忌み子にされた令嬢と精霊の愛し子

水空 葵

文字の大きさ
上 下
4 / 45

4. 顔色

しおりを挟む

 あの日から半月ほどが過ぎ、私はアルバート殿下の婚約者になった。

 同時に、数日前から王宮で暮らすことにもなった。
 公爵邸が酷い状況だから私がお願いしたのだけど、お父様を含めて誰も文句を言わなかった。

 そんな事情もあって、殿下と過ごす時間が増えることになった。

「おはようございます、アルバート様」
「おはよう、シルフィ。今日は何して過ごす?」

 このところ顔色の良いアルバート様は暇を持て余しているから、お昼の間はずっと一緒にいる。
 けれども、こうしてずっと一緒にいると何をしていいのか分からなくなってきていた。

 彼との時間はすごく心地よいのに……。

「たまには、お出かけしてみたいですわ」
「お出かけ、か。このところ調子が良いし、久々に行ってみたいお店があるんだ」
「そのお店、私も気になりますわ」

 これは聞いた話だけれど、私と離れている時のアルバート様の顔色はあまり良くないらしい。
 だから初めの頃は、顔色まで取り繕っていると思っていたのよね。いくら優秀と持て囃されていた彼でも、そんな能力は無いというのに。

「じゃあ決まりだね。今日はお忍びの格好でお願い」
「分かりましたわ」

 そうして準備を済ませ、しばらく馬車に揺られた私達は、王宮の目の前にある小さなカフェに来ていた。

「ここは……」
「シルフィのお気に入りのお店だね。僕もハマっちゃっててね、一人だと入りにくいし……」

 まだ幼かった頃、アルバート様も巻き込んでよくここに来ていたのだけれど、まさか彼が気に入っていたとは思わなかったわ……。

「確かに、殿方だけだと入りにくそうですわね……」

 王宮の目の前とは言っても、目立たないところにあるこのカフェはとても美味しいのにそれほど混んではいない。
 だから並ばずに入れるけれど、殿方一人だけで入る人はほとんどいない。

「そうなんだよね。それに、病気のせいで外にも出られなかったから、ずっと食べたかったんだ」
「私も屋敷に閉じ込められていたので、気持ちは分かりますわ」

 お話をしながらカフェに入り、お気に入りのケーキを頼む私達。
 しばらくしてケーキとお茶が運ばれてくると、アルバート様は目を輝かせていた。きっと、私も。

 王国にある甘いフルーツがふんだんに乗せられ、光を反射して輝いているそのケーキは、香りだけでも美味しいと思えるようなもの。
 甘さは控えめだけれど、だからこそアルバート様は気に入ってのだと思う。私がどれだけ食べても飽きないと思っている理由も同じ。

「やっぱりここのケーキは最高だよ。程よい甘さに王国のフルーツ。いくらでも食べられそうだ」
「食べ過ぎは良くありませんわよ?」
「よく出てくるスイーツは食べすぎると死ぬと思うけど、ここのは大丈夫だよ」
「もう……。ご自愛なさってください」

 たまに、我儘なことを言うアルバート様を可愛いと思ってしまう私はおかしいのかしら?
 少し不安になってしまうけれど、彼の笑顔を見ていると、そんな不安は気にならなくなってしまった。

 殿方でもお顔の整っている人の笑顔は、やっぱり眩しい。
 悔しいけど、私が霞んでしまっているはず……。

「クリーム付いてるよ」
「すみません……」

 失態に慌てて謝る私。
 けれど、アルバート様は私の頬に手を伸ばしてきて、クリームを取ってくれた。

 でも……そのクリームをそのままペロリと口にされてしまって、恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。

「あれ? 熱でもある?」
「違います! もう、恥ずかしいことはしないでください!」
「もったいないから食べたんだけど、嫌だったのか……。すまなかった」
「嫌ではないのですけど、一声かけてからお願いします……」

 そんな事件もあったけれど、ケーキを楽しんだ私達はほくほく顔のまま馬車に戻った。
 でも、今日はまだ終わっていない。

 夕方になると、王妃殿下主催のパーティーがあるから。
 けれども、まだ時間があるから昼食を済ませた私達は庭園で過ごすことになった。

 けれども、アルバート様ずっとは私に背中を向けていた。

「何かご不満でしたか?」
「いや、恥ずかしすぎて顔を合わせられないだけだ。見られたら気絶すると思うから、そっとしておいて欲しい……」
「そうでしたのね……」

 カフェでのことを思い出して、顔が熱くなってしまって、私もまた彼に背中を向けた。
 こんな顔、見せられないから。

 けれども、気まずい空気になってしまったから、気持ちを紛らわそうと花冠を作ってみることにした。

 幼い頃にアルバート様と作り合った時の記憶を頼りに、花を編んでいく。
 慣れていないから上手くはないけれど、なんとか形にすることは出来たから、私はほっと息をついた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」後妻はいつもそう言っていましたが……。

四季
恋愛
「あなたみたいな女、どうせ一生まともな人からは一生愛されないのよ」 父と結婚した後妻エルヴィリアはいつもそう言っていましたが……。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

【完結】「第一王子に婚約破棄されましたが平気です。私を大切にしてくださる男爵様に一途に愛されて幸せに暮らしますので」

まほりろ
恋愛
学園の食堂で第一王子に冤罪をかけられ、婚約破棄と国外追放を命じられた。 食堂にはクラスメイトも生徒会の仲間も先生もいた。 だが面倒なことに関わりたくないのか、皆見てみぬふりをしている。 誰か……誰か一人でもいい、私の味方になってくれたら……。 そんなとき颯爽?と私の前に現れたのは、ボサボサ頭に瓶底眼鏡のひょろひょろの男爵だった。 彼が私を守ってくれるの? ※ヒーローは最初弱くてかっこ悪いですが、回を重ねるごとに強くかっこよくなっていきます。 ※ざまぁ有り、死ネタ有り ※他サイトにも投稿予定。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜
恋愛
 令嬢アリスとアイリスは双子の姉妹。  アリスは辺境伯エルヴィスと婚約を結んでいた。けれど、姉であるアイリスが仕組み、婚約を破棄させる。エルヴィスをモノにしたアイリスは、妹のアリスを氷の大地に捨てた。死んだと思われたアリスだったが……。

処理中です...