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10. 呼び出しの理由
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馬車に揺られること十数分。
目的の公爵邸に辿り着いた私達が目にしたのは、普段と何も変わらない様子の護衛さん達の姿だった。
魔法で眠らされている気配が無ければ、怪我をしている気配もない。
平穏そのもの。
「何かあった気配は無いな」
「ええ、普段と何も変わりませんわ」
不思議に思いながらも門をくぐろうとした時、アルバート様がこんなことを口にした。
「シルフィーナと僕を嵌めるための罠かもしれない。用心はしておいて」
「分かりましたわ」
最近は幸せな時間を過ごせていたから失念していたけれど、ここ公爵邸に私の味方は殆どいない。
まだ公言はしていないけれど、アルバート様の病が落ち着いていると悟られているかもしてない。もしそうなら、嫉妬したレベッカが私をアルバート様から引き離そうと動いていてもおかしくは無い。
だから、何があってもアルバート様や親衛隊の方々から離れないようにしないといけないわ。
「殿下、今日はどういったご用件でしょうか?」
「シルフィーナが呼び出されたから、その付き添いだ。婚約者同士なら何も問題ないだろう?」
「問題はありませんが……殿下がいらっしゃることは伝えられておらず、手厚い対応が出来ません。申し訳ありません」
レベッカ達が公爵家入りをする前から屋敷を守ってくれている門番さんは、そう口にして頭を下げていた。
アルバート様は呼ばれていないのだから、準備出来ていなくて当たり前。そもそも、緊急事態に手厚く迎え入れる事なんて出来ないのよね……。
でも、こんな理不尽なことで怒るアルバート様ではないから心配はしていない。
「緊急事態に手厚さは関係ないだろう。今は侍従と同じ扱いで構わない。
そもそもの疑問だが、悠長に話していていいのか?」
「レベッカお嬢様の緊急事態だそうで、シルフィーナお嬢様に助けを求められています。
詳細を問いかけても、女性にしか分からない問題だから男は聞くなと突き放されてしまったので、何が起きているのかは不明です」
本当に私しか頼る相手がいない問題なのか、それとも私を嵌めるための予防線なのかは分からない。
この門番さんは信用しているけれど、この事態に怪しさを感じずにはいられなかった。
「屋敷の中までは僕も入れるけど、レベッカ嬢のいる部屋に入ったら配慮できない王子のレッテルを貼られてしまうだろうね。
だから、部屋に入る時は女性の護衛を付ける」
「分かりました、ありがとうございます」
そんなやり取りの後、私の隣に女性の騎士さんが来てくれて、いよいよ屋敷の中に入ることになった。
レベッカが私を嫌っているというのは、今までの出来事から想像がつく。だから少しだけ何をされるか分からない恐怖を感じてしまう。
でも、それよりも。
「なんであんたがいるのよ?」
もっと厄介な人が目の前にいた。
エントランスで鉢合わせたお義母様に睨みつけられ、私だけでなく護衛さんまで足を止めた。
……いえ、私が足を止めたから一緒に止まってくれただけね。
「必要なものがあったので、取りに来ただけですわ」
お義母様の反応をる限り、私が呼ばれたのはレベッカの独断だと思う。
だから、レベッカが本当に相談したがっている可能性も考えて、私は嘘を口にした。
「面倒ね。早く取って出ていきなさい。臭いのよ」
「分かっていますわ」
そう返して、義母の真横を通り過ぎる私。
舌打ちが聞こえたけれど、気に留めないでレベッカの部屋に急いだ。
「あの無礼者はどうしますか?」
「無視でいいわ」
「はっ」
親衛隊の方とこんな言葉を交わしながら。
それから間もなく、私の部屋から二部屋挟んだところにあるレベッカの部屋の前に辿り着いた。
アルバート様や親衛隊の方々と頷き合い、意を決した私は扉に手をかざす。
そして、深呼吸してからノックした。
「シルフィーナよ。呼ばれたから来たのだけど、居るかしら?」
「入ってください……」
涙交じりの声で返事が聞こえたから、まずは私だけ部屋に入る。
もちろん扉は空けたまま。
「アルバート様や親衛隊も来ているのだけど、一緒に入ってもいいかしら?」
「女性だけなら……」
「分かったわ」
事前に示し合わせていた通り、女性の騎士さんを手招きする。
レベッカの様子を見る限り、本当に相談事なのだと思ったから、部屋の扉を閉めてから顔色が優れない彼女と向かい合った。
「緊急事態って、どういうことかしら? 怪我でもしたの?」
「怪我ではありませんわ……」
それから続けて語られたのは、予想もしていなかった内容だった。
目的の公爵邸に辿り着いた私達が目にしたのは、普段と何も変わらない様子の護衛さん達の姿だった。
魔法で眠らされている気配が無ければ、怪我をしている気配もない。
平穏そのもの。
「何かあった気配は無いな」
「ええ、普段と何も変わりませんわ」
不思議に思いながらも門をくぐろうとした時、アルバート様がこんなことを口にした。
「シルフィーナと僕を嵌めるための罠かもしれない。用心はしておいて」
「分かりましたわ」
最近は幸せな時間を過ごせていたから失念していたけれど、ここ公爵邸に私の味方は殆どいない。
まだ公言はしていないけれど、アルバート様の病が落ち着いていると悟られているかもしてない。もしそうなら、嫉妬したレベッカが私をアルバート様から引き離そうと動いていてもおかしくは無い。
だから、何があってもアルバート様や親衛隊の方々から離れないようにしないといけないわ。
「殿下、今日はどういったご用件でしょうか?」
「シルフィーナが呼び出されたから、その付き添いだ。婚約者同士なら何も問題ないだろう?」
「問題はありませんが……殿下がいらっしゃることは伝えられておらず、手厚い対応が出来ません。申し訳ありません」
レベッカ達が公爵家入りをする前から屋敷を守ってくれている門番さんは、そう口にして頭を下げていた。
アルバート様は呼ばれていないのだから、準備出来ていなくて当たり前。そもそも、緊急事態に手厚く迎え入れる事なんて出来ないのよね……。
でも、こんな理不尽なことで怒るアルバート様ではないから心配はしていない。
「緊急事態に手厚さは関係ないだろう。今は侍従と同じ扱いで構わない。
そもそもの疑問だが、悠長に話していていいのか?」
「レベッカお嬢様の緊急事態だそうで、シルフィーナお嬢様に助けを求められています。
詳細を問いかけても、女性にしか分からない問題だから男は聞くなと突き放されてしまったので、何が起きているのかは不明です」
本当に私しか頼る相手がいない問題なのか、それとも私を嵌めるための予防線なのかは分からない。
この門番さんは信用しているけれど、この事態に怪しさを感じずにはいられなかった。
「屋敷の中までは僕も入れるけど、レベッカ嬢のいる部屋に入ったら配慮できない王子のレッテルを貼られてしまうだろうね。
だから、部屋に入る時は女性の護衛を付ける」
「分かりました、ありがとうございます」
そんなやり取りの後、私の隣に女性の騎士さんが来てくれて、いよいよ屋敷の中に入ることになった。
レベッカが私を嫌っているというのは、今までの出来事から想像がつく。だから少しだけ何をされるか分からない恐怖を感じてしまう。
でも、それよりも。
「なんであんたがいるのよ?」
もっと厄介な人が目の前にいた。
エントランスで鉢合わせたお義母様に睨みつけられ、私だけでなく護衛さんまで足を止めた。
……いえ、私が足を止めたから一緒に止まってくれただけね。
「必要なものがあったので、取りに来ただけですわ」
お義母様の反応をる限り、私が呼ばれたのはレベッカの独断だと思う。
だから、レベッカが本当に相談したがっている可能性も考えて、私は嘘を口にした。
「面倒ね。早く取って出ていきなさい。臭いのよ」
「分かっていますわ」
そう返して、義母の真横を通り過ぎる私。
舌打ちが聞こえたけれど、気に留めないでレベッカの部屋に急いだ。
「あの無礼者はどうしますか?」
「無視でいいわ」
「はっ」
親衛隊の方とこんな言葉を交わしながら。
それから間もなく、私の部屋から二部屋挟んだところにあるレベッカの部屋の前に辿り着いた。
アルバート様や親衛隊の方々と頷き合い、意を決した私は扉に手をかざす。
そして、深呼吸してからノックした。
「シルフィーナよ。呼ばれたから来たのだけど、居るかしら?」
「入ってください……」
涙交じりの声で返事が聞こえたから、まずは私だけ部屋に入る。
もちろん扉は空けたまま。
「アルバート様や親衛隊も来ているのだけど、一緒に入ってもいいかしら?」
「女性だけなら……」
「分かったわ」
事前に示し合わせていた通り、女性の騎士さんを手招きする。
レベッカの様子を見る限り、本当に相談事なのだと思ったから、部屋の扉を閉めてから顔色が優れない彼女と向かい合った。
「緊急事態って、どういうことかしら? 怪我でもしたの?」
「怪我ではありませんわ……」
それから続けて語られたのは、予想もしていなかった内容だった。
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