殺そうとしても、ナイフの方が折れてしまったこと。
翌日にエレノアは刺されたような激痛に襲われたこと。
私の首を絞めても、苦しむ様子すら見れなかったとこ。
翌日に死ぬかと思うほどの息苦しさに襲われたこと。
私を殺せないと悟って、精神を病ませようとしてレベッカも利用しての嫌がらせを始めたこと。
その嫌がらせは跳ね返ってこなかったけれど、私に変化が起こらなかったこと。
婚約者のガークレオン様をレベッカに奪わせても、どういうわけかアルバート様に好かれていて、気に入らなかったことなどなど……。
聞いていて、鳥肌が立ってしまった。
もしも精霊の加護が無かったら、私は生きていなかったのだから……。
残念なことに、この場に置かれている嘘を知らせる魔道具は何も反応を示していない。
「一つだけ聞く。シルフィーナ本人には、それ程まで恨むようなことをされたのか?」
「生きているだけでも恨めしかったわ! あの女を思い出すのよ!」
「随分と身勝手な理由だな。聞いたのが間違いだった。
シルフィーナ、用は済んだかな?」
「ええ。もう何も話すことはありません」
それから私達は取調官から今までの話を書き記した紙を受け取って、この場を後にした。
「本当にレベッカは血の繋がった妹でしたのね……」
「受け入れ難いのか?」
「ええ、すぐには受け入れられませんわ。エレノアにさせられていたとはいっても、私にはレベッカから嫌がらせをされた思い出がありますから……。
すごく、複雑な気持ちですわ」
ずっと私に嫌がらせをしてきたレベッカが血の繋がった妹だったなんて、すぐには受け入れられない。
でも、このことは時間が解決してくれるはずだから。
「今は受け入れなくてもいいと思う。まだ時間はあるからね」
「そう……ですわね」
……今は気にしないことに決めた。
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