30 / 45
30. 混乱
しおりを挟む
すっかり陽が落ちてきたころ、王都から馬車で丸一日かかる場所にある街に辿り着いた私達はここで一泊することになった。
この街もクリムソン公爵領だから、護衛の騎士さん達は夜通し警戒に当たってくれるらしい。
全員ではなく交代らしいけれど、王都からの援軍も加わっているからすごく心強い。
この時になると魔力の不自然な流れも消えていたから、私は安心して眠ることが出来た。
そして翌朝。
移動のために普段よりも早く目を覚ました私は、例の騎士服に着替えてから夜の内に決めていた時間に合わせて部屋を出た。
こんな状況だから侍女は居ないけれど、婚約破棄される前は侍女の手をほとんど借りられずに過ごしていたから、戸惑ったりすることはなかった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
挨拶を交わして、このホテルにあるレストランで朝食を済ませてから王都を目指して移動を再開した。
ここから王都までは馬車で丸一日ほどかかるけれど、今回は騎乗だけでの移動だからお昼くらいには着くと予想している。
空は厚い雲に覆われているけれど、そのお陰で涼しいから移動には丁度良い。
でも……。
「すぐにそこから逃げて!」
夢の中で聞いたことのある声が、そんなことを告げてきた。
「護衛が襲ってくるよ!」
「アルバート様、浮遊魔法で逃げてください! 騎士さん達が襲ってきます!」
「謀反か!?」
驚いた様子のアルバート様はすぐに手綱を離すと、浮遊魔法で空へと浮かんでいった。
私も飛行魔法で彼のことを追いかけて、手を握る。
そんな時、再び声が聞こえてきた。
「光の防御魔法を使って!」
「分かったわ」
言われた通りに防御魔法を使う私。
周囲の魔力の流れが不自然に乱れたのは、その直後のことだった。
異変はそれだけに留まらなくて、下の方からこんな声が聞こえてきた。
「殺しても構わない! 撃ち落とせ!」
「「はっ」」
何がどうなっているのか、すぐには理解出来なかった。
でも、今の状況は危険だから……。
「掴まっててください!」
私は全力で魔力を込めて、街道から離れるように飛行魔法を使った。
ちなみに、飛行魔法は手を繋いだり抱えたりしている人も運ぶことができるけれど、手を離したりすると一緒に飛んでいる人は地面に落ちてしまう。
だから、私はアルバート様の手をしっかり握り直した。
その直後。
沢山の攻撃魔法が私達目掛けて飛ばされてきた。
狙われているのは私ではなくアルバート様。だから私が彼の盾になるように飛んだのだけど……。
飛行魔法の方が早かったから、全て避けることが出来た。
「こんなことになるとはな……。呪いの力は恐ろしいな」
「ええ、私もそう思いますわ」
騎士さん達の豹変の原因は呪いの力に違いない。
でも、お義母様がアルバート様を狙う理由は理解できなかった。
「呪いの気配が消えていたからもう捕えたものだと思っていたが、違ったようだ……」
「このまま王都に向かっても大丈夫でしょうか……?」
「大元を倒さない限りは呪いは続くはずだ。だから、このままエレノアを眠らせに行く。
ガークレオンから没収した眠り薬があるから、それでなんとかなるはずだ」
呪いの一番の対処法は、呪いの使い手を無力化すること。眠らせるだけでも、気絶させても、発動済みの呪いは消えてしまう。
だから二時間ほどで王都に着いた私達は、お義母様を探すことになった。
「王宮は無事のようだが、肝心のエレノアがどこに居るのか分からないな……」
「もしかしたら、今も屋敷にいるかもしれません」
ただの勘だけれど、探さない訳にはいかないということでセレスト邸に向かうことになった。
ちなみに王宮では大きな混乱は起きていないけれど、アルバート様が近付いただけで攻撃されたから、今の私達が助けを求められる人はいないのよね……。
「衛兵はまだ呪われていないようだな」
「そうですわね。お義母様がいないか聞いてきますわ」
「助かるよ」
「では、行ってきますね」
そう言ってから、門の前に降りる私。
すぐに門番さんが私のことに気付いて、声をかけてきた。
「お嬢様、お一人でどうされましたか?」
「聞きたいことがあるの。お義母様はここにいるかしら?」
「はい。ですが、人払いをされております」
「分かったわ。ありがとう」
お礼を言ってから、一度アルバート様の元に戻る私。
それから彼と一緒に屋敷の中に入ったのだけど……。
「やっと、やっとよ。好きな人が死んだら悲しいわよねぇ。
でももう戻れないわよ。アルバート殿下はもういないから。あはははは」
私の部屋からそんな高笑いが聞こえてきた。
アルバート様を殺せたと思っているみたいだけど、すぐ近くにいるのよね……。
「これであの女は幸せにはなれない! 最高の気分よ!」
そこで一旦声が止んだから、扉を開ける私。
アルバート様には部屋の外で待ってもらっているから、お義母様の目には私が一人だけで戻ってきたように映るはず。
でも、お義母様の反応は予想していたものとは違った。
「化け物が何の用かしら?」
誰が化け物よ。
化け物は、我儘で人を殺めた貴女よ……。
この街もクリムソン公爵領だから、護衛の騎士さん達は夜通し警戒に当たってくれるらしい。
全員ではなく交代らしいけれど、王都からの援軍も加わっているからすごく心強い。
この時になると魔力の不自然な流れも消えていたから、私は安心して眠ることが出来た。
そして翌朝。
移動のために普段よりも早く目を覚ました私は、例の騎士服に着替えてから夜の内に決めていた時間に合わせて部屋を出た。
こんな状況だから侍女は居ないけれど、婚約破棄される前は侍女の手をほとんど借りられずに過ごしていたから、戸惑ったりすることはなかった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
挨拶を交わして、このホテルにあるレストランで朝食を済ませてから王都を目指して移動を再開した。
ここから王都までは馬車で丸一日ほどかかるけれど、今回は騎乗だけでの移動だからお昼くらいには着くと予想している。
空は厚い雲に覆われているけれど、そのお陰で涼しいから移動には丁度良い。
でも……。
「すぐにそこから逃げて!」
夢の中で聞いたことのある声が、そんなことを告げてきた。
「護衛が襲ってくるよ!」
「アルバート様、浮遊魔法で逃げてください! 騎士さん達が襲ってきます!」
「謀反か!?」
驚いた様子のアルバート様はすぐに手綱を離すと、浮遊魔法で空へと浮かんでいった。
私も飛行魔法で彼のことを追いかけて、手を握る。
そんな時、再び声が聞こえてきた。
「光の防御魔法を使って!」
「分かったわ」
言われた通りに防御魔法を使う私。
周囲の魔力の流れが不自然に乱れたのは、その直後のことだった。
異変はそれだけに留まらなくて、下の方からこんな声が聞こえてきた。
「殺しても構わない! 撃ち落とせ!」
「「はっ」」
何がどうなっているのか、すぐには理解出来なかった。
でも、今の状況は危険だから……。
「掴まっててください!」
私は全力で魔力を込めて、街道から離れるように飛行魔法を使った。
ちなみに、飛行魔法は手を繋いだり抱えたりしている人も運ぶことができるけれど、手を離したりすると一緒に飛んでいる人は地面に落ちてしまう。
だから、私はアルバート様の手をしっかり握り直した。
その直後。
沢山の攻撃魔法が私達目掛けて飛ばされてきた。
狙われているのは私ではなくアルバート様。だから私が彼の盾になるように飛んだのだけど……。
飛行魔法の方が早かったから、全て避けることが出来た。
「こんなことになるとはな……。呪いの力は恐ろしいな」
「ええ、私もそう思いますわ」
騎士さん達の豹変の原因は呪いの力に違いない。
でも、お義母様がアルバート様を狙う理由は理解できなかった。
「呪いの気配が消えていたからもう捕えたものだと思っていたが、違ったようだ……」
「このまま王都に向かっても大丈夫でしょうか……?」
「大元を倒さない限りは呪いは続くはずだ。だから、このままエレノアを眠らせに行く。
ガークレオンから没収した眠り薬があるから、それでなんとかなるはずだ」
呪いの一番の対処法は、呪いの使い手を無力化すること。眠らせるだけでも、気絶させても、発動済みの呪いは消えてしまう。
だから二時間ほどで王都に着いた私達は、お義母様を探すことになった。
「王宮は無事のようだが、肝心のエレノアがどこに居るのか分からないな……」
「もしかしたら、今も屋敷にいるかもしれません」
ただの勘だけれど、探さない訳にはいかないということでセレスト邸に向かうことになった。
ちなみに王宮では大きな混乱は起きていないけれど、アルバート様が近付いただけで攻撃されたから、今の私達が助けを求められる人はいないのよね……。
「衛兵はまだ呪われていないようだな」
「そうですわね。お義母様がいないか聞いてきますわ」
「助かるよ」
「では、行ってきますね」
そう言ってから、門の前に降りる私。
すぐに門番さんが私のことに気付いて、声をかけてきた。
「お嬢様、お一人でどうされましたか?」
「聞きたいことがあるの。お義母様はここにいるかしら?」
「はい。ですが、人払いをされております」
「分かったわ。ありがとう」
お礼を言ってから、一度アルバート様の元に戻る私。
それから彼と一緒に屋敷の中に入ったのだけど……。
「やっと、やっとよ。好きな人が死んだら悲しいわよねぇ。
でももう戻れないわよ。アルバート殿下はもういないから。あはははは」
私の部屋からそんな高笑いが聞こえてきた。
アルバート様を殺せたと思っているみたいだけど、すぐ近くにいるのよね……。
「これであの女は幸せにはなれない! 最高の気分よ!」
そこで一旦声が止んだから、扉を開ける私。
アルバート様には部屋の外で待ってもらっているから、お義母様の目には私が一人だけで戻ってきたように映るはず。
でも、お義母様の反応は予想していたものとは違った。
「化け物が何の用かしら?」
誰が化け物よ。
化け物は、我儘で人を殺めた貴女よ……。
3
お気に入りに追加
2,455
あなたにおすすめの小説
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。
四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」
父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」
まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。
食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。
だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。
誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。
そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。
彼が私を守ってくれるの?
※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。
※ざまぁ有り、死ネタ有り
※他サイトにも投稿予定。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!!
婚約破棄から幸せになる物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます
夜桜
恋愛
令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。
アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる