2 / 45
2. 絶望と救いの手
しおりを挟む
今から五年ほど前のこと、お母様が病で急逝してから一年ほどが経ったある日、お父様が後妻にと平民だった女性を迎え入れることになった。
執事は「奥様の死を嘆いていたシルフィーナ様の支えになればと、再婚を決断されたようです」と話していた通り、お父様は変わらず私を大切にしてくれている。
けれども、そんなお父様は多忙で屋敷にいないことが多くなっていて、お義母様やレベッカの嫌がらせが横行するようになってしまった。
勝手に今までいた使用人を解雇され、お父様に手紙でこの事を伝えようとしても阻止されてしまう。
こっそり屋敷を抜け出して、お父様に宛てた手紙を出してみたけれど、それも無事に届いているとは思えなかった。
その時に屋敷から閉め出されたのよね……。
お兄様も二人いるけれど、二人とも留学で屋敷にいない。
頼れるのはガークレオン様だけなのに、肝心の彼がレベッカの味方になってしまっている。
こんな状況だから、今の私に頼れる味方はいない。
「精霊に嫌われるほどの性悪という噂は間違っていませんでしたのね……」
「性格が悪いなら精霊に嫌われているのも当然だな」
周囲からそんなことを囁かれて優位になったと感じたのか、ガークレオン様はこんなことを言い放った。
「この期に及んでレベッカを貶めようとするとは、心外だ。
もういい。貴女との婚約はこの場で破棄する。二度と馴れ馴れしく関わるな。それと、レベッカはクリムソン家で保護する。
分かっても分からなくても俺の前から消えてくれ」
人の話を全く聞かず、簡単に騙されるような人はこちらから願い下げ。
お父様がこの婚約破棄を認めているのなら、ガークレオン様との関係を続ける必要もない。
こんな人との関係を続けるくらいなら、修道院でのんびり暮らした方が幸せになれると思う。
だから……。
「ええ、分かりましたわ。ガークレオン様、今までお世話になりました。さようなら」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるレベッカを無視して、ガークレオン様に頭を下げてから身を翻した。
屋敷に戻ってからの立ち回りを考えながら、周囲の目線を気にしないように出口を目指す。
けれども、すぐにこの場を去ることは出来なかった。
「シルフィーナ嬢、少し話がしたい」
明るいブロンドの髪──王族を示す髪色の殿方が、そんなことを口にしたから。
このパーティーの目的は、私と同じ歳なのにも関わらず、未だに婚約者がいない第一王子殿下の婚約者を決めること。
殿下もまた、精霊の愛し子と呼ばれるほど精霊に愛されているそうで、どの魔法属性も扱える。
勉学もまた優秀で、決して悪い方では無い。
けれども、正式に婚約者になりたいという申し出は無かった。
このお方は病を抱えていて、あと半年も生きられないと言われているから。
お顔に血色が無くて、少し青ざめているように見えるのが何よりの証拠。
殿下と結婚したら、半年もしないで悲しむことになってしまうもの……。
そんなことよりも、今は私自身の身を案じた方が良い状況。殿下に何を問い詰められるか分からないから。
「お話、ですか?」
「事実確認と言った方が正しい。さっき言われてたことは事実か?」
「全て、私がされたことですわ。
どういうわけか怪我をしなかったので、証明は難しいのです……」
私が説明すると、殿下は私とレベッカを見比べながらこんなことを口にした。
「どちらも怪我をしていないから、客観的には嘘だと分かる。状況だけ見れば、貴女の言葉もそうだ。
貴女が怪我をしにくい体質というのは知っていなければ、どちらも嘘を言っていると思える」
「私の言葉を信じてくださるのですか?」
「今は信じよう。他にも話したいことがあるから、別室に来てほしい」
殿下をまっすぐ見たまま頷くと、そのまま普段は王族しか立ち入れない場所にある部屋に通されることになってしまった。
執事は「奥様の死を嘆いていたシルフィーナ様の支えになればと、再婚を決断されたようです」と話していた通り、お父様は変わらず私を大切にしてくれている。
けれども、そんなお父様は多忙で屋敷にいないことが多くなっていて、お義母様やレベッカの嫌がらせが横行するようになってしまった。
勝手に今までいた使用人を解雇され、お父様に手紙でこの事を伝えようとしても阻止されてしまう。
こっそり屋敷を抜け出して、お父様に宛てた手紙を出してみたけれど、それも無事に届いているとは思えなかった。
その時に屋敷から閉め出されたのよね……。
お兄様も二人いるけれど、二人とも留学で屋敷にいない。
頼れるのはガークレオン様だけなのに、肝心の彼がレベッカの味方になってしまっている。
こんな状況だから、今の私に頼れる味方はいない。
「精霊に嫌われるほどの性悪という噂は間違っていませんでしたのね……」
「性格が悪いなら精霊に嫌われているのも当然だな」
周囲からそんなことを囁かれて優位になったと感じたのか、ガークレオン様はこんなことを言い放った。
「この期に及んでレベッカを貶めようとするとは、心外だ。
もういい。貴女との婚約はこの場で破棄する。二度と馴れ馴れしく関わるな。それと、レベッカはクリムソン家で保護する。
分かっても分からなくても俺の前から消えてくれ」
人の話を全く聞かず、簡単に騙されるような人はこちらから願い下げ。
お父様がこの婚約破棄を認めているのなら、ガークレオン様との関係を続ける必要もない。
こんな人との関係を続けるくらいなら、修道院でのんびり暮らした方が幸せになれると思う。
だから……。
「ええ、分かりましたわ。ガークレオン様、今までお世話になりました。さようなら」
勝ち誇ったような笑みを浮かべるレベッカを無視して、ガークレオン様に頭を下げてから身を翻した。
屋敷に戻ってからの立ち回りを考えながら、周囲の目線を気にしないように出口を目指す。
けれども、すぐにこの場を去ることは出来なかった。
「シルフィーナ嬢、少し話がしたい」
明るいブロンドの髪──王族を示す髪色の殿方が、そんなことを口にしたから。
このパーティーの目的は、私と同じ歳なのにも関わらず、未だに婚約者がいない第一王子殿下の婚約者を決めること。
殿下もまた、精霊の愛し子と呼ばれるほど精霊に愛されているそうで、どの魔法属性も扱える。
勉学もまた優秀で、決して悪い方では無い。
けれども、正式に婚約者になりたいという申し出は無かった。
このお方は病を抱えていて、あと半年も生きられないと言われているから。
お顔に血色が無くて、少し青ざめているように見えるのが何よりの証拠。
殿下と結婚したら、半年もしないで悲しむことになってしまうもの……。
そんなことよりも、今は私自身の身を案じた方が良い状況。殿下に何を問い詰められるか分からないから。
「お話、ですか?」
「事実確認と言った方が正しい。さっき言われてたことは事実か?」
「全て、私がされたことですわ。
どういうわけか怪我をしなかったので、証明は難しいのです……」
私が説明すると、殿下は私とレベッカを見比べながらこんなことを口にした。
「どちらも怪我をしていないから、客観的には嘘だと分かる。状況だけ見れば、貴女の言葉もそうだ。
貴女が怪我をしにくい体質というのは知っていなければ、どちらも嘘を言っていると思える」
「私の言葉を信じてくださるのですか?」
「今は信じよう。他にも話したいことがあるから、別室に来てほしい」
殿下をまっすぐ見たまま頷くと、そのまま普段は王族しか立ち入れない場所にある部屋に通されることになってしまった。
25
お気に入りに追加
2,455
あなたにおすすめの小説
(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。
青空一夏
恋愛
フランソワーズは母親から理不尽な扱いを受けていた。それは美しいのに醜いと言われ続けられたこと。学園にも通わせてもらえなかったこと。妹ベッツィーを常に優先され、差別されたことだ。
父親はそれを黙認し、兄は人懐っこいベッツィーを可愛がる。フランソワーズは完全に、自分には価値がないと思い込んだ。
妹に婚約者ができた。それは公爵家の嫡男マクシミリアンで、ダイヤモンド鉱山を所有する大金持ちだった。彼は美しい少年だったが、病の為に目はくぼみガリガリに痩せ見る影もない。
そんなマクシミリアンを疎んじたベッツィーはフランソワーズに提案した。
「ねぇ、お姉様! お姉様にはちょうど婚約者がいないわね? マクシミリアン様を譲ってあげるわよ。ね、妹からのプレゼントよ。受け取ってちょうだい」
これはすっかり自信をなくした、実はとても綺麗なヒロインが幸せを掴む物語。異世界。現代的表現ありの現代的商品や機器などでてくる場合あり。貴族世界。全く史実に沿った物語ではありません。
6/23 5:56時点でhot1位になりました。お読みくださった方々のお陰です。ありがとうございます。✨
開発者を大事にしない国は滅びるのです。常識でしょう?
ノ木瀬 優
恋愛
新しい魔道具を開発して、順調に商会を大きくしていったリリア=フィミール。しかし、ある時から、開発した魔道具を複製して販売されるようになってしまう。特許権の侵害を訴えても、相手の背後には王太子がh控えており、特許庁の対応はひどいものだった。
そんな中、リリアはとある秘策を実行する。
全3話。本日中に完結予定です。設定ゆるゆるなので、軽い気持ちで読んで頂けたら幸いです。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】偽物令嬢と呼ばれても私が本物ですからね!
kana
恋愛
母親を亡くし、大好きな父親は仕事で海外、優しい兄は留学。
そこへ父親の新しい妻だと名乗る女性が現れ、お父様の娘だと義妹を紹介された。
納得できないまま就寝したユティフローラが次に目を覚ました時には暗闇に閉じ込められていた。
助けて!誰か私を見つけて!
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
【完結】妹を庇って怪我をしたら、婚約破棄されました
紫宛
恋愛
R15とR18は、保険です(*ᴗˬᴗ)⁾
馬の後ろに立つのは危険……そう言われていたのに私の妹は、急に走り寄ってきて馬の後ろに立ったのです。
そして、びっくりした馬が妹を蹴ろうとしたので、私は咄嗟に妹を庇いました。
……脊椎脊髄損傷、私は足が動かなくなり車椅子での生活が余儀なくされましたの。
父からは、穀潰しと言われてしまいましたわ。その上……婚約者からも、動けない私を娶るのは嫌だと言われ婚約破棄されました。
そんな時、こんな私を娶ってくれるという奇特な人が現れました。
辺境伯様で、血濡れの悪魔と噂されている方です。
蒼海の乙女と言われた令嬢は、怪我が原因で家族に見捨てられ、辺境伯家で、愛され大切にされるお話。
※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定、リハビリ作品※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる