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1. 噂と婚約破棄

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 貴族なら精霊の加護によって魔法が使えるのは当たり前。ここパレッツ王国では平民でさえも知っている常識になっている。

 髪色が白に近いほど精霊に愛されていると言われているから、銀髪の私は両親から期待されていた……らしい。
 けれども、大精霊との契約を果たし魔法をもたらした初代国王陛下の血を僅かでも受け継いでいるはずの公爵令嬢の私には、魔法の適性はたったの一属性すらも無かった。

 だから、私は精霊に忌み嫌われていると噂されるようになった。
 忌み子の公爵令嬢だなんて有り難くない二つ名も頂戴している。

 そんな悪評が広まってしまったから、私は初めて好きになった人と結ばれることを選ばなかった。そのお方の迷惑になると考えて。

 でも、今はその時の選択を後悔している。



   ☆  ☆  ☆



 今から三月ほど前のこと、その騒ぎは起こった。

「シルフィーナ・セレスト。貴女との婚約を破棄させてもらう」

 王太子殿下が主催されているパーティーの中、私の婚約者で公爵家の長男でもあるガークレオン・クリムソン様がそんなことを声高に宣言したから。
 こうなることを予想していなかったと言えば嘘になるけれど、突然のことに私は少しの間だけ固まってしまった。

 次期公爵様の彼が、このような公衆の面前で婚約破棄を宣言なんて、予想できなかったから。

「婚約の解消ですか……?」
「そうだ。もう貴女を愛することは出来ない」

 燃えるように赤い髪と瞳の彼は、私の問いかけにそう返してきた。
 そんな彼の隣には、私と一歳差の義妹──私のお母様が亡くなってしばらくしてから、お父様の再婚と同時に公爵家に入ったレベッカが寄り添っている。

 彼女は明るい若草色の髪にサファイアのような透き通る青い瞳を持っていて、可愛らしい令嬢として有名だった。
 そして、火水風土光闇の全ての魔法属性に適性があるかるから、精霊に愛されていると公爵令嬢としても有名になっている。

 そんなレベッカの二つ名は精霊の愛し子。
 扱うことが特に難しいと言われている高位の治癒魔法でさえも使いこなしているから、彼女を讃える声は大きい。
 そんな彼女だから、平民上がりと馬鹿にする人はいない。

「……義妹の才能に嫉妬して虐めを働くような人と生涯を共にするなんて無理な話だからな」

 けれども、ガーレオン様が言ったような愚行をする私ではない。
 レベッカから嫌がらせを受けているのは私なのだから、たとえ私が愚か者だとしても無理な話なのよね……。

「虐めなどしていませんわ」
「無自覚に虐めていたのだな。末恐ろしい。
 貴女がレベッカを虐めていた事の裏は取れている。大人しく認めるのが吉だ」

 無実の罪を認めるようにと促されたけれど、私が首を縦に振ることはない。
 ここで頷けば不利になることは確実だから。

「貴女が認めなくても、婚約は破棄させてもらう。そもそも忌み子と結婚すること自体が無理な話だからな」
「貴方の意思は分かりましたわ。このことは、父に報告させて頂きます」

 レベッカに浮気したということも含めて……。

 これは口にしなかったけれど、ガークレオン様が浮気をしているのは、今のレベッカとガークレオン様の距離が語ってくれている。
 だから、私は一度この話を持ち帰り、当主であるお父様に相談することに決めた。

「その必要は無い。この事はセレスト公爵閣下の了承を得ているからだ。
 そんなことよりも、レベッカへの謝罪は無いのか?」
「そもそも私は虐めなどしていませんので、謝罪することもありません」

 私がそう説明すると、彼の後ろで控えていた殿方が一歩前に出てきた。

「証言もあるのだぞ? 順番に話してくれ」

 ガークレオン様がそんな言葉と共に合図すると、事前に示し合わせていたのか、殿方達がこんなことを口にし始めた。

「これは執事から聞いた話ですが、シルフィーナ様はレベッカ様の食事を用意しないように使用人に圧力をかけていたようです」
「これはレベッカ様の侍女の話です。とあるパーティーの前日に、レベッカ様が着る予定だったドレスを切り裂いたそうです」
「ある日はレベッカ様を屋敷の外に追い出して中に入れないようにしたとか。真冬の寒い日にそんなことをされては、命の危険もあったでしょう」

 次々に語られる虐めの内容に、私は目を覆いたくなってしまった。
 どれも、私がレベッカから受けてきた嫌がらせだったから。

 階段から突き落とされたこともあるけれど、幸いにも怪我一つしなかったから証明出来ないのがもどかしい。

 痛みも感じなかったから、不思議な出来事だったけれど。
 今は気にしている余裕はない。

「何か言うことはあるか?」
「全て私がレベッカから受けてきた嫌がらせですが……」
「そんな事があり得るか? 使用人は元々公爵家にいたシルフィーナの味方なのだろう?」

 私が説明しても、疑ってくるガークレオン様。

 その疑いの目をレベッカにも向けてほしかったわ……。

 内心でそう思ったけれど、何を言っても無駄だと私の勘が告げていた。
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