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31. 呪いと魔法と

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「どうしてアルバート様を狙ったのですか?」

 化け物と言われたことを無視して、そんな問いかけをする私。
 はぐらかされると思っていた問いかけだけれど、お義母様はこんな言葉を返してきた。

「そんなの決まっているわ。幸せそうなお前が腹立たしかったのよ!」
「私は何もしていないのに、ですか?」
「そんなの関係無いわ。私から全てを奪ったユフィアナの娘のお前が幸せそうにしているだけで腹立たしいのよ! ユフィアナを殺しても、お前が生きているだけで許せなかった!」

 お母様を殺した……?

 不穏な言葉が耳に入ってきて、固まる私。
 お母様は急病で亡くなったことになっているのだけど、どういうことなのか問い詰めたくなった。

「お母様を殺したというのは、どういうことですか?」
「お茶に入ってるとある成分だけを濃くしたものを飲ませただけよ。何回も吐いて、ずっと痙攣が止まらないユフィアナを見た時は本当に清々しい気持ちだったわ。
 普段から飲んでるお茶の中に毒が入っているなんて思われないから、お医者様も何も出来なかったのよね」

 私が問いかけると、そんなことを口にするお義母様。
 記録を調べないと分からないのだけど、お義母様はお母様が亡くなってからも少しの間は私の家の侍女を務めていたと聞いている。

 だから毒を盛ることも出来たのね……。

 でも、その毒がお茶に含まれているものだったから、病死と判断するしかなかったと聞いていたのだけど。
 事実は違ったらしかった。

「話は聞かせてもらった。エレノア夫人、王家に仇なした罪で拘束させてもらう」
「殿下!? 死んだはずなのに、どうして?」
「気になるか? 答えは簡単だ。
 死んでいないからここにいる」
「私が聞きたいのはそういうことではありませんわ!」

 アルバート様が生きている理由を聞きたいみたいだけど、彼は何も教えたくないみたい。
 そして、その隙にアルバート様は魔力を封じる縄でお義母様を……いえ、罪人エレノアを拘束していった。

 呪いを使おうとしていたみたいだけど、縄に魔力を吸われて使えていない様子だった。
 呪いも魔法と同じように封じることが出来るのね……。

「離しなさい!
 シルフィーナ、今までのことは謝るから助けて!」
「どの口が言うのですか? 汚い手で触らないで」

 怒りを堪えきれなくなって、私に縋ってきたエレノアの顔を叩いてしまった。

「うぎゅっ……」

 私、力はあまり無いはずなのだけど……。
 エレノアは変な声を漏らしながら床に倒れ込んだ。

「手をかけさせてしまって済まない。おい、大人しくしろ!」

 でも、拘束されたくないみたいで、ジタバタと暴れ続けている。
 それが目障りだったから、氷魔法で手足を動かせなくした。

「助かる。これなら簡単に縛れるよ」
「これくらいは負担にもならないので大丈夫ですわ」

 そんなことを話している間に、エレノアは縄で縛り上げられた。
 騒ぎを聞きつけた衛兵さん達が集まってきたけれど、彼らは事態が収まっていたことを知るとすぐに持ち場に戻っていった。

 私達はというと……。

「とりあえず引きずってくか。太ってる人ってこんなに重いんだな。
 事が済んだら鍛えないとな」

 アルバート様がズルズルとエレノアを引き摺る横を歩く私。
 これから馬車に乗せて、魔力を封じ込められる牢に入れることになっている。

「流石に階段はマズいと思いますわ……」
「シルフィーナは突き落とされても無事だったんだよね? ゆっくり引き摺れば大丈夫だよ」

 アルバート様は私がエレノアからされた仕打ちを知っているのだけど……。
 私がされたことをそのまま実践しようとしているらしい。

「嫌よ! そんな酷いこと!」
「酷いことをした自覚はあったのか。
 知っているか? 剣を向けていいのは、斬られる覚悟がある者だけだ」

 やり返される覚悟がなければ、手を出すな。アルバート様はそんな意味の言葉をエレノアに投げかけていた。

「シルフィーナに誠心誠意の謝罪をしていたらもう少し丁寧に扱っていたよ。
 だが、騎士団が誰かさんのせいで動けないからこうするしか無いんだ。
 自業自得ってとこかな?」

 いつもは安心するアルバート様の笑顔だけれど、今の笑顔はすごく怖かった。
 でも、このことを止めようとは思わなかった。

 私にも鬱憤を晴らしたい気持ちがあったから。
 それに、大好きなお母様を殺された恨みがあるのよね。

 その恨みは、しっかりと法の裁きを受けてもらうことで晴らすつもりだから……。

「痛い! 痛い痛い痛い……!」

 ズルズルと階段も引き摺られていくエレノアに興味を向けることはないわ。

「王宮は大丈夫でしょうか?」
「親衛隊は過半数が光魔法を使えるから呪いの影響は受けてないはずだよ」
「それなら良かったですわ」

 この後は衛兵さんの手を借りてエレノアを馬車に乗せ、私達は王城を目指した。
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