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4. 顔色
しおりを挟むあの日から半月ほどが過ぎ、私はアルバート殿下の婚約者になった。
同時に、数日前から王宮で暮らすことにもなった。
公爵邸が酷い状況だから私がお願いしたのだけど、お父様を含めて誰も文句を言わなかった。
そんな事情もあって、殿下と過ごす時間が増えることになった。
「おはようございます、アルバート様」
「おはよう、シルフィ。今日は何して過ごす?」
このところ顔色の良いアルバート様は暇を持て余しているから、お昼の間はずっと一緒にいる。
けれども、こうしてずっと一緒にいると何をしていいのか分からなくなってきていた。
彼との時間はすごく心地よいのに……。
「たまには、お出かけしてみたいですわ」
「お出かけ、か。このところ調子が良いし、久々に行ってみたいお店があるんだ」
「そのお店、私も気になりますわ」
これは聞いた話だけれど、私と離れている時のアルバート様の顔色はあまり良くないらしい。
だから初めの頃は、顔色まで取り繕っていると思っていたのよね。いくら優秀と持て囃されていた彼でも、そんな能力は無いというのに。
「じゃあ決まりだね。今日はお忍びの格好でお願い」
「分かりましたわ」
そうして準備を済ませ、しばらく馬車に揺られた私達は、王宮の目の前にある小さなカフェに来ていた。
「ここは……」
「シルフィのお気に入りのお店だね。僕もハマっちゃっててね、一人だと入りにくいし……」
まだ幼かった頃、アルバート様も巻き込んでよくここに来ていたのだけれど、まさか彼が気に入っていたとは思わなかったわ……。
「確かに、殿方だけだと入りにくそうですわね……」
王宮の目の前とは言っても、目立たないところにあるこのカフェはとても美味しいのにそれほど混んではいない。
だから並ばずに入れるけれど、殿方一人だけで入る人はほとんどいない。
「そうなんだよね。それに、病気のせいで外にも出られなかったから、ずっと食べたかったんだ」
「私も屋敷に閉じ込められていたので、気持ちは分かりますわ」
お話をしながらカフェに入り、お気に入りのケーキを頼む私達。
しばらくしてケーキとお茶が運ばれてくると、アルバート様は目を輝かせていた。きっと、私も。
王国にある甘いフルーツがふんだんに乗せられ、光を反射して輝いているそのケーキは、香りだけでも美味しいと思えるようなもの。
甘さは控えめだけれど、だからこそアルバート様は気に入ってのだと思う。私がどれだけ食べても飽きないと思っている理由も同じ。
「やっぱりここのケーキは最高だよ。程よい甘さに王国のフルーツ。いくらでも食べられそうだ」
「食べ過ぎは良くありませんわよ?」
「よく出てくるスイーツは食べすぎると死ぬと思うけど、ここのは大丈夫だよ」
「もう……。ご自愛なさってください」
たまに、我儘なことを言うアルバート様を可愛いと思ってしまう私はおかしいのかしら?
少し不安になってしまうけれど、彼の笑顔を見ていると、そんな不安は気にならなくなってしまった。
殿方でもお顔の整っている人の笑顔は、やっぱり眩しい。
悔しいけど、私が霞んでしまっているはず……。
「クリーム付いてるよ」
「すみません……」
失態に慌てて謝る私。
けれど、アルバート様は私の頬に手を伸ばしてきて、クリームを取ってくれた。
でも……そのクリームをそのままペロリと口にされてしまって、恥ずかしさで顔が熱くなってしまった。
「あれ? 熱でもある?」
「違います! もう、恥ずかしいことはしないでください!」
「もったいないから食べたんだけど、嫌だったのか……。すまなかった」
「嫌ではないのですけど、一声かけてからお願いします……」
そんな事件もあったけれど、ケーキを楽しんだ私達はほくほく顔のまま馬車に戻った。
でも、今日はまだ終わっていない。
夕方になると、王妃殿下主催のパーティーがあるから。
けれども、まだ時間があるから昼食を済ませた私達は庭園で過ごすことになった。
けれども、アルバート様ずっとは私に背中を向けていた。
「何かご不満でしたか?」
「いや、恥ずかしすぎて顔を合わせられないだけだ。見られたら気絶すると思うから、そっとしておいて欲しい……」
「そうでしたのね……」
カフェでのことを思い出して、顔が熱くなってしまって、私もまた彼に背中を向けた。
こんな顔、見せられないから。
けれども、気まずい空気になってしまったから、気持ちを紛らわそうと花冠を作ってみることにした。
幼い頃にアルバート様と作り合った時の記憶を頼りに、花を編んでいく。
慣れていないから上手くはないけれど、なんとか形にすることは出来たから、私はほっと息をついた。
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