忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子

水空 葵

文字の大きさ
上 下
11 / 45

11. 助けてもらえる人

しおりを挟む
「……私、月のものが来なくなってしまいましたの」
「えっと、それって……」

 答えに困って、言葉を濁す私。
 レベッカの立場に立って考えると、下手なことは言えないから返す言葉が見つからなかった。

 貴族たる者、基本的には結婚前に子を成すことは許されていない。
 私とアルバート様のように寿命が短いなどの理由があれば話は別なのだけれど、レベッカはガークレオン様との正式な婚約に向けて話を進めている最中。

 だから、仮に間違いを犯してしまっていたら、事が大きくなる前に対処しなくてはならない。
 けれども、その対処が出来るのはお父様だけなのだから、相談する相手は私ではないはずなのよね。

 一瞬そんな風に考えたけれど、そのお父様がこのところ王宮で働きづめで相談出来ないことに気付いてしまった。
 相談出来る相手はお義母様と私しかいなかったのね……。

 そういうことなら、お義母様よりも貴族社会に詳しい私に相談が来たことも理解できる。

 平民として過ごしてきて貴族の常識が欠けていても、相談相手を違えていないことは褒めてもいいと思った。
 本音を言えば、この問題を今すぐに投げ出したいのだけれど……。

 そうしてしまえば公爵家の汚点が増えて、私の評判にも影響してしまうから。これ以上は評判を下げたくない私は頭を抱えた。

「今までのことは申し訳ないと思っているわ。本当にごめんなさい。
 謝って許されるとは思っていないけど、今は助けてほしいの。後から何でもするから……」
「今は貴女の問題が最優先よ。思うところはあるけれど、結果的には落ち着いたのだから、貴女次第で許してもいいと思っているわ。
 それで、お相手誰なのかしら? ガークレオン様?」
「はい……」

 そう言って、俯くレベッカ。
 ショックを受けている様子を見ていたら、問い詰める気になんてならなかった。

「シルフィーナ様、少し意見を言ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「では……。レベッカ様は初めてのことで戸惑っていると思いますが、まだ子を授かったと決まった訳ではありません。子を授かっていなくても、月のものが遅れることはあり得ます。
 悩むのは、悪阻が来てからでも良いのではないでしょうか?」

 騎士さんからの提案に許可を出すと、そんな風に説明をしてくれた。
 私にも思い当たることがあったから納得したのだけれど、判断を急いでいた私もまだまだ未熟だと思った。

 でも、既成事実が出来てしまったということは問題だから、ガークレオン様を問い詰める必要があるのよね……。
 正直、私には難しい上に、レベッカには絶対に無理だと思う。

 家格差があるから、親衛隊の方に頼むことも難しい。
 私の友人に頼むのは、家の汚点を広めることになるから、これも難しい。

「そうね。レベッカはつらいかもしれないけれど、あまり急いでも良い結果は得られないものね。少し、様子見をしましょう。
 それまでに、私はガークレオン様を問い詰めることにするわ」

 ……だから、どうにかしてガークレオン様の弱みを見つけてから問い詰めることに決めた。
 ガークレオン様は私に隠し事をしているような仕草もあったから、何かしら出てくると思うのよね……。

「今まで酷いことをしてしまって、ごめんさなさい。それなのに、助けてくれてありがとうございます……」
「言葉は受け取っておくわ。でも、まだ許していないから、勘違いはしないで欲しいわ」
「分かりました……」

 あの時、お気に入りの髪飾りが壊れてしまったのよね……。
 根には持っていないけれど、簡単に許せそうになかったから、念押しする私。

 それからしばらくはレベッカが落ち着くまで待ってから、彼女の部屋を後にした。
 ちなみに、同室していた騎士さん達やレベッカにはお父様以外に他言しないように約束したので、このことを話せるのは私だけになった。

「お待たせしました」
「シルフィーナの身に何もなくて良かったよ。その様子だと、相談というのは本当だったんだね。僕の手が必要になったら、いつでも声をかけて欲しい」
「ありがとうございます。困った時は頼りにしてますね」

 そんなことを話しながらエントランスへと向かう私達。
 うっかり階段で足を滑らせてしまって軽い騒ぎになってしまったけれど、アルバート様が支えてくれたから倒れずに済んだ。

「足元、滑るみたいだから気を付けてね」
「ありがとうございます」

 彼と手をつないで残りの階段を降りていく。
 帰りはお義母様に邪魔されることはなかったから、少しだけ気分が軽くなった気がした。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。

四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」 父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

処理中です...